第453話 ディグラグニ戦①
アレンが初めてディグラグニを知ったのは学園に通っていたころのことだった。
一緒に同居生活をしていたメルルから、バウキス帝国でドワーフたちが何を信仰しているのか教えてもらった時のことだ。
ディグラグニと呼び、全ての魔導具の祖となるような存在だ。
全世界のダンジョンを支配している者をドワーフは信仰しているという。
ダンジョンを攻略する過程で、S級ダンジョンにいることも知った。
最下層ボスを倒した場合、ディグラグニに挑戦できるらしい。
ディグラグニを倒せば討伐報酬があるとのことで、いずれ戦う相手であると考えていた。
しかし、メルスからも強敵であると聞いており、勝てる見込みができるまで時期を改めることにした。
ディグラグニは、精霊神ローゼンとは同じ時期に誕生し齢5000歳ほどだ。
同じ時期に創造神エルメアから信仰の器を貰ったという。
余談だが、ディグラグニと精霊神は仲が悪いらしい。
ここはゲームの世界ではないとアレンは認識している。
準備万全ではない戦いもこれからあるかもしれない。
準備する時間をとれるなら、安全マージンは十分にとりたい。
アレンはディグラグニと戦う意思を言葉に示した。
『俺と勝負するってマジなのかアアアア!!』
ズウウウウウウン
最下層ボスであるゴルディノを倒すと、決まり文句なのか毎回挑戦するのか聞いてきた。
毎回「もう少ししたら挑戦する」と答えていたが、諦めていたのか最近ではやる気のないトーンで尋ねられていた。
絶叫と共に現れたディグラグニをアレンにはアダマンタイトのボディがやや薄暗いダンジョンでも漆黒に輝いて見える。
この最下層ボスの間はとても広い。
全長100メートルに達するボディは、どこかメルルの扱うゴーレムに似ている。
これは全てのゴーレムの元となったのがディグラグニだからだろう。
メルルが乗っているタムタム同様に、ディグラグニの胸の部分には水晶のようなものがはめ込まれている。
「ええ、そうです。討伐報酬はなんでもいいんでしょ?」
『もちろんだ。この俺に勝てたらな! いくぜ!!』
アレンの言葉に中空に現れ地面に落下したディグラグニが全力で突進していた。
(む!? 突っ込んできたな。それでいうと遠距離武器は装備していないと)
意識の全てをディグラグニ討伐に傾ける。
数百メートル遠くから現れたディグラグニは轟音を立て、ダンジョンの床板を粉砕して意気揚々と弾むようにこちらに突っ込んでくる。
なお、今はゴルディノ戦を終えたばかり、補助も満載な上に召喚獣も出している状態だ。
後衛と中衛は鳥Bの召喚獣に乗って移動をサポートしている。
ディグラグニの形や動きから空を飛ばないのか、遠距離攻撃はあるのか確認する。
仲間の隊列に問題はないのか、万に達した知力が最善手の選択に努める。
仲間たちとはA級ダンジョンの最下層ボスあたりから強敵と戦ってきた。
魔神レーゼル、S級ダンジョンのゴルディノ、邪神教の教祖グシャラ、邪神の尻尾と脅威と戦ってきたアレンたちに無用な気負いはない。
アレンたちが意識の全てを傾ける中、ディグラグニは100メートルに達する巨躯で肉弾戦をしかけてくるようだ。
以前見たときは10メートルの大きさだったのに、いきなり全力で来るのは大人気ないと思う。
「ここからが本番だ! 気合を入れろ! イグノマス、前線は任せたぞ!! ドゴラとクレナもだ!!」
「うん!! うりゃあああ!!」
クレナが力強く向かっていく。
この戦いに調停神はいないが、クレナのエクストラスキル「限界突破」は通常スキルとなった。
クールタイムは1時間となり現在スキルレベルは4だ。
【限界突破の効果】
・スキルレベル1は全ステータス3000上昇 体力秒間1パーセント回復
・スキルレベル2は全ステータス6000上昇 体力秒間1パーセント回復
・スキルレベル3は全ステータス9000上昇 体力秒間1パーセント回復
・スキルレベル4は全ステータス12000上昇 体力秒間1パーセント回復
1ヶ月でものすごい成長を見せる。
バフの重なりによるステータスは、元々あるステータスの高さに依存するので今回のエクストラモードはクレナの強化に大いに繋がった。
まもなくスキルレベル5に達しそうだ。
「あふ!?」
そんなクレナがオリハルコンの大剣で合わせるようにディグラグニの拳に激突するが、力負けして吹き飛ばされてしまう。
そこにサポートするように巨体の魚人が前に出る。
「アレンよ、任せておけ! 俺は最強の槍の使い手イグノマスだ!!」
アレンのパーティーに入った魚人のイグノマスだ。
(少し気負い過ぎか。まあ、アイアンゴーレムとの練習戦でもイグノマスはこんな感じだったけど)
好戦的な性格なのか、ディグラグニ相手に一切の恐怖を感じていない。
イグノマスは強敵であっても怯え後れを取るような性格ではないことは、水晶花の上で確認済みだ。
上位魔神相手に苦戦はしていたが、恐怖はなかったように思える。
海底の大帝国であるプロスティア帝国の帝都の宮殿には、宝物庫がある。
宝物庫にはオリハルコンで出来た3つ又の槍と鎧があった。
ラプソニルにお願いして拝借し、イグノマスにはその2つを装備させている。
クレナよりもドゴラよりもシアよりも真っ先に、イグノマスはディグラグニに突っ込んでいく。
『誰が来ても同じだ! おらよっと!!』
「がは!?」
全長100メートルのディグラグニがサッカーボールのように、イグノマスを蹴り上げる。
クレナ以上にその場に留まれず、セシルたちのいる最後尾のさらに奥に吹き飛ばされた。
「前線が壊れる。すぐに戻れ。ロザリナは補助を切らすな!!」
後ろを見ることなく前に戻るようにアレンは叫ぶ。
アレンはいつもの中衛のポジションで指揮を執る。
「ええ! やってるわ。アレン!!」
パーティーは呼び捨てを旨としているので、仲間になったのでお互い呼び捨てだ。
バフ系の職業は短時間の効果のバフもあるので、仲間たちの戦況を見ながら切れそうになったところからかけ続ける必要がある。
ロザリナも物怖じする性格ではないようだ。
イグノマスは足のつま先が自身よりもでかいディグラグニに蹴り飛ばされ、血反吐をぶちまけたのだが一切闘争本能に陰りはない。
「くそが!!」
平民に生まれ、プロスティア帝国の皇帝となり、玉座に座ったが、アレンによって内乱は終結し牢に入れられた。
ロザリナはバフ職が欲しいので『廃ゲーマー』パーティー入りはすぐに決まった。
イグノマスをパーティーに入れるか、ルド将軍のようにアレン軍の将軍職に就かせるかの話になった。
アレンとしては、将軍になってもらってアレン軍に新たに入ってくる魚人兵たちの指揮をしてはどうかと考えた。
近衛騎士団長として兵を指揮した貴重な経験もあるし、帝都パトランタ北部での兵の誘導は鳥Eの召喚獣で見ていたが申し分なかった。
しかし、イグノマスからは「アレンのパーティーに入った方が俺は活躍できる! アレン軍じゃ、ラプソニルを妻にできないぞ!!」という回答を得た。
イグノマスの強い意思を受けて、アレンはそれ以上の交渉はしなかった。
魚人兵たちを指揮する将軍は別にプロスティア帝国に派遣を要請し、イグノマスをパーティーに入れることにする。
野心あってこその廃ゲーマーだとアレンは認識している。
自分自身もそうなので、夢について熱く語れる者をアレンは仲間にしたい。
英雄を目指すドゴラはそれを聞いて「違いねえな」とイグノマスの仲間への参加に問題がないと言う。
キールからは「俺、野心なんてないぞ」とツッコミを入れていたが、聞かないことにした。
(耐久力と体力盛りに盛って、補助かけまくっているから即死はしないと。結果的に前衛が増えたのは助かるな)
アレンたちのパーティーは戦闘員ではないペロムスを除いて12人になった。
この世界はゲームの世界ではないので、1度に戦う仲間は4人という謎制限はない。
人数が増えれば増えるほど一緒に戦う仲間は増えていく。
それぞれの職業において、役割があるのだが、守りの薄い後衛がかなり多い構成となっていた。
前衛であってもシアのように敵の周りに纏わりつき攻撃をする遊撃であったりする。
メルルのゴーレムはタンクの役割もできるのだが、敵が人間並みの大きさの場合は、遠距離攻撃に終始徹することになる。
リカオロン戦や水晶花の上の戦いなどが遠距離攻撃に終始した戦いだ。
【廃ゲーマーのパーティー構成】
・前衛 クレナ、ドゴラ、シア(遊撃)、イグノマス
・中衛 アレン、フォルマール(ほぼ後衛)
・後衛 セシル、キール、ソフィー、ルーク、ロザリナ
・特殊 メルル(タンクと後衛)
今まで前線で敵を抑え込むのがクレナとドゴラしかいなかった。
そこにきてのイグノマスのパーティー加入だ。
アレンは石Cの召喚獣の特技「みがわり」などで後衛を守ることもできる。
しかし、有効範囲は限られているし、キュベルがゴリゴリとベクを殺したときのように攻撃を受け続けると守り切れない。
前線が壊れ後衛の位置に敵が来ると、秩序ある戦いはできない。
そのために、体長2メートルの巨躯で敵と対峙してもらう。
エクストラモードでもない、既に星4つで転職によるステータスの底上げもできないイグノマスは完全な壁役だ。
上位魔神級相手の攻撃には一切期待せず、装備品は体力、耐久力を上昇させる。
また、ダメージ軽減の効果のある装備多めで、攻撃力は基本的に上げていない。
この程度の攻撃で死なないと分かれば、勇猛果敢を地で行く性格なのか、何度吹き飛ばされても前線にイグノマスは戻っていく。
(イグノマスは作戦通りの動きだな。さすが元近衛騎士団長、戦闘経験は十分にあると。あと調停神は来なかったな。飯抜きの刑に処す)
イグノマスは後衛の位置を意識した動きだ。
近衛騎士団には魔法部隊もいるので、槍部隊がどのように動かないといけないのか分かっているのだろう。
結構大事な戦いであるのだが、調停神ファルネメスはこの場にいない。
連れてこようと思ったのだが、ヘビーユーザー島の馬小屋からクレナが呼んでもピクリとも動かなかった。
まだ何やら気落ちしているようだが、牧場主には与える牧草を減らすように伝えてある。
ディグラグニはあまりにも高い攻撃力で突進してきて前衛を蹴散らしていく。
アレンたちは前衛たちを前に並べ、少しずつ後退する。
「とっまれれええええ!!」
『うお!! 俺が上げた魔導盤上手く使っているじゃねえか!!』
超大型の100メートルの大きさになり、強化用石板を全て攻撃力にしたメルルがディグラグニを押し返す。
1つ攻撃力5000上げることができる強化用石板を10個つけており、攻撃力は8万近くに達する。
「よし、止まったわね!」
ディグラグニの巨躯のせいで後方に下がり続けていたセシルがようやく止まったのかと安堵する。
(それはフラグだ。って、再度押され始めたぞ。攻撃力8万で足りないだと? 上位魔神級だと聞いているのだが)
最初は拮抗していた2体のゴーレムだが、ゆっくりと力負けをし始めた。
ディグラグニは上位魔神級であるとメルスに聞いていた。
確かに水晶花の上で戦った上位魔神たちは強敵であった。
アレンは聞いていた話と違うぞとメルスに視線を向ける。
『恐らくだが、ディグラグニ自身もここ数年成長しているのだろう』
「なんだと?」
戦闘中故に簡潔に説明してくれたメルスの話では、ディグラグニには信仰の器があり、2億人に上るドワーフたちの信仰を一身に集めている。
魔王軍との戦争もこの数年激しさを増す状況と、転職ダンジョンによる冒険者たちの中での信仰する者が新たに増えていく状況が重なった。
(強くなってから挑戦しようと思ったら、ディグラグニ自身もこの数年で強くなってしまったと)
アレンが次の作戦に移そうとしたその瞬間だった。
『さあ戦いは始まったばかりだ。そろそろ行くぜ! ラウンドバースト!!』
メルルと押し合いをしていたディグラグニの片腕の形がハンマーのようなものに変形していく。
メルルのタムタムを突き飛ばし、地面に向かってハンマーのような拳を叩きつけた。
衝撃波のようなものが一気に押し寄せる。
「うわっぷ!?」
クレナがいきなりの攻撃にたじろいてしまった。
前衛のクレナだけでなく、ドゴラ、シア、イグノマス全員が衝撃波に襲われ後方に吹き飛ばされる。
「な!? 全体攻撃か。ソフィー、ディグラグニの動きを封じろ!」
「はい!!」
ソフィーが風の精霊を顕現させ、風の縄で巨大なディグラグニの体を封じようとする。
最大魔力が上昇に上昇を続けたソフィーの魔力を全て込めた精霊顕現は、最下層ボスゴルディノの動きすら封じる。
顕現させた風の精霊に魔力を籠め、ディグラグニの追撃を防ごうとした。
風の縄がディグラグニの体を拘束した瞬間のことだった。
『テレポーテーション!』
空を掴むように、ディグラグニが忽然と姿を消す。
そして、中衛であるアレンの近くにその姿を現した。
「みんな防御しろ!!」
『ラウンドバースト!!』
ディグラグニは、パーティーの中心で広範囲にわたる全体攻撃をした。
後衛もろとも全員が吹き飛ばされるアレンたちであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます