第408話 軍資金

 アレンの召喚レベルが9になってから5日が過ぎた。

 アレンは成長スキルを必死に上げ続けている。

 メルスには約束通り、休みを与えているのでスキル上げを手伝わせていない。


 召喚レベルが上がった日も変わらず、必死に検証しながらスキル経験を稼いでいたら、かなり動揺したメルスから「狂っている」と言われた。


 とりあえず10日は休んでよいといってある。

 メルスは神界には、自らの力で行けなくなったようだが、あちこちに行ってブラブラしているようだ。


 そんなアレンは今現在、必死に成長スキルを上げている。

 現在スキルレベルは7だ。

 スキル経験値を10億稼げば、成長スキルのスキルレベルが8となり、Aランクの加護で、今までの2倍にできる。


 これはアレンの加護の合計値を10万近くにできることを意味する。

 アレンの戦いの戦闘の幅を一気に拡大させる、成長スキルの圧倒的な一面だ。

 

 戦闘面での有用性もそうだが、アレンの最大魔力を上げることができる。

 装備も含めて最大魔力を5万以上にできるはずだ。

 そうすれば、魔力回復リングの恩恵がさらに大きくなり、スキル経験値を稼ぐことが今まで以上に捗ることになる。


 既にアレン軍は半年もかけて、活動が形となっている。

 魔石については、途切れることはないだろう。

 勇者軍との共同訓練も実施しているが、当初の目的であるアレンの活動を補佐する役割が大きい。


 軍資金はいくらでもあるということだ。


 転職ダンジョンによる冒険者や兵たちの強化が順調に進んでいるので、魔石が市場に増えている。

 この量はアレンの魔石の消費ペースを上回っている。


 冒険者ギルドの情報部に、転職ダンジョンの安全な利用方法をかなり丁寧に提供してよかったと思う。


 召喚レベル9になって手に入ったスキルの内、恐らく一番弱いスキルがこれだから、他の2つのスキルの封印解除方法を模索していかないといけない。


「僕もいた方がいいのかな?」


(こういう時は毎回言っている気がする)


「そうだな。ペロニキもいた方がいいだろ」


 アレンの横に跪くペロムスが、いつものようにこの場にいることに不安になる。

 アレンは毎度のことかと、この場にいるように言う。


「静粛に。イグノマス皇帝陛下のお成りである!」


 ヒソヒソと話しているとアジレイ宰相に注意されてしまった。

 なんか隣の席の同級生に話しかけられたせいで、先生から注意を受けた前世の記憶が蘇る。


 深々と頭を下げていると、玉座にイグノマスが座った。


 今日は毎日やってくる役人から、宮殿の玉座の間にやってくるように言われた。

 何でも浄水の魔導具の状況について、イグノマスが聞きたいことがあるらしい。


 アレン、ペロムス、シア、ルーク、カルミン王女、イワナム騎士団長がこの場に跪いている。


「ん? なんだ、巷ではこんなのが流行っているのか?」


「ど、どうでしょう?」


 イグノマスがソフィーとルークの頭に乗っているエビとカニの形をしたローゼンとファーブルを見て、何だこれはと言う。

 こんなものが世間で流行っているのかとアジレイ宰相に問う。


 しかし、アジレイ宰相も答えが出ないようなので、直ぐに興味から消えていく。


(やはり、細かいところは気にしないタイプか。武闘派に多い特徴だな)


 アレンは魚Dの召喚獣を使い、イグノマスの性格を分析してきた。

 今回頭に乗せているのも、分析の答え合わせの意味があった。


「お前が大使のアレクか。それで、魔導具はどうなってるんだ? いつまで調整してやがる。もう半月にもなるぞ」


 短気な性格なのか、やや怒り気味にアレンに問う。


「順調に整備は進んでおります」


(何の挨拶もなく聞いてきたな。俺らに興味があるのはそれだけか)


 アレンは魔導具の整備に何も問題ないと答える。

 イグノマスはクレビュール王国からやってきたアレンたちに、何の言葉もかけずに魔導具の状況のみを確認する。


「言ったな。その言葉にお前の首をかけれるのか?」


 問題ないというと、さらに念を押される。

 イグノマスが厳しい目をアレンに向ける。


 玉座側にいる騎士たちがイグノマスの言葉に合わせて圧をかけてくる。


「問題はございません。実は調整自体は済んでおります」


 アレンはこういう状況だが、全く意に介さず平然と答える。


「あ? ではなぜ、未だに調整中だと言うんだ?」


 アレンがぶっちゃけるので、イグノマスがだったら半月も調整中だと言い続けたのかと、さらに厳しい目になる。

 どういうことだとアジレイ宰相も困惑気味だ。


「それはもちろん、皇帝陛下にふさわしい催しにしたいと思っているからにてございます」


「催しだと? ……続けろ」


 意味は分からないが、「催し」という言葉には思い当たるところがあるようだ。


「半月後にございます。歌姫コンテストは、皇帝陛下がイグノマス帝国の臣民にその御力を示す大事な催し。一切の問題もなく魔導具がその時起動するよう確認をしている。今はそういう状況でございます」


 宮殿で魚Dの召喚獣で潜り込んだときにも、浄水の魔導具が、いつ調整が終わるのかイグノマスはとても気にしていた。


 その理由が来月にある「歌姫コンテスト」だ。


 この催しはプロスティア帝国が年に1回行われる一大行事だとカルミン王女から聞いた。

 大国にはこういう大きな行事があり、アルバハル獣王国なら獣王武術大会がそれにあたる。

 

 プロスティア帝国全土から、名のある有名な歌姫が帝都パトランタに集まるという。

 催しを観戦する有力者や、観覧したい帝都民もやってくる。


 イグノマス将軍は帝国全土が注目するこのイベントに自らの力を誇示するために魔導具を見せつけたいようだ。


「そこまで分かってのことか。もし、魔導具がその時起動しなかったら分かっているな」


 貴様を血祭りにする催しに変わるぞとアレンに念を押す。


「もちろんです。皇帝陛下がイグノマス帝国の御力を示すのにふさわしい大会になるかと。そのための準備を進めている次第でございます」


 そう言ってアレンはイグノマスに頭を下げる。


 イグノマス帝国という言葉をアレンは選んだ。


 イグノマスというのは家名で、フルネームはグロウデル=ヴァン=イグノマスだ。

 元々平民であったグロウデルが立身出世してイグノマスという家名を手にした。


 プロスティア帝国の「プロスティア」とはプロスティア皇族家の家名で、内乱が完全に成功しイグノマス皇族家に変わるということを意味する。


「そうか。もう、下がっていいぞ」


 とりあえず言いたいことも、確認したいことも分かったので玉座の間から出て行けと言う。


「……」


 アレンは下がれと言われたが、無言で頭を深く下げ跪く。


「アレクよ。陛下は下がれとおっしゃったのだ」


 アジレイ宰相も思わず、何事だと口にする。


「ん?」


 アレンが、下がらなかったので、イグノマスは「どうしたのだ?」とよく分からない空気が玉座の間に広がる。


「……私は、この催しが成功したあかつきに、皇帝陛下の御そばで帝国の繁栄に貢献しとうございます」


 アレンは深く頭を下げながら、とても悪い顔に変わってくる。

 せっかく呼ばれたのに、これだけのためにこの場を後にするつもりはない。


「なんだ? 褒美を寄こせってことか?」


 アジレイ宰相がさらに「帰れ」と言いそうになるところをイグノマスは制して言葉を発する。

 平民から成りあがったイグノマスはアレンの態度に既視感があるようだ。


「滅相もございません。私は皇帝陛下に今後もお役に立てるかと」


「何ができるんだ?」


「軍資金を稼ぐことができます」


「お? 本当か?」


 軍資金という言葉にイグノマスの表情は変わった。

 初めてアレンに興味を持ったのかもしれない。

 明らかに重心を前に傾けて話を続けろと言わんばかりにアレンの話を続けろと言う。


「私には、主にバウキス帝国ですが、地上の各国との交渉の窓口を持っております。そして、私の横にいるペロニキは目利きの才があります」


 アレンはバウキス帝国との取引などの仕事をしているとタイノメ入国管理局長に説明をしている。

 そして、横にいるペロムスは「目利きの才」という言葉を使って、ものの値打ちを知ることが得意だと、商人など目利きの才能があることを匂わせた。


 才能が努力を圧倒する世界だ。


「続けろ」


 イグノマスはペロムスを見た後、アレンに話を続けるように言う。


「皇帝陛下はこのまま帝国を治めるだけは終わらないと私は確信しております。覇道には軍資金が不可欠。そのためには、イグノマス帝国のものを高値で地上に売るに限るということです」


 そう言って、面を上げ悪い顔をイグノマスに見せた。

 イグノマスの側に控えるアジレイ宰相が極悪非道な顔をするアレンに引いてしまう。


 アレンはイグノマスが、各領の貴族たちに金をばらまいていることを知っている。

 イグノマスが、ドレスカレイ公爵が言っていた地上征服をしようという話が本当なら、お金がいくらあっても足らない。


 イグノマスは、プロスティア家が貯めていた宝物庫にも手をかけている。

 地上征服しようにも、プロスティア帝国を平定するために使ってしまい金がないはずだ。


 これから兵を集め、地上征服に動くなら膨大な額の軍資金が必須だ。

 恐らくであるが地上征服には数十万規模の兵を動かさ無くてはいけない。


「どれくらい稼げるんだ?」


 具体的な額を言えと言う。


「何でもして良いなら、いくらでも。そうですね、年に金貨1000万は稼いでみせます」


(実際は軍資金だともう少し必要だろうがな)


「馬鹿な! 来たばかりの大使に何ができると言うのだ!!」


 アジレイ宰相が噴出した。

 売上ではなく、利益で金貨1000万はかなり破格の額だ。


「私とペロニキの首をかけます」


「ぶっ!?」


 勝手にペロムスの命もかけてみたので、ペロムスが吹き出してしまう。


「1000万か。実際にどうなのだ? アジレイ宰相よ、それくらいで足りるのか?」


「そうですね。額はともかく1年は少しかかりすぎるかと。い、いや、この場でそのような話は……」


 イグノマスが何も考えずに質問したため、思わず答えてしまったが、地上を攻めるなんて話をこの場ですべきではない。

 あとで話をするからと、イグノマスに言う。


「そうか、やっぱ1年は長えよな。3か月で1000万稼げや」


(ふむふむ、3か月ね。大会が終わったらすぐに挙兵して攻め込みたいって感じかね?)


「畏まりました」


「お、おい。この場でそう発言する意味を分かっておるのか!?」


 アレンは否定しなかったため、アジレイ宰相が冗談はよせと言う。


「地上でも交渉事は私アレクが、そして目利きは横にいるペロニキがやってきました。もし、何でもして良いというのであれば、利益で1000万稼いでみせましょう」


「お? そうか。まあ、本当に金貨1000万稼げたら、俺の腹心としてお前らを取り立ててやる」


 1000万じゃなくても、稼いだら差し出すように念を押される。

 軍資金はいくらあっても困らないと思っているようだ。


「は! 命を懸けて」


 深々と頭を下げる。


(さて、おいらの交渉は終わったんだけど? カルミン王女、いってみようか)


 話は以上だなという空気が玉座の間に広がり、アジレイ宰相が下がれと言おうとする。


「あ、あの、ドレスカレイ公爵はお、お元気でしょうか?」


 自分の出番がきたと、カルミン王女は自覚する。


「あん?」


 そんな中、カルミン王女が口を開いたのであった。

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