第647話 大地の迷宮RTA⑯大地のハンマー

 アレンたちは80階層ボスのアンドレから鍵を奪い取り、81階層を目指す。

 通路の途中で、鍵が必要な扉が両側にあり、片方の部屋を開けてみると奥の壁がゴツゴツと隆起し、金色に輝いている。


「これ全てオリハルコンの鉱床ですわね」


「そうみたいだ」


 アレンの横でソフィーも目を見開いている。

 大地の迷宮には鉱床が存在する。

 ミスリルの鉱床からはミスリルが採れ、アダマンタイトの鉱床からはアダマンタイトが採れる。


 鉱床から鉱石をとるためには各種ツルハシがいる。


(神聖オリハルコンは80階層で手に入れることができるのか)


 この世界のオリハルコンは2種類あって、魔法神イシリスがコピーしたオリハルコンと、大地の神ガイアが造ったオリハルコンだ。

 大地の神ガイアが造ったオリハルコンはコピー品と分けるため、神界では神聖オリハルコンと呼んでいるのだとか。


 魔法神イシリスの作ったオリハルコンは強度が均一らしい。


 大地の神ガイアが造った鉱石はオリハルコンも含めて、神力を込めた度合いによって硬度や強度は違うらしい。


 魔法神イシリスのオリハルコンの模造品と、神力をあまり込められていない神聖オリハルコンだと、模造品の方が強度が高いこともある。


 しかし、大地の神ガイアが神力を注ぎ込みまくったオリハルコンを歪ませることは上位神でも難しいらしい。


「ちょっと、ソフィー、こっちの扉も開けてみて」


「ええ、セシルさん。カチっとな」


 パアッ


「まあ、鍵が1つ消えてしまいましたわ……」


 扉を開けた先には設備らしい建物がいくつか並ぶ。


「こっちには溶鉱炉があるわね。工房も!」


 セシルが通路を渡って反対側の部屋の調査も確認しておく。

 2個あったうちの1個の鍵が光る泡となって消える。


 鉱石からオリハルコンの塊を取り出すためには溶鉱炉が必要だ。


【大地の迷宮攻略メモ⑩】

・オリハルコンの鉱床から鉱石を手に入れるためには、オリハルコンのツルハシが必要

 オリハルコンのツルハシを作るためには、オリハルコンの玉鋼、備超炭、爆炎草が必要

・オリハルコンの鉱石をオリハルコンの塊にするには、溶鉱炉が必要

・オリハルコンの塊を鍛造し、武器や防具を鍛造するには、ハンマー、鞴(ふいご)、備超炭、爆炎草が必要


(ツルハシ用のオリハルコンの玉鋼は51階層以降に出るからな)


 51階層から80階層に到達するまでに、何本オリハルコンのツルハシを手に入れるかにかかっている。

 ただし、ツルハシ作成に時間をかけていたら、溶鉱炉と工房で作業する時間は無くなる。


 さらに、アンドレが時間を削ってくるだろう。


 オリハルコンの鉱石を地上に持って帰っても、大地の迷宮以上に時間がかかることになる。

 どうも、この大地の迷宮にある「工房」も「溶鉱炉」も人間たちが作るそれとは比べ物にならないくらいの速度で作業が進む。


 ハバラク曰く、アダマンタイトの鉱石から武器を作るのに、工房なら1時間弱、地上なら最高の道具を揃えても、鉱石からになると10日は最低でもかかるらしい。

 オリハルコンならそれ以上、時間がかかるのは容易に想像がつく。


 実際アレンたちのオリハルコンの武器や防具を1つ仕上げるのに、一ヶ月以上かかっていたのを思い出す。


『なるほど、80階層までに必要なものを集めて、残り時間の許す限り、オリハルコンの武器や防具を加工するってわけであるな。何度も迷宮に通えと。難儀な話だ』


「そうみたいだな。シア」


『だが、今回は99階層攻略だ。先を急ごう』


「そうだな。せっかくのメルスの犠牲だ」


『俺は死んでいないぞ。ツバメンがいなかったからな。外に出るのをあきらめただけだ』


(お腹の鍵を取り出す作戦を決行するならツバメンは最低1体必要ってわけか。次回の戦いで行けるか検証が必要だな)


 カードの中に収納されたメルスが不平不満を言うが、ここは先を急ぐことにする。


 通路に戻ったアレンたちが進んでいくと、ようやく広間に到達した。

 部屋の中央は大きく窪んでおり、階段があることが分かる。


 階段の前には儀式に利用するのか魔法陣が描かれており、土偶が大きなハンマーをまるで重さがないかのように両手で添えるように持っている。


『アレン様一行、80階層の攻略おめでとうございます』


「ありがとうございます。今お持ちのものが神器『大地のハンマー』でございますか」


 神が使いをよこして、神器を渡すとあって、床石に降りたアレンが恭しく返事をする。


『攻略の報酬でございます。手にするにふさわしい者は、お受け取り下さい』


「こちらは武器でしょうか」


『装備としては武器枠でございますが、鍛冶職人が武器や防具を鍛錬するために必要なハンマーとなります。また、ガイア様がお造りになったオリハルコンの鍛造には、こちらのハンマーが必要になるかと思います』


 ハバラク専用と言っても過言ではない神器のようだ。


「ハバラクさん、そういうわけです。ガイア様の神器を受け取っていただけますか」


「う、うむ。分かった」


 一緒に床石に降りてきたハバラクが魔法陣の中にいる土偶に下へ近づいていく。


『では、大地のハンマーの使用者をハバラク様に登録します』


(なるはやでな。武器ってことは、次回以降、持ち込み可能ってことだな)


 大地の迷宮には装備している武器や防具、魔法具は持ち込み可能だ。

 なお、魔導袋も含めて回復薬も含めた道具、食糧など全ての持ち込みは禁止されている。


「お願いする」


 パアッ


 魔法陣が輝き、何やら登録を行って、ハバラクが神器「大地のハンマー」の使用者になったようだ。


(この無骨な鉄のハンマーに見えるのが大地のハンマーか)


 全長は柄も含めて1メートルくらいで、木製の柄に、鉄のような材質の金属が取り付けられている。

 全体が淡く輝いており、神聖さを僅かに醸し出している。


 無骨でおおざっぱな性格だと聞いている大地の神ガイアの神器にふさわしいなと思った。


「これもそれも、ガララ提督が報酬の全てを放棄してくれたからですね」


 ガララ提督に攻略報酬を渡そうとして反対されたことが、ハバラクの鍛冶職人としての強化に繋がった。

 おかげでオリハルコンを加工する技術と道具を得たことになる。


「おい、褒めても何も出ねえぞ。先を急ごうぜ」


 集音機能があるのか、アレンの呟きをゴーレムの中にいるガララ提督が拾う。


 ハバラクが大地のハンマーを手にしたことで、先を急ぐことにする。


 ここから6時間ほどで99階層まで降りないといけない。


【81階層・残り6:18】


 アレンはミニ土偶のタイマーを確認したら、仲間たちに改めて声をかける。


『皆さん、ここから先は時間との戦いです。スコップはありませんので、迅速に行動を』


「分かったわ!」


 隣にいるセシルが大きな声で返事をしてくれる。


 隊列を組んで、一気に駆け降りていく。

 降りた先もいつもの赤褐色のダンジョンで通路と部屋で構成されているようだ。


 プクプク

 ポコポコ


「ちょっと、何よ。既に罠が浮いているじゃない! フレイムランス!!」


 ドオオオオン


 81階層でセシルが見たのは、宙に浮く無数の風船だった。

 大きな岩は取り付けられていないが、クワトロの万里眼を見ると、風船自体になにやら魔法陣が書かれている。


 どうやら近づいたり割ったりすると、罠が発動するようだ。


「進め! これ以上スキルの掛け直しはできないからな!!」


 陣形を組んだまま移動速度を上げる。


「ふむ、幸運を上げてくれたおかげで、正確に占えそうだの。次は右で、その先が怪しいの。ロゼッタよ。罠探知よろしく頼むぞ」


「ええ、分かったわ」


 精霊神の祝福があると、仲間たちのスキルがさらに効果を発揮する。

 新たな霊獣に大地の神が造ったと思われる土塊(つちくれ)たちが嫌らしい時間稼ぎをしてくる。

 お店も宝箱も全無視したが刻一刻と時間が過ぎていく。


【90階層・残り5:22】


(罠の数が多かったおかげもあって、結構早く降りることはできたな)


「ようやく90階層ね。やっぱりアレンの言うとおり、90階も大迷宮ね」


 アダマンタイトの大迷宮が広がっている。


「申し訳ありません。わたくしのために……」


「ソフィー。気にすることないわ。アレンに比べたら運は良い方よ」


「セシルさん。ありがとうございます」


 誰かをフォローするときに、決して他の人を引き合いに出してはいけないよとアレンは目を瞑って思う。

 スコップはないが、どうにか90階層の大迷宮に2時間弱で入ることができた。


(大迷宮はスコップなしで3時間くらいかかるからな)


 テミやロゼッタがいても、どうしても攻略タイムに幅がある。


「次の分かれ道を左じゃな」


「転移罠に注意して進みましょう」


 部屋の中で広がって戦闘するわけでもなく、転移穴を発動させたときに仲間たち皆で転移されるよう、隊列を今まで以上に固まって移動することにする。

 大迷宮は落とし穴がないので、階段をどれだけ近くに引くかにかかっている。


 それでも最短で階段を目指した結果、2時間強で攻略できた。


【91階層・残り3:05】


 今回はすごく良いわけではないが、及第点くらいの結果だろう。


 そのまま、91階層から99階層目指して移動を開始した。


 霊獣はさらに強く、土塊(つちくれ)の数も増えていく。


「おかしいわね。何でこんなに難易度高いのよ!」


「まあ、分からんでもない。それだけ報酬に期待ができるってものだけどな」


「対価に応じた報酬を貰わないと割りに合わないわね!」


 セシルがアレンみたいなことを言い出した。

 この大地の迷宮攻略は神の試練を超え、既にエクストラモードになった者たちが大勢いる。


 神の試練を超えた者たちが束になっても、攻略できるのか分からないのが、今回の試練の難易度のようだ。

 試練の攻略難易度は神によってばらつきがあるようだが、大地の迷宮はかなり高難易度だと言えるだろう。


「すまないの。どうやら霊獣の住処は3つあるようだ。1つは抜けないと階段にたどり着けないぞ」


 難易度の分析をしていたら、テミからあまり嬉しくない占い結果を受ける。

 ずっと霊獣の住処は最大1つだったのに91階層は3つも同階層にあるようだ。

 出し惜しみなく、全力で攻略難易度を上げるぞという大地の神の強い意志を感じる。


「しゃらくせえええええ!! みんなここが正念場だ。気合い入れろよ!!!」


 ガララ提督が檄を入れ、パーティーの仲間たちが力強く返事をする。


 これまでのタイムラップで最も早い50分弱で99階層まで到着した。

 次の階層を攻略したら大地の迷宮は完全攻略を果たす。


【99階層・残り2:18】


 アレンはまるで現実逃避するかのように、ミニ土偶を確認する。


「ちょっと、本当に本当に攻略させる気があるの……」


 99階層に降りた先でセシルが目の前の光景に青ざめている。

 そこは90階層と同じ漆黒に輝く壁と床石の構造をしている。

 長く深くはるか先までまっすぐと通路が続いている。


 99階層は大迷宮だった。


 大迷宮を短時間で攻略するのに必要なアイテムは底をつき、最低3時間かかると言われる漆黒の絶望がアレンたちを待っていた。


『だが、ここで止まっていては攻略が遠のく。近くに階段があるかもしれない。行くぞ!!』


 シアが口を開く。


「だけど、このまま進んでも……」


 手立てもなく進むべきではないとセシルが言いたいようだ。

 この状況にソフィーが口を開く。


「……私に考えがあります!」


 仲間たちの視線がソフィーに集まるのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る