第341話 バスク戦②
魔神バスクは両腕に黄色に輝く宝石と、赤に輝く宝石がはめられた2つの腕輪を装備していた。
このバスクという魔神は、ステータス全般が随分高いように感じる。
強さでいうと既に変貌したレーゼルやリカオロンくらいある。
そして、大剣から繰り出されるスキルの発動速度が速過ぎると思っていたが、やはり聖珠を2つ装備していたようだ。
足には足輪を、首には真っ赤な宝石のあるペンダントを、耳には煌めくイヤリングを、バスクは装備している。
全てがステータス上昇など、何らかの効果のある装備のようだ。
上半身半裸だが、それを無視しても余りある効果を各部位の装飾品のアイテムがもたらしているのだろう。
魔神になってからか、それとも人間であったSランク冒険者のころからか分からないが、世界最高の装備を手に入れているようだ。
(重要アイテムを持った敵を発見。殺してでも奪い取ることとする)
確実に倒して、装備品は手に入れたいとアレンは思う。
「フレア!!」
クレナやドゴラの前衛がバスクから離れたタイミングを見計らい、巨大な炎の塊がバスクを襲う。
マクリスの聖珠を装備し、発動時間が半減したセシルが火魔法を放った。
両腕を前にかざし、防御の姿勢を取る。
精霊王の祝福で、とうとう知力が4万2千に達したセシルの攻撃魔法は、魔神が防御を必要とする域にあるようだ。
その後も、雷魔法や火魔法などいくつもの属性を使い分けながらバスクにぶつけていく。
『ぬぬぬ! これは聖珠か。そうかよ、クレビュールでマクリスってか』
セシルの魔法発動速度と腕に輝く紫の聖珠から、マクリスの聖珠を手に入れた経緯を推察する。
「ソフィーも精霊魔法で応戦してくれ」
「分かりましたわ」
『あん? 遠距離からうぜえな。うほ! エルフもいいなぁ』
ソフィーは全魔力を精霊に注ぎ込んでいく。
知力でセシルに劣るが、ソフィーの場合は一度に込める魔力の量は、最大魔力まで込めることができる。
そして、魔力を込めれば込めるほど威力は上がっていく。
セシルに比べてソフィーの精霊を顕現しての攻撃は、数はこなせないが一撃が必殺と言っていいほどの威力がある。
セシルとソフィーが自分の特性を理解しての攻撃を続ける。
バスクが攻撃を受けながらも、ソフィーの容姿も気に入ったようだ。
「させるか。ってがは!!」
舌舐めずりしながら迫り来るバスクをドゴラが必死に道を塞ぐが、小石を蹴り上げるように蹴飛ばされる。
ほとんど壁にならない。
クレナやシア獣王女と違って、ドゴラは敵の攻撃は躱せない。
盾を使い敵の侵攻を防ぐことも仕事なのでかなり辛そうだ。
それでもエクストラスキルの発動を信じて前に出るようだ。
しかし、ドゴラが壁になり逃げるだけの時間は稼いでくれたようだ。
セシルとソフィーがバスクの色々な意味での魔の手から逃げる。
「メルスは属性付与を当ててくれ。そろそろドゴラがやばい」
(これは長期戦の選択肢はないな。バスクはまだ本気を出していないだろうし)
変貌していないのにこの強さだ。
『分かっているが厳しいぞ。恐らく、イヤリングに耐性が付いている』
メルスはさっきから何度も属性付与を使っているが、バスクの耐性を変更できないでいる。
イヤリングの何らかの効果によって属性付与がはじかれているとメルスは言う。
属性付与をするたびに、バスクの耳のイヤリングに付けられた宝石が怪しく光っている。
「む、分かった。シア様、獣王化はまだですか?」
(待ってるんだけど)
「な!? 待て。今やっておる」
シア獣王女からそんなに簡単に言うなと言われる。
さっきからシア獣王女は「ゼウ獣王子もできた」とアレンにわざわざ言われた獣王化を発動しようとしている。
獣王族として、獣王化というエクストラスキルは理解しているが、まだうまくいかないというところだろう。
(獣神ガルムも上位神なんだから、けちけちせずに獣王化の力を簡単に渡せばいいのに)
この世界には亜神がいて、神がいる。
しかし、その上には上位神という数柱しかいない特別な神がいる。
上位神は4大神と呼ばれる火、土、風、水の4柱の神を超える力を持っている。
多くの信仰を集め、信者に崇拝される神はさらなる奇跡を信者に与える。
1000年前、恐怖帝が統治するギアムート帝国から独立する折に力を貸したと言われる獣神ガルムは、上位神だ。
アルバハル家に、獣人たちを統治させるため、獣王化という特別なエクストラスキルを与えている。
アルバハル家に生まれてくる子供は全て星3つと特別で、獣王に就任した時点で星の数がさらに増えるとされる。
アレンはシア獣王女を見るが、何かきっかけが足りないのか、まだうまくいきそうにない。
しかし、こんなにステータス差のあるバスクと長期戦はあり得ないと考える。
視線をメルスやセシルに移す。
「仕方ない。一気に行くぞ。メルス、セシル準備はいいな」
『ああ、問題ない』
「ええ」
メルスもセシルも問題ないと言う。
アレンはさらに、外に待機させていた鳥Fの召喚獣の共有した視界で準備が整ったことを確認する。
(みんな準備はいいな。始めるぞ!!)
鳥Fの召喚獣は指定した対象のみに聞こえる声で叫ぶ。
『あん。まだ何か作戦があるのか。面白れえなぁ』
アレンの言葉にバスクは顔を歪ませ歓喜する。
『裁きの雷』
魔力を回復させたメルスは全魔力を籠めて、バスクを打ち抜く。
『はば!?』
大きな雷に、後方にある祭壇ごと飲み込まれる。
祭壇は雷の超高熱に溶解し、そして衝撃波で吹き飛ばされる。
ブスブス
バチバチ
強力な一撃を受け感電したバスクを見て、アレンは一気に距離を詰める。
裁きの雷を受けると即死しなくてもアイアンゴーレムもそうだったが、一瞬の硬直が生まれる。
ただし、精霊王の祝福を受けたメルスの覚醒スキル「裁きの雷」を受けて、即死せずに硬直する程度で耐えられるのは、Sランクの魔獣やS級ダンジョン最下層にいるゴーレム、そして魔神くらいなものだろう。
そんなに時間はないので、作戦は自然にそして速やかに遂行される。
(転移)
バスクに触れたアレンは一緒に別の場所に転移する。
敵認定されたものは触れていないと鳥Aの召喚獣の覚醒スキル「帰巣本能」で移動することはできない。
アレンは神殿から敵を引き連れての転移限界の1キロメートルの場所に転移した。
バスクもそうだが、アレンの仲間たちもシア獣王女と配下たちも一緒に移動する。
『は? ここはどこだって。ん、あそこにいるのはなんだぁ?』
飛ばされてすぐに気付いた。
バスクが見たのは、1000人近い獣人たちが扇状にバスクから100メートルほど離れた位置で陣を組んでいる。
そして、既に陽炎のように全員の体が歪んでいる。
「私に続け! ブレイブランス!!」
ラス副隊長が槍を担ぎ、叫んだ。
エクストラスキル名とともに自らが持つ槍を全力で投擲をする。
『はあ? お前らみたいな雑魚の槍など。って、ふぐう』
今まで余裕であったバスクの顔が初めて歪む。
槍が胸を貫き、背中から穂先が飛び出している。
バスクはその辺の兵だか兵隊長程度の攻撃は通じないと思った。
圧倒的にステータス差があるため、一撃必殺系のエクストラスキルであったとしてもダメージは軽微なものと。
(ラス副隊長の攻撃は当たりだな。全員にフカヒレのサメ油をかけているからね)
今回、2000人のうち遠距離に届くエクストラスキルを持つ1000人ほどの獣人たちに、アレンたちが転移したのちにここにやって来て待機させていた。
魚Cの召喚獣の覚醒スキル「サメ油」を使い、クリティカル率を1割上昇させる。
たとえ防御力差があってもクリティカルが出れば、威力は跳ね上がる。
さらに精霊王の祝福の効果は、まだ持続している。
獣人たちには精霊王の祝福の光の雨が降り注いでいる。
アレンがS級ダンジョンで集めに集めた攻撃力3000や5000上昇リングも装備させている。
底上げに底上げした1000人だ。
エクストラスキルがあれば、魔神にも攻撃が通じるのはレーゼル戦で既に確認済みだ。
念のため、バスクにも攻撃が通じるか、弓部隊カム部隊長にエクストラスキルで攻撃してもらっている。
あの攻撃は背面を狙うためではなく、今回の作戦の布石だ。
発動時間のそれなりにかかるエクストラスキルを既に1000人の獣人たちは発動できる状態だ。
「「「うおおおおおおおおおおお!!!」」」
ラス副隊長の号令と共に、獣人たちがそれぞれのエクストラスキルをバスクに向かって打ち放つ。
(素晴らしい。これからはこの攻撃をエクストラアタックと命名しよう。あとは止めか)
「セシルも頼む」
雨あられのようなエクストラスキルの攻撃を耐えたり、捌いたりするバスクに対し追い打ちをかけることにする。
「行くわよ! プチメテオ!!」
既に発動準備を始めていたセシルもエクストラスキル「小隕石」を放つ。
聖珠を装備したセシルはエクストラスキルも発動時間もクールタイムの時間も半減している。
真っ赤に焼けた大岩がバスクを襲う。
エクストラスキルの雨あられの攻撃の中、避けるという選択肢はない。
両手で防がれるが、重さに耐えきれないのかそれでもバスクをひねりつぶそうとする。
あまりにデカいため、帰巣本能を使い獣人たちと共に少し距離を取る。
「バルカン砲発射!!」
超高熱の光線が、必死に岩を持ち上げようとするバスクを襲う。
バスクが巨大な大岩の下に潰されていく。
ビキビキ
アレンたちの視界から消えたところで、バスクの胸元のルビーが自然と粉砕された。
それと同時にバスクが受けたこれまでのダメージが、無かったかのように一気に復活する。
『せっかくの命のルビーが割れちまったじゃねえか。なるほど。だが、楽しかったぜ。さて、グシャラの神殿へ転移だ。待ってるぜ。いひひ』
後半ぼっこぼこにされたが、バスクは満足したようだ。
そして、「転移」の言葉にバスクの足輪が輝きだす。
すると、バスクの姿がその場から消えたのであった。
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