第173話 証人喚問

 アレンは精霊王に、ローゼンヘイムを救ったら願いを叶えてくれるよう依頼した。

 精霊王との交渉の結果、アレンの仲間達を、より上位の職業へ転職させることを約束してくれた。上位の職業に転職できないアレンは、心を読まれた通りミュラに才能をつけようかと思っている。


 元々仲間達、特に星の数の少ない仲間にとって今後の戦いは厳しいのではないかと思っていた。そのため、亜神や神がいたら、転職やモード変更の依頼をしようとずっと考えていた。


 これで魔王軍とローゼンヘイムの戦争は、転職クエストの側面があることになった。

 この戦争を何とかすれば、今後の戦いに希望が出てくる。

 

 そして、その翌日の朝のことだ。

 本日は、これから数時間後にはティアモ攻防戦が開始される見込みだ。昨日は攻撃がなかったが、斥候班が得た魔王軍の動向の情報から判断して、今日は必ず攻めてくるだろうとのことだ。


「おはようアレン。ここに座りなさい」


「セシル様、おはようございます。畏まりました」


「何よその言い方。締めたほうがいいのかしら?」


「いえ、何でもありません」


 アレンはセシルを筆頭とする仲間達から証人喚問に呼ばれた。虚偽の報告は問責の対象になるらしい。


 ここは女王が住まう建物の1室で、アレンの仲間全員がいる。

 昨日のアレンと精霊王の会話の経緯や意味について、戦いが始まる前に教えてほしいと言われた。


 信じるには突拍子もない話であるし、天の恵みを作りながらになると伝えたが、問題ないと言われた。アレンはダンジョン攻略中や拠点にいるとき、授業を受けている時もずっと何かを召喚している。アレンの仲間達は気にならないようだ。アレンとはそういうものだという認識が仲間達の中にある。


 昨日、夕方ごろに帰還し、夜が更ける前に眠りに着いたアレンは、まだ日が昇る前から起きて作業をしている。円形のテーブルの周りに仲間達と座ったアレンは、テーブルの上に植木鉢を置いて天の恵みの作成を始める。今日の戦争のために天の恵みを必要個数準備するためだ。


「それで、昨日の精霊王との会話は何だったのかしら?」


 創造神エルメアがどうとか、ヘルモードがどうとか、転職がどうとか、あまりに訳が分からない話が飛び出ていたが、その会話が何故精霊王と成立するのか、セシルは不思議に思っている。


 こんな話は、日々同じ拠点で過ごした学園生活においても、従僕であった時も聞いたことがない。ただ、ダンジョン攻略の知識も、そもそも召喚士という訳の分からない職業にもきっと意味があったのではと、精霊王との会話を聞く中で感じていた。


 クレナは、何の話をするんだろうとまっすぐアレンを見つめている。


 ソフィーはキラキラした瞳で何を言うのか楽しみにしている。エルフの彼女にとって、精霊王とあれだけ会話が成立したアレンの存在は、天井知らずの大きなものになりつつあった。


 ドゴラとキールは、どこか常人離れしたアレンに、今更何があっても不思議ではないと思っている。多少のことを聞いても驚かないだろうと考えながら、セシルとアレンの会話を傍観している。


 フォルマールは、瞳をキラキラさせているソフィーを心配している。


(最初はなんで黙っていたんだっけ? 転生したことを言うと狐憑きとか悪魔憑きと思われることを嫌ったんだっけ?)


 立場の低い農奴として、アレンはこの異世界にやって来た。

 当然、平民にも劣るこの立場で転生したなんて言おうものなら、理不尽な裁きを受けるかもしれない。だから親にも黙っていた。


(今はどうだろうか。黙っていないと困ることはあったかな?)


 アレンを見つめる仲間達を1人ずつ見ていく。


(ああ、とっくに無くなっていたのか。まあ、親に対してはアレンのままで居たいくらいの思いはあるかな)


 父ロダンや母テレシアに対しては、息子アレンのままで居たいかなと思う。ただし、これから言うことを仲間に話しても、受け入れてくれそうだなとアレンは思う。


「ああ、ずっと言ってなかったな。俺はエルメアにこの世界に連れてこられたんだ。アレンとなってな。簡単に言うと、別の世界から来たって話だ」


「「「は?」」」


「前の世界の知識が引き継がれているから、その時の常識がどうも精霊王と合うらしくって、昨日は会話が成立したんだ」


「え? は? 何言ってんのよ。いや、ん~」


 セシルが否定しようとする。しかし、これまでの前人未踏のダンジョン攻略速度、常識離れした発想や行動に、今の話を当てはめれば納得いくことが多い。セシルはアレンとは別の意味で頭が回る。


「まあ! それは創造神エルメア様に、この世界を救ってほしいと見いだされたってことですわ!!」


「いや、エルメアからは別に何も言われたことはない。ただ、この世界を楽しめと。実際とんと連絡はこないからな」


「それは当然ですわ。神とは見守る者、干渉などしませんわよ。精霊王様も普段何も話をしませんわ」


(ああ、なるほど。神は人間世界に不干渉ってことなのかな。精霊王は亜神だから少し大目に見られていると。だから、多少の融通は利くけど、魔王軍から直接エルフ達を助けることはできなかったのかな)


 わざわざ予言という形でアレンのことを気にかけていたのは、今のような魔王軍に征服される事態を予見したのかもしれない。


「そっか。だからいつも楽しそうなんだ!」


 クレナはアレンがいつも楽しそうにしていたことを思い出す。それは農奴であったころも、学園でダンジョンを攻略していたころも変わらない。ドゴラも頷いており納得しているようだ。


 ドゴラも、何が楽しいんだと思うほど日々楽しく生きているなと思っていた。


「たしかにアレン様のひたむきさは感服させられますわ。そして今、魔王軍からローゼンヘイムを救おうとされています」


 魔王軍から世界を救える素質を有する者だからこそ、アレンは創造神エルメアに見いだされたとソフィーは思ったようだ。


「ちなみに、向こうの世界では何歳だったの?」


 やって来た経緯も気になるが、セシルはアレンの前世の年も気になるようだ。


「35歳かな」


「「「!」」」


「まあ、それではわたくしと同じ年ですわね」


「まあ、そうだな」


(ソフィーはどうやってか13歳が通うはずの学園に48歳で入って来たしな。まあ、5大陸の盟主パワーを使ったんだろうけど)


 アレンが前世の健一だったころの年齢に、今までアレンとして生きた年数を合算すると、ソフィーとは同い年だ。偶然だなとずっと思っていた。


「ああ、これも言っておかないと」


「まだ何かあるの? 全部言いなさいよ」


「魔王に出会って倒せなかったことはないからな。魔王は見つけたら必ず倒すのが元の世界の常識だ」


 元の世界では、魔王は発見したら駆除の対象だと言い切った。


(ゲーマーの常識だけど、そう言っても差し支えはないだろう)


「「「は?」」」


 アレン以外の仲間はアレンはどんな世界から来たんだろうかと思う。


「それにしても良かったな。これで皆の職業を更新できるぞ」


「そうね、これで私は大魔導士になれるのね。ぐふふ」


(セシルがぐふふ言うてる。やっぱり大魔導士になれることは、魔導士として生まれただけにうれしいのかな。えっと皆どんな感じになるんだっけ)


 星1つ ドゴラの斧使い、キールの僧侶、ソフィーの精霊魔法使い、フォルマールの弓使い

 星2つ セシルの魔導士

 星3つ クレナの剣聖


「まあ、大魔導士は星3つだからな。星4はなんだろうな」


「え? 何言ってんのよ。眠たくてよく聞いてなかったんじゃない? 精霊王様は1つ上の職で星は4つまでしか上げられないって言っていたじゃない」


 セシルも皆もアレンの説明で、職業とレア度である星の数については理解している。


 その上で、星2つの魔導士は、1つ上の星3つの大魔導士にしかなれないのではとセシルは言う。


「え? 転職は1回までなんて話じゃなかっただろ?」


(よかった。精霊王が最後眠くて有耶無耶になって。「心が読める」と言い始めた時は焦ったぜ)


「「「え?」」」


「当然、レベルとスキルレベルを上げ切ったら、もう一度転職をお願いするぞ。学園都市ではC級ダンジョンから始めたからな。今度は上限に達するまで1年もかからないぞ。学園に通いながらでもないし」


「ちょっとそれは……」


「セシル、俺らは約束を守ってもらうだけだよ。全員、精霊王様の示した上限まで上げてもらうよ」


 ただそれだけのことだと、アレンは悪い顔で言い切った。


 アレンは全員を星4つの職業に変えようと考えている。

 だから、何回転職できるかなんて話を精霊王とはしなかった。


「そうですわね。精霊王様は無理なことは無理だと言いますわ。そしたら、わ、わたくしも精霊使いになれそうですわ。ぐふふ」


(ソフィーもぐふふ言うとる。このティアモの街にローゼンヘイム唯一の精霊使いがいるんだっけ?)


 あの場で回数には触れなかったから問題ないのではとソフィーも言う。


「さて、話は終わったな。戦争の準備を始めるぞ。必ず勝って転職クエストの条件を達成するんだ!」


「「「お、おう」」」


 勢いよく立ち上がるアレンに必死に調子を合わせようとする仲間達であった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る