第495話 やり込み好きのゲーマー

 アレンはメルスに指示をして、アレン軍、勇者軍、ガララ軍の全軍を連れてきてもらった。


『な、なんだよ。この人数は!?』


 合わせて万を超える軍が審判の門の目の前に現れ、メガデスは絶句する。

 だが、それ以上に状況が付いていけない、連れてきた者たちが門の前で驚愕している。

 ヘルミオスとガララ提督がアレンの下にやってくる。


「これが神界へ行くための門か」


 ヘルミオスと一緒にやってきたガララ提督も呆れている。


 鳥Fの召喚獣の覚醒スキル「伝令」を使い、アレンの仲間たち同様に竜王との戦いやその後のいきさつを見せてきた。

 それでも目の前の光景が信じられないでいる。


「そうですよ。ヘルミオスさん。審判の門を先に開けてしまって申し訳ありません」


 皆が来る前に審判の門の開門式を済ませてしまったことを謝罪する。


「ここが新たなお前らの次の冒険先か? どこまで行ったら満足するんだ」


 ガララ提督はS級ダンジョンで拠点に一緒にいる頃から、アレンは冒険心の強い男だと思っていたようだ。


「そうですね。まあ、これが終われば魔王軍との戦いにといったところでしょうか」


「ほう、まあ中央大陸じゃ要塞作りくらいしかやることなさそうだからな」


 ガララ提督はアレンの言葉を理解する。


 中央大陸の魔王軍拠点は攻め落とした。

 中央大陸から魔王軍を排除できたことを祝した催しはギアムート帝国やバウキス帝国で行われた。


 5大陸同盟の会議でこれからの最も大きな議題の1つに、中央大陸最北部にいかにしても強固な要塞を造るかという話がある。

 魔王軍からとり返した領土は、死守し奪い返されてはならない。


 ただ、要塞を作るよりもっと重要で、勇者ヘルミオスやガララ提督もアレンたちと共にしなければいけないものがある。

 アレンたちが倒すべき敵がこの世界にはいる。


「じゃあ、これが終わったら魔王軍との本格的な戦いが待っているんだね」


 ヘルミオスの言葉にガララ提督も強く頷く。


「そうです。まあ、強化があまり進まなければ、他の手段も探しますが」


 魔王との戦いは確信がある状況で臨みたい。

 神界という響きだけで目指してみたが、強くなれる確信はない。


(手段を選ぶわけにはいかないな。負けてしまっては意味がないし)


 誰かに遠慮して、負けてしまっては意味がなし。


「神界とは、まるで神話の話ではなかったのか」

「神界への道を開けるとは。アレン総帥は、どこまでのお人なのか」

「見よ、あの日の光よ。我らの未来を照らしているようだぞ……」


 全ての兵たちも絶句している。

 数十年間魔王軍に支配を受けていた人々の領域をたった10日で奪還するだけでなく、神界にも足を踏み入れようとしている。


 ざわつく中、アレンが勇者ヘルミオスの元から隊列を組んだ各軍の前に歩みを進めた。

 審判の門を開かせたアレンがやってきたので、一気に神殿は沈黙に包まれる。


「皆、ここから先に新しい世界が広がっている。私たちはもっと強くならねばならない」


 アレンはさらに話を続ける。


「新たな力を手に入れ、魔王の恐怖から世界を救うのだ!!」


「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」


 神殿は歓声にも似た雄叫びに包まれる。


 ここにいるほとんどの者が、魔王が世界を攻めるよりも後に生まれた者たちだ。

 攻められるのが当たり前で、戦いの中で死ぬこともある人生だと考える兵も多い。

 アレンの言葉に魔王を打倒し、魔王のいない世界がやってくるのかと希望を見出した者もいるようだ。


 アレンは当たり前のように万を超える兵たちを神界に連れて行こうとする。


(さあ、新フィールドが実装されましたよ。一斉に駆け込んで鯖を落とさないようにね。神界だけに新フィールドか。ぷぷ、うける)


 アレンは前世の健一の頃から、やり込みが好きだった。

 だけど、やり込んで手に入れた物を独占したことはなかった。

 やり込んで手に入れた物も情報も仲間たちと共有してきた。


 この世界にやってきてからも、やることは変わらない。

 やり込みまくって、アレンは力を求めるが、だからといって手に入った物は独占しない。

 お金だろうと、オリハルコンの貴重な武器や防具だろうと、神技だろうと必要とあらば、皆に配ることは惜しまない。


 アレンはこの世界に来ても「やり込み好きのゲーマー」の心を忘れていなかった。


『ちょ、ちょっと待つんだ!!』


(あん? 何だよ。っていうか、やっぱりきたか)


 兵たちの士気が高揚する中、メガデスがアレンの下に飛んでくる。

 アレンはメガデスの反応を想定していた。


「なんでしょうか。ああ、神界の案内もしていただけるとか? 助かります」


 神界はとても広大だと聞いている。

 試しの門の案内係が神界も案内してくれるなら助かると安堵の顔を浮かべる。


『いや、違うよ。何で、攻略してもいない者たちが神界に行けるんだよ』


 あくまでも試しの門を攻略してきた者だけだとメガデスは言う。


「攻略をしてきました」


『え?』


「ですので、試しの門にある3つの門番の領域に全て者は入っております」


(さっきだけど)


 彼らは竜でも乗り手でもないので、門番と直接戦う必要はないですよねという言葉も付け足す。


 アレンは転移ができる「巣」を門番のいる領域に設置していた。

 クレナたちの戦いの中、アレン軍ら全員をメルスに転移させていた。

 既にここにいる全ての者は門番のいる領域に足を踏み入れたことになる。


『そ、そんなことが!?』


 メガデスは勇者ヘルミオスやガララ提督の周りをパタパタと飛ぶ。

 ガララ提督は、なんかS級ダンジョンの最下層ボスに挑戦する前の茶番じみ出来事を思い出しているようだ。

 また、アレンがしでかしたのかと無言で静観することにする。


 メガデスはその後もアレン軍の中や勇者軍の中をパタパタと飛び回って兵たちの顔やらを見ている。


(そんなことで確認ができるのか)


 一通り、パタパタと飛び回った後、アレンの下に戻ってきた。


「いかがでしょう。試しの門を皆で攻略するのって結構大変でした」


 本当は転移を繰り返しただけなのであっという間だ。


『皆、試しの門を攻略している……』


「良かった。メルルやキールのようにすぐに同行した仲間もいましたが、少しばかり遅れても問題なくて助かりました」


(ムートンからも、ダークエルフたちが竜人たちの攻略の途中から参加しているって聞いているしな)


 メルルやキールは牙の門の途中から、攻略に参加した。


 アレンはパーティーだけで神界を目指すつもりはなかった。

 また、これからもパーティーの仲間が加入する可能性もあるので、神界に行けないでは困る。

 審判の門を越える条件をしっかり確認しての行動だ。


『いや、だけど、こんな人数を……』


「えっと、メガデス様、もしかして、試しの門は何人で挑戦しても良い。しかし、神界に行ける人数に制限を設けていた。そんな理が既にあったということでしょうか?」


『え!? そんなわけがない……』


 言葉の最後の方が小さすぎて聞き取れなかった。


 まるで調停神がメガデスに詰問していたときのように、アレンはこの状況の確信となる部分を口にする。

 もしも、人数を条件で神界に行くことを断ると言うなら、そもそも、試しの門に人数制限がないのはおかしい。


 試しの門の攻略に人数制限を設けていれば、竜人たちが1万人も死なずに済んだ。

 ダークエルフも2千人も死なずに済んでいたのだ。

 人数制限によって、試しの門の攻略を途中であきらめるという選択も早い時期にできたはずだ。


『アレン殿よ……』


 ルークの頭の上に乗るムートンもこの状況を理解した。

 これは自分のためにもメガデスと戦っていることを理解する。


『……』


 メガデスはアレンの行為に反論ができないようだ。


(虚偽は言えないってことかな。ん? 誰か来る?)


 全員がアレンとメガデスの駆け引きを見つめる中、審判の門の先からやってくる男がいた。

 審判の門から出、竜王のいた台座の上にふわりと降り立った。

 紺色の長髪を腰まで伸ばしている。

 メルスと同じようにギリシャの時代に来ていたような、フワフワな真っ白な服を纏っていた。

 年は30台ぐらいだろうか、メルスと違って羽は生えていない。


『その辺にしてあげて下さい。私の作った理に問題があったことを認めましょう』


『時空神デスペラード様!』


 状況に見かねて、開かれた試しの門を通じて神界から時空神デスペラードがやってきた。


「これは時空神様、神界の前でお騒がせしております」


(お? もめ事を起こしたら上司がやってきたぞ)


 アレンは悪い顔をしたまま跪いた。


 神界からやってきた者は神であることは誰でも理解ができる。

 一気にドミノ倒しが広がるように仲間たちも兵たちも全員跪く。


『あなたがアレンですか。エルメア様からも聞いておりますが、審判の門の前でこのようなもめ……。交渉事をされるとは思ってもみませんでしたよ』


 私の先見の力でも予見できなかったとため息をつく。


(もめ事と言おうとして取り消したな。穏便に済ませたいと)


「はあ、交渉でございますか。私は魔王と戦く皆で神界を目指したいだけなのですが……」


『アレンよ。皆で分かち合う、その気持ちは大事なことです。ただ、神界を大人数で足を踏み入れることはできません』


 神界は人々が活動し、住まう場所ではないと言う。


「そ、そんな……。皆でこんなに頑張ってきたのに……」


 アレンは分かりやすいように絶句する。

 後からチャチャッと転移させたことを知っているのか、アレンの態度に時空神の表情が引きつる。


『たしかに、このようなことを想定していなかった私の責任です。何か代わりになる物と人数を制限する。その交換でいきませんか?』


「ではそうですね。ほしいものでいうと先ほどの竜王とアステルさんが使っていた神技をクレナとハクにお与え下さい」


 まるで想定していたかのように、アレンはすごい勢いでほしいものを言う。


『む、まあ、いいでしょう。あれは、神界を目指す竜とその乗り手に力を与えるために私が用意したものです』


「へば?」

『ギャウ!?』


 時空神が手をかざしたと思ったら速やかにスキルの提供が行われる。

 クレナは『竜騎士の神技』、ハクは『竜王の神技』を手に入れた。


(なるほど、試しの門の攻略を急いでしまうと、門番戦で負ける仕組みになっているのか)


 試しの門の尋常じゃない広さや手に入る装備品やアイテム、神技には意味があった。

 ただ、結果的に竜王は何かが足りず最後の門番戦で敗れてしまったようだ。


「あとは、私の仲間のセシルは魔導を極めんとしております」


 アレンの欲しいものが止まらない。


「ん? アレン」


 セシルはいきなり自分の名前を出されてハッとする。


『ほう?』


 神技を与えると言ったのにまだあるようなので、時空神はアレンの話を聞いている。


「ぜひ、魔導の深淵をセシルに覗かせて下さい。魔法神イシリス様の神殿に足を踏み入れる許可をお与え下さいませ」


『私の妻に会いたいと。ん~』


 渋い声が時空神から漏れる。


「お願いします」


『いや、イシリスは今機嫌が悪いのですが、……そうですね。神殿へ入る許可を与えましょう』


(何だよ、機嫌の悪い神って。クエストの予感しかしないぞ)


 パア


 何かが始まる予感がする。

 そのアレンの前の前に光り輝く2種類の鍵が目の前に現れる。


「鍵が2つ?」


『はい。1つ目は審判の門の鍵です。これはパーティーリーダーであるアレンに渡しましょう。そして、もう1つはイシリスの神殿の鍵です』


(おお! 初めて鍵的なやつを貰ったぞ)


 この世界にも『鍵』があったのかとアレンは感動する。

 やはり、移動先を広げるのは扉であり、扉を開けるのは『鍵』だと思う。


 この審判の門は早々に閉じられ、開けるために必要な鍵らしい。

 そして、神殿を開けるのも鍵が必要で、魔法神イシリスの神殿の鍵を手に入れた。


「アレン…」


 アレンが自らのために時空神と交渉してくれたことにセシルは感謝する。


『それを使い、イシリスの神殿に向かうと良い。それで人数ですが、アレンのパーティー……』


「おおお!! ありがとうございます。神界に足を踏み癒えるのにこの数は確かに多い。千人に減らしたいと存じます」


『……千人。もう少し減らせはしないですか』


「え? まだ減らせと。何人くらいに……」


『そうですね。そうですね。百人くらいでどうですか』


「ひゃ、百人ですか。ちなみに後からパーティーに入った者を神界に足を踏み入れてもよろしいので」


 ついでに自らのパーティー以外のヘルミオスやガララ提督のパーティーも問題ないか確認する。


『ま、まあ、それくらいはいいでしょう』


(俺と勇者とガララ提督のパーティーでも40人くらいか。あとは予備で開けておこうっと)


 勇者ヘルミオスは『セイクリッド』、ガララ提督は『スティンガー』というパーティーを持っている。

 セイクリッドは10人で、スティンガーは15人のパーティーと聞いている。


 1万人を超える人数から100人にまで減らしたことに時空神は安堵した。

 アレンの言うとおり、この場で100人を決めると後からパーティーの仲間になった者が入れない。


「時空神様のお心遣い、感謝いたします」


『はい、クレナとハクも審判の門を超える勇気と力、本当に見事でした』


 乗り手と竜に対してもねぎらいの言葉を送る。


「うん! 皆で頑張った!!」


『ギャウ!!』


 クレナとハクも元気よく返事をする。


『英雄たちよ。それでは』


 人数の話に整理がついたので、時空神は審判の門から早々に神界の中に去っていった。


「さて、全員でいけなくなったけど、仕方ない」


 せっかくの新フィールドだったのにとアレンは残念に言う。


「アレン、さっきのは嬉しいけど、神界ではあまりやり過ぎないようにね。私、神罰は受けたくないわよ」


 神々を敵に回すのは困ると、アレンから鍵を手渡されたセシルはため息をつきながら忠告する。


「さて、話もまとまったし、神界にとりあえず行ってみるか」


『おお! そうだな、精霊の園に我は行ってみたいぞ!!』


 大精霊神のいる精霊の園に行きたいとムートンは言う。


 パアッ


(今度は何だ?)


 神界を目指そうとしたとき、金色の翼に4つの目、頭の背に2組ずつの4つの羽をもつ巨大な鳥がアレンたちの下に現れたのであった。




あとがき―――――――――――――――――――――――――――――――――

評価★、フォロアー様大募集です。

次回9章最終話


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