第454話 ディグラグニ戦②

 ディグラグニが姿を消したと思ったら、陣形の前衛たちを無視してパーティーの中央にやってきて全体攻撃を行う。


(む? この攻撃は空に浮いている分、後衛のダメージは低いのか)


 吹き飛ばされながらも仲間たちの体力の確認をアレンは怠らない。


 地面に立って戦っていたクレナたちよりも、鳥Bの召喚獣に乗っていたセシルたちの方が受けたダメージが低いようだ。

 ディグラグニの攻撃の分析、仲間たちの状況を確認しながらも、新たな指示に移行する。


「ソフィーは防壁を作れ! メルスは後衛たちの元へ!!」


「ええ、分かりましたわ。土の精霊ピグミー様、強固なる防壁で私たちをお守りください」


 ソフィーは急いで土の精霊を顕現する。


『おう、分かったぞ』


 山奥の豪雪地帯に住んでいそうな藁の靴に蓑を被った少年が現れる。

 深く帽子をかぶっており顔が半分見えないがヤンチャな言葉使いをしている。

 ソフィーの全魔力を吸い取り、土の精霊は後衛と中衛であるアレン、フォルマールとの間にメキメキと分厚い壁を生成する。


『おいおい、それがどうしたよ! ラウンドバースト!!』


 ズウウウウウン


「きゃ!?」


 片腕がハンマ―の形をしたディグラグニは巨大な防壁を簡単に粉砕し、さらに精霊を顕現させたソフィーの元に突っ込んでいく。


『ふん!!』


『ぬあ!?』


 そこに既に後衛の防御に回るように指示をしてきたメルスがぎりぎり間に合った。

 100メートルの巨躯をものともせずにメルスの拳がディグラグニの体を後退させる。


(攻撃範囲が広すぎるな。それに、こっちは攻撃しにくいぞ)


 敵の攻撃範囲は広く、味方の攻撃魔法などは同士討ちに繋がりかねない。


「ちょっと、俺のスキルが全然効かないぞ!! こいつもかよ!!」


 ゴルディノもそうだったが、ディグラグニもデバフを当てることができないとルークが不平を言う。


 後衛のところまでやってきたせいで、メルスとディグラグニとの戦闘を見てルークがビビってしまったようだ。

 さっきからルークが使うデバフ系のスキルが一切効かないのだが、効かないのはルークだけではない。


「マクリスも難しそうか?」


『全然当たらないよ~。これは無理なのら~』


(シューティングスターは効かないと。マクリスで無理なら、今のこの状況でディグラグニにデバフをかけるのは難しいと)


 アレンはメルスに意識を向けるが特技「属性付与」は前衛たちが時間を稼いでいる間にかけていたが難しかった。

 高ステータスのメルスもマクリスも属性付与を与えることはできなかった。


 この世界では、知力依存でデバフ系の魔法、スキルの命中率が決まることが多い。

 圧倒的な知力を誇るマクリスの特技「シューティングスター」がかからないということは、メルスも含めた仲間全員がデバフを掛けれないことを意味する。


 最下層ボスであるゴルディノから連戦なので、アレンがこの場に必要な召喚獣たちは召喚したままだ。

 後衛たちの移動を鳥Bの召喚獣たちがサポートして、攻撃や防御に専念してもらっている。

 メルルがタムタムを操縦し、後衛を攻めようするディグラグニの背後を、前面を攻めるメルスと挟み撃ちにしようとする。


「やあああああ!!!」


『遅いわ、さらに速くなるぜ、モード変更!!』


「えええ!? 形が変わった!!」


 ギュウウウウン

 ガチャガチャ

 ゴオオオオオオオオオオ!!!


 ディグラグニの変形とあっと言う間の移動によってタムタムの拳が空を切る。


 背中にジェットエンジンが2基現れ、体も細身の流線形に変わり上空に飛び上がった。

 この最下層ボスであるゴルディノと戦う空間はとんでもなく広くそして天井は高い。


 背中にジェットエンジンを搭載したディグラグニが前衛に後衛にと自在に襲おうとする。

 こうなるとさらに陣形も前衛も後衛もなくなってしまう。

 ジャガイモ顔のドゴラが大きな声で叫んだ。


「戦破陣!!!」


 咆哮のような言葉と共に、魔法陣がドゴラの周りを覆う。

 魔法陣は一気にパーティー全体へ広がり、仲間たちを魔法陣の中に包み込んだ。


 【名 前】 ドゴラ

 【年 齢】 16

 【加 護】 火の神(加護大) 火攻撃吸収

 【職 業】 破壊王

 【レベル】 99

 【体 力】 8729+10000(加護)+9600(真闘魂)

 【魔 力】 4007+10000+4800

 【攻撃力】 8988+10000+9600

 【耐久力】 8235+10000+9600

 【素早さ】 6213+10000+9600

 【知 力】 3845+10000+4800

 【幸 運】 6028+10000+9600

 【スキル】 破壊王〈7〉、真渾身〈7〉、真爆撃破〈7〉、真無双斬〈7〉、真殺戮撃〈7〉、全身全霊〈5〉、真闘魂〈2〉、戦破陣〈3〉、爆炎撃(限)〈3〉、斧術〈7〉、双斧術〈3〉、盾術〈4〉

・スキルレベル

 【破壊王】 7

 【真渾身】 7

 【真爆撃破】 7

 【真無双斬】 7

 【真殺戮撃】 7

 【全身全霊】 5

 【戦破陣】3

 【爆炎撃(限)】3

・スキル経験値

 【真渾身】 約5000万/1億

 【真爆撃破】 約5000万/1億

 【真無双斬】 約5000万/1億

 【真殺戮撃】 約5000万/1億

 【全身全霊】 約1000万/1億

 【戦破陣】30万/100万

 【爆炎撃(限)】20万/100万


 ドゴラはプロスティア帝国でのバスクとの再戦において、一方的にやられてしまったことに我慢がならなかった。


 そこでアレンに特訓のお願いをした。

 それは、成長スキルを手に入れることで可能になった鬼特訓だ。


 石Dの召喚獣の覚醒スキル「命を守る」は自らの耐久力を5倍にして身を守ることができる。

 成長による耐久力が1万に達した石Bの召喚獣は強化によって75000に達する。

 キールの補助魔法を貰えばさらに耐久力は1.2倍の90000だ。


 この鬼耐久力の石Dの召喚獣をメルスの回復範囲に置いておく。

 天の恵みを作り、使用もするメルスの傍では、強固な上に体力も定期的に自然回復するわけだ。


 ドゴラはこの鬼耐久力の石Dの召喚獣相手にスキルを使い続ける。

 防具は魔力上昇に効果のある後衛用を身にまとい、武器のランクも落とし攻撃力を下げた状態でだ。


 この訓練はスキル経験値取得には耐久力の高いモンスターを殴るに限るという、前世での経験からくるものだ。


 1日に万に達するスキル使用というアレン、メルスに継ぐ脅威のスキル使用回数により、ドゴラの職業レベルは7になり、そして新たなスキルを体得した。


 なお、クレナやシアなどスキルレベルがまだ上がり切れていない仲間たちも同じ方法でスキルレベルアップを目指した。


 スキル「戦破陣」は、攻撃スキルというよりもバフに近いスキルの効果をもたらす。


【戦破陣レベル3の効果・分析】

・仲間の全ダメージを3割減少させる(物理、魔法、ブレス含む)

・ドゴラの全ダメージを3割上昇させる(物理、魔法、ブレス含む)

・ドゴラの攻撃時のクリティカルを3割上昇する

・ドゴラの攻撃時のダメージを3割上昇する

・スキルレベルが上がるたびに割合は1割ずつ上昇していく


 仲間の被ダメージを抑え、自らのダメージを増やす代わりに、相手に与えるダメージも増やすスキルだった。


「ドゴラ、今回の敵は強敵だ。そのスキル使うなら、もろに攻撃受けるなよ!!」


 圧倒的な力を持つ相手には諸刃の攻撃であるから、ドゴラにはこの戦いで使うかどうか任せていた。


「ああ、問題ねえ。何も問題ねえぞ!!」


 受けるダメージが3割増したが、それでもドゴラはディグラグニに接近し攻撃をしかける。


『おいおい、まだ俺の力が分かってないようだな! ペンタポッドども、俺を補助しろ!! 俺に挑戦したことを後悔させてやるぜ!!』


 水晶の部分から光を照射する。

 光の先に何か影のような物が現れ、それは具現化していく。


『『『キキッ!!』』』


(小型のディグラグニだと。「キキッ」とか雑魚感半端ないな)


 ジェットエンジンを搭載し上空を自在に動き、アレンたちの陣形など無視した攻撃をしかける。

 長いこと戦い続けたアレンの仲間たちは一切士気が折れていない。


 アレンたちに絶望を味わわせるべく、ディグラグニと同じ形で大きさは30メートルほどの5体の「ペンタポッド」の分体を生み出した。


「んぐ!?」


 ペンタポッドの1体から放たれる攻撃にクレナが吹き飛ばされてしまう。


「この力、魔神級はあるぞ! 警戒しろ!!」


 クレナは既にAランクやSランクの魔獣相手に力負けすることはなくなった。

 そんなクレナを吹き飛ばすのは少なくとも魔神並みの力を持ったことを意味する。


『フリーズキャノンなのらああああ』


 仲間には当てないよう位置取りを意識したマクリスが特技「フリーズキャノン」を発動させる。


 5体のうち2体が特技「フリーズキャノン」の軌道上にいたため、爆散させる。

 魔神級であってもマクリスの攻撃を耐えることはできない。


 すると3体のペンタポッドの目が赤く輝きを増す。


『『『リペアエナジー』』』


 粉砕された2体を生き残った3体のうちの2体が復元させて5体に戻った。

 そして、もう1体のペンタポッドによってディグラグニが受けていた損傷はメキメキと回復してしまった。

 ディグラグニの体を完全に回復させてしまった。


「ちょっと、アレン。これって戦いは終わらないわよ!!」


 セシルの悲鳴のような声が後方から聞こえる。


「そうだな。このディグラグニの動きからすると」


「え? その反応はまさか」


 アレンはディグラグニの動きの考察から1つの考えをまとめる。

 その表情に嫌な予感しかしなかった。


「これは長期戦になるぞ。覚悟しておけ」


「何よ。ドガガンって攻めましょうよ」


「だめだ。分体を出す前だったらそれもいけたが、やむを得ん。これは長期戦だ」


 アレンは長期戦を提案する。

 それはいつになったら終わるかもわからない地獄の言葉だ。


 学園生活では召喚スイッチを発見したダンジョンで、召喚スイッチを押して魔獣たちと戦った。

 アレンが仲間との戦いについての感覚の違いがあることに無頓着であったために引き起こされた惨事だ。

 食事もなしで黙々と召喚スイッチを踏み、魔獣を召喚するので、セシルは間違えてアレンの後頭部に火魔法をぶつけてしまった。

 今思い出してもセシルはなぜそんなことをしてしまったのか、分からないということになっている。


 そして戦いは続いていく。

 ディグラグニは形状をいくつも変えながら、新たに降臨させたペンタポッドの修復を受けるため、ダメージの蓄積はないようだ。


(完全に永久機関だな。魔力も尽きないのかな。だが、意味もなくこれ見よがしな動きが多いな。そんなに戦えたことがうれしいのかね)


 6時間ほど戦闘をしたが、魔力切れによる勝利も望めなさそうだ。

 必要以上に体を変形させ、多様な攻撃でアレンたちを攻め立てる。


「ふむ、えっと、これはそろそろか」


 アレンはディグラグニの動きから、行動からもたらされるディグラグニの意識を探ろうとする。

 長期戦に慣れていないのか、随分雑になったように感じた。


「ちょっと、アレン! いい加減にしなさいよ!!」


 何度目かになるセシルの言葉にアレンはなだめようと初めて顔を後方に向けた。


「ああ、分かっているって」


『仲間の会話に意識を向けるとは人間どもは余裕だな!!』


 ディグラグニもアレンたちの表情や行動を探っていたようだ。


「へば!!」


 アレンがディグラグニの拳で殴られ派手に吹き飛ばされていく。


 仲間たちはアレンの元に集まり、集合していく。

 召喚獣たちも含めて後方に下がったところで、ディグラグニは何かに気付いたようだ。


『馬鹿め。一カ所に固まるとはな。とっておきのを披露してやるぜ。こい、ペンタポッドたちよ!!』


(お? これはいい感じか?)


『『『キキ!!』』』


 数百メートルも吹き飛ばされた先に敵が固まったことをいいことに、ディグラグニは新たな行動に移行した。

 ペンタポッドたちを一瞬で変形させ1つの巨大な砲台にする。


 あまりに巨大な砲台の取っ手部分を握りしめると、砲台の口に光が収束していく。


『グランレイザー!!』


 ディグラグニは砲台から高出力の光線を発射した。


「なるほど。これがとっておきの技か。マクリス任せたぞ。皆も攻撃を合わせる時が来たぞ!!」


 アレンは何事もなかったかのように起き上がった。


『任せるのらああ。フリーズキャノンなのらああああ』


 グランレイザーの巨大な光線を正面からマクリスの特技「フリーズキャノン」が飲み込んでいく。

 砲台もろともディグラグニの片腕を粉砕する。


 仲間たちもアレンのやりたいことが分かったようだ。

 もっとも高威力のスキルを発動させていく。


「レーザービーム!!」


 メルルの操縦するタムタムの目が、スキル「眼光線」を放つ。

 輝く光線はアレンの命名により「レーザービーム」と叫ぶことになっている。


『裁きの雷』


 追撃をかけるようにずっと使わなかったメルスの覚醒スキル「裁きの雷」をお見舞いする。


「プチメテオ!!」


 チャンスとばかりに仲間たちはエクストラスキルを畳みかけてくる。

 なお、ソフィーは倒せなかったときのことも考えてエクストラスキル温存だ。


 遠距離攻撃を使える仲間たちが一斉に攻撃する中、セシルもメルスの攻撃に合わせてエクストラスキル「小隕石」をお見舞いする。

 マクリスの攻撃によってペンタポッド5体全て失い回復の手立てがない中、畳みかける。


『ぬぐああああ、こんなものおおおお!!』


 ディグラグニは無事な右腕でセシルの放った巨大な火の玉を受け止める。

 手を粉砕させながらも巨大な小隕石を持ち上げ体の横に落とすことに成功する。


 しかし、アレンの仲間たちの追撃はこれでは終わらなかった。

 ドゴラは一気に距離を詰め、ディグラグニの元に向かっていた。


「全身全霊!!」


 額に向かって神器カグツチを深々とめり込ませる。 


 ズウウウウウウン


 スキルレベルを7まで上げ、戦破陣を発動させたドゴラの一撃はとんでもない威力を発揮した。


「やったわ!!」


 ディグラグニの頭を粉砕するほどの一撃は誰の目にも、勝利を確信するほどのダメージを与える。

 セシルが思わず、長い戦いの終わりに声を上げ歓喜するのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る