第293話 ゴルディノ戦⑥

 一瞬自らが獣化していることを忘れるほどの恐怖を感じ、目の前の黒髪の青年を見る。

 本来であれば仲間のはずのアレンに対して、ホバ将軍が槌を思わず向けてしまった。


「どうしました? 攻撃を続けましょう。もう少しですよ」


 その様子からあまりに自然なアレンの言葉に、ホバ将軍は意識を戻す。


 アレンは強大なバフと召喚獣の加護、そして攻撃力を5000上げる指輪を2つ装備している。


・全ての補助を加算した状態のアレン

 素のステータスと加護や指輪の効果は分けて表示

 【体 力】 3007+2760

 【魔 力】 4968+6240

 【攻撃力】 1453+29520

 【耐久力】 2604+9688

 【素早さ】 3243+23040

 【知 力】 4150+7200

 【幸 運】 3244+2400


・ソフィーの精霊によるステータス上昇

・キール耐久力30%上昇

・占星術師テミ魔力20%上昇

・占星術師テミ耐久力20%上昇

・占星術師テミ幸運20%上昇

・祈祷師フイ耐久力15%、体力15%上昇

・楽術師レペ攻撃力20%上昇

・楽術師レペ素早さ20%上昇


 ゴルディノの足の裏から出てきたアレンは、そのまま攻撃を続ける。

 片足にアダマンタイトの剣を叩きこむ。


『ぐぬ!!』


 あまりの衝撃で巨大な超合体ゴルディノの体が横に揺れてしまう。


(ステータス以上のダメージだな。補助が掛かっているお陰でほぼクリティカルということか)


 戦いが始まって、初めての攻撃だが、仲間たちの補助スキルや召喚獣の特技や覚醒スキルでどの程度のダメージが与えられているか分析する。

 これも楽術師レペや召喚獣によるクリティカル率の上昇の効果かと思う。

 今のステータスと補助の重なり具合だとほぼ100パーセントの確率で、クリティカルでの攻撃ができるようだ。


 超合体ゴルディノの足に自らの攻撃によって作った足場から、アレンはガンガン剣を叩き込む。


「おいおい、また始まったよ」


 この状況にキールが唖然とする。

 この1ヵ月よく見た光景だ。


 アレンががむしゃらに剣を叩き込むのは、アイアンゴーレム狩りでよく見てきた。

 とにかく速く、一撃でも多く必死になってアレンはアイアンゴーレムを狩り続けた。


『ちょ、調子に乗るな!!』


 アレンに向かって超合体ゴルディノの巨大なドリルパンチが向かう。

 超合体ゴルディノの足にも当たりそうだが、このアレンを殺すことを優先と判断したようだ。


 アレンは、叩き込んでいる剣と反対の手でドリルパンチを受け止める。

 ドリルパンチによって片手を粉砕される。

 しかし、拳を粉砕したところで、攻撃が止まる。

 物理攻撃から守るのは耐久力だけではない。


 アレンは仲間たちに振りまいた魚Bの召喚獣の特技と覚醒スキルがある。

 そして、霊Aの召喚獣の加護がある。


・魚Bの召喚獣の特技「タートルシールド」

・魚Bの召喚獣の覚醒スキル「タートルバリア」

・霊Aの召喚獣の加護「物理耐性強」


(さすがにドリルパンチはかなりダメージを食らうな。もう少し「物理耐性強」仕事しろ。まあ、死ぬほどでもないか。くそ痛いけど。許さぬ!)


 物理耐性が高くて、アレンの拳しか破壊できなかった。


 キールが既に回復魔法を発動している。

 アレンの手がミチミチと再生していく。

 すでに聖王となったキールの回復魔法は、四肢の欠損程度わけ無く回復出来ている。


 腕が回復したら、収納からアダマンタイトの剣をもう1本だし、二刀流でガンガン刺していく。

 これで2倍の速度で剣術レベルが上がることをアレンは知っている。


 こんな防御を捨てた仲間とキールは四六時中狩りをしてきた。

 アレンは避けるか避けないかより、早く倒せるか倒せないかで、自らの行動を決めている。

 特に召喚レベル8になった時から、ステータスが一気に上がり、前衛としてアレンが行動を開始した。

 そんな防御を捨てたアレンの行動を、キールは先読みして回復する必要があった。


「我らも攻めるのだ!!」


 アレンのあまりの強さに一瞬息を飲んだゼウ獣王子であったが、今こそ勝機と十英獣に攻撃を続けるように言う。


 超合体ゴルディノがアレンに意識を向けている今こそ、好機だと。


(急げ、急げと。メルス頑張って)


 共有した鳥Bや鳥Aの召喚獣で全体は見えているが、アレンの補助がなくなったため、守りの面で少々厳しいようだ。


 アレンに意識を向けつつも、足が破壊されつつある超合体ゴルディノは、肩や手の砲台などで全方位に攻撃を仕掛けている。


 ズウウウウウン


 全力で切りつけていたら、とうとう片足が粉砕した。

 そして、もう片足も仲間たちの攻撃で無事粉砕できた。


『お、おのれ貴様ら!!』


 両足を失い、地面に手を付いてしまった超合体ゴルディノが叫ぶ。


「よし、セシル、止めを刺すんだ!!」


(今なら超強力なプチメテオが打てるんじゃないのか?)


 アレンはずっととっておいたセシルのエクストラスキル「小隕石」を放つように言う。

 ソフィーの補助や、セシル自身転職によって強力な一撃を放つことが出来そうだ。


「分かったわ。私が止めを刺していいのかしら?」


 こんな美味しい場面と言いながらも、待っていましたとセシルは全く遠慮するつもりはない。


「待て」


 そんなセシルを攻撃魔法役で鼠の獣人ラトが杖を掲げ静止させる。

 そして、ラトの体が陽炎のように屈折しエクストラスキルを発動する。


「な、何よ!」


 攻撃を制止されて、セシルは怒るというより戸惑ってしまう。


「フルバースト!!」


 ラトは何かを唱えたかと思うと、地面に巨大な魔法陣を生じさせる。


「えっと、これは?」


「力がみなぎるはずだ。これなら2倍の威力の魔法が放てるぞ」


 ラトがニヤリと笑って言う。

 どうやらセシルのエクストラスキル「小隕石」にお膳立てをしてくれたようだ。


「あら、こんなの本当にいいのかしら? プチメテオ」


 美味しい状況に申し訳ないと言うセシルだが、顔は全くそんな表情をしていない。

 遠慮のない全魔力をエクストラスキルに注ぎ込んでいく。

 セシルは数十メートルどころか100メートルを超えた真っ赤に焼けた岩の塊を天から降らせる。


「ふぁ!? ちょ! 帰巣本能!!」


 その大きさは、通路の幅を明らかに超えている。

 通路の壁を粉砕しながら、超合体ゴルディノの元に降ってくる。

 アレンはあまりの大きさの小隕石に絶句する。

 慌てて仲間たちを少し離れた所に転移させる。


『がはあああ! き、貴様ら! よくも!!』


 随分長い距離、通路を粉砕したが威力は落ちていなかった。

 超合体ゴルディノは必死に真っ赤に焼けた巨大な岩を両手で受け止めるが、圧倒的な勢いを殺しきれない。


 両肩の砲台を粉砕し、両手にメキメキと亀裂を生じさせながら、体全体が地面に埋没していく。


「やったかしら?」


「いや、皆油断しないように」


 巨大な岩に潰されたが、アレンは仲間たちに気を抜かないように言う。

 魔導書の表紙に全くログが流れていないからだ。


 これはまだゴルディノが生きているということを意味する。

 虫の息なのかもしれないが警戒しながら近づくように言う。


「お、おいおい。こんなでけえ大岩に潰されたんだぞ。さすがに生きているわけないだろ」


 まだ熱を持ち、真っ赤に焼けた大岩の下にいるゴルディノが生きているはずがないとキールは言う。

 あまりの衝撃で深く巨大なクレーターになり、その中央にぽつんと大岩が鎮座している。


「いや、止めを刺そう。皆、攻撃態勢を」


『ふん!!』


 アレンが攻撃体勢を取るように皆に言おうとすると、大岩に亀裂が入り粉砕される。


 そして、出てきたのはボロボロになったゴルディノだ。

 既に超合体したときのゴルディノの面影はない。


 超合体した4体のゴーレムはその残骸がゴルディノの周りに纏わりついているような状態だ。

 そんなボロボロになり剥がれかけた4体のゴーレムだけでなく、ゴルディノ自身もただでは済んでいなかった。

 両手足を地面につき、全身にヒビが入り間も無く倒れそうだ。


「あ、アレンまだ死んでいないぞ!!」


 ゼウ獣王子もあれだけの一撃で、なぜ死なないのか驚愕する。


「たぶん、これは」


(もしかして、一定以上のダメージを受けると)


『とうとう、我を本気にさせたようだな。後悔しても知らぬぞ?』


 アレンの予想はすぐに実行に移されるようだ。


 ゴルディノの全身のヒビがどんどん大きくなり、そして体がボロボロと崩れていく。

 そして、中から出てきたのは無傷の30メートルほどのゴルディノだった。


「おいおい、何か出てきたぞ! まだなんかあんのかよ!!」


 キールが絶句する。

 これ以上の何があるんだと言う。


「なんか小さくなったな。これならいけるんじゃないのか?」


 ドゴラが率直な感想を漏らす。

 今まで100メートルとか150メートルのゴルディノと戦ってきた。


『我が真の姿を見せることになったのは貴様らが初めてだ。食らうがよい。は!!』


 そして、ゴルディノの両目が光り、まばゆい光をアレンたちは浴びせられる。


「「「な!?」」」


 アレン自身も光線を全身に浴びたが、痛みはなかった。

 しかし、違和感がある。


(えっと、これは例のやつか。ボスが使ってくる嫌らしい技だよね)


 アレンは全身の力が抜けていくことを感じる。

 まるで、全ての補助がかき消される感覚だ。


『どうだ? 恐怖しろ。勝てたと思ったが、ぬか喜びに終わりそうだな。絶望を知れ!!』


 そして、ゴルディノが宙に浮き向かって来るのであった。

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