第129話 睡眠

「へば!?」


 アレンは石畳の上で目覚める。辺りを見回すと仲間達がアレンを覗き込むように見ている。


「おきた? やっぱりアレンも目覚し薬飲んでいたほうがよかったんじゃないの?」


(お、睡眠罠で眠ってしまったか。待っていたぞ)


 アレンは自らが起きたことを理解する。ここはB級ダンジョンの6階の小部屋。ダンジョンはとても広く長いので、小部屋といっても25メートルプールくらいの広さがある。


 その小部屋の中央付近でアレンを囲むように皆が心配そうに見る。なぜ皆が心配するかというと、アレンだけが目覚まし薬を飲んでいなかったのだ。


「マリア、薬味を使ってくれたか?」


『はい、デス!』


「何秒で目覚めた?」


『10秒もかからなかったデス!』


(数秒で目覚めるのか。結構早く目覚めたな。それでこれだけ意識がはっきりしているなら戦闘中でも復帰は容易いか)


「アレン、どうしたの?」


 クレナが心配そうに覗き込む。


「いや、大丈夫だ。ちょっとこの罠で検証がしたいけどいいかな?」


「検証ね。分かったわ」


「ああ、検証だな? じゃあ、クレナ。ちょっと訓練を手伝ってくれ」


「うん、分かった!」


 また検証ねと言わんばかりにセシルが同意する。アレンはいくつもの検証をダンジョンでしてきた。Cランクの召喚獣や覚醒のスキルについて、分からないことが多い。不明な点は早めに払しょくしておきたい。


 ダンジョンの攻略はこういった形でたまに中断になることがある。仲間もアレンの召喚スキルはよく分からないなと思っている。そして先生も教本もない状態なのは知っているので、止めたりはしない。


 攻略も大事だが、ピンチに陥った時こういった検証をしっかりできているかが、切り抜けられるかどうかの明暗を分ける事になってくる。


 アレンは知りたいことはとことん調べる派だ。

 今回検証するのは睡眠についてだ。


 アレンの検証は数時間に及ぶことがあるので、ドゴラはそんな中クレナに練習をお願いする。まだスキルの使えないドゴラは、剣聖ドベルグとクレナの訓練みたいに、スキルを意識して斧を振るえば、スキルがいつか発動すると信じている。

 その練習をクレナに手伝ってもらっている。

 このドゴラの訓練は、ほぼ毎日行われている。学園から帰るとダンジョン周回だが、それでも1時間とか2時間とか時間を見つけてのことだ。


 B級ダンジョンから罠がある。矢だったり毒だったりする。斥候職をパーティーに入れていないので罠を食らいまくりのパーティーだ。矢傷など回復薬で治せばよいと言う脳筋チャートだ。


 なお、体力の回復薬、魔力の回復薬ときたので、きっと薬味は状態異常の回復薬だと思っていた。しかし、今まで毒罠や矢罠ばかりだったので検証できていない。違っていてうっかり毒で死んでしまったら目も当てられない。アレンは睡眠罠が出るのを待ち続けた。


 小部屋の隅に4人に行ってもらって、アレンは中央の罠を見つめる。


(この罠も見分けがつかないな)


 完全に他の石畳と同じに見える。霊Cの召喚獣曰く、この石畳を踏むと凹んで白い煙が立ち込めるそうだ。


「また眠ったら、薬味を使ってくれ」


『はいデス』


 そういってアレンは、石畳の罠を踏む。辺りに白い煙が出てくる。


(毒の罠と一緒だな。範囲は踏んだところから5メートルくらいかな。煙は数秒で切れると)


 煙が消えているのに、アレンの意識ははっきりしている。睡眠の白い煙の効果はないようだ。


(薬味の効果か? 眠くならないな。効果が市販の目覚め薬と違うな)


 市販の目覚め薬の効果

・飲むと睡眠から目覚めることができる

・事前に飲むと、1日効果が持続する

・効果は1回のみ

・値段は銀貨3枚


 草Cの特技「薬味」は一度効果を発揮しても効果が切れないようだ。もう一度罠を発動させてみるが何ともない。


 他に検証が漏れていることはないかなと、顔に違和感を感じポリポリ掻いていると、パラパラと赤黒いものが剥がれる。口元にカサブタがあることに気付く。


(あれ? いつ怪我した? って、フランの移動中だったような)


 アレンは大事なことを思い出す。アレンが睡眠の罠で眠ってしまったのは移動中だった。特技を使っていなくても時速50キロメートルで走る鳥Cの召喚獣だ。


(俺が意識を失って、眠ってフランから転がり落ちたのか?)


「マリア、フラン達は煙でどうなった?」


『皆寝ちゃったデスよ』


 霊Cの召喚獣がその時の状況を教えてくれる。一団となって移動中に鳥Cの召喚獣が罠によって眠ってしまった。アレン以外は目覚し薬を事前に飲んでいたのでとっさに受け身をして無事だったが、爆睡したアレンは召喚獣の転倒で怪我をしてしまったと言う。


 アレンはそこまで聞いて、魔導書を出してステータスを確認する。アレンも含めて全員体力が減っておらず、無傷の状態だ。


「マリア、回復魔法はキールが掛けたのか?」


『そうデス』


 どうやら、キールの回復により皆体力が回復したようだ。


(なるほど、この青唐辛子みたいな見た目の薬味の検証することが増えたな)


 アレンは召喚獣を出して、罠を踏み始める。


 どの召喚獣が眠りに掛かり、そして掛からないかを検証するためだ。アレンはうっかり思い違いをするところだった。霊Cの召喚獣が何度も白い煙を浴びているのに平然としていたため、召喚獣は睡眠に耐性があるのかと思っていた。


 時間をかけて全部調べていく。


 するとランクに限らず系統で状態異常である睡眠の効果が異なってくることが分かった。


 睡眠の効き具合

・虫系統100%

・獣系統100%

・鳥系統100%

・草系統0%

・石系統0%

・魚系統100%

・霊系統0%


(なるほど生き物系はほぼ100%効果があり、生き物じゃない系統は効かないと。草は生き物だが植物だから寝ないと)


 統一感があって分かりやすい。


 ここまでの薬味の検証結果をまとめる。

・睡眠を解除する

・召喚獣に対しても効果がある

・効果は持続する


 検証できなかったこと

・毒にも有効か

・効果の持続時間


(持続時間があるってことは前もって飲んでおいた方がいいしな。というか召喚獣が寝てしまって、皆には危ない目に遭わせてしまったな)


 ある程度の検証結果がまとまったので、「お待たせ、じゃあ行こうか」と仲間に言おうとしたところ。


「うおおおおおおおおおおおお!!!! でたぞおおおおおおおおお!!!!」


 ドゴラが雄たけびを上げた。


「やった! やったね!! ドゴラ!!!」


「ドゴラ、スキル使えるようになったのか?」


「ああ」


 ジャガイモ顔のドゴラが満面の笑みだ。クレナから少し遅れてドゴラもスキルが発動するようになったようだ。


 アレンは魔導書で魔力の消費を確認する。


(お! たしかにドゴラのスキル経験値が上がっているぞ)


 【名 前】 ドゴラ

 【年 齢】 12

 【職 業】 斧使い

 【レベル】 35

 【体 力】 772

 【魔 力】 416

 【攻撃力】 1016

 【耐久力】 670

 【素早さ】 424

 【知 力】 282

 【幸 運】 458

 【スキル】 戦斧〈1〉、渾身〈1〉、斧術〈4〉

 【エクストラ】 全身全霊

 【経験値】 59,630/70,000


・スキルレベル

 【戦 斧】 1

 【渾 身】 1

・スキル経験値

 【渾 身】 2/10


「ん? アレン。もう調べるの終わったのか?」


「ああ、バッチリだ。皆待たせた」


「そっか、じゃあ、ダンジョンの攻略続けようぜ! この感覚忘れたくないからな!!」


 ドゴラが斧を担ぎ、真っ先に鳥Cの召喚獣にまたがる。早くダンジョンの攻略を続けようと催促をする。早く魔獣相手にスキルを使いたいようだ。


 アレンは、そうだな、待たせたなと言って、ダンジョンの攻略を再開するのであった。

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