第362話 アレン軍活動方針
「ずいぶん若い方を選んでいただいたのですね。配慮いただいてありがとうございます」
アレンはダークエルフが若い方が多かったことについて、オルバース王に感謝の意を伝える。
「なるほど。礼を言うか。エルフよりやりづらいな」
まさか礼を言われるとは思ってもおらず、オルバース王は気まずそうに答えた。
今回、エルフより一回りほど若く戦闘経験があまりなさそうな、ダークエルフを1000人ほど寄こしてきたことのデメリットは、アレン軍でわざわざ鍛えないといけないことだろう。
しっかり鍛えていない者を人選したのは、里の守りに不安が出ることなども影響が出た可能性がある。
ではメリットは何なのかと言ったら、エルフたちへの配慮だ。
もし、今回同じ世代で戦闘経験もあるダークエルフを同じ人数寄こしたら、力が拮抗し揉める可能性がある。
それでなくても、数千年に渡って争っている2つの種族が同じ島で暮らす。
戦闘経験もなく、世代的にも一回り下で若いダークエルフの方が柔軟性もあって良いのではとも考えられる。
何事にもメリット、デメリットがあるものだと思う。
「ルークトッドさんもよろしくお願いしますね」
そう言って、さっきから睨みつけてくるオルバースの子供のルークトッドにも挨拶する。
王子だと思うがとりあえず、アレン軍への加盟ということは、配下という形になるので「さん」付けだ。
「よ、よろしく」
ルークトッドは小さく頷いた。
どうやら敵意は持っていないようだ。
単純に緊張していたのかと思う。
『ルーク、あたいがいるから大丈夫だからね。心配しなくていいのよ』
(お、ファーブルが喋った。あたい口調なんだ)
ファーブルは姐さんのような話し方をする。
「う、うん。そうだね。ありがと」
そう言って、漆黒のイタチの姿をした精霊王ファーブルが鼻を近づけルークを励ます。
王妃らしき人が心配そうに、ルークトッドに荷物の入った鞄を渡している。
何となく、まだ自立は早いんじゃないのかとアレンは思うので、いくつなのか聞いてみたら15歳でアレンと同い年だった。
こうして、アレン軍に参加するダークエルフと共にヘビーユーザー島に移動する。
ヘビーユーザー島は開拓が始まって初日であるが、獣人2000人、エルフ2000人、ダークエルフ1000人と、当初予定のアレン軍参加者全員が揃ったのでこれから打ち合わせをする。
さすがに5000人全員が集まっても話にならないので、100人の配下を持つ隊長クラス以上が広間に集まって今後の話をする。
打合せ用の会議室を作っておいてほしいと言って、獣人とエルフたちが作ってくれた建物に集まる。
この大きな建物は今後、町長が住む建物となる。
アレンが上座に座り、ソフィー、シアがその両横に座る。
その横にルークトッドやアレンの仲間たちが座る。
軍事組織なので、格や立場のようなものを大切にしているようだ。
「お酒は結構です。果実水をください」
アレンにエルフの女性兵がお酒を注ぎに来たので、果実水でお願いする。
アレンはお酒を基本的に飲まない。
食事もしながら、ゆったりと会議を行う。
「皆集まったな。では、アレン、始めてくれ」
シアが集まったかどうか確認する。
100人以上配下を持つ隊長以上になると、この部屋に100人近くになった。
将軍やアレンの仲間たちもいるので結構な人数が輪になる。
輪に入りきれなかった隊長格は、列を作って座る。
全員がアレンの言葉を待ち、視線を送る。
全ての者が今回の軍を指揮するのはアレンであることを聞いている。
アレンは20年ぶりに現れたSランク冒険者で、S級ダンジョンを攻略し、去年のローゼンヘイムへの魔王軍への侵攻、今回起きた邪神教教祖グシャラの騒動の解決をしていることも全員が知っている。
ラターシュ王国という小国の平民であることなんて、どうでもいいというほどの成果を上げてきた。
アレンがローゼンヘイムで戦っているところを見てきたエルフや、邪神教とその邪教徒との戦いぶりを見てきた獣人もいる。
そんなエルフの将軍や獣人の隊長格が背筋を正してアレンの方を向いている。
「皆さん、お集まりいただきありがとうございます。私がこの軍を指揮することになりましたアレンと言います。皆様に立場や目的もあり、種族の異なる混成の軍になりますが、一緒に魔王軍を倒しましょう」
「ふむ。立場についてはいいのではないのか」
シアが立場や目的については触れる必要はないという。
「まあ、そうですね。ただ、私としては志まで共にする必要がないということです。思想信条も含めてそれぞれ大切なものは持っていてください」
今回、ダークエルフや獣人がこのアレン軍に参加したのは理由がある。
それについて、アレンが今回話の前に触れた形だ。
魔王軍から世界を守ろうという崇高な理由があるなら、獣人やダークエルフはアレン軍に参加する以前に大陸同盟軍に軍を派遣していたはずだ。
しかし、今までしてこなかったにもかかわらず、この機会にというのは当然アレンの戦いを見てきたのも1つの理由だろう。
圧倒的な力で魔神をも倒す力をアレンとその仲間たちの活躍を獣人もダークエルフも見ている。
勝利の展望が見えたとも言える。
そして、大事なことが1つある。
今回、参加を決めた大きな要因はギアムート帝国の皇帝の発言だ。
『転職ダンジョンは、5大陸同盟に参加の軍が優先して利用する。これは魔王軍と戦うためにエルメア様がもたらした奇跡に他ならない』
エルマール教国が救難信号を送る前の5大陸同盟の会議での発言だ。
神器が奪われ、人々に力を与えるために始まった転職システムだが、ダンジョンは1つしかなく誰が優先して使うのかという問題が出てくる。
当然、魔王軍と戦う国家を優先して使うのが筋だろうという考えだ。
でなければ、創造神エルメアが5大陸同盟の管理下にある学園都市に転職ダンジョンを設けないというのがギアムート帝国皇帝の発言の真意だ。
転職ダンジョンを使えば、星の数を1つ増やすことができる。
星3つ以上はどこの国でも生まれにくく、星2つの才能が剣聖や聖女などの力を持つことができる。
転職ダンジョンの利用は国力の向上にもつながり、利用しないことは国家の衰退に繋がる。
ダークエルフはエルフに大きく差をつけられる形になるだろう。
ゆえにアレン軍への参加は魔王軍と戦うための大義があることになる。
転職ダンジョンを利用するもっともらしい理由が出来たということだ。
なお、アレン軍への参加で転職ダンジョンの利用が可能になるよう、ローゼンヘイムの女王や冒険者ギルドに根回しを行っている。
ダンジョンは冒険者ギルドの管轄で、アレンには副本部長相当の権限がある。
知り合いを優遇してくれと言って、その知り合いが5000人いても優遇してくれるはずだ。
その他、特に国交のないダークエルフたちが学園都市やバウキス帝国のS級ダンジョンにいけるよう目下調整中だ。
(さて、5大陸同盟の会議にも参加しないとな)
今回の魔王軍の侵攻が概ね片付いたこともあり、アレンは5大陸同盟の会議に呼ばれている。
会議内での発言が求められているとローゼンヘイムの女王に言われた。
「では、まず私たちには3つのやるべきことがあります。島の開拓、軍の強化、S級ダンジョンの攻略です」
今後の方針についてアレンは皆に語りだす。
今日はエルフと獣人が全員で行ったが、こんなそれほど大きくもない島に5000人もいらない。
ダークエルフが育っておらず、S級ダンジョンに行けない者も多い。
5000人の内種族ごとで複数の軍に分けて、交代で島の開拓と軍の強化の活動をしてもらう。
この軍にはレベルやスキルレベルがカンストしていない者、S級ダンジョンに行けない者など様々な状態だ。
軍の強化は、レベル上げ、スキルレベル上げをしながらA級ダンジョンの5つを攻略し、S級ダンジョンを目指すというものだ。
そして、レベルとスキルレベルがカンストした者は転職をしてもらう。
転職も終わり、S級ダンジョンの招待券を手にした者から、S級ダンジョンでの活動をしてもらう。
1年以内に、アレン軍全ての者が転職を終え、レベル及びスキルレベルをカンストさせ、全員にステータス5000増加する指輪を2つ装備してもらうことが1つの目標にある。
なお、今回のアレンの説明でレベル上げを神の試練のような表現にしない。
今後覚えてほしいとアレンが普段使う言葉で説明をつけながら話をしている。
「じゃあ、俺はS級ダンジョンに行くんだな」
「そうだ。ドゴラ。あとクレナとキールはメルスと共にS級ダンジョンに籠っていてくれ。俺も一通り落ち着いたらダンジョンに合流する」
エクストラモードに突入したドゴラは主要メンバーと共にS級ダンジョンに行ってもらう。
この時、クレナ、キール、メルスも同行する。
スキルレベル向上とステータス5000上昇リング及びヒヒイロカネゴーレムの石板集めが主要な目的だ。
ドゴラが島の開拓をしていても仕方ない。
是非、エクストラモードの限界を調べてほしいと思う。
セシル、ソフィー、フォルマールはアレンと共に、島の開拓とアレン軍のために同行してもらう予定だ。
シアはダンジョンを攻略しながら、スキルレベルのカンストを目指す。
シアはアレン率いるパーティー「廃ゲーマー」に入れた際、レベルは60だったが、スキルレベルがカンストしていなかった。
スキルレベル4から5のあたりであった。
S級ダンジョンに行く資格もないようなので、ダンジョンの攻略を目指すというものだ。
「なるほど。方針としてはそれでいいんじゃないのか。それで何か質問がある者はいるか」
シアが積極的に会議を進めてくれる。
将軍気質のシアがいてくれて本当に助かる。
「あ、あの申し訳ありません。ルークトッド様もアレン様のパーティーに入れていただきたいのですが」
ダークエルフの将軍でルークトッドの世話役をしている者が、アレンに廃ゲーマーに入れてほしいと言ったのであった。
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