第88話 鎧アリの巣②
鎧アリの巣の掃討を始めて2か月が過ぎた。まだ最初に攻めた鎧アリの巣を攻め切れていない。
「おう、坊主は力があるな」
「ありがとうございます」
アレンは今、白竜山脈の麓に作られたミスリル鉱を溶鉱炉でミスリルに錬成する村にいる。4月から作り始めた村だ。
アレンは今、かなり殺風景な村の中で、男たちと一緒に材木を運んでいる。
なぜここにいるかというと、1000体を超えるという鎧アリの掃討を目指し、1日200体以上倒したが、1か月経っても倒しつくせなかったからだ。週2日の月5週間を狩り続けたので、一月に2000体を超える鎧アリを倒してきたはずだ。
しかし、それでも湧き続ける。聞いていた1000体よりもたまたま多く、この巣が大規模で3000体とか5000体とかいるかもしれない。
実はかなり大きな巣であったという予想もできるが、1つ気になることがある。200体近く倒した鎧アリが、次回巣に向かうと綺麗にいなくなっている。もしかして、鎧アリの死体を栄養にして、新たな鎧アリが作られ続けているのでは。鎧アリを餌にして、鎧アリが生まれ続ける。恐怖でしかない。
では、新たな鎧アリの栄養にさせないため倒した鎧アリを回収すればよいかといえばそんなことはできない。無限に湧き続ける鎧アリが邪魔で、魔石も回収できない。経験値はこれまでの狩りのどれよりも美味しいが、金銭的なうまみは一切ない。
そこで執事に相談した。騎士団長の話では、これまで結構融通してくれていたことが分かったので、ダメ元でお願いしてみた。
狩猟番の日と休みを連続で取って外泊させてほしい。
白竜山脈にある鎧アリの巣は、レベルや加護によって素早さを上げたアレンにとってもかなり遠い。これでは狩りの時間が十分に取れない。だから現在の給仕、狩猟番、休みの予定を入れ替えて、狩猟番と休みを連続にする。2日連続で狩りができないものか相談をした。
変更前 給仕 給仕 狩猟番 給仕 給仕 休み
変更後 給仕 給仕 給仕 給仕 休み 狩猟番
外泊すると言って執事が難しい顔をする。断られそうだったので、ミスリルを錬成する村の手伝いもするからとお願いしたら、そこまで言うならと了承してくれた。
従僕長のリッケルの話では外泊は基本的に駄目らしい。よく許可が下りたなと言われた。どうやらかなり無理を言ったようだ。
白竜山脈の麓の村の手伝いを何時間かしてもお釣りがくるくらい、この村で1泊して2日連続で鎧アリを攻略することに意味があった。
1日200体の鎧アリの討伐を300体に増やすことができた。
4月の途中から、白竜山脈の麓の村で1泊しての2日連続攻略を続けて鎧アリの巣に変化が見えてきた。
丸太運びなど白竜山脈の麓の村での手伝いが終わり、いつものように巣に出てくる鎧アリを倒していたら今までにない変化が起きた。
巣の外に出てくる鎧アリがとうとう止まった。
(きたぞ! とうとう俺の粘り勝ちだ! みたか!!!)
常に一定数の鎧アリが外に湧いて出てきていたのだが、今まで通り倒していたら新たな鎧アリが出なくなった。
(こ、これは攻め時だ。どうするか)
ぽっかりと開いた縦横3メートルにもなる巨大な穴がある。
(一応、松明や灯り用の魔導具とか持ってきたけど、まずは召喚獣に向かわせるか)
巣の中の状態を確認したい。中に女王鎧アリがいるはずなので、巣のどこに女王鎧アリがいるかも調べないといけない。
穴の中の調査が必要だ。
(さて、穴の中にはチャッピーを送るか? いや暗いだろうからホロウか)
何を送るか判断する。鳥Gの召喚獣ではなく、暗さ対策で特技「夜目」がある鳥Dの召喚獣を送る。
(ふむ、チャッピーはまだまだ役目がないな)
召喚レベルが上がり、共有など便利なスキルが増えてきた。なるべく全ての召喚獣にどんな活躍の場があるのか検証は進めている。
鳥Gの召喚獣の特技「声まね」はかなり有用だと思っている。特に共有を絡めると用途の幅がかなり広がる。
声まねの検証
・人の声をまねることができる
声まねをする条件
・対象の声を聞かなくてはいけない
・対象の名前が分からなくてはいけない
共有がなかったころは、言葉の内容も、誰の声をまねるかも50メートル以内でいちいち指定しなくてはならなかった。中々使いづらかったが、共有によりこの特技の有用性が一気に上昇した。
声の対象も内容も常に指示ができるようになり、場所も移動できる。可能性がかなり広がったのだが、今のところ使い道が見いだせない。
そんなことを考えながらも、鳥Dの召喚獣が穴の中をどんどん進んでいく。
(中はかなり広いな。これは1体なら間に合わないぞ)
奥に奥に進んでいく。あの巨大な鎧アリが1000体以上住まう、底はかなりの迷宮のようだ。何度か枝分かれしながら、どこまでもトンネルは続いていく。
ここは女王鎧アリの討伐の好機と鳥Dの召喚獣をさらに3体増やして、巣の中に入っていく。
(なるほど、ここは小部屋か。ぐは、やられた!)
アレンは4体の召喚獣を先に進めさせながら、巣の攻略図を魔導書に転写させていく。どこで枝分かれしたのか、小部屋になっており行き止まりであった。
潜入していくと鎧アリが全くいなかったわけではない。小部屋にいた鎧アリの大顎に捕まって1体の鳥Dの召喚獣がやられてしまう。
(ぐぬぬ、諦めぬぞ。えっと)
鎧アリはまだ巣の中にいることが分かった。やられる前に3体ほど見えたので、それなりの数がいそうだ。
巣穴攻略に向けた作戦を考える。
現在先行している3体の鳥Dの召喚獣はそのままに、新たに1体を既に召喚してある獣Dの召喚獣を4体共有する。
3体の鳥Dの召喚獣は攻略地図作成のため、ガンガン先行させる。やられたら、やられた分だけ召喚し直す。またやられた場所から緩やかに下るトンネルの中を進んでいく。この巣の全容を完全に把握する。
そして、鎧アリがいてやられた場所に魔導書に作成している攻略地図に印をつけていく。その印をつけた場所に3体の獣Dと1体の鳥Dの編成部隊を突入させる。小部屋にいた鎧アリは全て駆逐する。たまに小部屋に幼虫とかいても全て倒していく。
獣Dの召喚獣は光を通さない真っ暗なトンネルのため、一切見えない。共有しているアレンも見えていない。一緒にいる鳥Dの召喚獣の特技「夜目」の見える情報を元に、獣Dの召喚獣を指示していく。
朝から始まった巣穴の攻防も昼過ぎだ。進み始めたばかりの頃は調子が良かったが、鎧アリも黙ってはいなかった。
(ぐ、また閉じ込められた)
鎧アリはほぼ巣穴と同じ大きさだ。巣穴と鎧がほとんど同じ大きさなので、鎧アリがいるとその先には進めない。
行き止まりまで進んで戻ろうとすると鎧アリがいる。鳥Dの召喚獣だけでは倒せないので、完全に閉じ込められた形になる。
その場合は一度カードに戻す。カードに戻すと自動的にホルダーに格納されるので、再召喚して、巣穴に入り直す。
当然鎧アリは通路にもいる。通路にいる場合も小部屋にいる場合も獣Dの召喚獣は倒していく。倒しても鎧アリが邪魔で先に進めないので、潰した頭を取っ手にひっぱったり、押したりして鎧アリの死体を動かす。召喚獣が先に進めるように、上手に小部屋や行き止まりに詰めてどける必要がある。
(なんか、パズルをやっている気分だな。巣穴攻略ってこういうものなのか?)
地図を埋め、鎧アリを倒し、先に進めるように倒した鎧アリを移動させる。何かパズルゲームをしている気分になる。
アレンが前世で健一だった頃、ゲーム内にあるミニゲームのようなものがあった。なぜか冒険ファンタジーなのに、ミニゲームでクイズ大会やすごろくがある。鎧アリの巣の攻略はこれに似ているように感じる。
そして、夕方過ぎにとうとう鳥Dの召喚獣が、今までで一番大きな鎧アリを巣穴の底に発見するのであった。
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