第622話 力の代償

 要塞にいる十万の竜人と一部の獣人によって、狩ることができる霊獣の群れを、たった2発の覚醒スキルで屠って見せた。


・メルス(鞭)のステータス

 【体 力】 131183

 【魔 力】 116740

 【霊 力】 116740

 【攻撃力】 153400

 【耐久力】 121030

 【素早さ】 120900

 【知 力】 114400

 【幸 運】 107900


※成長レベル9で全ステータス40000

※鞭で攻撃力40000、素早さ20000、そのほか10000増

※王化で全ステータス10000増

※指揮化で全ステータス5000増

※金の卵で全ステータス3000増

※ロイヤルオーラ

※ロイヤルガード

※精霊神の祝福レベル5(全ステータス15000増+1・3倍)


 メルスのステータスは亜神の域を越えつつあることを実感する。


(ふむふむ、たしかに強くなったな。あとはロザリナのバフでどれだけのばせることができるかだ。まあ、ステータス最強はハクだけど。おっと、セシルに対する答えはと)


 現状では、神々や神級の霊獣に比べたらまだまだ見劣りするステータスだ。

 ただ、メルスにはステータスだけではない、多様な覚醒スキルが戦闘の優位性を高めてくれると分析している。


 アレンはセシルに視線を変えた。


「チートじゃないぞ。随分代償を支払わされたからな」


「代償って何よそれ」


(セシルは納得したいんだろうな。イシリスから現在進行形で難題を吹っ掛けられているわけだからな)


 仲間たちの多くが、エクストラモードを達成し、さらなる力を求め試練に勤しんでいる。

 セシルだけがノーマルモードで、エクストラモードになるだけでも、魔法神イシリスのとんでもない試練を達成しないといけない。

 当然、神器も加護も与えられていない。


 セシルは、圧倒的なステータスに多様な覚醒スキル打ち放題のメルスのあまりの強化ぶりに、困惑しているようだ。

 不満があるとは言わないが、どこか納得したいと思っているのかもしれない。


「対価を払わなければ、力を得られない」


(随分、代償を払わされたものだ。まさか、創生スキルもメルスのためじゃないのかと勘繰りたくなるぜ。成長のスキルの時に気付くべきだったか。いや、それは無理か)


 スキル「成長」は、低ランクの召喚獣がSランクに匹敵する可能性を持つことができる。


「対価とはアレン様のスキルということですわね。『目録』はたしかにメルス様にぴったりのスキルですわ。ルプト様はメルス様にご準備されたのでしょうか」


 ソフィーはアレンが、何が言いたいのか分かったようだ。


 目録を使い、メルスは状況に合わせて武器を瞬時に使い分け、さらに、その武器ごとに特技と覚醒スキルを保有することになる。

 結果メルスは100に達する技と覚醒スキルを手にしたことになった。


 スキル「目録」を分析して、がっかりした部分もあったが、メルスが創生スキルを活用するとなると話が変わってくる。


(目録なしで1つの武器を無数に変換にする、って設定ではいけなかったんだろうな。それだとクールタイムの制約を受けそうだし)


 アレンはフレイヤの神器が剣から斧に変換したことを思い出す。

 目録なしで無数の武器が使えるでは、神器のような設定になったと思われる。


 メルスが最大限強化されるための「目録」と「創生」のスキルだったのだろう。


「恐らくその通りだ。それで言うと創生スキルもだな」


 アレンは召喚レベルが9に達した。

 この時覚えた封印されたままのスキルが2つあった。

 今でこそ封印が解除できたが、それが「創生」と「目録」のスキルだ。


 創生スキルの封印を解除するために、アレンは神級の精霊獣との戦いに勝利した。

 さらに、その創生スキルを上げるには神界の有り様すら変えるほどの、やり込みが必要であった。

 竜人に装備を提供し、転職を進めて力を与え、種族統合を進め、要塞を築き、今では数百万、数千万の霊獣狩りをしてもらっている。

 その結果、10億のスキル経験値と100万個の霊石を収集し、その対価として天使Bの召喚獣を召喚できるようになった。


 目録スキルはレベル250という前人未踏のレベルをもってではないと解除が困難だった。

 これまでの必死のレベル上げ、魔王軍との戦い、そして、大地の迷宮の攻略を進め亜神級の霊獣を狩り続けたメルルたちのおかげだ。


「みんなで勝ち取った力ってわけね」


 メルスが何もしていないと言われたら決してそんなことはない。

 寝る間を惜しんで、S級ダンジョン攻略中から、狩りに、魔神戦に、長時間にわたる天の恵み作りをこなしてきた。


 だがそれ以上に、これまでの冒険の総決算のごとく、全ての成果を1体の召喚獣の強化につぎ込むが如く、対価の全てを支払った。


「そうだ。セシルの試練も俺たちが達成させよう。膨大な対価を求めるなら払ってみせるよ」


 アレンの真面目な言葉にソフィーも力強く頷く。

 セシルはしっかりとアレンと目が合い顔を赤らめる。


「!?……あまり、かっこいいこと言わないでよね!」


『ルプトめ、何てことをしてくれるのだ』


 セシルが納得し、ようやく破壊された大地の土煙が落ち着いたところで、メルスの独り言が漏れた。

 あまりのことに考えが追いつかず、目の前で殲滅された霊獣の死体と遥か彼方で消し飛んだ山々を茫然と見つめている。


「ルプトはメルスに最強になってほしいみたいだな」


(創生スキルは1巡目でこれだけの力を得ると。2巡目は防具か? もしかして、天使Sの召喚獣もメルスなのか?)


 メルスの双子の妹で、第一天使ルプトの狂気にも近い覚悟のようなものを感じる。


 メルスの最初は高ステータスの召喚獣だった。

 それから、成長スキルでさらなるステータス増強が行われた。

 今回、目録と創生のスキルでさらなるステータスの強化と攻撃の多様性の幅が広がった。


 2巡目以降の創生スキルの開放もある予定だ。

 封印されていない天使Sの召喚獣は、竜Sの召喚獣を仲間に出来たら解放できそうだ。


 最初から封印されていなかった天使Sの召喚獣には、どうやら意味があったように思える。 

 何故、封印されていないのか。

 既に、仲間にしてある召喚獣を強化する目的なら、答えは既にあったことになる。


(さて、少しは言うことを聞くようになってくれたらいいんだけど)


 アレンは魔導書を閉じて、要塞の外壁に佇むアビゲイルの下へ向かう。

 フワフワとやってくるアレンに対して、隊列が大いに揺らぐ。

 獣人たちの中には、ビビって後ずさりしたり震えたりする者も多い。


「すみません、皆さまの霊獣狩りを邪魔してしまいまして」


「い、いや、問題ない。検証は終わったのか?」


「そうですね、ある程度は。これから10分後に、霊獣の次の便がやってきます。ご対応お願いしますね」


「うむ」


 アビゲイルの後方に並び立つ竜人と獣人も見る。


「皆さんも助かっております。ご協力お願いします」


「はい!」

「はい!」

「はい!」


 アレンの声掛けに対して響くほどの返事が返ってきた。


 今日を境にアレンの「教育」が行き届いたのか、霊獣狩りなどに名乗りを上げた獣人たちが、大変従順になったとアビゲイルから報告を受ける。




***


 検証を進めて3日目のことだ。

 王都はお祭り状態になった。

 今日は漆黒に輝く巨大な製水の魔導具の起動式だ。

 人々は王都の中心にある広場に集まっている。


「こんな黒い塊が私たちのために水を作ってくれるのか?」

「それにしても、なんて美しい装飾だ」

「それよりもなんだ。この歌声は、心が奪われるようだ……」


(ロザリナ、やりすぎだ……)


 今日は王都に送水、製水、送風の魔導具の巨大な魔導具が稼働するのだが、風や水を送るだけの魔導具よりも、水を精製する魔導具を見てもらおうと、鳥人たちに広場に集まって貰った。


 3日もかかってしまったのは、魔導具に貼られた幻鳥レームの鉄板を職人にお願いして装飾するための時間が必要だったこと。


 また、準備が整う間に、ロザリナの様子を見に行ったら無事、歌神ソプラと踊り神イズノの両方の試練を越えていた。

 というより、そうそうに試練を越えており、2柱の神域において、踊りながら歌いまくっていた。


 現在、ピヨン操舵士にお願いして、試練が終わった者がいないか、仲間たちを向かわせた神域へ向かってもらっている。

 どうやらペロムスも試練が終わったようだ。


 今日のことを話すと「じゃあ、式に合わせた歌と踊りを披露するわ!」


 自己顕示欲の権化のロザリナによって、せっかくの広告が台無しになりつつある。


「ららら~らら~ら~ら~♪」


 心をえぐり、全てを忘れそうになるほどの歌声と踊り神直伝のふりつけを披露する。

 ロザリナは起動式に合わせ、拡声の魔導具を握りしめ、即興で作ったオリジナルソングを歌う。

 おかげで、まるで魂を吸い込まれるように、とんでもない数の聴衆が広場に集まってくれた。

 

「始めて良いのかの?」


「はい。かまわず、始めてください」


 王家の側にいるアレンが、セシルとソフィーに、もう十分に人を集めたと、ロザリナが持つ拡声の魔導具の起動を止めるよう、スイッチを押す仕草する。


「ちょっと、いいの?」


「もう、仕方ありませんわね。ポチッと」


「ちょっと!! 何よ、音が、私の美声が響かなくなったわ!!」


 ソフィーがボタンを押すと、少し離れたところでロザリナの憤慨が聞こえる。

 構わず、王に演説を開始するよう、お願いした。


「皆、今日という日に感謝の言葉を送りたい。語られたのは1000年も昔のことだ……」


 語りに語りつがれた、幻鳥レームの伝説の話をする。

 疫病がはやり、鳥人たちの多くは命を失った。

 国家存亡の時に、虹色の翼をはためかせた、美しいフクロウが王都に舞い降りた。

 自らの羽を使い、患者を祓いなさいと言われ、やってみると病人の症状があっという間になくなった。


「そろそろ頃合いかな」


 アレンは自らの手の中にある魔導具起動の装置のボタンに触れる。


「今こそ、我らの祈りをもって、レーム様に神へ至っていただく時じゃ。皆で感謝の言葉を、その思いをぜひ、この像へ!!」


 国王の思いで語気が大きくなっていく。

 ロザリナから国王へ、そして、魔導具へと聴衆の目が移っていく。


「ポチッとな」


 ブウウウウン


 魔導具は起動を開始し、精製された水が噴水へ流れ込み、水路を伝って王都全体へ広がっていく。

 人々の歓声に包まれた。


「好調ということね?」


「これでレーム様への祈りは、これから1000年続いていくでしょう」


 セシルの問いに、精霊王に祈り続けたソフィーが同意する。

 自らに視線が来なくなったことに不満顔のロザリナがアレンたちの下へやってきたところで、国王から直接声がかかる。


「すまないが、今日は王城でも祝いの席を設けておる。ぜひ、アレン殿、皆と共に参加してほしい」


「申し訳ありません。私たちは、宰相と次の魔導具設置の打ち合わせを……」


「あら、良いわね。神界の食事は口に合わなかったな。ぜひ、参加させて頂戴」


 アレンの言葉にロザリナが欲望をかぶせてくる。

 神界で天使たちが提供した食事は美味しくなかったようだ。


 強引なロザリナの同意もあってか、アレンたちは2つの魔導具の起動を確認し、王城の晩餐会へ向かうことにするのであった。

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