第430話 水晶花の戦い①

 聖魚マクリスの水色の泡に包まれると、アレンは自らのステータスの上昇を感じる。


【聖魚マクリスのロイヤルガードの効果】

・体力、耐久力3000上昇

・体力、耐久力10パーセント上昇

・全ダメージ30パーセント減少

・体力秒間200回復


(おお、一気に安定したな。メルルとメルスなしでいけるかな? って、おお!?)


 アレンは鳥Eの召喚獣を使い、100キロメートル先まで見渡している。

 いつ魔王軍がやってくるか判断するためだ。


 そして、プロスティア帝国軍が北部を中心に東西南も含めた防衛体制を構築する様も見ている。

 そんな魚人たちが何やら騒いでいるように見える。

 帝都パトランタの町の全員が同じく大騒ぎになっている。


 この全長100キロメートルの範囲の帝都パトランタ全土に聖魚マクリスの使う「ロイヤルガード」の効果があるようだ。

 対象者も制限がどうもなく、街の様子から200万人全員がロイヤルガードの効果の恩恵を受けているのだろう。


「ソフィーも補助をお願い」


「承りましたわ。精霊たちよ、悪しきものと戦うための、大いなる慈悲を我らにお与えください」


【ソフィーの精霊たちの効果】

・水の精霊ニンフ 魔力3000上昇

・風の精霊ゲイル 素早さ3000上昇

・土の精霊ピグミー 耐久力3000上昇

・木の精霊ドライアド 体力3000上昇


 なお、精霊たちはステータス上昇の加護を仲間たちにふりまくだけでなく様々な働きをする。


【精霊たちのステータス上昇以外の働き】

・水の精霊ニンフ 捧げた魔力量に応じて、仲間の魔力を回復する。水の塊を投げつける。水の防壁を作る

・風の精霊ゲイル 捧げた魔力量に応じて、敵を切り裂く。敵を拘束する風の縄を作り出す

・土の精霊ピグミー 捧げた魔力量に応じて、強固で巨大な土の防壁を作る。土の塊を投げつける

・木の精霊ドライアド 捧げた魔力量に応じて、仲間の体力を回復する。木の防壁を作る。木の幹や枝で敵を拘束する


 装備もイヤリングによってステータスが上昇し、ソフィーの働きは大きくなるばかりだ。

 なお、ソフィーの知力は精霊との親和性に比例し、魔力は精霊の活動量に比例する。

 知力が高ければ高いほど、精霊に言うことを聞かせることができ、魔力が高ければ高いほど精霊の働きの威力が上がっていく。


「あと、精霊王の祝福も」


 精霊王の祝福無しに戦えない強敵であることをアレンは知っている。


「分かりましたわ」


『はは。今回も厳しい戦いだね』


 蟹の姿をした精霊神ローゼンが宙に浮いて、ハサミを左右に持ち上げて踊り、『精霊王の祝福』をアレンたちにかけてあげると、アレンたちのステータスが3割上昇する。


「随分余裕だな」


 仲間たちが強化されていく中、アレンはキュベルの態度が変わらないことに気付いた。


『時間をかけてくれたらそれだけうれしいからね。このままずっと強化していてもいいんだよ?』


 遠くにいるキュベルはもちろんのこと、バスクもビルディガもなにもしてこない。

 ここからもあくまでも邪神とやらの復活が全てにおいて最優先なのだろう。

 もし復活させられたら、おそらくこんな補助をいくらかけても余裕があるのかもしれない。


(いや、違うな。これはもう時間との戦いなんだろう)


 おそらく10万の部隊は邪魔が入った時の囮だろう。

 キュベルが連れてきた3体の上位魔神すら囮の可能性がある。

 1000万の魔王軍の部隊を目くらましに神器を奪い、邪神教の教祖を使い捨てにして、命の回収に努めた。

 邪神の復活という1つの目的以外は、全て些細な事と言い切れるほど、目的のためなら手段を選ばない非情なことをしてきた。


 アレンは横で構えるドゴラの神器カグツチに話しかける。


「フレイヤ様。水の中ですが大丈夫ですか?」


『問題ない。しかし、地の利とはゆかぬの』


 水の中に移動してしまったため、ドゴラの握りしめる神器カグツチは水をボコボコと泡を立て沸騰させている。

 アレンは火の神フレイヤに神器カグツチを通して問題ないか聞いてみたところ、内容から問題がないわけではないが戦えるといった具合だろうと判断する。


 魚系統の特技、覚醒スキルもかけ終え、仲間たちの士気も問題ない。


「じゃあ、いくぞ。ビルディガは強敵だ。攻撃を受けないようにしてくれ」


「うん。分かった」


 その言葉が戦いの合図となり仲間たちの戦いが一気に始まった。


 そう言うと、クレナは一足飛びでビルディガに迫り、オリハルコンの大剣を振り下ろした。


 キーン!


 水中に甲高いとても硬い物どうしをぶつけたような音が鳴り響く。


 ビルディガは補助をもらいまくり、強化しまくり、高価な耳飾りをつけたクレナの攻撃をものともしなかった。


『ふん!』


「あわ!?」


「余もゆくぞ!!」


「お願い、シア!」


 クレナをフォローするかのようにシアもビルディガに迫る。

 懐に潜り込み、宮殿の壁を粉砕した強力な一撃を無防備な腹に食わらせる。


 カーン!


 シアのナックルもビルディガのメタリックなボディに叩き込まれるが、微動だにしない。

 そのためシアは拳をボディに叩きつけた姿勢で停止する。

 ゆっくりと前足を振り上げたところで、シアはビルディガの元から離れた。


(シアは星4つな上に、武器がオリハルコンじゃないからな。クレナで無理ならシアじゃ厳しいか)


 エクストラスキルを使わないシアだと、クレナの方がまだまだ強い。


「クレナ、エクストラスキルを使って覇王剣だ」


 そんなクレナに新たな指示を出す。


「分かった。やあ!!」


『エクストラの門の開放か。くだらない』


 棒立ちで呟いたビルディガに対して、クレナは全身を揺らがせさらにステータスを上昇させる。

 そして、クレナ最強の攻撃スキル「覇王剣」をオリハルコンの大剣に込めていく。

 強力な衝撃波を大剣から生じさせながら、一気に距離を詰め斬りかかる。


 キーン!


 しかしビルディガは今までクレナとシアが込めた攻撃と同じ反応状況になる。

 ビルディガは避けようとすらしない。

 さらに、体の中でも弱い節の部分を狙ったのだが、結果は同じだった。

 クレナの必殺の一撃の衝撃に花柱の表面は粉砕されめくれ上がっていく。

 それほどの威力であっても、ビルディガにダメージを与えるには至らないのだろう。


「アレン、これってやっぱり」


 セシルの中で、ある結論が出たような気がする。


「ああ、恐らく物理攻撃完全無効か、耐久力が高すぎるかだ」


「そんな、倒せないじゃない」


 なんとなく虫Aの召喚獣と戦っていた際に分かっていた。

 このビルディガという上位魔神は、ラモンハモン、バスクに比べても群を抜いて危険な存在だ。


 王化してステータスが3万に達した虫Aの召喚獣の通常攻撃ですら一切通じていなかったように思える。


 クレナ、シアの攻撃が通らないなら、ダメージが通じにくいとかそんな次元ではなく、物理攻撃は一切通用せず、無効である可能性も出てくる。

 属性がどうとかそんな次元ではない。


 メタリックなボディは通常攻撃を全て無効化する。

 虫Aの召喚獣が最もやられたのはこのビルディガとバスクたちに呼ばれていた、この上位魔神だ。

 こちらの攻撃を無視したカウンター攻撃が可能で、アレンも一番危険視している。


『そろそろ、殺して良いな。もう待ちくたびれた』


 一気に距離を詰めたビルディガの両前足にあるカマキリのような大鎌がクレナに振るわれる。

 水の中でアレンたちは魚人だ。

 水中では水を得た魚のような動きができる。

 水の抵抗のようなものを受けない動きができるのだが、ビルディガはそうではない。

 しかし、そんなことを感じられないほどの速度でビルディガの大鎌がクレナに迫る。


「あぶないって、ちょっと助けて!」


 クレナがフォローしてと悲鳴を上げる。


「ああ、余も相手だぞ!!」


 ギリギリ避けているが、ギザギザした鎌状の前足を完全には避けきれずクレナの鮮血が水中に広がる。

 水中でクレナが魚人でなければ致命傷を受けたかもしれない。


「セシルたちは魔法を集中してぶつけてくれ。おそらくクレナとシアはただの壁にしかならない」


 物理攻撃は期待できないとアレンは判断した。


「あれこれ試しているけど効果悪いわよ!」


「私もです。アレン様!!」


 セシルとソフィーが属性を変えながら攻撃しているけどどれも反応が悪い。


 シアも対象を攪乱させるため、前に出てフォローし、セシル、ソフィー、ルークも遠距離から攻撃を仕掛けるが、ほとんど効果がないようだ。


(物理攻撃ほどじゃないが、これは厳しいな。北部の戦いももう始まるな)


 10万の軍勢は衝突するのに1時間とあったが、それは魔獣たちの軍勢が帝都パトランタにそのまま衝突してのことだ。

 実際は既にここから80キロメートル地点で魔王軍と相対している。


 精霊王の祝福は、はるかに離れたアレン軍、勇者軍も範囲内ということでメルスを通して見ていたがかなり動揺していたようだ。

 落ち着かせて、陣形を急ピッチで整えている。

 なお、聖魚マクリスの「ロイヤルガード」の範囲外のようだ。


 このことからも精霊神ローゼンと聖魚マクリスの力の差が分かる。


 そんなアレン軍にメルスを通じて、アレンが指揮をする中、キュベルが鼻歌交じりに邪神復活の祭壇を完成させつつある。


 虫Bの召喚獣を指揮化させ、ギ酸を振りまく。


『む!』


(お! やっぱり少しは効くか? さすが「成長当たり召喚獣」だからな)


 アレンは成長スキルの神髄は何なのかずっと考えた。

 召喚獣の成長させたステータスは加護の2つは最大値でそれ以外にはばらつきがある。

 Aランクの召喚獣であれば、ステータスの最大値は1万だ。


 ばらつきのあるステータスが全て1万になるよう生成と成長、削除を続けた。

 結果、成長スキルの魔力消費によるスキル経験値習得ついでに、ホルダーにある召喚獣は全て全ステータスが1万になった。


 パトランタ北部を目指した魚Cの召喚獣も素早さ1万なので迅速に移動することができた。


 指揮化なら全ステータス5000増、王化なら全ステータス1万増になる。

 さらに強化すれば加護の分のステータスは5000増える。


 聖魚マクリスのロイヤルガードと精霊神ローゼンの「精霊王の祝福」は継続効果があるので、未だに煌めく雪のように降り注ぐ。


 そして、もう一度ソフィー、ロザリナに補助をかけてもらってステータスアップすれば、成長ランクAの指揮下にした虫Bの召喚獣はこのようになる。


 【種 類】 虫

 【階 級】 将軍

 【ランク】 B

 【成 長】 A

 【名 前】 アリポン

 【体 力】 37180

 【魔 力】 29900

 【攻撃力】 29510

 【耐久力】 54969

 【素早さ】 36400

 【知 力】 29510

 【幸 運】 26000

 【加 護】 耐久力100+100、素早さ100+100

 【特 技】 ギ酸、兵化

 【覚 醒】 産卵


 ※ロザリナのスキル、エクストラスキル効果あり

 ※ソフィーの精霊たちの加護あり

 ※マクリスのロイヤルガード効果あり

 ※精霊王の祝福あり

 ※キールのスキル(耐久力24%上昇)あり 


 1万だったステータスは補助をもらい上がりに上がってこのようになった。

 耐久力は5.4倍にまで上げることができた。

 圧倒的な耐久力がビルディガの攻撃に耐える。


『ぬん! こざかしい!!』


『ギチギチ!?』


 それでも上位魔神のビルディガの方が、当たり成長の虫Bの召喚獣よりもステータスは高いようだ。

 しかし、ギ酸を食らうとメタリックなボディの表面に煙か泡のようなものが生じダメージを与えることができているように見える。

 対象を虫Bの召喚獣に変え、全力で殺しに来る。


(もう、せっかく当たりの召喚獣になるよう試行を繰り返したのに、殺さないでよね! 貴様のメタリックなボディを剝いでくれる)


 この当たり召喚獣を作るのに数百体、数千体の生成と削除を繰り返さないといけない。


 逃げまどいながらも「ギ酸」を振りかけ続ける。

 メタリックなボディを剥ぐことができれば、戦局が変えられるかもしれない。


「アリポン、産卵を使い自らの盾となせ」


『ギチギチ!』


『それがどうしたと言うのだ!』


 虫Bの召喚獣は産卵し、子アリポンを100体生む。

 そして、特技「兵化」を使い、ステータスを1.5倍に増やす。

 兵化した子アリポンは虫Bの召喚獣の75パーセントほどのステータスになる。

 キールの回復魔法よりもビルディガの殲滅の方が早いようだ。

 ビルディガの圧倒的な攻撃力をもって、子アリポンはがんがん数を減らしていく。


(ほかの召喚獣も出すか。寝てくれたらいいんだが。いや攻撃力を削るか。反応を見ながらほかの弱点がないか調べるぞ)


 今回の成長で虫系統の召喚獣は圧倒的に恩恵を受けた。

 ホルダーにある虫系統の召喚獣はほぼほぼ全てステータス1万だ。

 当然メルスのいる帝都パトランタ北部でも召喚が可能なので活躍してくれるだろう。


 水晶花の上と帝都パトランタ北部で戦局が動く中、魔王軍との戦いは続いていくのであった。

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