第99話 スキル

「もう逃がさねえぞ!!」


 アレンとセシルの前にダグラハが現れた。


(とうとう見つかったか。いやマーダーガルシュに食われたときに気付いていたけど)


 50枚持てるカードのうち48枚を石Dの召喚獣に変更した。既にアレンの上空を索敵する鳥Eの召喚獣はいない。既に見つかってしまったから索敵は不要になった。


 一歩また一歩とダグラハが近づいてくる。アレンの後方に横たわるマーダーガルシュをチラ見する。しかし、あまり興味がないようだ。たかだかマーダーガルシュかと言わんばかりに一瞥しアレンとセシルに視線を戻す。


 アレンが背にセシルを隠す。


(さて、鉄球は投げ切った。短剣はマーダーガルシュに刺さったまま。召喚獣の遅さだときっとダグラハはとらえきれない。選択肢が少ないとやることが決まって分かりやすいな)


「せ、セシルお嬢様お下がり下さい!! ここは私が食い止めます」


(注意を引いてっと)


 アレンは両手を広げ、セシルを隠す。


「なんだ? 使用人の鑑だな。身を挺してってか? そういうのが一番むかつくんだよ!!」


「げはっ」


(まじか、正面向いていても視界から消えた件について。全然見えぬ)


「アレン! キャ!!」


 ダグラハが何か特殊な力を使い高速でアレンを蹴り上げる。そして、アレンの元に駆けて行こうとしたセシルをダグラハが平手で払い飛ばす。その一撃でセシルは意識を失ってしまったようだ。


「どうした? かかってこねえのか? 前見せた魔獣をもう一度出してみろよ」


「……」


「なるほど、この魔獣を倒すのに魔力を使い果たしたってことか」


「お前も俺に追いつくために魔力を使いすぎたんじゃねえのか? 帰りの魔力は残しておいた方がいいぞ」


「あ? 魔力回復薬持っているに決まっているだろ、クソガキが」


「ガフッ」


(よしよし、この馬鹿は何でもしゃべってくれるな。ダグラハは魔力を使っていると。これでスキルについて分かったことがあるぞ)


「こういうガキは教育してやらんとな」


「1年で戦場から逃げてきたような腰抜けに教育できんのか?」


「き、きさま!!」


 すると、アレンの前からまた姿が消え、吹き飛ばされる。今の言葉が気に食わなかったのか念入りに痛めつけることに決めたようだ。


 ボコボコにやられながらもアレンの中で疑問に思っていたことに答えが出た。


 スキルとは何なのかという疑問。


 アレンの認識では3種類のスキルがある。

・1種類目はアレンが1歳の時に魔導書で確認した「召喚術」「生成」「召喚」というスキル

・2種類目は騎士ごっこや石投げで手に入れた「剣術」「投擲」というスキル

・3種類目は「エクストラスキル」でアレンは持っていない


 1種類目と2種類目のスキルの違いは何なのかという疑問だ。

 違いの1つは、魔力を消費するかしないかだろう。

 投擲しても魔力は使わないが、召喚獣を召喚するには、生成の段階で魔力を必要とする。


 ここから、次の疑問が生じる。

 アレン以外の才能があるものはどのようなステータスになっているのだろう。他の才能のあるものは何がスキル欄に載っているのか。


 その答えがダグラハにあった。ダグラハは今、スキル発動に魔力を使うことを暗に示した。ダグラハはきっとこういうステータス欄になっているのだろう。


・アレンの予想するダグラハのステータス

 【スキル】 斥候〈5〉、強奪〈5〉、俊足〈4〉、聞き耳、忍足、気配察知、剣術〈5〉

 【エクストラ】 追跡


 召喚術ならぬ斥候という基本のスキルがあり、レベルが上がるごとにいくつものスキルが枝分かれして成長をしていく。


(答えは最初にあった。異世界に転生する前にヘルモードの説明欄にしっかり書いてあっただろう。職業で選択したスキルというのが、全ての才能のあるものに与えられているんだ。きっとセシルも魔法〈1〉みたいなスキルがステータス欄に載っているんだ)


・ヘルモード(抜粋)

 職業で選択したスキルのみ初期に入手することが可能です。


 才能があるのとないのでは、レベルが上がった時のステータスの上昇値が違う。しかし、それでは才能ありの方が才能なしよりステータスが高いだけだ。


 才能があるということは、魔力を消費し、その使用魔力によって成長する召喚術のようなスキルが皆備わっていると結論づけた。


(ダグラハがこんなあほみたいに強いのは、才能があって、レベルもスキルレベルもしっかり上げているからだろうな)


「気持ち悪いガキだ。何ニヤニヤしている」


「ぶは!!」


(ああ、星1つか2つしかないのに、これだけ強くなれるんだ。星8つの俺が成長するとどれだけ強くなるんだ)


 ダグラハの目にも止まらぬ速さでボコボコにやられながら、成長した自分の将来を予想し笑みを我慢する。




 それから1時間が経過する。


 ボロ雑巾のようにやられたアレンと、息が切れたダグラハがいる。


「クッソかてえな。お前の職業は武僧か? あの魔獣みたいなのが関係してんのか?」


「もう攻撃は止めたのか? じゃあ、さっさとカルネルの街に帰るんだな。殺される前にな」


(ミスリルのレイピアで切りつけてきやがって。くそ痛いんだが? ちょっと命の草が切れそうなんだけど。お前倒したら、そのレイピア貰うからな)


 ダグラハは1時間もかけて痛めつけようとはしていない。既に殺しにかかっているのだが、アレンの体力と耐久力の驚異的な底上げと命の草により延命が続いている。


「あ? 誰に殺されるんだよ。お前にか?」


「まだ分からんのか? 斥候タイプなのに範囲索敵はできないと」


(本当に勉強になるな)


「何の話だ? 話で時間を延ばしてもお前の死は変わらねえぞ?」


「いやいや、本当に遅いんだよ」


「あ? 何がだ……」


 その言葉にダグラハが気付く。遠方から土煙を上げながら、誰かがこちらに向かって走ってくる。

 アレンへの攻撃を止め、ダグラハが警戒するところに騎士が1人現れた。


「ふむ、まだ生きているか?」


 アレンとダグラハが対峙するその場に駆けつけて現れたのは騎士団長であった。


『いや、もう死ぬところだったし。もう少し速く走ってくれ』


「そう言うな、お前ほど速くは走れんのだ。それに、生きている間に間に合っただろう」


 騎士団長の肩に停まる鳥Gの召喚獣がアレンの声で答える。騎士団長の上空では鳥Eの召喚獣が旋回している。


 アレンは既にグランヴェルの街に向けて鳥GEの召喚獣を1体ずつ飛ばしていた。騎士団長を探し出し、鳥Gの召喚獣を使い事態の説明。騎士団長は召喚獣に誘導されながらこちらに向かっていた。


 騎士団長には、アレンの才能が知られており、すぐに状況を飲み込んでくれた。


(へへ、おやびん。やっちまってくだせえ)


 アレンは敵を倒すのに手段を選ばない。


「ゼノフか」


 ダグラハはすぐに誰だか気付く。


「そうだ」


「貴族に尻尾を振る寄生虫が、調子に乗ってのこのこ出てきやがって」


(お前も貴族に雇われた暗殺者だろ)


「貴族の寄生虫か」


「ああ、そうだ。お前なら分かるだろ。戦場で平民を駒のように使う貴族共のことを」


「まあ、それは否定するものではないか」


「だろ? 才能のない糞共のために必死に戦うやつも糞だ。お前のようにな」


「……」


「10年も要塞を守って何を手に入れた? 本当に笑わせるぜ。その功績の褒美が片田舎の騎士団長か。大した褒美だぜ」


 そういうとダグラハは姿を消した。跳ねる土や草が、ダグラハが高速に動いていることを教えてくれる。


「アレンよ、少し下がっておれ。巻き込んでしまうからな」


「え、はい」


 ため口で話してしまっていたアレンが敬語に戻る。明らかに怒っている騎士団長の表情に驚いたからではない。アレンの方に向いた騎士団長の体が陽炎のように揺らいでいる。ゆっくりと剣を抜いていく。


(そうか、エクストラスキルはこんなエフェクトが出るんだ。そういえばオークキング倒す時もエクストラスキル使っていなかったような)


 通常スキルでも職業スキルでも現れないエフェクトがエクストラスキルにはあるのだと思う。こんな状況でも新たな発見がある。


「どこ向いてやがる、死にやがれ!!」


 姿が消えるほどの動きを見せたダグラハが現れ、騎士団長の心臓目掛けてレイピアを突き立てる。


「全ての人のために我らは戦ってきた。そして仲間達は皆死んでいった。我を残して1人残らずな」


「くそ! なんて硬さだ」


 騎士団長の話など耳に入らず、レイピアに力を込めて必死に貫こうとする。鎧を貫通したミスリルのレイピアを両手で握りしめ心臓を貫こうとする。しかし、突き立てた鎧からは一滴も血がでない。


(すごい耐久力だな。これが剣豪か。戦場でどれだけ戦ってきたんだ)


 星2つのレア職業である剣豪の才能のある騎士団長の耐久力に対してダグラハの攻撃力は低すぎるようだ。


「命を懸け皆、必死に守ってきた! 我らの行いは誰にも決して否定させぬわ!!!」


 その言葉と共に、振り上げた剣を袈裟懸けに切り払い、ダグラハの体が両断される。さらに剣戟の衝撃波で、100メートル以上に渡って土が大きくめくれ吹き飛んでいく。


 アレンはあまりの威力に息を飲む。こうして、3日に渡るダグラハとの追跡劇が、終わりを告げたのであった。

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