第373話 5大陸同盟会議②
「ほう、魔王を倒すか」
アレンの言葉を拾ったギアムート帝国の皇帝の声は、拡声の魔導具によって会議室に広がる。
これから魔王軍と戦っていくのではなく、諸悪の根源である「終わりの魔王」と呼ばれる世界を滅ぼそうとしている魔王を倒すとアレンは断言した。
これがアレン軍の目標なのかと各国の代表は耳を傾けている。
魔王は100年以上前に現れて、50年以上世界と戦っている恐怖の象徴だ。
世界は、魔王を倒せるという可能性すら失いつつある状況だ。
「はい。そのために、パーティーの活動に限界もありますので、この度、軍を持つことにしました」
「ほう、アレンよ。既にもうずいぶん魔王軍と戦ってきているはずだが、それでもまだ魔王を倒せると思っているのか。ヘルミオスよ」
そう言って、ギアムート帝国の皇帝はヘルミオスを見る。
アレンは既にローゼンヘイムの侵攻を止めたりなど魔王軍との交戦経験がある。
それでも倒せるつもりであるのかということのようだ。
(なるほど。5大陸同盟は魔王を楽観視していないと。まあ、実際に倒せていないし)
盟主と同じ円卓の一席に勇者ヘルミオスを呼んである。
アレンとの付き合いのあるヘルミオスがいた方が、アレンの人となりが分かると判断したからだ。
現在世界を動かしていると言っても過言ではない5大陸同盟の盟主と同じ席に座る勇者ヘルミオスの立場は、これまでの功績が示している。
人類の希望にして、その人生を魔王軍との戦いに使った男が円卓に座ることに、誰も口を挟んだりはしない。
なお、ギアムート帝国の皇帝がヘルミオスにアレンのことを聞いているが、マッカラン本部長にも随分話を聞いていたようだ。
マッカラン本部長の話では、アレンは強くなることへのこだわりがとても強く、何かを分析したり調査するのが好きだ。
地位や名誉には全く興味がなく、権威になびくこともない。
丁寧に話をすれば、アレン自身に利益がないことも協力してくれるので、真摯な対応が大事だと言っていた。
実際に去年のローゼンヘイムの侵攻やエルマール教国の救難信号にも対応してくれているので、各国の代表たちもその話に耳を傾けているような感じであった。
アレンがS級ダンジョンに通っているころ世界的な組織である冒険者ギルドの最高責任者であるマッカラン本部長がわざわざやってきた。
アレンの人となりを知ることが、アレンに会いにバウキス帝国にやってきたマッカラン本部長に与えられた使命だったのかもしれない。
そんな5大陸同盟の盟主たちは本気で魔王を倒そうとしているアレンが、夢物語を見ているのか分からない。
はっきりとした困惑の表情が会議室の中に広がっていく。
5大陸同盟でも倒せないのにどうやってという思いだろう。
(まあ、人数や才能だけだと弱小の組織と思われても仕方ないからな)
10人かそこらのパーティーが5000人の軍を持った。
この5000という兵の数は、5大陸同盟にとって決して多くない。
5大陸同盟軍は100万を超える軍勢となる。
5000といえば、中央大陸にある1つの要塞に任せる軍の数より少ない。
その程度の軍を持っただけで本気で言っているのかという表情が各国代表に現れ始めた。
「まあ、アレン君だからね。彼は初めて会った時から、ずっとこの目的のためにいるよ。恐らく目的達成のために最も近くにいるのが彼じゃないのかな。少なくとも僕よりは近くにいるよ」
困惑を破るようにヘルミオスが口を開いた。
「そんなにか?」
「うんうん」
ギアムート帝国皇帝にため口で返事をする。
何でも、ヘルミオスとギアムート帝国皇帝は同じ年らしいので、アレンの10個上の年齢だ。
ギアムート帝国の皇帝とは昔からの仲なのかもしれない。
しかし、それほど仲の良い関係ではないと信じたい。
(まあ、噂だけでいい人かもしれないからな。王宮に噂はつきものだし)
ギアムート帝国の現皇帝はあまりよい呼び名を持っていない。
賢帝や恐怖帝など幾多の皇帝が誕生したギアムート帝国において、現皇帝は「鮮血帝」と呼ばれている。
3人の兄が全て不慮の死を遂げ、先代の皇帝すら急死し若くして皇帝となった。
そのギアムート帝国の皇帝が、ヘルミオスの言葉が真実なのか深く探るようにアレンを見つめる。
「ほう、世界から才能のあるものを集めて。おめえらはそんなにつえーのか?」
マッカラン本部長と勇者ヘルミオスがアレンをほめちぎりすぎたようだ。
獣王がたまらず口を出してきた。
全然王族らしい言葉使いじゃなく、冒険者と呼ばれた方が相応しいとアレンは思う。
アレンの強さについて、疑っているようだ。
「強い、弱いでいうと皆様方より強いでしょう」
(それでも魔王どころか上位魔神相手も厳しい戦いになっているけど)
「あんだと?」
獣王より強いよと暗にいったアレンに対して、思わずライオンの獣人である獣王の顔の周りの毛が逆立つ。
どうやら、今の言葉が頭に来たようだが、毛深いから怒っているけど肌の色や血筋が見えにくいなとアレンは思う。
「獣王よ。我らは喧嘩をしに来たわけじゃないぞ。われわれよりも強いか。おもしろい。その言葉、真であるか調べても良いか。皆もその方が安心するからな」
アレンの言葉をどうやら引き出したかったようだ。
ギアムート帝国の皇帝は、今回アレンたちを呼んだ目的のために準備していたものがあるようだ。
皇帝が視線を向けると、入口で合図を待っていた騎士が扉を大きく開ける。
「ん? 調べる? 勇者に鑑定させるのですか?」
強さを計るならそれが一番早い。
「そうだ。鑑定だ。アレンは話が早いようだ。よいぞ。だがヘルミオスの鑑定ではない。それでは皆に伝わらないからな。持ってまいれ!」
会議室に、漆黒の板と水晶が神官たちの手によって運ばれてくる。
(鑑定の儀の鑑定か。それにして物々しいな。この世界は鑑定好きだな)
鑑定は5歳の鑑定の儀、そして学園を受験したときもやった。
これで3度目の鑑定かと思う。
「アレンどうするの? 鑑定受けるの?」
座っているセシルがアレンに声を掛ける。
アレンが随分デカい漆黒の板だなと思いながら見つめていると、セシルが話をしてくる。
「まあ、鑑定くらいいいんじゃないのかな。皆、不安だと活動に支障が出ても困るし」
唯我独尊で世界に対して何も協力をせず、畏れられてもいい魔王のような存在を、アレンは目指しているわけではない。
5大陸同盟にも協力的な顔を見せつつ、必要な要望は通していく。
こういった打算的な行動をアレンは取ることもできる。
協力をするメリットと断るデメリットを天秤にかけてどうすべきかが、今回の会議でのアレンの立ち振る舞いを決める。
「殊勝な心掛けだな。アレンよ。ちなみにわが帝国最強の英雄の力も先に皆に見せておくぞ」
アレンが協力すると言った言葉も拡声の魔導具に拾われ、会議室に広がった。
そして、どうやら見せつけるために勇者ヘルミオスを先に鑑定するとギアムート帝国皇帝は言う。
ギアムート帝国の力を見せつける意味もこの鑑定には含まれているようで、獣王がまたかよって顔をしている。
というより、獣王が口に出して言うので、その言葉も拡声の魔導具に拾われる。
「では、この水晶に手を当ててください」
鑑定の準備が整ったようだ。
鑑定をすすめる神官がヘルミオスに話しかける。
「うん」
壇上と円卓の横に設けられ、代表たちにも見えやすく漆黒の板が配置される。
鑑定の儀の板より何倍も大きい板は、さながら会議室の壁に設けられたスクリーンのようだ。
すると水晶が輝きを見せ勇者ヘルミオスのステータスを表示する。
(お?)
【名 前】 ヘルミオス
【年 齢】 25
【職 業】 英雄王
【体 力】 3555+3600
【魔 力】 2550+3600
【攻撃力】 3555+3600
【耐久力】 3555+3600
【素早さ】 3555+3600
【知 力】 2550+3600
【幸 運】 3199+3600
【スキル】 英雄王、回復、飛翔、鑑定、聖霊剣、英傑、組手、斧術、剣術、槍術、盾術、投擲
【エクストラ】神切剣
「おおお! 勇者ではなく英雄王になっておるぞ!!」
「初めてヘルミオス殿の鑑定を見るのか?」
「いつ見ても素晴らしい鑑定結果だ」
各国の代表から声が漏れる。
圧倒的な数値が鑑定結果に並んだ。
中には以前に見た代表もいるようだ。
何度か、ギアムート帝国の皇帝が各国に見せびらかしているのかもしれない。
(おお、勇者は既にカンストしているな。っていうかスキル多いな。槍や斧も扱えるのか)
精霊王に転職してもらった勇者ヘルミオスは既にレベルが60でカンストしていた。
そして、鑑定の儀では、EからSまでの表記でステータスの上昇値が表示されていたが、随分はっきりとステータスや使えるスキルが表示されている。
随分詳しく鑑定ができる特別な鑑定セットのように思える。
しかし、アレンの使う魔導書ほどの性能はないようだ。
レベルやスキルレベルがいくつかも表示されないし、経験値欄もスキル経験値欄もない。
レベルが上がることを神の試練を越えるという世界であることを思い出す。
レベルもスキルレベルの鑑定で表示されないのは、信仰に関わるからなのかと思う。
そういえば、学園でヘルミオスから鑑定されたときもレベルいくつだとは言われなかった。
とりあえず、魔導書にヘルミオスのステータスを記録する。
(なるほど、随分多いスキルは勇者なりの試行錯誤だったのか)
最前線で10年間もの間、魔王軍と戦ってきたヘルミオスには剣術以外にも槍術や斧術など多くのスキルがある。
ずっと、試行錯誤しながら強さを求めてきたのだろう。
それでは順番にと転職して豪商になったペロムスやまだ転職もしていないルークも含めて鑑定をしていく。
ペロムスやルークの鑑定について、何か感想が漏れることはなかった。
まだまだ成長中の2人だ。
続いて、シアが鑑定をするようだ。
【名 前】 シア=ヴァン=アルバハル
【年 齢】 15
【加 護】 獣神
【職 業】 拳獣聖
【体 力】 1702+1800
【魔 力】 846
【攻撃力】 2560+1800
【耐久力】 1702+1800
【素早さ】 2560+1800
【知 力】 846
【幸 運】 1092
【スキル】 拳聖、強打、瞬風撃、五月雨拳、爆砕打、豪拳、組手、拳術
【エクストラ】獣王化
「さすがアルバハル獣王国の王女よな。強い王族が生まれて羨ましいぞ」
その高いステータスを見て、どこかの国の代表だろうか、見た目からも国王が羨望の目でシアのステータスが載った漆黒の板を見て感想が漏れる。
なお、シアはレベル60で、スキルレベルは全て6で、ノーマルモードでカンストしている。
やはり、アレンのパーティーに入っていても表示されないのかとアレンは思う。
自らの子がこれだけのステータスがあればどれだけ良いかと正直な声が漏れる。
そして、獣神ガルムの加護によるものだと皆が皆納得する。
「ふん! シアはたったこれくらいか。せめて、中央大陸の英雄くらいの数字を出せないのか?」
するとその言葉を打ち消すように、腕組をしたまま、獣王がため息をつきながら愚痴を零す。
獣王の零した愚痴が拡声の魔導具を通して会議室に響き渡る。
その言葉に一瞬暗い顔になるシアの表情を見て、ドゴラが難しい顔をする。
あまり気分のいい状況ではないようだ。
「で、では、次の方お願いします」
次の方どうぞと神官に言われる。
「じゃあ、次は僕だね」
メルルが立ち上がり、トコトコと水晶のところに行く。
「おお! 新たな魔岩王が誕生したのか!!」
思わず国王の1人が立ち上がった。
それにつられたのか、どんどん立ち上がるのであった。
そこには転職を終えたメルルの鑑定結果が表示されていたのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます