第253話 ドゴラの尻②

 火の幼精霊サラマンダーがドゴラ諸共魔獣を倒したため、巨大な火球となったサラマンダーの火を避けきれず、ドゴラの尻が盛大に燃えてしまった。


「お、おい。大丈夫かよ」


「大丈夫じゃねえよ。これで何度目だよ。しかも毎回なんで俺なんだよ……」


 キールが鳥Bの召喚獣から飛び降りて、ドゴラの尻に回復魔法をかけてあげる。

 

「ほれ、予備の下履きだ。これが無くなるとまた買いに行かないといけないな」


 下半身がとんでもない状況になっている、アレンが魔導書から予備の下履きを出してドゴラに渡す。


「申し訳ございません。本当に申し訳ございません」


「え? いや、いいよ」


「で、でも」


「本当に別にいいから」


 顔が赤いのは、下半身を見られたくないからだろう。

 体を曲げ、アレンから貰った下履きを使い下半身を必死にソフィーから死角にする。

 謝罪はいいから離れてほしいという表情が顔からにじみでている。


「キールは、ソフィーの体力も減っているから回復させてやってくれ」


(ソフィーの魔力の全てと体力の半分を持っていってしまったのか。とんでもないな)


 魔導書で見ると、ソフィーの体力が半分にまで下がっている。

 キールが分かったと、ドゴラの次はソフィーの体力を回復させる。


『アウアウ!!』


 そんな困ったことをしてしまったという表情のソフィーの胸元に、火の幼精霊サラマンダーが宙に浮いたまま抱き着いてくる。

 胸元に抱き着き、つぶらな瞳でソフィーを見つめ、火のついた尻尾を振り振りと振っている。

 どうやら、やってやりましたよ感が前面に出ているその表情は、今起こした惨事を褒めてほしいようだ。


「あ、ありがとうございます。サラマンダー様」


 水面が沸騰し、今なお温泉みたいになってしまっているこの状況で、礼の言葉を必死に絞り出す。


(これで何度目かな。そろそろドゴラの尻が持たないかもしれないな。それにしても体力まで使うととんでもない威力になるんだな)


 皆から少し離れた葉っぱの中央付近まで離れて、ドゴラが鎧を脱ぎ、アレンから渡された予備の下履きに着替えている。


 アレンは幼精霊と聞いて、その力を見誤っていた。

 精霊は使い手の魔力を使い、この世界に力や影響をもたらす。

 一度に必要とする魔力量が大きければ大きいほど、その発揮する力は増していく。


 この辺りはセシルのエクストラスキルと同様だ。

 今回、ソフィーの全魔力と体力の半分まで吸い取ってしまったため、今回のような惨事になった。


『ソフィー。何度も言うけど、焦ったら駄目だよ。精霊は使い手の声が良く聞こえている。君の不安の声を拾ってしまうんだよ?』


「……はい」


(はい。きましたよ。精霊神のエコひいきアドバイス)


 精霊神ローゼンはソフィーの肩に乗って戦闘に参加するも、アレンが持つたくさんの疑問には答えないが、精霊使いになったソフィーのアドバイス役は進んでかっている。


 ソフィーは戦闘開始からずっと、サラマンダーに戦闘するようにお願いしていた。

 抱き付き動かないサラマンダーに焦って、強く指示を出し過ぎてしまった。


「今の状況が続くなら、ソフィーの次の転職は待った方がいいのかな」


『それがいいよ。幼精霊相手で今の状況だと、精霊相手じゃ命まで持っていかれるかもしれないよ。はは』


「それは大変だ」


(次は精霊か)


 精霊は生まれた時は幼精霊と呼ばれ、幼精霊から、精霊、大精霊、精霊王、精霊神に至っていく。

 ソフィーはあと1回転職できるので、次は精霊を顕現できるようになる。

 しかし、幼精霊で手こずっているのに精霊を顕現できるようになったら、それは危険だとアレンも精霊神も考えている。


 精霊使いガトルーガからも精霊との意思疎通は時間がかかるものだと聞いている。


 スキル経験値だけなら、どんなに精霊が暴走しても魔力を消費した分入る様なので、転職することは可能だ。

 しかし、今回のことがあるので無理はさせないでおこうという話だ。


「まあ、勇者から指輪も借りたし。1日中出しておくといいよ」


(期限は言っていないし、借りパクの予定だけど)


「あ、ありがとうございます。本当によろしいのでしょうか?」


 ヘルミオスが持っている魔力回復リングをソフィーの幼精霊の手なずけ特訓のために借りることにした。

 ダンジョン攻略しないならいらないだろうともアレンは言った。

 これあげるから貸してくれと天の恵みを100個ほど渡しておいた。

 これだけあるなら、ダンジョン内でどんな罠にかかっても対処できるだろうし、天の恵みが減ったら、ローゼンヘイム経由でまたあげると伝えている。


 お陰でアレンとペアルックの指輪で、ソフィーの機嫌がすこぶる良くなったのはまた別の話だ。

 そして、セシルの機嫌が悪くなったのはさらに別の話だ。


「メルルは大丈夫か?」


「うん、あれくらいなら修復できるよ」


 巨大なゴーレムのため、サラマンダーの火球でゴーレムの体が少し損傷してしまった。


 【名 前】 メルル

 【年 齢】 14

 【職 業】 魔岩将

 【レベル】 60

 【体 力】 1677+1800

 【魔 力】 2420+1800

 【攻撃力】 782

 【耐久力】 1318+1800

 【素早さ】 782

 【知 力】 2420+1800

 【幸 運】 1503

 【スキル】 魔岩将〈6〉、飛腕〈6〉、穿孔拳〈6〉、光束剣〈6〉、修復〈6〉、合金〈2〉、槍術〈3〉、盾術〈3〉

 【エクストラ】 合体(右腕)


・スキルレベル

 【飛 腕】 6

 【穿孔拳】 6

 【光束剣】 6

 【修 復】 6


 スキルレベルまで完全にカンストしたメルルが手に入れた最後のスキルは「修復」だった。

 ゴーレムは魔獣との戦いで破壊されることがある。

 このS級ダンジョンにはAランクの魔獣も多く、破損することは絶えない。


 その時ゴーレムの破損を直す方法は2つある。

 ひとつめは破壊された部位の石板を新しい石板に交換することだ。

 例えば、右手が破壊されたなら、右手の部分の新しい石板をはめ直すと破損は直っている。

 当然、破壊された方の石板をもう一度はめ直しても、また壊れた状態のままだ。


 そして、もうひとつがメルルが最後に覚えたスキル「修復」だ。

 これは魔力を消費することによって、ゴーレムの破損を修復することができる。

 急激な速度で破損が治るわけではないのが欠点だ。


 直ぐに直したいなら、スペアの無傷な石板をはめる。

 時間をかけていいなら修復を使って直す。


 今回はまだ戦えるので魔力を使った修復スキルで直すことにする。


「お? 宝箱があるぞ!」


 遠くで着替えていたドゴラが、葉っぱの中央に置かれた宝箱に気付いた。

 まじかよとキールも急いで見に行く。


(だから、キール。魔獣の可能性もあるから、お前が開けるの勘弁してくれ)


 キールはどうやら宝箱を見たら開けないと気が済まないようだ。

 ここはダンジョンの中なので、宝箱は魔獣が擬態している可能性がある。

 実際、アビスボックスというAランクの魔獣が擬態していたことが、このS級ダンジョンにきてからも何度もある。


 ドゴラもアレンのため息と視線に気付いたようだ。

 耐久力の高い自分がと、キールがやってくる前に宝箱を開けた。


「お、指輪だな。これは何の指輪だ?」


 ドゴラがアレンたちの元にやって来て、指輪を渡す。


「お、いきなり上位の指輪だな。これは知力3000上昇か」


(お、1日目にして幸先良いな。指輪ゲットだ。この階層は当たりかもしれないな。Sランクの階層ボスがやばいらしいが、アイテムと経験値的にはここが最適と)


 アレンは魔導書により、指輪で知力が3000上昇したことを確認する。

 今までの指輪はステータス1000上昇しか持っていなかったが、この階層では3000上昇の指輪が手に入る。


 指輪は2つ装備することができるので、これまでより一気にステータス上昇が見込める。


「じゃあ、えっと。予定通りキー……」


「お、おい。違うだろ」


 キールに渡そうとすると、キールが両手の平を見せ、首を振る。

 セシルが殺気立って、アレンを睨んでいるからだ。


「……じゃあ、セシルで」


 キールに遅れて、アレンも身の危険を察知する。


「ふふ、いいのかしら? ありがとう」


 アレンから指輪を渡されてセシルが嬉しそうだ。


(ふむ、まあ、このタイミングでキールに渡すより、セシルに渡して火力を上げた方が効率良いか。あとはオリハルコンをこの階層で探さないとな)


 ソフィーにも大きな課題ができる中、4階層の攻略が進んで行くのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る