第19話 強化

 騎士団が帰ってから2か月ほど過ぎた9月下旬頃である。そろそろ6歳だ。まだまだ暑い中、ロダンが畑を耕している。


 この間の変わったことと言えば、テレシアが3人目を妊娠した。妊娠が分かったばかりなので、年が明けての出産になる。やってきた村の助産師に言われた。


 そういうわけで、テレシアの安静のために今はロダン1人で畑を耕している。


 テレシアは3人目はどうしても自分が名前を付けたいと言っている。アレンもマッシュもロダンが名前を付けた。男の子が生まれたらロダンが、女の子が生まれたらテレシアが名前を付けるという約束があったようで、女の子ができたらなとロダンが答える。どうやら男の子ができたら魔獣から名付ける気満々のようだ。


 直射日光を避け、何か硬いもので何万回もぶつけられ丸く樹皮がめくれた木を背もたれにしてアレンが魔導書を見つめている。

 魔導書には黄色の文字でこう書かれていた。


『合成のスキル経験値が10000/10000になりました。合成レベルが3になりました。召喚レベルが3になりました。魔導書の拡張機能がレベル2になりました。強化スキルを獲得しました。1件のお知らせが届いております』


「やった、とうとう上がったぞ。長かった。というか情報が多すぎるな。どれから確認するかな」


 合成のスキル経験値が10000に達した瞬間に一気にログが流れた。


(かなりかかったな。3歳になってからようやくか、合成のスキルレベルを上げられるようになってから、1年11か月か)


 毎日魔力を使い生成と合成スキルを使い続けた成果である。6時間で魔力が全回復するので最低1日3回、たまに時間が合えば4回スキルを使用する、を繰り返してようやくスキルレベルを上げることができた。


・1歳00か月 魔導書獲得、召喚レベル1、召喚獣Hランク

・1歳10か月 召喚レベル2、合成スキル獲得

・3歳00か月 召喚獣Gランク

・5歳11か月 召喚レベル3、強化スキル獲得、召喚獣Fランク


 ログに興味を引く文言がたくさんある。どれから見るかといえば、まずはステータスだ。魔導書のページを開き、1ページ目と2ページ目の表示を確認する。



 【名 前】 アレン

 【年 齢】 5

 【職 業】 召喚士

 【レベル】 1

 【体 力】 20(40)+26

 【魔 力】 0(20)

 【攻撃力】 5(10)+26

 【耐久力】 5(10)+6

 【素早さ】 12(25)+10

 【知 力】 15(30)+4

 【幸 運】 12(25)

 【スキル】 召喚〈3〉、生成〈3〉、合成〈3〉、強化〈1〉、拡張〈2〉、削除、剣術〈3〉、投擲〈3〉

 【経験値】 0/1,000


・スキルレベル

 【召 喚】 3

 【生 成】 3

 【合 成】 3

 【強 化】 1

・スキル経験値

 【生 成】 8,786/100,000

 【合 成】 0/100,000

 【強 化】 0/1,000

・取得可能召喚獣

 【 虫 】 FGH

 【 獣 】 FGH

 【 鳥 】 FG

 【 - 】 F


・ホルダー

 【 虫 】 G2枚、H2枚、

 【 獣 】 G13枚

 【 鳥 】 G2枚

 【 - 】 


(おおお! 強化スキルが追加されているぞ!! あとは、やはりFランクの召喚獣が解放されたな。これは鳥Hの時みたいに合成して手に入れるまで【-】表記になっているのか。次はなんだろうな! 竜とかがいいかも竜ほしいよ。神龍召喚!)


 スキルレベルが上がり興奮止まぬ。気持ちを落ち着かせて、次に確認するものを考える。


(ふむ、Fランクの生成や合成は今ちょうど魔力が尽きたからな。これは夕食のあとか。それ以外はと)


 パラパラと魔導書を開いていく。


(うは、カードを入れるホルダーが30個になってる!!)


 拡張レベル2に上がりましたという内容は召喚獣のカードを20枚から30枚に拡張したということであった。これでかなり加護が増えるなと思う。


(さてと、今確認できるのはこれで全部かな。あとは久々に神からのお知らせだな)


 魔導書の後方のページに1つ光っているものがある。1歳の時に来ていた神からのお知らせがまた来た。


(ふむ、とうとう謝罪する気になったのか。どれどれ)


『拝啓 アレン様


 平素は格別の御愛顧を賜り厚く御礼申し上げます。

 さて、本日は鑑定の儀の際、アレン様の職業が不鮮明に表示されました件につきまして、心よりお詫び申し上げます。

 また、返答が遅くなり誠に申し訳ございませんでした。


 まず、改善点でございますが、今後鑑定の儀が行われる際に、才能欄には『召喚士』と表示されます。また大教皇に対して、新職業が追加された旨、神託済みでございます。職業の内容につきましては、他職同様に詳細は伝えておりませんので、その点につきましてはご了承ください。


 次に、全能力値がEランクになった点についての回答です。

 御承知のとおり、現在、能力はステータス上昇値とレベルアップ速度の両方を勘案した結果になっております。レベルアップ、この世界では神の試練と表現しておりますが、試練の到達度についても人々に公開をしておりません。そのため、試練の難易度であるモードについても公開しておりません。


 その結果としまして、ステータス上昇値とレベルアップ速度の両方を勘案している仕様であるため、全能力値がEランクで変更はありません。何卒ご容赦ください。


 しかし、アレン様のみステータスの上昇値が把握できないのは不公平です。

 ステータス上昇値のみで鑑定した場合のアレン様の能力値をお送りします。また、この内容はメモ欄にも添付しておりますので、手紙の内容が消えた後でも確認は可能でございます。なお、鑑定結果は、召喚獣の加護を勘案しておりません。


 【名 前】 アレン

 【体 力】 A

 【魔 力】 S

 【攻撃力】 C

 【耐久力】 C

 【素早さ】 A

 【知 力】 S

 【幸 運】 A

 【才 能】 召喚士


 今後も神界のスタッフ一同サービスを向上させる所存ですので、変わらぬご愛顧のほど、どうぞよろしくお願いいたします。


 なお、本対応により、十分な謝罪と誠意を尽くしたつもりでございます。

 今後、同様の苦情はご遠慮いただきますようよろしくお願いいたします。


          異世界の神エルメアより』



 最後まで読むと、手紙の内容が消える。たしかに魔導書のメモ欄にはアレンの能力値と才能が表示されている。


(ふむ、5か月くらい改善を要求したら、返事がきたな。ずいぶん丁寧な文章だな。結局、今後も鑑定結果はオールEのままか。それにしても神託済みなんて表現初めて見たな)


 鑑定結果は、オールEで変更なし。しかし、召喚士については大教皇あてに神託したということが丁寧に書かれていた。


 現実世界で健一であったころ、ゲームの装備データが消えた時も同じように丁寧な通知がゲーム配信会社から来たことを思い出す。

 お知らせが長文で丁寧な表現だからといって、強気に苦情を言い続けるのは良くないと思う。相手は神。存在を抹消なんてことをしてくるかもしれない。


(ふむふむ、能力値はなんとなくクレナの剣聖を後衛にした感じだな。SABCの数は剣聖と同じくらいか。なるほど)


 魔導書にメモをしていたクレナの能力値と自分の能力値を比べてみる。現実世界で確認した剣聖の能力は星3つであった。加護無しでも星3つの職業程度の能力はあるということである。


(レベルアップは神の試練を乗り越えるだったか)


 以前、グレイトボアを狩り続けているロダンに、レベルアップの体験について聞いたことがある。たしかに、神の試練を乗り越え、力が上がるようなことを言っていた。


 十分に検証もでき、手紙の内容も確認できたので、あとは強化とFランクの生成と合成だ。魔力が底をついたので、続きは夕食後にする。




 夕食も終わった夕方である。アレンの家では4時過ぎに夕食を作り出す。5時前には囲炉裏を囲んで皆で食事をし、それからは子供部屋でゆっくりする。テレシアが身重ということもあり、夕食の跡片付けや洗い物を率先してする。


 そんなことをしていたら、6時前だ。子供部屋に入るとマッシュがじゃれてくる。


「にいに、あそぼ」


 マッシュの相手をする。夕食も食べてお腹も膨れており、30分も遊ばずにマッシュは寝てしまう。死んだように眠るマッシュに掛布団をかけてあげる。


(よしよし、マッシュも寝たしどうするかな)


 ようやく自分の時間である。まだ日が沈むまで少し時間がある。


(とりあえず、強化をしてみるか。Fランクの生成は明日するかな)


 どうやらFランクの召喚獣の生成より、まずは強化をやってみることにしたらしい。Fランクの召喚獣は不明を合わせて4体もおり、強化の分析が終わってからという考えだ。


(強化!)


 とりあえず、念じてみる。すると魔導書の表紙に銀の文字が表示される。


『どのカードを強化しますか?』


(お? 魔力が足りませんって出なかったな。魔力が10しかないから足りませんって出るかと思ったぜ)


 以前1歳10か月で生成レベルが上がったが、魔力が足りないため3歳まで待ったことを思い出す。


(じゃあ、えっと虫H強化!)



 するとホルダーに入っていた虫Hのカードが1枚、アレンの目の前に浮き、金色に輝きだした。


(おお!!!)


 必死に声が出ないように口を塞ぎ感動してみる。光が止み、カードの色が変わっている。


(どれどれ、おお!! カードの絵の余白の部分が金ぴかになっているぞ!!!)


 バッタの絵の余白部分が白色から金白に変わっている。そして余白下部に文字が書かれている。


『耐久力+10、素早さ+10』


(召喚獣のステータスが上がったということか。なるほど召喚獣のステータスを強化するということなのか。召喚獣はより強いランクに上げるだけじゃなくて強化もできるってことなのか)


 バッタの絵はそのままだ。召喚獣の見た目は変わらないように感じる。


(これは、デンカの大きさが変わったりするのか? 召喚してみるか!!)


 これは見た目だけでなく、大きさが倍になったりするのか確認する。


「おお!? 淡く召喚獣が光っているぞ。見た目にも強化していることが分かるのか。大きさは変わらないと」


 バッタの大きさは変わらないようだ。ただ、強化すると淡く光る。カードの見た目も召喚獣を見て強化されていることが分かる。


「もう、アレン、マッシュもう寝なさい……って」


「ふぁ!」


 どうやらアレンの声に気付いたようだ。テレシアがなかなか寝ない子供部屋に入ってくる。


 バッタと目が合うテレシアである。


「きゃああああ! 虫いいいいいい!! もうなんで子供部屋にこの虫いるの!!!」


 強化しても関係なく踏みつぶされる虫Hの召喚獣は、光る泡となって消えた。


「えっと、おやすみなさい…」


 アレンは何事もなかったかのように、平静を装い顔まで布団に潜り込み寝てしまうのであった。

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