第671話 風神ヴェスの試練③

 獣帝化したシアと幻獣化したルバンカ(獣の血)が風神ヴェスを挟み込むように突っ込んでいく。


『む! 力で勝ったからと言って調子に乗るな!!』


 ヴェスは迎え撃たんとルバンカに顔を向ける。

 両手には風の刃が纏うのだが、ルバンカへ届くことはなかった。


『①五月雨拳!!』


 ヴェスが攻撃の体勢をとったものの、スキル「風神斬鉄閃」発動までには至らなかった。

 特技「獣の血」の効果によって上昇した攻撃力によって、ねじ込むが如くルバンカが特技「五月雨拳」を発動した。


 6本の太い腕がヴェスの全身に襲い掛かる。


『ぐは!?』


 面で制圧するように無数の拳によって、ヴェスの全身は大きく損傷する。

 ヴェスが両腕に込めた風も神力も四散してしまった。


 それでもルバンカの攻撃はやめない。

 特技「五月雨拳」は無数の拳を継続して殴るため、攻撃時間は長く、それ故にコンボを繋げていくには有利とも言える。

 当然、無数の攻撃のいくつかが躱されたり、防がれても、1発でも充てることが出来たら、コンボは継続判定となる。


 だが、圧倒的な威力によってヴェスの体は大いに後退し吹き飛ばされそうになる。

 このまま吹き飛ばされてしまったら、連続攻撃の判定が止まってしまいコンボが成立しない。

 シアはルバンカの攻撃を読んで、ヴェスを挟んで反対側にいる。


『②真粉砕撃!!』


 シアの攻撃の中でも最も威力の高いスキル「真粉砕撃」を使い、吹き飛ばされそうになったヴェスの体を中空に留める。


『ちょ、調子に……』


『動かさぬ! そのまま殴られていろ! ③真強打!! ルバンカも当てるのだ!!』


 ルバンカの特技「五月雨拳」の発動時間の長さを利用して、スキル「真粉砕撃」、さらに、スキル「真強打」を叩き込む。

 コンボは相手が全て防御されても、全て躱されても、攻撃し返されても途切れてしまう。

 当然、最初の攻撃から何秒も時間経過しても、コンボは成立しない。


 斜め上へ突き上げるルバンカと、ルバンカの方向へと殴り返すシアの間でヴェスが硬直した。


『④阿修羅突!!』


『ぐぬ!?』


 3本の片側の手を突き立てるようにヴェスを押し上げる。

 2本の手刀の指先はヴェスによってガードされてしまった。

 しかし、3本目の手刀が腹に決まる。

 同時に複数打った攻撃についても、1つでも当たればコンボ判定だ。


『よし! ⑤真駿殺撃!!』


 特技「阿修羅突」は得意「五月雨拳」ほどの発動時間はない。

 発動速度の速いスキル「真駿殺撃」を繰り出した。


 シアの表情が一瞬ほころんだのは、4回目のコンボが、今回の戦いの鬼門であった。


 相手に攻撃を与えられるのは、自らの相手の素早さの差によっても変わってくる。


【スキル(特技)を当てやすくする方法】

・相手より素早さを上げる

・クリティカル率を上げる

・背後から攻撃する

・多撃のスキル(特技)を使う


 素早さが相手よりも低いと、クリティカル率は激減し、さらに躱される可能性もある。

 ヴェスよりも素早さの低いルバンカは、3発同時攻撃の特技「阿修羅突」のうち1発が決まったことで、コンボがこれからも継続する可能性に期待がもてる。


『⑥真強打!!』


 シアの持つスキルの中でも最も早い「真瞬殺撃」を使った反対の拳で、矢継ぎ早にスキル「真強打」を叩き込む。


 ルバンカと違いシアの攻撃は一発のスキルがほとんどだ。

 だが、クリティカル発生率が高くなる背面からの攻撃な上に、シアには神器や腕輪など、クリティカル率上昇が上昇し、素早さ特化の装備している。


 シアは確実に一撃一撃を決め、コンボを繋いでいく。

 

『確実に決めよ! ⑦五月雨拳!!』


 シアのスキル「真強打」を放つ間に体勢を戻し、再度、特技「五月雨拳」を発動した。


『ぐぬぬ! う、動けぬ!!』


 これで7回のコンボを成功させ、突き上げるルバンカと、叩き落すシアがヴェスの体を中空にとどめる。

 まるで、壁際まで追い込まれたキャラがいくつもの攻撃を食らい続けるようだ。


 シアとルバンカのそれぞれが素早さと攻撃力を上回る形で、中空に壁を作り抑え込むことが今回の作戦だ。


 ルバンカが拾い集めたアレンの記憶には壁に追いやる「無限コンボ」と、空中で身動きを取らせない「空中コンボ」があった。

 シアは、2体1で戦える今回の状況で組み合わせた作戦を考えついた。


『⑧真地獄突!! ⑨真強打!!』


 シアは右手を手刀の形に変え、スキル「真地獄突」を繰り出す。

 さらに、対空に留まった状態のヴェスに左手で拳を握りしめ、スキル「真強打」を放った。


 スキルが繋がっていく。


『こ、このままでは……』


 既にコンボは9回までつながっている。

 全身の神力を全開にし、無数に攻撃を繰り出すルバンカから姿勢を反転させシアに攻撃の対象を変えようとした。


『⑩神風連撃爪!!』


 シアは最も素早い『神風連撃爪』を繰り出す。

 素早さに長けたヴェスの攻撃よりも先にシアの神技が迫る。

 いくつかの爪の刃は防がれてしまったが、そのほとんどがヴェスの全身を切り刻んでいく。


 ブン!!


 10回目のコンボが決まったところでシアの右手の拳が光り始めた。

 神技「豹神無情撃」が発動できる条件を満たしたことを感覚で理解する。


 シアの右手が掌手の形に変え、ヴェスの拳に吸い込まれるように進んでいく。


『うおおおおお! 早く決めるのだ!!』


 まだルバンカの特技「五月雨拳」による無数の攻撃は、間もなく終わろうとしている。


『問題ない! ⑪豹神無情撃!!』


『ぐぼあ!!』


『ぬ、ぬお!?』


 掌手の先に込められた霊力が消費されていくのが分かる。

 ヴェスの全身がひねり潰れるように抑え込まれる。


 押しつぶされるように攻撃を受けたヴェスの体に巻き込まれ、特技の発動の終わったルバンカごと足場の下へと落ちていく。


『ば、馬鹿な!! ルバンカ!!』


 思った以上の威力にシア自信、驚きを覚える。

 攻撃を食らって頭から落ちていくヴェス諸共、奈落の足場の下へと落ちていく。

 シアが思わず足場の下を覗き込むと不安は杞憂に終わっていた。


 風神ヴェスはあれほどの攻撃を受けていたのだが、既に無表情に戻っており、片手でルバンカの腕の1本を握ったままゆっくりとシアのいる足場へと戻っていく。


『ふん、まさか本当に神技の発動まで行われてしまうとはな。だが、我の意識の可能性は無視できぬか』


 しかもたった17日でと毒づきながらも、ルバンカをシアのいる足場へと放り投げる。


「可能性……?」


 条件を満たしたシアはスキル「獣帝化」の発動時間がまだあるのだが、効果を解除した。

 試練の条件を満たしているのに、いつもまでも発動したままにいると話を変えられかねない。


 10回コンボを決めた後、神技「豹神無情撃」を決めたのは間違いがない。


【ルバンカ】【シア】の特技とスキルの攻撃順

①五月雨拳 ②真粉砕撃

      ③真強打

④阿修羅突 ⑤真駿殺撃

      ⑥真強打

⑦五月雨拳 ⑧真地獄突

      ⑨真強打

      ⑩神風連撃爪

      ⑪豹神無情撃

※セリフにも分かりやすく番号を振っている


 シアは改めてルバンカと共に行ったコンボの流れを思い出すが、間違いなく条件はクリアしている。

 無言でルバンカを見つめていたヴェスがシアに視線を戻した。


『今さら、試練の報酬を出し惜しみするものではない。そもそも我が与えるものでもない』


「ありがとうございます」


 拳を交え戦う関係は終わり報酬をくれるとあって、丁寧な言葉使いを心掛ける。


『では、むん! シアよ。試練を超えたシアには加護(大)と神技「風神天地拳」を与えよう』


 今回も報酬は2つ頂けるようだ。


「ほう。やはり発動条件などはあるのですか」


『下の階でも詳しく聞いたそうだな。説明すると……』


 シアの試練はまだ終わっていない。

 その中でもらった加護がどのような効果があるのか知っておかないといけない。


 風神ヴェスはどこで知ったのか、それとも何らかの方法で感じ取ったのか人ならざる力で、下の階層の出来事を知っていたようだ。


【報酬①獣神ガルムの大級の加護】

・全ステータス10000上昇

・クリティカル率50パーセント上昇

・コンボ達成確率50パーセント上昇


【報酬②神技「風神天地拳」※簡略説明版】

・単体一撃攻撃

・20連コンボ発動時にしか使用できない

 ※コンボ発動時以外では発動できないが、コンボ時に威力が3倍になる

・霊力最大20000消費

 ※霊力、魔力を最大20000まで消費するが、残が1でもあれば発動可能

・クールタイムは1日

※見た目は拳を下から突き上げる動きで「昇竜拳」


「なるほど、余の力はコンボを繋げることが肝要なのか」


 自らの拳を見つめながら、自分の立ち位置を知っていく。

 素早さに特化し、確実にコンボを繋げていき、強力な一撃を相手に与える。


 加護もクリティカル率やコンボ達成確率の上昇を補正してくれるなど、自らの戦い方を再認識する。


『それで、先ほどから何故、我を見るのだ?』


 説明がひとしきり終わったところで、ルバンカが自らに向けられる視線の理由を問う。


『不思議に思ってな。お前の体には我ら神々が与えるべき「技の穴」がある』


『技の穴だと?』


『手を突っ込めば入りそうな「窪み」と言うべきか……』


「む? いったい何の話をしておるのだ?」


 元々、意思疎通の取りにくい神であったが、ここにきて意味不明な言葉が続き、理解不能で大いに首をかしげてしまう。


 ルバンカはハッとしながら、何かを思い出したようだ。


『技の穴とは「スロット」の話ではないのか?』


 アレンはSランクの召喚獣を召喚できるようになったのはプロスティア帝国でマクリスを仲間にした時のことだ。

 その時から、メルスに問い詰めに問い詰め、どうしても不明なことがSランクの召喚獣にはあった。

 アレンのレベルが250以上に上げる術(すべ)もない中、答えが見つけられないでいる。


 ルバンカ、クワトロ、マクリス、グラハン、マグラ、メルスと全てのSランクの召喚獣で共通点が1つある。


 だが答えなど見つからず、先延ばしにしてきた問題点があった。

 アレンのゲーム脳は解決を探し出すよりも、多くのSランクの召喚獣の封印を解く。


「スロット? アレン語録であるな。そういえば、Sランクの召喚獣にはなぜか封印されている話か?」


 シアも以前、アレンの魔導書を見た際に、何故かSランクの召喚獣には1つ封印された覚醒スキルがあることを思い出す。


『何の話か分からぬが、きっとそうだろう。我はそなたの中に神力を注ぎ込むと、その答えがでる。そんな気がするのだ』


『なんだと!? 覚醒スキルの封印を解除できると言うのか!!』


 唐突に言われる古代神ヴェスの言葉に、ルバンカは大いに反応するのであった。




あとがき

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