第634話 信仰ポイントと研究資料の使い道

 光の神アマンテを8柱の異様な神々が守っている。

 そんな神殿の祭壇にアレンたちは足を踏み入れたようだ。


「なんでこんな『隠れた』ところに祭壇なんてあるんだ。竜神までいるぞ」


 仕掛けのスイッチ、深い階段、細長い通路の先にある神々の像に対して、アレンは「隠れた」という言葉を思わず使う。


【中央の一柱】

・光の神アマンテ


【周りの八柱】

①魔神オルドー

②岩山神オヌバ

③蟲神ビルディガ

④死神クリーパー

⑤魚神ミンギア

⑥竜神ゲフィオン

⑦雷神ソヴィ

⑧風神ヴェス


(なんか強そうだな。これまであった神々がしょぼいとは言わないけど)


 石像でしかない神々だが、威圧感を強く覚える。

 ビルディガともオルドーともプロスティア帝国で戦っているのだが、この石像にはそれらを超える物々しい感じがする。


「聞いたこともある神様もいれば、そうでもない神様もいらっしゃいますわね」


 ミンギアと言えば、古代神の一柱で、はるか昔に存在した魚神だ。


「風の神にヴェス様なんていたの? 知らないわ」


 ソフィーの感想にセシルも別の石像で答える。

 風の神はニンリル様一本で祈ってきましたと言う。


「誰と戦っていたんだ……」


 像の配置や姿勢でアレンも気付いたことを口にする。


「戦っていた?」


「そうだ。こんなに好戦的な姿勢なんか、戦い以外の何者でもないぞ。死神なんて鎌を掲げているし」


 像を彫るなら、そこには、見る者に伝えたいメッセージはあると思う。


 フードを被った死神クリーパーは裾から覗いた白骨の両手で大鎌を握りしめ、光の神アマンテを守るため必死に戦うような姿勢をしている。


「さあ……」


 セシルはアレンの言葉に答えを持ち合わせてはいなかった。


 それから1時間経過する。


 今日はシアと試練を達成し、ペロムスたちと打ち合わせをして、さらに、日のカケラを見つけた。

 おかげで随分時間が過ぎてしまった。


 石像は日のカケラを取り出したため、やや明るさを弱めたようだが、それでも、この広間は明るい。

 日の光を浴びるような建物内の明るさに、今思えば、日の神アマンテの力がこの神殿に込められているのかもしれない。


(これ以上、情報は掴めそうにないな)


 ここは引き時だと考える。

 時間をかけて情報を得ようと思ったが、これ以上の発見はなかった。

 何が必要な情報かも分からない状況で、これ以上の散策は意味がないと判断した。


「皆、一旦、外に出るぞ」


「うむ、そうだな」


 ゼウが賛同し返事をする。

 レペなどは早々に諦めて、横になって休んでいる。


 鳥Aの召喚獣の覚醒スキル「帰巣本能」を使って、一旦神殿の外まで全員を転移させた。


 外は既に満月が天のかなり高い所まで登っており、星々が煌めいている。

 

(次は月のカケラか。どこぞの神殿に隠されているのか)


 日のカケラとセットになる月のカケラをこれから探さなくてはいけない。

 アレンがテミを見ると、予想していたのか、テミもアレンを見ていた。


「月のカケラの行方を占えということだな」


「そのとおりです」


「構わぬよ。むん、スター運命ディステニー


 日のカケラを使ってもらったときは、陽炎のように体を揺らしていたが、今回はそうではない。

 占いの結果に抵抗されるかのように、肉体的にも精神的にもダメージを負っていたが、今回ははっきりと目的地を指さす。


「次はあちらだな。今回ほど離れてはいないと思うぞ」


 北の方角を指示したテミの指の向かう先を、ゼウは睨む。


「ゼウ様、そのようですね。また、我ら手柄が増えてしまいますな」


 ホバがゼウの横でニヤリと笑う。


「おいおい、もう出発するのかよ。たまには柔らかいベッドで寝たいぞ!」


 今にも出発しそうなホバに対して、レペが苦情を申し立てる。

 シアがギランの試練を受ける前から、ゼウたちは野営と移動を繰り返しながら、霊獣たちの跋扈する無限の荒野を走ってきた。


「確かにその通りですね。私たちもソメイさんの館にお邪魔しようと思っています。何もない所ですが、是非休まれて下さい」


 流石に休まる間もなかったなとアレンは反省し、休息を促した。


「何もないって、アレンがいう言葉じゃないわね」


 王族のゼウに配慮した発言をしてみたが駄目だったようだ。


「ゼウ様、いかがされますか?」


「ふむ、休むのなら獣人が竜人たちと要塞で狩りをしているそうではないか。様子が見たいのでそちらに移動させてくれぬか?」


 この小一時間の間、石像の調査をしながらアレンが口にした竜人の要塞についてゼウが話を切り出す。

 どうやら、獣王子として、獣人の暮らしぶりは確認したいようだ。


「え? そうですか」


 何もない所ですがと言いかけたが、今度は要塞を作ってくれたソフィーに失礼に当たると、口にするのを留めた。


「おいおい、開拓したてって話をさっき聞いたぞ。あったかいベッドはあるんだろうなぁ?」


 レペがアレンに問い詰めてくる。


 要塞の中で、ベッドが干し草なのか、木のベッドなのかはアレンは知らない。


 しかし、レペにはゼウたちの集団内で残念ながら決定権がないので、原獣の園にある要塞の中の1つに皆を転移させた。

 ホバからは「あとはこちらに任せてほしい」と言われたので、後日、月のカケラ回収へ向け、出発の日に迎えに来ると言い別れた。




 アレンたちは、ソメイ首長の館で一泊し、次の日を迎える。

 朝から霊力を消費しながら創生スキル上げが捗るというもの。


「ちょっと、食事は食事でちゃんととりなさいよ」


「大丈夫」


 アレンが行儀悪いと貴族のセシルから小言を言われる。

 そんなアレンは、昨日の日のカケラを手に入れたことによって、召喚レベル9になって初めて召喚できるようになった【-】Sの召喚獣の召喚条件を1つ満たしたことを知った。


 封印されていないのに、素材が必要だとは思わなかった。

 通常の召喚獣ではない特別感が半端ない。

 創生スキル上げにも熱が入るというものだ。


(構成要素ってことは、日のカケラだけじゃないんだろうな。たぶん、月のカケラも封印解除の構成要素だと思うんだけど)


 聖獣石に日のカケラを取り込ませるとどうなるのか分からないが、試してみて、日のカケラを失うと、セシルから命を奪われる結果になりかねない。

 今日は日のカケラを持って、魔法神イシリスの研究所に向かう。


 朝食も朝のノルマの創生スキル稼ぎも済ませたアレンたちは研究施設に転移した。


 研究施設内はララッパ団長とその配下のドワーフたちによって随分片付いているのだが、創生スキル上げのための腕輪や指輪でちょくちょく来ているので驚きはない。


「今日も誰もいないわね」


「出払っているのだろう。なんか忙しいみたいだからな」


 上の階層へキューブ状の物体に転移させてもらっているのだが、ララッパ団長の配下の魔導技師団のドワーフたちは見受けられない。

 そのまま、魔法神イシリスがいる最上階の階層まで到達した。


 研究施設の最上階まで上がったところでたまたま目の前にいたララッパ団長と目が合う。


「あら、アレン総帥。もう信仰ポイント貯まったの?」


 木々の枝や羊皮紙の束を抱えているララッパ団長に、随分早いわねと言われた。


「今日は別の用事で来たのです。って、凄い資料ですね」


 研究施設のほかの階層に比べて、最上階のここにはとんでもない量の研究資料が山積みとなっている。


「そうなのよ。アレン総帥が何百億ポイントも交換するから大変なのよ!」


 結構強めな口調でララッパ団長から不満の声が上がる。


 アレンは大地の迷宮攻略や霊獣狩りで集めた大量の信仰ポイントを魔法神イシリスに提供した。


 10柱の神が誕生するのではという膨大な信仰ポイントを浪費するが如く、魔法神イシリスは研究材料を求め続けている。


 9人ほど、ドワーフたちは魔法神イシリスの助手として信仰ポイントを研究材料に交換しに出張らっている。

 神界の商神マーネの市場では、これを機に信仰ポイントを稼ごうと魔法神イシリスが欲しそうなものを神々が提供しまくっているのだとかペロムスからも聞いた。


 市場に出ないような材料を求めて、神々の神域にドワーフたちが交渉に出掛けるなど、魔法神イシリスの研究への渇望は留まることを知らない。


 おかげで、ララッパ団長が1人残り、魔法神イシリスの助手として手伝う結果となった。


「この辺で良いですか?」


「ええ、ありがと」


 重たそうな資料をアレンが代わりに持ってあげている。


 持ってあげたが、ララッパ団長にはステータスが増加する指輪や首輪を各種渡している。

 重い荷物は攻撃力を1万上げて、持ち運びできる。

 魔法神イシリスの発言を理解するため、会話する際は知力を1万以上、上げて接しているらしい。


 ガリガリガリ


『ひひ、いひひ。こうでこうしてこうあってと……。やっぱりそうだった! ウケる。マジウケる!!』


(ご機嫌なようで何よりです)


 ララッパ団長の様子を見たことだし、机の上で何かを書き殴る魔法神イシリスに目をやる。

 ドワーフたちから運ばれてくる研究材料を使ったあらゆる検証のため、寝る間も惜しんで研究に没頭しているようだ。


「セシル」


「え、ええ」


 ゴトッ


 アレンは信用を失い収納することは許されなくなり、セシルの魔導袋の中に入っている日のカケラを机の上に置いた。


『こ、これは、これはああああああああ! き、キエエエエエエエイ!!』


 研究施設に魔法神の奇声が響き渡る。


 魔法神イシリスは、光り輝くソフトボールほどの大きさの日のカケラを机の上に置いたと思ったら、手に持っているペンを投げ捨て、両手で掴んだ。


 そのままアレンたちに視線を合わせることもなく、立ち上がると、ローブ姿のまま凄い勢いで走り出し、人間サイズの大きさの試験管の前に到達する。


 ボトン


 試験管の上部から日のカケラを投げ入れた。

 何か溶液で満たされており、日のカケラは底まで沈んでいく。


『ほれほれ、こうしてと』


 蓋を閉じたところで、試験管と何本も管が繋がった先の魔導具の前に魔法神イシリスは立ち、凄い勢いでタッチパネルを連射する。


 ブウウウウウン


 魔法神の操作に反応するように、試験管は上下左右斜めに回転を始め、中の溶液と共にすごい勢いで撹拌(かくはん)する。


 魔法神イシリスがしばらく見つめていると、操作パネルの上にある魔導盤にすごい勢いで神学文字が流れ始める。


『やはりそうか。検証結果に間違いがない。間違いがなかったあああああ!!!』


 魔法神イシリスが絶叫し両手を上げて喜んでいる。

 誰もその場で声をかけることはできないのであった。

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