第238話 争奪戦
「さて、メダルを探しに行くか」
「そうね」
アレンは仲間たちにタンクの有用性について熱く説いたので、次の行動に移ろうとする。
(この辺は勇者から聞いていた通りだな。メダルを入手する条件はと)
勇者ヘルミオスからは、ざっくりとこのダンジョンの攻略方法について聞いていた。
確かに階層を越えるのにメダルが必要で、そのメダルは次の階層に行く度に毎回必要だと言われた。
そして、必要なメダルの数も種類も階層ごとに違うとのことだ。
「メダルを入手する方法は3つだな」
「そうらしいわね」
セシルも仲間たちもメダルの入手方法は理解しているつもりだ。
アレンは確認の意味を込めて復唱するように3つの方法を口にする。
1つ目は、全ての階層に階層ボスと言われる通常のモンスターより強い魔獣がいる。
その魔獣を倒すと必ず1枚のメダルが手に入る。
この階層ボスがC級からA級のダンジョンと明らかに違う点だ。
C級からA級ダンジョンには最下層に最下層ボスという魔獣がいた。
S級ダンジョンでは階層ごとに階層ボスがこの広い階層のどこかにいる。
しかも、階層ボスはそれぞれの階層に何種類もいるらしい。
階層ボスから手に入るメダルは階層ごとに変わってくる。
2階層の階層ボスからはブロンズメダル
3階層の階層ボスからはアイアンメダル
4階層の階層ボスからはミスリルメダル
2つ目は、ダンジョンには宝箱が落ちており、中には武器や防具、ステータスを増加させるアイテムなど、色々入っている。その宝箱の中に半分の確率でメダルが1枚入っている。
手に入るメダルの種類は1つ目の入手方法とリンクしている。
この2階層の宝箱ならブロンズメダルが手に入る。
なお、宝箱の入手方法はいくつかあると言われた。
3つ目は、普通に冒険者と取引することだ。
冒険者ギルドを通して取引することができ、ブロンズメダルなら1枚金貨100枚で手に入る。
アレンの財力なら金貨300枚でブロンズメダル3枚を取引で手に入れることもできた。
かなりの量が取引されているようで、直ぐに手に入れることができることも確認している。
取引したほうが早いか、自力で階層ボスや宝箱から入手したほうが早いか検証をすることにする。
そういうわけで、今回のダンジョンでの目的は、1つ目の階層ボスと2つ目の宝箱で頑張って3つのブロンズメダルを回収することだ。
「グリフたち出て来い」
「「「な!?」」」
アレンはこの冒険者たちが大勢いる広場で鳥Bの召喚獣を召喚する。
街中で召喚したら駄目だと言われたが、この2階層は正真正銘ダンジョンの中だ。
召喚しても良いという許可はヌカカイ外務大臣からとってある。
(さて、襲ってくる者はいないと)
襲ってこないことを確認して、鳥Bの召喚獣に跨っていく。
冒険者たちの中には武器を手に取る者もいたが、襲っては来ない。
襲ってきても、高速召喚で石Cの召喚獣に特技「みがわり」を使わせる予定だったので、勇者ヘルミオス並みの一撃が来ない限り問題ないと考えている。
これから1年間はこのダンジョンを攻略する予定だ。
毎回人目を避けるのには無理がある。
こそこそ隠しているとかえって怪しまれる可能性もある。
できれば、他の冒険者に慣れてほしいという願いも込めて目の前で召喚することにする。
冒険者たちが驚く中、上昇を続ける。
(さて、ホーク。もう一度、千里眼を使って)
鳥Eの召喚獣を召喚し直し、覚醒スキル「千里眼」で見た情報がアレンの中に入って行く。
(結構な人数の冒険者だな。なるほど、見たことのない魔獣も結構いるが、ほとんどがBランクの魔獣で構成されていると。っていたいた。あれだよな?)
2階層は、階層ボス以外はBランクの魔獣で構成されていると聞いている。
アレンたちには鑑定能力がないので、魔獣を見ただけでは魔獣のランクは分からない。
他の魔獣より大きそうであったり、ほとんど見かけない単体で動く魔獣を階層ボスと位置づけて探し、倒すことにする。
それぞれの階層の階層ボスの見た目だけでもヘルミオスに聞いておけばよかったと思う。
千里眼がひときわ大きい魔獣を捉える。
見たことのない大きなトカゲの魔獣だ。
「たぶんあれはAランクの魔獣だ。あっちに行くぞ」
「「「おう!」」」
アレンの掛け声で、階層ボスのいる場所に向かう。
「おっと」
「どうしたの?」
アレンが向かう途中で止まる。
鳥Bの召喚獣は全てアレンが共有しているので、全ての鳥Bの召喚獣が空中で止まる。
今日も一緒に乗っているメルルに何故止まったのか問われる。
「いや、別の冒険者に捕られてしまった。他を当たろう」
(斥候がパーティーに何人かいるんだろうな。っていうか獣人たちの移動速度半端ないな。斥候も他の仲間も走りまくっているし)
アレンたちがそろそろ到着するというところで、斥候と思われる索敵要員の冒険者が階層ボスから距離を保ちつつ攻撃を加えながら、パーティーのいるところに誘導を試み始めた。
そして、遠吠えのような合図を使い、それを聞いた仲間たちが全力で斥候の元に駆け寄っている。
斥候とその仲間たちとの合流は果たしていないが、アレンはこの大きなトカゲのような魔獣を倒すことを諦める。
(魔獣の奪い合いか。なんか懐かしいな。初めてやったネットゲームもこんな感じだったな)
アレンの前世の頃からの常識で、魔獣は最初に攻撃をした人のものというものがある。決して破ってはいけない不文律だ。
この不文律を破れば、狩場から追われ、即席でもパーティーを組めなくなる。
大手掲示板にもマナー違反者としてサービスが終了するまで名前が晒されることになるだろう。
『ファーストアタック』や『タゲ取り』のような用語が、広いフィールドで数少ない敵を倒す場合によく使われたことを思い出す。
魔獣のターゲットが攻撃を加えた索敵要員の冒険者から変わらない限り、この大きなトカゲのような階層ボスは、索敵要員の冒険者のものであるという認識だ。
ここはゲームの世界ではないが、1つのマナーとしてアレンは守ることにする。
諦めて別の階層ボスに変更する。
再度、鳥Eの召喚獣に覚醒スキル「千里眼」を使わせ、今度こそフリーの状態の階層ボスを探す。
「お! 今度は周りに誰もいないところに何かデカい鶏がいるな。あれも階層ボスと見た」
びっくりするくらいデカい鶏がフィールド上を闊歩している。
千里眼で見たが、このデカい鶏と同じ魔獣はいないようだ。
なんとなく、階層ボスを探すコツが分かって来た。
恐らく、階層ボスはこの広すぎる階層に1種類につき1体しかいない。
千里眼を使えば同じ魔獣がいるかどうか、スキル発動と共に分かる。
皆で向かう途中、異変が起きる。
「ちょっと、何止まってんのよ!!」
後ろからセシルの責めるような声が聞こえる。
皆で移動していると、また途中で止まってしまったからだ。
「いや、すまない。対象が消えてしまった」
「え? どういうことよ?」
セシルや皆を近くに呼んで説明をする。
アレンたちが向かっているとデカい鶏の魔獣がいきなり消えてしまった。
(千里眼と。もうあっちに湧いているのか。近くに冒険者がいるし、今度は取られてしまいそうだな。これは一定時間戦闘がない階層ボスは一旦消えて別の場所に移動するとみてよさそうだな)
鳥Eの召喚獣による千里眼でもう一度探してみると、かなり離れた距離にいた。
何か瞬間移動したような挙動は感じなかった。
どうやら、階層ボスは時間制でランダムに移動するようだ。
「だけど、階層ボスがいきなり出たら、冒険者も危なそうですわね」
ソフィーが困ったような顔をして、階層ボスの転移の問題について気付いた。
ここはとても広い空間だから、ランダムに転移しても周りに冒険者がいる確率は低いだろう。
しかし、もし他の階層ボスと戦っていたり、休んでいる近くに別の階層ボスが現れると全滅しかねない状況になる。
「そうだな。階層ボスはAランクからSランクの魔獣までいるらしいからな」
階層に関わらず、階層ボスはAランクだけではなくSランクの魔獣までいるとヘルミオスから聞いたことを思い出す。
何となく、年に半分の冒険者が命を落とす理由が分かったような気がする。
「どうするの? なかなか見つけられないけど」
「何言っているんだ。狩りは始まったばかりだ。まだまだ行くぞ」
セシルの問いに、まだ続けるとアレンは答える。
(さて、えっと。他に特徴のある魔獣はっと、なんか珍しいのがいたぞ。赤いカブトムシ? クワガタか? む? このままだと冒険者とかち合うな。負けぬぞ!!)
真っ赤な赤いカブトムシとクワガタを足したような魔獣が地面から少し高いところを飛んでいるのを発見する。
その魔獣から少し離れたところに冒険者のパーティーもいる。
千里眼は冒険者たちの挙動も捕らえている。
まだこの赤いカブトムシのような魔獣に気付いていないようだ。
もう少ししたら赤いカブトムシの魔獣が冒険者のパーティーにかち合いそうだ。
アレンのルールで、この魔獣は冒険者がまだ気づいていなければアレンたちのものだ。
「近くにいるぞ。このままだと取られてしまう。急いでいくぞ!!」
「ちょっと!!」
いきなり急いで飛び出した鳥Bの召喚獣にセシルが苦情を申告するが、移動速度を緩めることはない。
これで取られたら、3回もミスしたことになる。
(くそ、このままだと冒険者に捕られるぞ)
「グリフたち、天駆だ!!」
『『『グルル!!』』』
アレンの掛け声で鳥Bの飛行速度が一気に上がる。
凄い勢いで赤いカブトムシのような魔獣に近づいていく。
ところが、状況に変化が起きる。
赤いカブトムシのような魔獣が先に冒険者の集団に気付いたようだ。
羽の羽ばたきを加速させ、冒険者へ向かっていく。
(ま、負けぬ。って、この距離じゃ無理だ……。ぐぬぬって、え?)
明らかにまた階層ボスの争奪戦に負けると思ったその時だった。
アレンの想定とは違う反応を冒険者たちが示した。
最初に気付いたのはパーティーの索敵要員の斥候だろう。
大きな声で叫んだのだ。
赤いカブトムシのような魔獣を視界で捉えた冒険者たちが、指差すや否や一目散に逃げ始めたのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます