第661話 クウガの試練②

 それから何度も攻撃を加えるが決定打があるわけでも、打開できるわけでもない。

「獣王無尽」などのスキルは全て発動させ、今回の試練の条件を戦いの中で試行錯誤していく。


 1時間ほど経ったときのことだ。


『むぐ!! スキルの発動か』


 シアのスキル「反撃武舞」が発動して、クウガは攻撃を弾かれてしまう。


『阿修羅突!』


 クウガが仰け反るように腹を見せたところで、ルバンカの攻撃がタイミングよく合い、コンボが成立する。


『真駿殺撃! む!!』


 シアはさらに追撃をしようとしたが、ルバンカが吹き飛ばした先で、距離が開いてしまったため、一瞬だが攻撃のタイミングが合わない。


『随分稚拙な連携よ。3連続が最大とは俺を攻略するなどまだまだよ。2体での挑戦はつらいものよな』


『……なんだと?』


 クウガがにやりと笑ったことにシアは違和感を覚えた。


『どうしたというのだ? シアよ』


『ルバンカよ。どうやら、この試練には攻略の方法があるようだ。倒すだけが攻略ではないと。ガルム様は何をされたいのか』


 今の発言とここまでの戦いで何かを掴んだとシアは言う。


『そうか。何か分かったのだな。だが、残念だが時間が来たようだ』


『む? 効果の持続時間か』


 シアは驚くが、すぐに何が起きたか分かる。

 先ほどルバンカが発した言葉のとおり、覚醒スキル「幻獣化」の効果が切れてしまった。

 ここには特技やスキルも含めて、効果を2倍にしてくれるルークも、クールタイムをリセットしてくれるソフィーもいない。

 ここまで1時間ほどの戦いを繰り広げてきたのだが、どうやら時間切れのようだ。


 ステータスが下がり、体力超回復の切れたルバンカではクウガの攻撃で死にかねない。


『時間切れか。それでは戦えまい。まあ、気長に向かってくることだな』


 シアとルバンカの戦意が落ちたことを表情から察してニヤリと笑みを零す。

 よっこいしょとクウガは3階層へ向かう階段に腰を掛けた。

 まるで近づいてこなければ襲ってはこないと言わんばかりの態度だ。


『……あくまでも階段を上るなら邪魔をするぞというわけか』


『そのようだな』


 警戒を怠らず、シアとルバンカはゆっくりとクウガから距離を取った。


 だが、クウガから何かをするわけでもない。

 1つ大きなあくびをしたかと思ったら、巨大な体を元に戻し、階段に腰かけたままコクリコクリと眠りについてしまった。


 獣神クウガが座る階段から1キロメートルほど離れたところに拠点用の魔導具をボンっと出現させる。


『……長期戦というわけか』


『そうだ。少し休憩を取ったら訓練をするぞ。どうせ明日のこの日までクールタイムは解除されまい』


『そうだが良いのか?』


『仕方あるまいて。その間にゼウ兄様が試練に合格したらそれまでよ。だが、それだけの価値がある』


『ほう、作戦があるのだな』


『そうだ。そのためには我らの連携が必要というわけだ。特訓に付き合ってもらうぞ。もう少し息を合わせねば、クウガ様は倒せぬからな』


 シアにとって、ルバンカの動きに合わせるのは容易ではなかった。

 だが、お互いの連携こそがクウガの与える2階層の試練だと理解する。


『スキルの効果を最大限発揮するというわけか』


 シアのスキル「獣王無尽」のコンボが繋がっている際に絶大な効果を発揮する。


『そういうわけだ。少し休みながらまずは作戦を話し合おう』


 シアは自らのスキルについて語り出す。

 さらにルバンカの特技、覚醒スキルについても説明を求める。


【シアの神技とスキルの効果(簡略版)】

・神風連撃爪

 拳から風の爪が飛び出る。スキルレベルより1回多い

 コンボ連携中だと威力2倍

 発動時間小、使用後硬直、小

・真強打

 魔力を込めた右ストレート。汎用性、コンボ連携が入りやすい

 コンボ連携中だと威力1・1倍

 発動時間、極小。使用後硬直、極小

・真駿殺撃

 一気に距離を詰めて、右ストレート。コンボ連携が入りやすい

 コンボ連携中だと威力1・2倍

 発動時間、小。使用後硬直、小

・真地獄突

 敵の胸元まで近づくと発動可能。手とうで突き出し急所を攻める

 クリティカル発生率1・5倍

 コンボ連携中だと威力1・5倍

 発動時間、中。使用後硬直、中

・真粉砕撃

 敵の胸元まで近づくと発動可能。大振りのナックルで避けられやすい

 コンボ連携中だと威力1.8倍。発動時間、大。使用後硬直、大

・反撃武舞

 スキル発動すると1時間の間、敵の物理攻撃をはじき返すカウンターが発動する

 コンボ連携中だと威力1・5倍

 発動時間、無。使用後硬直、無

・獣王無尽

 バフスキル。スキル発動すると1時間の間、スキルのコンボ(連撃)が可能

 発動者以外のスキルのコンボ連携中の威力は一律1.2倍

 コンボ連携中は他の攻撃スキルのクールタイムや発動時間が若干短くなる


【ルバンカの特技と覚醒スキルの効果(簡略版)】

・五月雨拳

 6本の腕で敵(単体でも複数でも可)へ無属性の攻撃する

 攻撃回数が多い分、コンボ連携は発動しやすい

・阿修羅突

 6本の手をそれぞれ一本指にして、一ヶ所に向かって突き出す。無属性

・完全防御

 6本の腕をクロスに組み、消費魔力分だけ、耐久力を上げて防御する

 自らよりも仲間を守るときは効果が1・5倍に増える

・地殻津波

 四股を踏むように片足を地面を踏みつけ、土属性の衝撃波を当たり一体に与える

 宙に浮いている敵には効果が低い

・獣の血

 獣人や獣、聖獣などが攻撃を受けた分だけ、ステータスが上昇する

 獣人にステータス増加分を振り分けることができる

・幻獣化

 一回りデカくなり、1時間の間、幻獣化状態になれる

 幻獣化は全ステータス3万増、回避率50%増、体力超回復(秒間1%体力回復)

・聖珠生成

 聖珠を1個生成できる。Sランクの召喚獣の中で、もっとも聖殊ポイントが低い。


『……なるほど、コンビネーションで連携後に高威力のスキルを叩き込むのだな』


『そういうわけだ。ルバンカよ。もう少しスキルが多い方が助かったぞ』


 シアはルバンカの攻撃スキルの少なさにため息をつく。


『そう言うな。ありものでやっていくしかないだろう』


『たしかに。じゃあ、行くぞ! 獣帝化は切れていないから手加減はあまりできぬぞ』


『問題ない』


 武器や防具を外し、お互い遠慮のない攻撃を続ける。

 ルバンカの肩甲骨から生える2本の腕がシアの上からひねり潰すほどの勢いで迫る。


 ズンッ

 メキメキ


 両足で支え、腕を使って身を防ぐが勢いを殺せず足が陥没する。


『なるほど、無数の手とはよく言ったものだな』


 もう少し遠慮しろという言葉をグッとこらえて、ルバンカの動きの理解を進める。

 これからシアとルバンカの2人で戦っていかないといけない。

 ルバンカができる動きを理解し、自らの戦い方の癖も知ってもらわねば困る。


 シアとルバンカの連携を強化するため、特訓が続いていく。

 半日ほど訓練をしていると、建物が次第に暗くなり始めた。


 この神殿には松明やかがり火、灯りの類はないのだが、壁全体がほのかに発光している。

 だが、夕暮れを現すかのように赤みを増したかと思うと、ゆっくりと暗くなり始めた。


「日が暮れるのか……」


 とっくにスキル「獣帝化」も、それが切れた後に使用したスキル「獣王化」も解除してあるシアが気付いた。


『まるでS級ダンジョンのようだな。まあ、あれは魔導具の灯りで照らしていたわけだが……』


「む、そうか。ルバンカにはアレンの記憶があるのだな」


 シアは改めてルバンカの記憶はアレンと共有していることを改めて気付いた。


 日が暮れる前にやることがあると、シアは腰に縛り付けてある魔導袋に手をかけた。

 

 幅5メートルほどの1人サイズ用の小さな拠点用魔導具が飛び出てきた。

 結構な重量があるので地面に固定する必要はないのだが、足場によってはアームを伸ばして固定することができる設計となっているため、山肌や砂漠など様々な環境で寝泊まりできる。


『長くなりそうだな』


「何を見ているのだ。拠点の設置の間、ルバンカよ。火をくべるのを手伝え」


 ここからも共同戦かと、バラバラと薪を放り出し、食卓の準備をするため焚火の準備の指示をする。

 この場にはシアとルバンカしかいないため、利用できる手は多い方が良い。

 シアは、ルバンカは手の数が多いから手伝いがいがあるなとニヤリと笑った。


『お前は良い。遠慮がないからな』


「ほう、今更敬えと言っても遅いぞ」


『誰もそんなことは言ってはおらぬ』


 ニヒルに笑みを零すと全長30メートルのルバンカが前かがみになり、薪を組み上げていく。

 シアは握りしめていた魔導袋から数メートルにもなる巨大な箱ものを取り出す。


 アレンの持つ魔導袋とは違い入り口の大きさの制約はかなり緩和されており、ものによっては城が入るものまである。


 元々貴族や王家でのみで魔導具は利用されていた。

 王侯貴族が贅沢に旅行をしたり、王城と領都との行き来に使われていたのだが、冒険者にまで普及したのは、冒険者ギルド本部長のマッカランの功績が大きいと言う。

 Sランク冒険者パーティー「威風凛々」のパーティー内にゴーレム使いのドワーフがおり、彼女の発案で拠点用の魔導具や、入れたら時が止まる魔導袋の開発など、今となっては上級冒険者たちの必需品の開発を協力したと言う。


【Sランク冒険者威風凛々メンバー】

・マッカラン(人族。拳王。現冒険者ギルド本部長)

・イスタール=クメス(人族。聖王。元大教皇、既に死亡)

・ヨゼ(獅子の獣人、アルバハル獣王国先王(ムザの父)、獣棒武術大会10年連続総合優勝者。拳獣王、既に死亡)

・ネネビー(ドワーフ。魔岩王。既に死亡)

・グレッサ(人族。魔導王。既に死亡)

・オルバース(ハイダークエルフ。精霊使い。ダークエルフの王)


 シアは先人たちの思いに感謝することもなく、拠点用魔導具の設置が終わったら、着火用の魔導具で火を起こした焚火で肉を焼いていく。


 食事が済むころには、壁は発光を完全に止め、いっそうの静寂が神殿を満たす。


 シャワーで汗を流し、羽毛の良い所を集めて作った布団の中で明日、クウガをどうやって屠ってみせようかとシアは考え、眠りにつく。

 拠点用魔導具の窓の外では、ルバンカが警護にと、広間の中央の階段にうな垂れるクウガを見つめる。


 それからどれだけの時間が過ぎただろうか。


 30分だろうか。

 それとも3時間だろうか。


『……シアよ、起きよ!!』


『ん?』


『起きたか? シアよ、ここは何なのだ?』


『何だ? 何だというのだ? る、ルバンカ!?』


『他にいないだろう。なぜ、お前はそんなに小さくなっておるのだ!?』


 シアの目の前には齢にして30歳かそこらの厳ついゴリラの獣人がいる。


『む? な、なんだこれは!!』


 神殿ではない絨毯の敷かれた石畳の上で、獣人に戻ったルバンカに起こされてしまった。

 自らの手元に視線を移すと、とても小さい手がシアの目に映るのであった。

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