第660話 クウガの試練①

 獣神クウガとの直接の戦いを避け、2人は階段を目指す作戦をシアはとったのだが、ルバンカの思いは違った。


『ふん、たしかに試練の対象者が上の階層へ行ければ問題ないか』


 クウガはニヤリと口角を上げ、犬歯をむき出しにしてルバンカの攻撃に合わせる。


『むん! 五月雨拳!!』


 ルバンカが6本の腕を使い、無数の拳でクウガを攻める。


 パンパンパン


 クウガは手のひらで、襲い掛かる拳を受け流していく。


『なかなかの攻撃だが、単調な技では俺に一撃は与えられぬぞ』


 クウガはルバンカよりも一回り以上のステータスの差があるようだ。

 全ての攻撃をかわした後、ルバンカを胸元近くまで引き寄せたクウガは大振りの蹴りを食らわそうとする。


「……」


 ここにきて、クウガの背後からシアの拳が、無言のまま襲い掛かる。


『おっと、挑戦者までもが戻ってきたか』


 ルバンカの時以上に、寸前まで迫ったシアの拳を避けるため、クウガは跳ねるように大きく後退した。


『余計なことを……。何故戻ってきた?』


 クウガに視線を向けたまま、真横に並んだシアに向かって毒づく。


「ふん、殊勝な心で戻ってきたわけではない。試練がいくつあるかも分からぬのに、ルバンカよ。貴様にやられてもらっても困るのだ」


 せめて最終試練を超えられそうになるまで消えないでくれと、自らの本心についてシアははっきりと言う。


『シアよ。貴様は正直で良い』


 ルバンカはアレンにも見せたことのない笑みを零す。

 自らの欲望に真っ直ぐなシアの言動は分かりやすく気に入ったようだ。


 獣神ガルムは各階層で試練があると言っていた。

 2階層にやってきて早々にルバンカに脱落されたら、ここから先、シア1人で試練を超えていかなければいけない。

 持てる手札はとても少ないことを理解せよとシアは言う。


「そう思うなら全力を出せ。余も装備を変えるから見張っていよ。やれやれ、素早い相手か。獣神様は余の素早さをどうしても上げたいとみえる」


 シアはため息をつきながら、装備を全て獣神ギランの時と同様に素早さ特化に変更していく。

 獣帝化を発動していなくてもシアの素早さは10万を超えた。


 アレンから100個以上貰っている金の卵を2つ消費し、ルバンカとシアそれぞれのステータスを3000増やす。


『獣帝化(フルビーストモード) ぐるおおおおおおお!!』


 獣帝化も発動させステータスを上昇させた。


『ほう、大した力よ。既に亜神の域に足を踏み入れておるぞ。む?』


 クウガはシアの強化に笑みを零す。

 だが、強化するのはシアだけではなかった。


『幻獣化! うおおおおおおおおおおお!!』


 ルバンカも雄叫びを上げ、マグラとの戦いのときにも発動させた覚醒スキル「幻獣化」を発動する。

 筋肉がメキメキと躍動していき全ステータスが3万を超え、体中に霞がまとわりつき回避率が上昇する。

 さらに体力まで超回復するというルバンカの覚醒スキルだ。


 【名 前】 シア=ヴァン=アルバハル

 【年 齢】 16

 【加 護】 獣神(加護無)

 【職 業】 拳獣王

 【レベル】 99

 【体 力】 7851+9600(真爆拳)+30000(獣帝化)+3000(金の卵)

 【魔 力】 4273+4800+30000+3000

 【霊 力】 42073

 【攻撃力】 8280+9600+50000+3000

 【耐久力】 7851+4800+30000+3000

 【素早さ】 6355+9600+50000+3000

 【知 力】 3573+9600+30000+3000

 【幸 運】 5271+9600+30000+3000

 【神 技】 神風連撃爪〈4〉

 【スキル】 拳獣王〈8〉、真強打〈8〉、真駿殺撃〈8〉、真地獄突〈8〉、真粉砕撃〈8〉、真爆拳〈2〉、反撃武舞〈7〉、獣王無尽〈6〉、組手〈8〉、拳術〈8〉、獣王化〈7〉、獣帝化〈5〉、神技発動

・装備

 【武 器】オリハルコンのナックル:攻撃力12000、攻撃力12000

 【 鎧 】オリハルコンの鎧:耐久力10000、耐久力5000

 【 靴 】神風の靴:体力10000、素早さ30000、回避率50%増、スキル発動速度50%減、コンボ率上昇(強)

 【指輪①】素早さ5000、素早さ5000

 【指輪②】素早さ5000、素早さ5000

 【腕輪①】クールタイム半減、回避率2割上昇、体力5000、素早さ5000

 【腕輪②】スキル発動速度2倍、物理ダメージ2割上昇、攻撃力5000、素早さ5000

 【首 飾】素早さ3000、素早さ3000

 【耳飾①】物理回避率7パーセント、素早さ2000

 【耳飾②】物理回避率パーセント、素早さ2000

 【腰 帯】風属性 素早さ10000

 【足輪①】素早さ5000、転移、回避率20パーセント

 【足輪②】素早さ5000、転移、回避率20パーセント

※獣帝化の効果で体力超回復(秒間1%)発動中


 【種 類】 獣

 【ランク】 S

 【名 前】 ルバンカ

 【体 力】 50000+30000(幻獣化)+3000(金の卵)

 【魔 力】 40000+30000+3000

 【攻撃力】 50000+30000+3000

 【耐久力】 40000+30000+3000

 【素早さ】 40000+30000+3000

 【知 力】 40000+30000+3000

 【幸 運】 40000+30000+3000

 【加 護】 体力5000、攻撃力5000、体力超回復(毎秒1%回復)

 【特 技】 五月雨拳、阿修羅突、完全防御、地殻津波、獣の血

 【覚 醒】 幻獣化、聖珠生成、〈封〉

※幻獣化の効果で体力超回復(秒間1%)発動中


 かけられるバフは全てかける中、クウガはニヤニヤしながらも何もしてこない。

 まるで自らの実力を試されているようだ。

 この態度からも、自分らは試練を受けていることを理解する。


『ゆくぞ!』


『おう!!』


 シアの掛け声にルバンカが答えると、2人は今度もクウガを挟み込むべく動き出した。


『こい! 貴様らのここまでの成長、俺が見定めてやる!!』


 クウガの掛け声が合図となり、3階層を目指す2体の戦いが再開された。

 4足歩行で一気に床石を蹴り上げ、シアが迫る。


『真強打!』


 後ろ足で強く踏み込み、前足でクウガの背後を攻める。


『阿修羅突!!』


 2体は示し合わせたかのようにクウガの前後から攻める。


『相変わらず単調な攻撃よ。むん!!』


 体を捻り、フックを効かせるとルバンカの一撃を弾くとそのまま、背後に迫る。

 拳で簡単にシアの攻撃も受け流されてしまう。


『むぐ!』


『がは!』


 素早さではそこまで負けていないのだが、素早さに偏重した分、どうも力負けしている。

 ギランの時と違い、相手もガンガン手を出してくるようだ。

 素早さ特化で致命傷は避けることができるものの、体力がどんどん削られていく。


『……なるほど、「単調な攻撃」では倒せないと』


 シアはこの戦いの中で攻略の条件を考える。


『その通りだ。せいぜい工夫をすることだな。それに俺もそろそろ本気を出すとしよう』


『なに? 本気だと?』


『ぐるうおおお!! ゆくぞ!!』


 クウガは2足歩行で、獣人でいうところの獣王化(ビーストモード)程度だった体は、獣帝化(フルビーストモード)に変えていく。


 ズウウン!


『むぐ!!』


 変貌を遂げたクウガがいきなり目の前に現れたと思ったら、前足で蹴り上げられた。

 シアは肩を強打され、バウンドしながら遠くへと吹き飛ばされていく。


『大丈夫か!?』


『問題ない。この程度の攻撃』


 メキメキとシアの体は自然回復していく。

 スキル「獣帝化」には体力超回復の効果があるため、骨が折れても、腕が消し飛んでも何秒もしないうちに元通りになれる。


『ルバンカよ、絶対防御を頼めるか? どうやらこの階層、そう単純に攻略はできそうにない』


『む? ……分かった』


 この場で防御系の作戦を使う意味がないのだが、それだけにシアのやりたいことがなんとなく分かったようだ。


『ゆくぞ!!』


『おう! 絶対防御!!』


『何度も同じやり方を、って、何だと!?』


 ルバンカはクウガに距離を詰めると6本の腕を大きく開くとクウガの体を腕全体で拘束した。


『余よりも動きが速いようだがこれなら躱せまいて! 神風連撃爪!!』


『むぐ! こ、これはギラン様のお力!!』


 ルバンカの腕の隙間を狙い、器用に5本の爪の斬撃を全て与える。


『よし、そのまま抑えておれ! 真粉砕撃!!』


 右前足に魔力を込め、一旦引いた後、全力で再度突っ込んでいく。


『だから何度も言っているのだ! そのような「単調」な攻撃で、グルオオオオオ!!』


 体はルバンカの3分の1もないのだが、攻撃力はルバンカを上回っていた。

 力ずくで特技「絶対防御」でカチカチになった腕の中で体をよじり、空いた隙間から後ろ足で蹴り上げる。


『ぐは!?』


 ルバンカは吹き飛ばされているが、クウガの視線は背を見せている。

 スキル「真粉砕撃」を食らわせようとするが、そのスキルは当てることはできなかった。

 シアはクウガの長い尾の一振りでせっかく距離を詰めたのに弾き飛ばされてしまった。


『シアよ、無事だな』


『と、当然だ!』


 クウガの攻撃は一撃一撃が重いのだが、死ぬかと言われたらそうではない。

 神器「神風の靴」の効果も大きく即死級の攻撃を寸前で躱してくれる。

 ルバンカも、覚醒スキル「幻獣化」のおかげで、非ダメージのクリティカルは発生せず、体力超回復がメキメキと折れた骨も、千切れた筋繊維も修復していく。


『仕切り直しだ。相手は我らよりも素早く力が上だ』


『そして、体力は同じく全て回復するのか……』


 シュウシュウッ


 シアたちが会話する中、クウガの体から湯気のようなものが上がり、シアが切り裂くように放った神技「神風連撃爪」をみるみる回復していく。

 

『敵の攻撃を封じ、最短で倒さねばならぬ。では、やることは1つよ』


『ほう? なるほど、コンビネーションだな』


 ルバンカには召喚獣になったおかげでアレンの知識と経験の全てが蓄積されている。

 敵の攻撃を封じるには、攻め続けねばならない。

 強い攻撃があっても、こちらの攻撃を受けている間は、発動することはできない。

 敵も超回復で体力を回復することを止められないなら、それを超える速度で敵の体力を削り切らないといけない。


『そういうわけだ。獣王無尽!!』


 シアはスキル間の連携速度が速くなり、コンボ中のスキルの威力が上がるスキル「獣王無尽」を発動した。


『作戦は決まったというわけか?』


『そういうわけだ』


『その階段どいてもらおうか』


『力でどかしてみるがよい! この階層の試練を乗り越えてみよ!!』


 挑発をそのまま受けるようにシアとルバンカはクウガに向かっていくのであった。

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