第363話 クランの結成

「ルークトッドさんを俺のパーティーに、ということですか? ブンゼンバークさん」


「はい。これは難しいでしょうか」


 不安そうにダークエルフのブンゼンバーク将軍がアレンの顔を伺う。


(ふむふむ。やっぱり、アレン軍の中において、格のようなものがもうでき始めているのか)


 エルフのルキドラール大将軍を見る。

 ルキドラールは、まだ弓も引いたことのない年齢に見えるルークトッドが、崇高なる「廃ゲーマー」への加入などふざけるなという表情が今にも出てきそうな顔をしている。


 今回、アレンは活動方針にS級ダンジョンや転職ダンジョンなど、ダンジョンが大きく関わることから、それぞれの種族で冒険者パーティーを結成した。

 そして、冒険者パーティーを取りまとめる制度の「クラン」を結成することにした。


 クランとは複数の冒険者パーティーの集団のことだ。

・アレン率いる廃ゲーマー

・エルフのルキドラール大将軍率いる「廃ゲーマーエルフ」

・獣人のルド隊長率いる「廃ゲーマービースト」

・ダークエルフのブンゼンバーク率いる「廃ゲーマーダーク」


 アレンは廃ゲーマーのパーティーリーダーであり、4つのパーティーを率いるクランリーダーでもあることになる。


 アレン率いる廃ゲーマーには、アレン、クレナ、セシル、ドゴラ、キール、ソフィー、フォルマール、メルル、シアが参加している。


 この見た目8歳の褐色少年のルークトッドを廃ゲーマーへ入れるようにとのことだ。


 これは格や誇りの問題のようだ。

 ダークエルフだけ1軍の廃ゲーマーに参加できなかったでは困るとそんなところだろう。


「ちなみにルークトッドさんの才能は?」


「く、くろ……」


「黒魔術師です」


 ルークトッドが言おうとしたらブンゼンバーク将軍が被せるように答える。

 今がダークエルフにとって一番大事な運命の分かれ道と考えているのかもしれない。


「ん? メルス。黒魔術ってなんだ?」


『攻撃とデバフ主体の精霊魔法を使う職業だ。星でいうと1つの才能だ』


「め、メルス様!?」


 ブンゼンバーグ将軍が口から魂を吹き出しそうになる。

 アレンがメルスを呼び出すことができると聞いていても騒然となる。


(星1つか転職できても星2つ。まあ精霊王を供にしているなら全く役に立たないということもないだろう。たしか精霊王って亜神だし)


 アレンのゲーム脳がフル稼働を開始する。

 ルークトッドは戦闘経験はなく、星1つの才能しかない。

 しかし、廃ゲーマーのパーティーが少しずつ増えてきたが、前衛主体のシアが参加した。

 ソフィーがバフと回復魔法主体なので、デバフ、攻撃魔法主体は悪くない。

 ただし、星の数は今のところ1つで転職ダンジョンに行っても2つにしかならない。

 

 あとは亜神の精霊王ファーブルとセットであること、今後星の数がさらに増える可能性があることを勘案する。


「パーティーの加入は問題ない。ただし、俺が認めるまで、ブンゼンバーグさんと一緒にダンジョンでレベル上げをしてもらう。あと、仲間なんで俺のことはアレンでいいし、ルークって呼ぶが問題ないか」


「も、もちろんです。ありがとうございます」


 ルークトッドの代わりにブンゼンバーグが深く頭を下げた。


 こうして、アレン軍の活動方針についてあれこれ話をして、その日の会議は終わった。



 それから翌日のことだ。


 アレンたちはバウキス帝国内の以前訪れた村にやって来た。

 既にS級ダンジョンへ転移するための「巣」を作っており、そこから鳥Bの召喚獣に騎乗してバウキス帝国に吸収された旧メルキア王国に向かっている。


 村の中に入って行き、中に進むと軒の下には壺や鍋など、出来立てのものが飾られている。


「すみません。ハバラク先生はいますか?」


 アレンは名工ハバラクの家の扉をノックする。


「は、はい。って、これは、アレンさん」


 アレンのことを覚えていた名工ハバラクの弟子が扉を開け、アレンたちを中に入れてくれる。

 居間に案内され、お弟子さんたちに出されたお茶をすする。

 すると足早に遠くの方から廊下を走る音が聞こえる。


「お、おお。よく来たな。お前ら、ふ、フレイヤ様の神器を取り返したって本当か?」


 息を切らしたハバラクがアレンを見るや否や、神器を取り返したことについて聞いてくる。


「はい。その通りですが、もう情報が出回っているのですか?」


(あれ? 神器を奪われたことはそもそも、公開されていないような)


「ああ、そんなの分かるに決まっているだろ!! 火がよ、火が温かくなったんだよ!!」


 何故か怒鳴られてしまった。

 そして謝られてしまった。


 疑問符を浮かべるアレンの表情で分かったのか、理由を教えてくれる。

 少し前に、鍛冶を行うときに使っていた炎が随分弱くなったという。

 しかし、その炎は決して絶望しておらず、強い温かみがある。

 これは火の神フレイヤ様がお喜びになった証に相違ないとそういう話だという。


 アレンはこの話を聞いて、鍛冶屋の名工になると、常に火を考え続け、火の神に近づいてしまうのかと思った。

 毛がモジャモジャで小学生並みの身長しかない厳ついおっさんだが、巫女のような存在だなと思う。

 そして、火が弱くなったのは世界に放出する火まで、バスクを倒すために消耗した火の神フレイヤが使った可能性がある。


「はい。これが神器カグツチです。ドゴラ、見せてあげて」


「ん? 神器だと」


 アレンがドゴラに声を掛けると、ドゴラが壁に立てかけた神器カグツチを片手で持ち上げてハバラクに見せる。


「火の神フレイヤ様がその温かいお心を示していただきました。この神器はその慈悲の証です」


「お、おお! 神器を扱うのか!」


 そして、エルマール教国から始まった邪神教との経緯を簡単に説明する。

 その結果、ドゴラは使徒となり火の神フレイヤの信仰を広める任務を、生涯をかけて担うことになったことも伝える。


「そ、そんなことが。だが今日の明日では、オリハルコンの加工は難しい、火が弱いからすぐには厳しいぞ」


 火の神フレイヤから頂く炎の力が弱まっているので、ダンジョンで手に入ったオリハルコンの塊2つとバスクが持っていた大剣の加工はできないという。


「いえいえ。実はハバラク先生には是非、先ほど話したヘビーユーザー島で活動をしてほしくて、やって来ました」


 今日来たのはオリハルコンの加工ではない。


「な、なに?」


 そう言ってアレンはさらに説得を試みる。

 今回、火の神フレイヤが神器を奪われる原因にもなった、ディグラグニへの信仰の偏重がある。

 今後、島でフレイヤ様を信仰する者たちと活動を共にするので、鍛冶の工具を一切合切持って、ヘビーユーザー島まで来てほしい。


 アレンには5000人の軍がいる。

 武器や防具の修繕も含めて、鍛冶職人がいた方がいいのは間違いない。

 それが世界に数人といない名工ハバラクなら言うことはないという話だ。


 名工ハバラクは神器カグツチを見つめる。

 皆がハバラクの回答を待つ中、ハバラクはゆっくりと目をつぶった。


「いいぜ、荷物全部まとめて移動してやるよ。ああ、何人か活きのいい職人がいんだ。そいつらも連れて行ってもいいか? 腕なら保証する」


 こんな所でくすぶるより、ためになるので声を掛けたいとハバラクが言う。


「それは助かります!」


 1人では厳しいので、何人か紹介するという。

 これは嬉しい知らせだ。


「じゃあ、お前ら、ボケっとしてないで荷物をまとめるぞ」


「いえ、それには及びません。クレナ、ドゴラ行くぞ」


「うん。出番だね!」


「おう」


「ん? どうするんだ?」


「まあ、見ていてください。すぐに終わるはずです」


 そう言って、アレンの仲間たちは外に出る。

 そして、クレナはオリハルコンの大剣を、ドゴラは神器カグツチを家の周りに沿うように打ち込み始めた。


 自宅兼工房のハバラクの周りが掘り起こされていく。

 そして、すっかり外周に切り込みを入れた後、クレナ、アレン、ドゴラ、メルスの4人で家を基礎から持ち上げた。


「ぶっ!?」


 ハバラクの目が飛びそうになり、吹き出す。


(よし、普通に行けたぞ。我らの攻撃力からしてみればどうってことないことよ)


「じゃあ、皆移動しますよ!」


 アレンは鳥Aの召喚獣の覚醒スキル「帰巣本能」を使って、ヘビーユーザー島に移動する。

 既にこれくらいの地面の凹みを島で掘り起こしているので、そこに置けばよい。


「なんか、とんでもねえな……」


「いえいえ、ここが移動先です。開拓はこれからですので、鍛冶を打つのに必要なものがあれば言ってください」


 ここはフレイヤを祀る神殿がある山の麓だ。

 鍛冶職人は火の神フレイヤを信仰しており、町より近くに配置することにした。


(他の鍛冶工房も移動させないといけないな。あとで開拓班にお願いしておくか)


 ハバラクの工房のみ移動させる予定だったが、素晴らしい提案でこの辺りを鍛冶職人地区にできそうだ。


「そうだな。きれいな水とよく燃える溶岩石がいるんで、取り揃えてくれ。いっぱいだぞ」


 軽く聞いたつもりだが、あれこれ言ってくる。

 中には鍛冶専門のアイテムなのか聞いたこともないものも飛び出してくる。

 アレンは魔導書にメモして買い出しをすることにする。


「では、一旦戻りますね」


 周りの様子をハバラクにある程度見せて意見も出終わったので、ハバラクの職人仲間を呼ぶため元来た村に帰る。

 

「あとはそうだな。お前らはどっか行くって言うんだろ。叩けるようになったら勝手に作っておくんで、何を作ってほしいか言っておいてくれ。あと誰が使うのかもな」


 ハバラクはヘビーユーザー島にいるのだが、アレンたちは常に島にいるわけではない。

 欲しい武器や防具、そしてそれを扱う者の手や体の大きさを測らせろという。

 アレンたちの活動がよく分かってくれているようで、本当に助かる。


 現在、オリハルコンの塊が2つ、2つに折れた大剣、バスクの大剣がある。

 バスクの大剣はバスク仕様になっているので、柄の部分とか刀身のサイズ感も含めてクレナ仕様に変える必要がある。

 クレナの大剣の加工は優先順位的に最後の予定だ。


「あと塊2つあるんで、1つは剣でもう1つは盾かな。剣は私が使うので小さくていいので、その分盾に……」


 アレンの剣はそこまでオリハルコンを使わないので、その分、ドゴラの盾に使ってほしいと言う。


「いや、待て。アレン」


 するとドゴラが、アレンとハバラクの会話に割って入る。


「ん? どうした? ドゴラ」


「俺は両手斧2本持つ。それでいいか?」


 ドゴラは武器2本持ちにすると唐突に呟いた。

 もしかしたら、ずっと考えていたのかもしれない。


(ん? バスクにでも影響されたのか)


 両手大剣使いのバスクの戦い方が自分に合っていると考えたのかと思う。


「うん? そうか。いいんじゃないのか」


 初めて、ドゴラがアレンの考えた案ではなく、自分の案を通そうとしたように思える。

 ドゴラなりのその考えは尊重することにする。


「あとは折れた大剣は、シアのナックルと軽装に加工してほしいです」


「む? 余で良いのか?」


 塊2つの使い道が決まったので、ドゴラとフレイヤによって切られ2つになってしまったオリハルコンの大剣の使い道について話をする。


「まあ、獣王に成れたらいらないかもしれないけどね」


「ふむ。それは難しいかもしれぬな」


 クレナ、ドゴラ、アレンにオリハルコンの武器が手に入る算段が付いたので、次に必要なのはシアの武器だ。

 大剣分のオリハルコンの量なら、ナックルにそこまで使わない上に、シアは軽装なのでオリハルコンの防具も加工で足りそうだ。

 胸当てを作ってもらおうと思う。


 今獣王に成れたらという話は、アルハバル獣王国には獣王家の秘宝があるとアレンはシアから聞いている。

 秘宝の話はいくら聞いてもいいと考えている。


 アルハバル獣王国の秘宝はオリハルコンのナックル、オリハルコンの胸当て、黄色の聖珠らしい。

 獣王になった者がこの3つを装備できるという。


 なので、シアがもし獣王になってアルハバル獣王国の獣王になれるなら、オリハルコンはドゴラが両手斧使いになってしまいパーティー全体の守りが落ちたので、クレナあたりの鎧にしようかと思う。


 こうしてオリハルコン4つの加工と優先順位を伝える。


 優先1は、オリハルコンの塊からドゴラの大斧

 優先2は、オリハルコンの塊からアレンの剣

 優先3は、切れたオリハルコンの大剣から、シアのナックルと軽装、またはクレナの鎧

 優先4は、バスクの大剣をクレナのサイズに加工


「ああ、分かったよ。あとは火の加減を見ながらやってくよ」


 出来上がったら、町にいる霊Aの召喚獣に伝えてもらうことにする。

 こうして、名工ハバラクと鍛冶職人たちがヘビーユーザー島に移住してくれることになり、オリハルコン加工の目途が1つ前に進んだのであった。


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