第119話 覚醒

 召喚レベル6の分析は夜更けまで続く。


 新しく召喚できるようになった霊系統カードには、ふわふわドレスをきた少女が表示されている。そして、


(え? 加護が3つあるぞ。他のCランクのカードは2つだったのに。っていうか魔力があるじゃん)


 カード右下には耐久力+50、知力+50、物理耐性の表示がある。ステータスを上げるだけではないようだ。


 魔導書に書いてあるステータスの詳細を確認してみる。


 ・形状は少女霊の霊Cのステータス

 【種 類】 霊

 【ランク】 C

 【名 前】 マリア

 【体 力】 200

 【魔 力】 300

 【攻撃力】 290

 【耐久力】 500

 【素早さ】 350

 【知 力】 500

 【幸 運】 210

 【加 護】 耐久力50、知力50、物理耐性

 【特 技】 サイコ


(完全にフランス人形だな。顔は5歳児くらいでかわいい系かな。そんなに大きくなさそうだし召喚してみるか。マリア出てこい)


 すると30センチほどの洋風ドレスを着た少女が出てくる。


『アレン様、初めまして。召喚していただきありがとうございますデス』


 宙にフワフワ浮いた状態で頭を下げ、挨拶をする。体が霊だからなのか、少し透けて後ろにある部屋の壁が見える。


「おお! しゃべった!!」


 召喚獣がCランクにして初めて言葉を発した。知力の影響なのか、まだ出していないCランクの召喚獣についても検証しようと思う。


『ふふ、話せますデスよ』


 不敵な笑みを浮かべて話せることを自慢する。両手を腰にあて胸を張っている。アレンが驚いたことがうれしかったようだ。


「君の名前はマリアだ。これからよろしく頼むよ」


『お名前ありがとうございますデス』


(ふむふむ、ステータスが全般に高くて、知力も上がり、言葉が交わせるか。拠点の防衛にも役立ちそうだな。幽霊っぽいから語尾のデスがDEATH(デス)に聞こえるな)


 基本的にアレンが起きている間は、鳥EやDの召喚獣が上空から拠点の周辺を索敵している。異世界はそこまで治安がいいわけではない。ここは冒険者が多い一角だ。子供だけで住んでいると何かあったらいけないので、召喚獣を使って拠点を監視している。


 知能が高く、小さくて邪魔にならないのであれば、拠点に1体置いておくのもいいかもと考える。召喚獣が60体に増えたので、2~3体置いておいても負担にならない。


『アレン様、どうしたデスか?』


 アレンが、霊Cの召喚獣を見ながら考え事をしていたら、顔を近づけ覗き込むように尋ねてくる。


「いや、なんでもないよ。それはそうと、マリアは壁とか扉はすり抜けられるのか?」


『え? 壁デスか?』


 そういうと霊Cの召喚獣が扉に顔を突っ込んだ。頭が扉にめり込む。そして、頭を戻すと扉に穴は開いていないようだ。普通に壁をすり抜けられるようだ。


「いいね、なるほど。これはダンジョンでも役に立ちそうだ」


 壁のすり抜けができる召喚獣が増えた。なお、魚系統の召喚獣も地面の中を泳ぐことができる。魚系統と共有しても、地面の中は真っ暗で見えないため使い道が少なかったが、今はダンジョンを攻略中だ。霊Cの召喚獣に可能性を感じる。


(自我を持っているからな。個性的なキャラっぽいし、コミュニケーションを取って性格もよく理解しないとな。よし次は覚醒だ)


 次に覚醒の検証をする。その間も霊Cの召喚獣は様子を確認するため部屋の中に浮かせておく。


 1枚の虫Hのカードを生成する。アレンの中で、実験するのは虫Hの召喚獣と相場が決まっている。


(よし、覚醒しろ!)


 すると、カードの無色の余白の部分が虹色に輝く。


「おおお! 何かが覚醒したぞ。よし召喚だ。デンカ出てこい」


 虫Hの召喚獣を召喚する。すると淡く光る虫Hの召喚獣が部屋の中に出てくる。飛び跳ねる虫Hを見ながら、光る以外で何が違うんだと確認する。


 今までの虫Hの召喚獣と違いがないから何が覚醒したのだろうと、魔導書の虫Hのステータス欄を確認する。


 【種 類】 虫

 【ランク】 H

 【名 前】 デンカ

 【体 力】 3

 【魔 力】 0

 【攻撃力】 2

 【耐久力】 5

 【素早さ】 5

 【知 力】 1

 【幸 運】 2

 【加 護】 耐久力1、素早さ1

 【特 技】 飛び跳ねる

 【覚 醒】 群れを成す


(あれ? 覚醒ってのが新たにあるぞ。スキルが増えているな。他の召喚獣もそうなのか?)


 魔導書で他の召喚獣のステータスを見てみるが、そのような追加はない。どうやら覚醒させた召喚獣のステータス欄に追加されるようだ。


(さて、これ以上は分からんか。だが群れを成すか。覚醒名が分かったことだし、使わせてみるか。デンカ、群れを成せ)


 虫Hの召喚獣がこちらを見て淡く光り出す。


 そして、


「ふぁ!?」


 1体の虫Hの召喚獣が100体くらいに増えたのだ。部屋を埋め尽くす虫Hの召喚獣達だ。無尽蔵に大き目のバッタが飛び跳ねて悪い夢を見てしまいそうだ。


 どこかの画像か映像で見たイナゴの大群だ。


「ちょ! タンマ、元に戻って!!」


 その言葉に反応したのか、虫Hの召喚獣は1体に戻る。


「ふう、すごいもの見てしまった。もう一回やってみるか」


 気を取り直して、スキルの持続時間のためにもう一度、覚醒スキルを使わせようとする。


(あれ、何も出ないぞ。もしかして、1カード1回こっきりか?)


 出し直したりしてみるが、覚醒のスキルが発動しない。何故発動しないのか考える。


(どこに原因があって発動しないのか確かめないとな。まずは、デンカを再作成して試してみるか)


 虫Hの召喚獣をもう1枚作成する。そして覚醒スキルを発動する。魔力が消費される感覚がある。普通に覚醒できるようだ。


(さて、もう一度覚醒させてみるか)


 心の準備をしてもう一度、虫Hの召喚獣を召喚し、覚醒スキルを使わせる。また1体の虫Hの召喚獣が100体ほどに増え部屋を埋め尽くす。すぐに召喚を止めカードに戻す。


(別のカードなら覚醒はできると。さて、検証はこんなもんかな)


 検証結果を魔導書のメモ機能に記録する。

・魔力消費は100

・(いまのところ)1枚のカードにつき1回覚醒スキルが使えるようになる


 要検証

・覚醒スキルは時間が経っても2回使えないのか


 アレンは思う。本当に1枚のカードで1回しか使えないのか。これがもしAランクの召喚獣なら、覚醒スキルを使う度に新しいAランクの魔石を探さないといけない。とりあえず、クールタイムがあることを信じて、時間をおいて覚醒させてみる予定だ。


 前世でゲームをしていたころ、スキルにはクールタイムのような設定があったことを思い出す。例えば10秒に1回とかしか使えない。スキルによっては1時間に1回とかもあったなと思い出す。強力なスキルになるほど連続で使えないものが多かった気がする。


(あとは、どのカードがどんな覚醒スキルが使えるのかしっかり把握しないとな)


 通常の特技と覚醒スキルなら、覚醒スキルの方が大きな効果がありそうだ。どの召喚獣にどのような覚醒スキルがあるのか検証を進める。


 こんどは鼠の形をした獣Hを生成し、覚醒させる。


 【種 類】 獣

 【ランク】 H

 【名 前】 チョロスケ

 【体 力】 5

 【魔 力】 0

 【攻撃力】 5

 【耐久力】 2

 【素早さ】 3

 【知 力】 1

 【幸 運】 2

 【加 護】 体力1、攻撃力1

 【特 技】 駆け回る

 【覚 醒】 鼠算式


(ふむ、鼠算式か、何か嫌な予感しかしないな)


 鼠の見た目をした獣Hの召喚獣を召喚し、覚醒スキルを使用させる。


 すると1体の獣Hの召喚獣が2体に増える。どんどん4体、8体、16体と増えていく。しまいには100体くらいになる。


「デンカと一緒じゃねえか!!」


「もう何時まで騒いでんのよ!!! って何これ……」


(ちょ! 年頃がいるんだから部屋に勝手に入ってこないでよね!!)


 すると、ネグリジェを着たセシルがドアを開けて入ってきた。そして、鼠の溢れるアレンの部屋を見て血の気が引いていく。


 なんか上の階で物音がしたので、やってきそうな雰囲気はあった。お騒がせしてすいませんと、獣Hの召喚獣を消す。


「アレンどうした?」


 そして、寝巻を着たクレナも、騒ぎを聞きつけて、アレンの部屋に入ってくる。


 さらに、部屋の廊下に足音が聞こえてくる。アレンの新スキルの実験騒ぎも無視して爆睡していたドゴラが、3人でばたばたしていたのでとうとう目覚めたようだ。


「……お、おいどうし……、げふ!!!」


「ちょ! 前も言ったでしょ!! 服着なさいよ!!!」


 ドゴラがパンツ一丁でアレンの部屋に入ってくる。それを見たセシルが顔を真っ赤にしてドゴラの頬に拳を叩きこむ。クレナ村で夏場のドゴラはだいたいこんな格好だなとアレンは思う。


『アレン様のお知り合いデスか?』


「そうだ。俺の仲間だ、マリアも仲良くしてやってくれ」


『畏まりましたデス』


 にぎやかな状況を楽しそうに見つめる霊Cの召喚獣であった。

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