第38話 腕相撲②

 ゲルダが居間から土間に降りてくる。大きな体なので、2人が向かい合って寝ると体の一部が土間からはみ出す。ゲルダとの腕相撲が始まるのだ。


(さて、勝てるかな?)


 現在のアレンのステータスである。


 【名 前】 アレン

 【年 齢】 7

 【職 業】 召喚士

 【レベル】 6

 【体 力】 115(165)+150

 【魔 力】 154(220)

 【攻撃力】 56(80)+150

 【耐久力】 56(80)

 【素早さ】 108(155)

 【知 力】 161(230)

 【幸 運】 108(155)

 【スキル】 召喚〈3〉、生成〈3〉、合成〈3〉、強化〈3〉、拡張〈2〉、削除、剣術〈3〉、投擲〈3〉

 【経験値】 0/6,000


・スキルレベル

 【召 喚】 3

 【生 成】 3

 【合 成】 3

 【強 化】 3

・スキル経験値

 【生 成】 60,652/100,000

 【合 成】 60,628/100,000

 【強 化】 60,640/100,000

・取得可能召喚獣

 【 虫 】 FGH

 【 獣 】 FGH

 【 鳥 】 FG

 【 草 】 F


・ホルダー

 【 虫 】 

 【 獣 】 F30枚

 【 鳥 】 

 【 草 】 


 この日のために全てのカードを獣Fに変えた。レベルも6まで上げた。


 アルバヘロンを何十体も捕まえたおかげで、この村でアレンを知らない者はいない。完全に目立ってしまった。


 ボア狩りも全て見学した。当然ただの見学だけではない。狩り方について、農奴や平民にも指導を行っている。今年の秋にはアレン監修による新たな防具が出来上がる予定だ。


 アレンは思う。生きる選択肢は2つしかない。


 悪目立ちしてでもレベルをしっかり上げて生きるのか。

 ヘルモードの世界で、低レベルの最弱で生きるのか。


 アレンだけがヘルモードの世界だ。人並みにやっても能力値がE判定だ。100倍の努力をして初めて、神から魔導書を通して知らされた召喚士の能力値になる。


 多少目立っても、自分のやりたいレベル上げをし、強くすることが大事だと考えている。ロダンの大怪我により、レベル上げの重要性を再確認した。


 悪目立ちして、王族や貴族に取り入れられるようなことがなければ多少目立ってもかまわないと考えている。これについては、才能無しの全能力値Eと鑑定を受けているので問題ないはずだ。


 ボア狩りは自らの手で勝ち取る。強い信念をもって、ゲルダを見る。そこまでかと思いながら、アレンを見返すゲルダだ。どうやらゲルダも本気で挑むようである。


「こんな感じでいいんだよな?」


 ゲルダがアレンと共に横になり、肘を土間の床につけ、手を組む。


「うんうん、じゃあクレナ。審判して」


「わかった!!!」


 クレナに審判をさせる。2人の手の上に手を当てるクレナ。正式な審判のやり方も村長宅で説明済みだ。


「じゃあ、はじめ!!!」


「「ふん!!」」


 クレナの合図とともに、両者は一気に力を入れる。ゲルダの太い腕の筋肉がはちきれそうである。


「「ぐぐぐっ」」


 アレンもゲルダも顔を真っ赤にして全力を出す。


「な!?」


 ゲルダは思わず声が出る。7歳の少年が出していい力ではない。


 勝負の行方を見守るようなロダン。もちろんテレシアもミチルダもアレンがこんなに力があるのかと驚いている。


 アレンが押している。とてもゆっくりであるが、少しずつ勝利に近づく。


 「く、くそそおおおおお!!! まけたああああああ!!!!」


 ゲルダが負けた。


(やばい、ぎりぎりだった。この感じだと、ゲルダさんの攻撃力は150から200の間というところか)


 腕をプラプラさせながら、腕の疲労を回復させる。もう1人倒さないといけない相手がいる。


 ロダンが険しい顔をしてアレンを見る。


 腕を回復させながら、思い出す。


 17体のグレイトボアから経験値6800を得た。

 2回目も経験値400を手にして、それ以降の全ても経験値400だった。


 人数が24人から回数を重ねて、ボア狩りの参加者が40人になっても、経験値400が変わらなかった。人数が増えれば経験値は減ると思っていたが、どうやら経験値分配の法則があるようなのである。


 槍を握り、攻撃したらこの経験値400が変わるのかどうしても知りたい。もしかしたら2倍の経験値がもらえるのかもしれない。


 ロダンが、上半身の薄茶色の上着を脱ぐ。どうやら本気で向かってくるようだ。発達したムキムキの筋肉だ。毎日、朝から晩まで鍬を握った鍛え抜かれた体である。


「腕が回復するまで待つぞ」


 どうやらアレンの回復を待つようだ。万全の状態で勝つつもりである。


「あ、ありがと」


 数分かけて完全に腕を回復させる。しっかりインターバルを設けて、筋疲労を回復させる。


 もう大丈夫と、本日4回戦目となるロダン戦に臨む。


 お互い土間に腹をつけ横になる。肘を土間の床に付け、腕を組む。


(なんだか、初めてこんなにがっつり手を握ったな)


 これまでこんなに強く手を握った記憶がない。毎日鍬を握り続けたその手は、豆ができてごつごつしている。何かよく分からない感情が芽生える。


「……」


 ロダンも何か言いたそうである。何年ぶりかもしれない息子の手だ。


 状況が整ったので、クレナが両者の握る手の上に、自らの手を重ねる。


 ちらりとテレシアを見る。必死にロダンの勝利を願っている。もしもロダンまでもが負けるなら、今年の秋はアレンが槍を握りグレイトボアと戦うことになる。


 どうやらテレシアから一切応援されていないようだ。


「じゃあ、いくよ! はじめ!!!」


「「ふん!!!」」


 開始の合図とともに、全力で力を入れる両者。


 ロダンの筋肉から血管が浮き出る。顔面を真っ赤にして全力で力を込める。


(うわ、やばいかも? ま、まじか)


 ロダンは思った以上の力だ。獣Fカードに全て切り替え攻撃力を150増やした。200近い攻撃力になったが、ロダンがそれ以上の力を発揮する。


 ゆっくりであるが、アレンが押されていく。


 そして、殆ど見せ場を作ることなく敗北する。どうやら完敗のようだ。


「「「おおお!!!」」」


 アレンが敗れて、驚きの声が上がる。剣聖クレナにゲルダを倒したアレンを、ロダンが破った。


 ロダンが年甲斐もなく、腕に力こぶを作り、勝利を宣言する。どうやらアレンに勝てて結構うれしかったようだ。


(ぐは! 全然無理だ。これは攻撃力250とか300くらいあるんじゃないのか?)


 自分の攻撃力をもとにロダンの攻撃力を推察する。


 負けたので大人しく木樽の酒を渡す。


「「酒だ!!!」」


 一切遠慮なく頂くロダンとゲルダである。お互いに木のコップ一杯に注ぐ。ロダンは勝利の美酒が美味しそうだ。


(恐らく鑑定の儀の能力値だと、父さんが攻撃力Cでゲルダさんが攻撃力Dかな)


 当然勝つつもりであったが、他にも確認しないといけないことはたくさんある。


 それはノーマルモードでレベルを上げた者の強さだ。魔獣を狩ればレベルが上がる。ノーマルモードでレベルを上げたものはどの程度の強さになるのか知りたかった。


 今回の腕相撲で、才能がなくても攻撃力200を超えることは難しくないということが分かった。


「ちょっと、大人げないよ!!」


 ロダンとゲルダがあまりにキャッキャと喜ぶので、ミチルダが諫める。


「そうよ、アレン。父さんは強いんだから」


(ん?)


 テレシアから、慰められる。どうやら、攻撃力の分析をするアレンが凹んでいると思ったようだ。その割にテレシアは嬉しそうだ。


「そうだぞ、父さんは強いんだぞ。父さんに勝てないとボア狩りは認めないからな」


 ボアを狩りたければ、俺に勝てというロダンである。もう酔っているのか頬が赤い。


(お! 言質とったぞ!! 秋までに召喚レベル4にすれば、まだチャンスはあるのか!! 父ちゃん酒に酔っていて覚えていないとは言わせないぞ)


「分かったよ。父さんに勝てるまで、ボア狩りは諦めるよ」


 アレンは顔と言葉だけで諦めたふりをする。

 こうして、親子の対決はロダンの勝利で終わったのであった。

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