第288話 ゴルディノ戦①

『我と戦いに挑むか。矮小なる者達よ』


(ふむ、「矮小なる者」なんて言われる日が来るなんて思っても見なかったな。それにしても、最下層ボスは人格があるのか。前回戦った記憶が引き継げないことも含めて、A級ダンジョンの最下層ボスと同じか)


 たしかにこれから相手をする5体の巨大なゴーレムたちからしたら、アレンたちなど矮小も矮小なのだろう。


 そして、人格のあるこのゴルディノと名乗るヒヒイロカネで出来たゴーレムはどうやら、前回ガララ提督と戦った時の記憶を共有してはいないようだ。


 毎回、最下層ボスに戦いを挑む時、人格を生成されるのかとアレンは考える。

 これなら、作戦が同じでも、少々変えても、再挑戦する際には手の内がバレることはないだろう。


『『『……』』』


 ゴルディノが話し出した瞬間に、4体のゴーレムが動き出した。

 この点もガララ提督に聞いていた通りだ。


 ボス戦は1体と戦うとは限らない。

 そして、複数体いるからと言って同時に襲ってくるとも限らない。

 今回の最下層ボス戦はいきなり同時に襲ってくるようだ。


「逃げるぞ。左手の通路に逃げ込め!!」


『な!? いきなり逃げるだと! こ、この腰抜け共め!!』


 無機質なゴーレムでもしっかり驚いた感があるなとアレンは思う。


「「「おおお!!!」」」


 アレンの掛け声で、ワラワラとこの巨大ゴーレムから逃げ始める。


 4パーティーのリーダーは、ゼウ獣王子だ。

 しかし、パーティー全体を指揮するのはアレンが行うことになった。


 これはアレンがレイド戦に慣れていたからだ。

 複数のパーティーリーダーと交渉し、作戦をたて、確率の高い方法で勝利を導く思考は、5日間の間でアレンたち以外の他のパーティーにも理解できた。


 全体を見て指揮をするアレンは、撤退する、攻めるときの対象や優先順位などを決める。


 しかし、アレンが40数人全員の全てを指揮するわけではない。

 パーティー内の細かい動きについては、それぞれのパーティーリーダーに任せている。


 この辺りもレイド戦の醍醐味だ。


 アレンの掛け声とともに逃げ始める。

 アレンは鳥Bの召喚獣を貸してほしいという者には貸すことにしている。

 しかし、ドベルグのように長年培った戦い方をしている者も多い。


 自分の足で動いた方が戦いやすいという者は、強要はしないことにした。


 ワラワラと逃げる仲間たちを守るのがアレンとメルル、そしてガララ提督のパーティーだ。


「いくぞ!! 野郎ども!!」


 ガララ提督ががさつな掛け声を放ち皆に喝を入れる。

 そして、メルルを含む15体のゴーレムが現れる。

 全て100メートルの超身兵だ。


『ほう。ヒヒイロカネゴーレムを持つ者もいるのか』


 ガララ提督には、アレンたちが銀箱から出したヒヒイロカネの超身兵セットを渡してある。


 【名 前】 ゲララパ

 【操縦者】 ガララ

 【ランク】 ヒヒイロカネ

 【体 力】 25000+2400

 【魔 力】 25000+2400

 【攻撃力】 25000+2400

 【耐久力】 25000+2400

 【素早さ】 25000

 【知 力】 25000+2400

 【幸 運】 25000


 ガララ提督の魔導盤を見せてもらったので、アレンの魔導書には超身兵のヒヒイロカネゴーレムのステータスが記録されている。


 素のステータスは、ブロンズは1000、アイアンは1500、ミスリルは3000だった。

 ヒヒイロカネはなんと5000ある。


 お陰で超身兵となったヒヒイロカネゴーレムは全ステータス25000に達した。

 そして、魔岩王のスキルによってステータスは更に増加する。


 ゴルディノ率いるゴーレムたちが、ガララ提督やメルルやドワーフたちが乗る超身兵ゴーレムに襲い掛かる。


「ぬぐあ!!」


「ベルルカ大丈夫か!!」


「へい。ガララ提督!」


 ミスリルゴーレムに乗ったドワーフ一体の片腕が大きく損傷する。

 両手がドリルパンチになったブロンズゴーレムに粉砕されたからだ。


「ガララ提督は前に、オロチは撤退をサポートしろ!」


「ああ!」


『『『おう!!!』』』


 片腕を根元から粉砕されたミスリルゴーレムの操縦者ベルルカはゴーレムの水晶の中で急いでミスリルの石板をはめ直す。


 ゴーレム使いのドワーフたちには木箱の「外れくじ」たるミスリルの石板を大量に渡してある。

 その外れくじの数は1000を超える。


 戦いが終わればドワーフたちから回収する予定だが、いくらでも使ってよいと伝えている。

 ゴーレム本体が破壊されて使い物にならなくなった石板も「修復」スキルがあれば、また使えるようになるので、多少破壊されても気にはならない。


 そして、ヒヒイロカネゴーレムを手にしたガララ提督が前面に出てブロンズゴーレムの攻撃を受けとめるが、完全には防げないようだ。


 大きく破壊されることはないが、ヒヒイロカネのボディが傷ついていく。


(やはり消耗率が半端ないな。他のドワーフたちもぼろぼろだ)


 アレンは現在の戦況を把握する。

 他にないと言えるほどの壁役に適したドワーフのゴーレム兵がどんどん傷つき損壊していく。

 アレンも召喚獣を使ってサポートしているが、5体同時だと明らかに守りが足りない。


「すみませんが、やはり耐えられそうにありません。皆、『超合体』をお願いします!!」


 ガララ提督たちが時間を稼いでいる間に順調に後退する仲間たちも問題ない。

 そして、予想通り超身兵となったガララ提督のヒヒイロカネゴーレムでもブロンズゴーレムの一撃は耐えられなかったようだ。


 そこでアレンは「超合体」をお願いする。


「あん? 大丈夫か! こんなしょっぱなから使ってしまって」


「構いません! 初戦です!! 確実な方法で戦いましょう!!」


「よし! 分かった! お前ら超合体だ! おい、メルル! お前はこっちに来い! 右手になれ!!」


「「「提督了解です!!」」」


「うん、提督!」


 ドワーフたちが14体のミスリルゴーレムと、ガララ提督のヒヒイロカネゴーレム1体を輝かせ始める。

 そして、目が眩むほどの輝きになったかと思うと3体の巨大なゴーレムが降臨する。


 ゴーレム使いのエクストラスキルは全員「合体」だ。

 サイズが同じゴーレム同士しか合体できないが、超身兵同士の合体を特に「超合体」と呼ぶ。


 胸の水晶にはそれぞれ5人のドワーフたちが乗っており、正面にいる敵たちを睨みつけている。


「うりゃああああ! てめえら、調子にのってんじゃねえええ!!」


(ぶは! 浪漫しかないんだが)


 アレンはキラキラした目で超合体ゴーレムたちを見る。


 大きさは超身兵のゴーレムの1.5倍ほどの、全長150メートルに達する。

 ステータスもそれくらい増加する。


 超合体をすると更にステータスが1万ほど増えるようだ。

 ガララ提督のゴーレムはヒヒイロカネなので、ガララ提督が乗っている超合体ゴーレムはさらにステータスが上昇する。


 体の胴体部分がヒヒイロカネのガララ提督が操縦する超合体ゴーレムがブロンズゴーレムを両手で持ち上げた。


 そして、足場を粉砕するほどの力を込め、ドリルパンチのアイアンゴーレムを抱え上げる。

 足をバタバタするブロンズゴーレムを全力で投げ飛ばす。


『調子に乗っているのは貴様らだ! ゆけ、ミスリルゴーレムよ!!』


 ゴルディノが仲間のミスリルゴーレムに指示を出す。

 宙に浮いたミスリルゴーレムが変形し、突出した2つの砲台からの攻撃が雨あられのように襲い掛かる。


「ロカネルたち出番だ。一発も取り逃がすなよ」


『『『……』』』


 5体の石Aの召喚獣が無言で現れる。

 そして、金属球を中空に浮かし、ミスリルゴーレムの遠距離攻撃をひたすら吸収し続ける。


 ミスリルゴーレムのほとんどの遠距離攻撃が石Aの召喚獣に吸収されていく。


 そして、2体の石Aの召喚獣が全身にヒビが出来て限界に達する。

 これ以上吸収すると体が崩壊しそうだ。


「十分だ! 薙ぎ払え!!」


 限界に達した2体の石Aの召喚獣による覚醒スキル「収束砲撃」を打ち放つ。

 収束砲撃によってミスリルゴーレムは大きく粉砕され、地面に堕ちる。


『ミスリルゴーレムを1体倒しました。経験値8億を取得しました』


 2発の収束砲撃で確実に倒せたようだ。

 ミスリルゴーレムを倒したことと、経験値のログが魔導書に表示される。


『ふん。それで勝ったつもりか? アイアンよ。リペアエナジーを使うのだ!』


(何かセリフの1つ1つが悪役感半端ないな)


『リペアエナジー』


 アイアンゴーレムは粉砕され大きく拉げたミスリルゴーレムを一気に修復させる。


「仲間たちが既に通路に逃げ込めました。時間がありませんので、ガララ提督の超合体を最後尾に通路に逃げ込みましょう!」


 ゴーレム使いのエクストラスキル「超合体」には制限時間がある。

 1時間経つと合体は解け、1日のクールタイムが生じる。

 超合体ゴーレムの時間制約も、最下層ボス攻略の時間を1時間とした理由の一つだ。


(さて、この蘇生役が2体いるせいで、無駄に難易度を上げているな。たぶん、ゴルディノを倒しても蘇生するだろうしな)


 歩幅も大きい3体の超合体ゴーレムが通路に逃げ込む。

 通路はそれなりに幅があるのだが、超合体したゴーレムが1体いれば、敵のゴーレムたちが回り込めるほどの余裕はない。


 お陰でゴルディノ率いるゴーレムたちは1列に並んだ状態で、通路に侵入してくる。

 ただし、天井はかなり高く、ミスリルゴーレムだけ遠距離攻撃で爆撃してくるので、石Aの召喚獣が定期的に撃墜させる。


『そんなところに逃げ込んだが、もう戦意を喪失したのか? 怯える貴様らをひねりつぶすのは、さぞ愉快であろうな!!』


 ゴルディノがガンガン挑発してくる。

 ガララ提督に迫るのは接近戦を得意とするブロンズゴーレムだ。

 その次にゴルディノ、槍のアイアンゴーレム、盾のアイアンゴーレムだ。


 アイアンゴーレムまでかなりの距離があり攻撃するのは不可能な状態だ。


(ふむふむ、こんな隊列で入って来たか。できればアイアンは分散してほしかったが。まあ行けるだろう)


 ブロンズゴーレムの攻撃力は超合体したガララ提督のゴーレムに拮抗しているようだ。

 せめぎ合いながら攻防を繰り返す。


 パーティーの仲間たちも遠距離魔法を使い、体力を削っていく。


「メルス、そろそろいけるか?」


『ああ、属性付与と巣の設定は終わったぞ』


 メルスがアレンの元に戻って来たので確認する。

 メルスが戻ってきたことが、この巨大なゴーレムたちが完全に通路に入ったこと、特技「属性付与」が終わったこと、「巣」の設置が終わったことの合図だ。


「よし、攻め時だな。皆いくぞ! 帰巣本能!!」


『ぬ?』


 ゴルディノは何だと思ったが、その全容がわからない。

 ガララ提督の超合体ゴーレムが視界の大部分を隠しているからだ。


 そんな中、アレンたちは鳥Aの召喚獣の覚醒スキル「帰巣本能」を使用する。


「挟み込んだぞ!!」


「「「おおおおおおぉおお!!!」」」


 通路に完全に入った最後尾のアイアンゴーレムの後ろから超合体ゴーレムが迫る。


 ガララ提督が大きく檄を入れ、仲間たちも自らを鼓舞する。

 アレンたちの最下層ボス戦は続いていくのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る