第169話 夜襲①

「夜襲? これから戦うの?」


「そうだ、クレナ。俺が別働で動くから合わせてくれ」


「分かった!」


 アレンがそれだけ言うと、アレンの仲間達は理解できる。

 アレンがこれから何をするのかは分からない。

 ダンジョンの攻略でも、よく分からない戦い方や作戦を口にすることが多かった。分からないなりに付き合っていると、後で思えば理にかなっていることがたくさんあった。


 これからやろうとしていることもきっとその類のことだろうとアレンの仲間達は思う。


「そ、それは、これから7人で街の外に行くということですか?」


「いいえ。フォルマールはここに残り、回復の手配と、戦場の情報の共有をしなさい」


 女王の問いに、ソフィーはフォルマールをここに残すと言う。

 回復薬による負傷者回復の采配や手配をするために、その効果をしっかり理解できている者はいた方が良い。


「は、はい。ソフィアローネ様」


(そうだな。さすがソフィーだな。エリーも一体残して、情報を共有させるか)


 そして、これから軍議も同時進行で行われる。軍議に参加し、そして情報を共有してくれる者が、アレンの仲間に1人いた方が良い。


 ネストの街同様に、ここにも霊Bの召喚獣を1体残して軍議に参加させる。


「エリー、ここで話し合った情報を共有してくれ」


『アレン様、承りましたデス』


「「「精霊か?」」」


 エルフ達が霊Bの召喚獣を見て、「精霊」と口々に言う。


「いえ、私の召喚獣です。精霊使いの精霊とは違いますね」


 エルフ達が驚愕しながら、霊Bの召喚獣をしげしげと見つめている。


(ネストの街もそうだったけど、エルフ達はエリーに結構びっくりするな。霊Bの召喚獣は普段から目にしてる精霊に結構似ているんだろう。精霊使いもいるんだっけ。今度見てみたいな)


 精霊魔法は、精霊魔法使いの才能を持つ者が、精霊の力を使って魔法を行使する。

 しかし、その上位の職業に、精霊使いといって、直接精霊と契約を交わし戦わせる職業がある。

 精霊使いはエルフにしかいないと言われている。


 ドワーフのゴーレム使いのように種族特性なのかもしれないとアレンは思っている。


「そうなのか」


「そう言えば、街を上空から監視しているような動きをしている眼玉の大きな蝙蝠は、精霊ではないですよね?」


(明らかに味方のような気がしないし、撃ち落としてもいいよね)


 このティアモの街の外周を回るように、6体ほどの大型の蝙蝠が飛んでいた。

 念のために、それは精霊ではないか確認する。


「いや、それらは魔王軍の斥候だ」


 魔王軍の斥候は、街の弓兵がかなりの数を落としてきたが、落としても落としても次々と街の上空にやってくる。その結果、街の情報はかなりの部分が魔王軍に伝わってしまっていると言う。


「では、6体の斥候についてはこちらで撃墜しておきますので、その合図と共に行動を開始してください」


 これからティアモの街は一気に動き始める。

 次から次に敵の斥候が出てくるという話なので、完全に情報を封鎖することは難しいかもしれない。しかし、なるべく敵に情報を与えないということだ。


「ソフィー」


 アレンが動き始めようとしたところで、女王が言葉を発した。


「はい、女王陛下」


「よろしく頼みましたよ」


「はい」


 実の娘ソフィーが、これから30万の魔王軍に対してたった6人で夜襲を仕掛けようとしているが、止めるようなことはしないようだ。

 これも王族として生まれた者の定めだと思っているのかもしれない。


 アレンは1000個の天の恵みを広間に出し、仲間と共に建物の外に出る。


「よし、まずは敵の索敵の目を無くさないとな。ホロウ、エリー達出て来い」


『ホー!』


『『『敵の目を潰すのデスね』』』

 

 今一度、鳥Dの召喚獣に覚醒スキル「白夜」を使わせる。

 覚醒スキル「白夜」は一度使用すると次回使用までにスキルのクールタイムが1日必要であるため、ティアモに来た時とは別の鳥Dの召喚獣に使わせる。


 このスキルは、使用する召喚獣を中心とした半径100キロメートル内を対象に、何があるか認識できる。


 魔王軍の斥候の正確な位置を把握し、霊Bの召喚獣に速やかに排除させる。

 女王やフォルマールと共にいる、建物内に残した霊Bの召喚獣により、斥候達を倒した旨報告をする。


 あまりに素早い対処を霊Bから伝えられたエルフ達は驚いていたが、アレンは既に次の行動を始めている。


「よし、じゃあ次は北門を目指すぞ」


「北にいくのね?」


「ああ、北門を出たところに一番魔獣が多くいる」


 覚醒スキル「白夜」は索敵範囲が広すぎるため、その効力は街の外にまで及ぶ。既に魔王軍がどこにどれだけいるのかも把握できている。


 この街ティアモは1辺が5キロメートルほどの正方形の街で、東西南北に門がある。


 そして、魔王軍は東西南北の各門から1キロメートルほど離れた位置に、3万ずつの軍勢を4箇所配置している。


 また、エルフたちを南方へ逃がさないようにするためか、南には更に5万の軍勢が東西に広がるように陣を組んでいる。残り13万の軍勢は、北に丸く固まって布陣している。


 今回狙うのは、北に密集している13万の軍勢だ。


 アレンは鳥Bの召喚獣を召喚し、皆が跨ったところで鳥Bの召喚獣は上昇を開始する。


 この闇夜で上空に1キロメートルも上昇すれば、敵陣から把握されず移動ができる。

 日中でも3キロメートルも上昇すれば、ほぼ認識されないかもしれない。


 そのまま街の北門を目指し飛んで行く。


 このティアモの街は、高さ10メートルの巨大な街壁で守られている。王国にはこんなに高い壁はそうそうなかった。


 街壁を越えると、3万の軍勢が門から1キロメートルほど離れた位置で固まっている。

 闇夜に紛れており、1キロメートルもの上空を飛んでいるが、わざわざ気付かれるリスクを冒す必要はない。

 3万の軍勢を避けるように弧を描いて飛び、本陣を目指す。


 すると、3万の軍勢の塊から更に3キロメートルほど離れた位置に、13万の軍勢が固まるように布陣している。


 固まっているといってもかなり広い範囲にいるなと思う。魔王軍はBランク以上の魔獣で構成されているため、1体1体の大きさが人間の比ではない。5メートル以上の大きさの魔獣もかなり多い。


(このティアモの街は魔王軍30万で攻めているのか。残り270万はどこにいるんだ? この辺も確認しておくか)


 ローゼンヘイムを攻めている魔王軍は300万体と聞いている。


 さらに近づいて、敵本陣の東1キロメートルのところに降りる。


「ここから一気に攻めるの?」


「そうだ、クレナ。魔獣の種類的に、ここから攻めた方が効率がいい」


「分かった」


 いつもより小声で話す。なお、戦闘時も鳥Bの召喚獣に乗るようにしているため、鳥Bの召喚獣は消さない。

 飛んで逃げられるようにしていた方が、何かあった時の離脱に便利だ。そして、鳥Bの召喚獣は3人くらいで乗っても飛行は可能だ。もし乗っている鳥Bの召喚獣が倒されたら、無事な方に飛び乗るように皆で申し合わせている。


「ドラドラ達、ケロリン達出て来い。屈めよ」


 すると30体の竜Bの召喚獣と10体の獣Bの召喚獣が出て来る。続けてアレンは話す。


「いいか? ドラドラはブレスで広範囲に攻撃しろ。ケロリンは、Aランクがたまにいるからな。それはお前に任せるぞ」


『相分かった』


『は!』


 竜系統はBランクの召喚獣になって初めて出てきた系統だ。しかしそれで獣系統と能力が被りどちらかが不要になるというわけではない。竜Bは遠距離範囲攻撃が得意だ。そして、獣Bは近距離連続攻撃が得意だ。


 ただ、竜Bの召喚獣では、この13万の集団の中にいるAランクを覚醒スキルでも倒せない。

 しかし、獣Bの召喚獣は、ドラゴン以外のAランクなら覚醒スキルを使えば1撃で倒すことができる。竜と獣で強みや特徴が違う。


 高速召喚で、さくさく全員に魚バフも満遍なくかけていく。覚醒スキルもフルでかけていく。それに合わせてキールとソフィーが補助魔法をかける。


 鳥Dの夜目の索敵範囲内を上空から確認した限り、うっすら光ったバフや補助魔法に魔王軍が反応した様子はない。魔獣の不自然な動きもつぶさに捉えている。


「よし、問題ないな。セシル、俺と一緒に上空から攻めるぞ」


「分かったわ」


「皆は、俺たちの攻撃が始まったら突っ込んできてくれ。無理はするなよ」


「「「はい」」」


「ドラドラ達とケロリン達は存分に暴れてくれ」


『おう、任せてくれ』


『は!』


 この後の行動確認を終えると、アレンとセシルが乗ったそれぞれの鳥Bの召喚獣が空に舞い上がっていく。

 どんどん上昇し、そして敵本陣の上空1キロメートルほどの位置に到着する。


(まだ気付かないか? それなりの索敵班がいれば気付きそうなものだけどな。エルフに上空から攻める能力がないからか。想定していないことには対応しないと。それにしてもぐっすり寝ているな)


 魔王軍は思い思いに寝ている。

 アレンはこれまでの狩りで、魔獣にも睡眠が必要なことや食事が必要なこと、季節により移動することも知っている。


(やはり、捕らえられて生き残っているエルフはいないか。食われてしまったのか)


 魔王軍はエルフの拠点を何十も落としているが、この本陣に捕虜となっているエルフは1人もいないようだ。300万の魔王軍の魔獣達の食料にされたのかと思う。


(お前らが始めたことだ。死をもって後悔するといい)


「セシル、行けそうか?」


「問題ないわ。ちょっと待ってね」


 敵が油断している状態での初撃は最高火力が基本だ。今まではアレンの石E爆弾が担っていたが、今は違う。圧倒的な火力を持った少女が隣にいる。


 セシルは目をつぶり意識を集中し始める。


(お、成功だな)


 セシルの体が陽炎のように揺らぎ始める。


 そして、両手を宙に突き出し、言葉を発した。


「プチメテオ!!」


 大きな声と共に、真っ赤に熱を帯びた巨大な岩の塊が1つ、天から落ちてくる。

 岩塊は吸い込まれるように地面に激突し、魔獣達ごと地面を捲り上げ吹き飛ばしていく。


 街までも轟きそうなその破壊力が、夜襲開始の狼煙を上げたのだ。

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