第681話 月のカケラ ※シア視点解除

 アレンは満足そうなシアとゼウを見る。


 シアは試練を超えて、神技、神器、加護を全て手に入れ、自らの存在を見つめなおすきっかけにもなっただろう。

 ゼウは得られた神技などの報酬は放棄し、今後は獣王を目指していくという話に、シアとお互いに納得しているように思える。


 ルバンカが魔導書を通じて、約1月の間に渡る過程や、獣神ガルムのゼウとシアとの殺し合いの試練の状況、記憶として共有する。


 兄妹による凄惨な戦いを誘導するガルムの行動に怒りを覚え、仲間たちと共に急いでやってきたが、お互いが満足する結果で終わったようだ。


「アレン、それでどうするの?」


 セシルは何をするのか分かっているような顔だ。

 リーダーとして次の行動を移してほしいようだ。


(終わりよければか。シアの試練にあれこれ口を挟むのは無粋だと。じゃあ、やることは1つだな)


 アレンの中ではシアに対して行ったガルムの試練はどう考えても許されるものではない。

 だが、シアは自らの覚悟を示し、試練を超えた。

 ガルムと一戦交える覚悟でこの場に臨んだが、仲間の意思を組むことも大事かとこれ以上、揉めるような話はしない。


『たとえどんな関係であれ、余が決断したことだ』


 シアがガルムに対して啖呵を切った言葉が、ルバンカの記憶を通じてアレンの耳に残る。


「獣神ガルム様、シアの試練を与えていただきありがとうございます。報酬はあと1つ『月のカケラ』が残っているかと思いますが……」


 シアはガルムとの試練に臨む前に「月のカケラ」を試練達成報酬に加えると言質を取っている。


『なんじゃ。その目は……。約束は守るじゃて。ほれ』


 ガルムは神力を込めた尾で床石をけった。

 変貌したガルムは元の姿に戻り、尾も復活している。


 ポンッ


「きゃ!?」


 足元を失ったセシルが思わず声を上げる。


 軽快な音と共に足元の床石が円状に消えた。

 仲間たちと共に真っ逆さまに落ちていく。


(クワトロ、仲間たちを飛ばしてくれ)


『分かりましたわ』


 クワトロの特技「飛翔羽」を使って、落ちる速度を調整して、神殿の底へとガルムと一緒になって落ちていく。


 10分近くかけ、どこまでも続く奈落に落ちたかと思ったら、底が見えた。

 床も壁もキラキラと光る材質のようで、目の前の壁にあけられた穴から通路が続いている。


『こっちじゃ』


 そこまで大きくない数メートルの穴のため、巨大なルバンカや他の召喚獣もしまい、ガルムの後ろをアレンたちやゼウと十英獣たちもついていく。


(日のカケラを手に入れた時と同じ感じね)


 細く背の低い通路を進んだ先には広間があった。

 目の前には10メートルにもなる巨大な像が円を描くように立ち並ぶ。

 全員獣たちで正面には獣神ガルムが、その横には調停神ファルネメスもいる。

 円を選び並び立つ全ての神が上位神なのだろう。


 アレンたちは光の神アマンテの神殿を思い出す。


 視線の先には10メートルほどの獣神ガルムの像があった。

 目の前で案内するよぼよぼで自らの身長よりも小さな骨と皮だけの姿とは大違いだ。

 全身の筋肉は毛皮で覆われていても分かるほど発達しており、背後の者を守るかのように、むき出しの犬歯を向けている。

 ルバンカを屠った時のガルム以上に、精力に満ちていることが、石像であってもはっきりと伝わってくる。


「余は手加減されていたというのだな……」


 生々しいほど壮大な存在にシアは思わず、どれだけガルムが試練に加減をしていたのか分かった。


『ふんっ。今頃敬っても遅いわい。さて、こっちじゃ。月のカケラじゃな』


(100万年前のガルムか。じゃあ、奥にいるのはアクシリオンかな。方に何か止まっているな。破壊されている?)


 ガルムが正面にある自らの像を避けるように広間中央に立つ男の像へとアレンたちを案内する。


 12体の獣たちに円状に囲まれた中央には男の像が立っていた。

 十二獣神たちを取りまとめる法の神アクシリオンの像だ。

 髭がもじゃもじゃで、法衣を腰から下しか纏っていないため、溢れる筋肉がまるで周りにの獣たちを包み込むようだ。

 大地の神ガイアとは引けを取らない肉体美を見せつけている。


 男の像の肩には1体の天使が停まっているのだが、肩から袈裟懸けに石像が破壊されている。

 片方の翼が残っているため、何となく男の天使なのは分かる。


(たしか、キュベルなんだってな。昔はキュプラスという名の第一天使か)


 上半身は落ちていないかと床石に視線を送ると、砕けて原型をとどめない石像の破片が散乱している。


 再度見上げると、法の神は体を捻り、腕を掲げ、まるで何かをつまむ姿勢のまま固まっているようだ。

 摘まんだ何かを見つめている。


『よいしょっとな』


 跳ねるように飛び上がると、摘まむ何かをするりと取りシアたちの下に舞い降りる。


「ありがとうございます」


 ズイっと差し出した何かをシアが受け取り礼を言う。

 白色かかった月のカケラは、カットした氷のようにキラキラと輝いていた。

 もらった手でそのままセシルに渡した。


「シア、月のカケラね! とうとう手に入れたわよ!!」


 法の神のように月のカケラを掴んだまま上空に掲げ、歓喜の声を上げる。 


「これが月のカケラか。どれどれ。これもきっと俺の召喚獣の封印を解除するための……」


「ちょっとアレン触らないでよ!」


 手を伸ばすアレンから月のカケラが遠ざかる。

 アレンのSランクでまだ召喚できない召喚獣がいる。

 日のカケラがそうだったように月のカケラもSランクの召喚獣のために必要なものだったかと魔導書に入れて調べようとしたが叶わないようだ。


「だが、これでガルム様の尾と月のカケラで魔法神イシリス様の神器と加護が手に入るな」


 涙目のアレンを無視してシアもセシルの成長に期待する。


【魔法神の欲しい物リスト】

・エクストラモード:霊獣ネスティラドの心臓

・神技:竜神マグラの角

・加護:日と月のカケラ

・神器:獣神ガルムの尾


 魔法神イシリスの求められた時は絶望したが、仲間たちの協力の下、1つずつ揃えていきようやく残り1つになった。


「そうね。これで次はネスティラドね! 腕が鳴るわ!!」


 まだ手に入っていないのは霊獣ネスティラドの心臓だけだ。


「ふっ。余の手にした力、見せようではないか」


 シアはボキボキと神器で包まれた指の骨を鳴らして見せる。


「僕もイシリス様の報酬で強くなったんだからね! ね! ディグラグニ様!!」


『あん、分かってるよ! 戦いに手を出せって言うんだろ!!』


「ふふふ、天騎士となった我の力、とくと味わうがよい!!」


 不適な笑みを浮かべるシアに対して、メルルとクレナが胸元で腕を組んで挑発する。

 ダンジョンマスターディグラグニもネスティラドとの戦いに参加すると言う。


『……騒がしいの。報酬は渡したのじゃ。もう、ここには用はないはずじゃが?』


 法の神の前で座り、曲がった腰のまま首と頭だけで、像を見上げている。


「ガルム様、試練を与えていただきありがとうございます」


「余からも礼を言わせてください。感謝いたします」


 ゼウがシアに合わせて改めて礼を言う。


『……ふん』


 シアが頭を下げる、皆の視線が獣神ガルムに向けるが、もう、こちらを振り向くことはない。


「よし! 残すはネスティラドだ。皆で倒すぞ!!」


「うむ!!」


『む? もう行くなら、お前らが壊した神殿の天井を……』


 ヒュンッ


 ガルムが言い切る前に、アレンは鳥Aの召喚獣に覚醒スキル「帰巣本能」を発動させる。


『……なんじゃ、もう行ってしまったの。これで神殿も静かになったわい』


 ガルムだけが残された石像たちが立つ広間で、小さな呟きが零れる。


 こうしてシアがゼウとのわだかまりが全て消え、獣神ガルムに与えられた試練が全て終わった。

 アレンは仲間たちと共に次なる行動へ移るのであった。




あとがき

―――――――――――――――――――――――――――――――――

次話で11章最終話です


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