第331話 チームアレン① 東へ

 アレンたちパーティーが3つに分かれて2日が経った。

 アレンたちは一回り大きい鳥Bの召喚獣に3人で乗っている。


 この一回り大きな鳥Bの召喚獣は指揮化した召喚獣で、お陰でアレン、ドゴラ、セシルが3人で乗ることができる。


 アレンは鳥Aの召喚獣の加護で空を飛ぶこともできるのだが、飛翔を発動すると魔力を消費するし、移動中にはやることもある。

 三角形に座って乗り、3人の中央に回復薬生成セットの土を置いて、アレンが道中ずっと草Cの召喚獣から香味野菜を生成し続けている。


 光の柱はエルマール教国も含めて全部で4本だった。

 ソフィーが対応したダークエルフの里ファブラーゼの近くにあったオアシスの街ルコアックでは、魔王軍が人を集め邪教徒にしようとしていた。


 オアシスから作り、自然と人が集まり街ができるようにする。10年どころか数十年かけての計画だ。


 チームキールのメンバーはまだ南に向かう光の柱に到着していないが、どうも魔王軍が内乱を起こして国を分裂させてしまっているように思える。


 何を計画しているのか分からないが、明らかに連合国で色々魔王軍が暗躍している。

 1つ大きな可能性があるのは、光の柱の計画は4本では済まないかもしれないということだ。

 まだまだ柱が増えていくと考えるととてもじゃないが、香味野菜が足りない。

 

 アレンが高速召喚を駆使して生成、合成、スキル発動などの指示をしながら、セシルとドゴラが横に置いてある魔導書の収納に出来た香味野菜を投げ込んでいく。


「もうずいぶん暗くなったな。そろそろ野営するか?」


 ドゴラが沈みかかった日を見て、今日はここまでにしようと言う。


「そうね」


 セシルも同意したところで、アレンは鳥Bの召喚獣の高度を下げていく。

 そこは、近くに沼地のある水気の多い場所だ。


 どうもこの辺りは水源が多いらしく、密林というより湿地帯が広がっている。


「この辺はまだまともか」


 アレンは地面を踏み、この辺りの地面は水気が少なく野営に適しているか確認する。

 ぬかるみになっていないと分かると、薪をどんどん収納から出す。


 湿地帯ということもあり、地面を這ったり空を飛ぶ虫も多いので、虫よけの魔導具を火起こしの魔導具と一緒に出す。

 この虫よけの魔導具は収納にも入る大きさで、魔石を取り付けるとお香のような煙が出ていろんな虫を寄せ付けなくなる。

 所詮は虫避けなので魔獣は寄ってくるのだが、金の豆も使って魔獣も寄せ付けないようにする。

 虫Aの召喚獣にも囲まれているし、夜番もせずに3人で爆睡する予定だ。


 大きく組んだ薪がキャンプファイヤーのように煌々と燃えている。

 その火を使って枝に刺した肉を炙る。


「うまい!」


 ガリボリ


 ドゴラは何を食べても「うまい!」と言って貪る。

 今日も一日中東へ移動してきて体をあまり動かしていないのだが、ハラペコだったようだ。

 アレンが収納から出した骨付き肉を、かじりつくように食べている。

 ドゴラは成長期なのか縦に横にと体が大きくなり、肉厚になっていく。


 機動力を生かした俊敏な戦いよりも、体格の良さを生かした重戦士系へ日々成長している。


「他のチームはどんな感じかしら。キールのチームも今日は移動だけ?」


 セシルが他のチームの状況の確認をする。


「そうだな。キールのチームは移動だけだ」


 キールのチームは連合国の南端に向けて移動中。

 クレナが角ウサギを捕まえて喜んでいること。

 南端は国家が割れ、魔王軍の暗躍の恐れがあるという話をする。


「クレナは相変わらずだな」


(お前もな)


 そういって自分の周りに角ウサギはいないのかとずいぶん暗くなってしまった辺りを探すドゴラを見てアレンは思う。


「西に行ったソフィーのチームによるオアシスの街の救済が始まっているぞ」


 ソフィーのチームの情報も共有する。

 アレンとキールのチームよりも早く行動を開始できたソフィーの状況をセシルとドゴラに語る。

 ソフィーとオルバース王との会話は聞いても見てもいないが、後に霊Aの召喚獣を通して教えてもらった。


 ダークエルフの里ファブラーゼの協力を得たソフィーは避難所を里の近くに設置してもらい、近隣のオアシスの街に救出に向かった。


 先日、ソフィーたちが避難所の様子を確認しに戻ったら、ダークエルフの長老から邪教徒狩りの選抜隊を結成したので協力すると言われた。


 邪教徒を狩り、オアシスの街を救い、逃げてきた避難民を救済する。

 この救援活動はエルフの王女のソフィーが先導し、ダークエルフは里の外に避難所を提供するだけ。

 こういった事実を残すことをダークエルフたちは体裁が悪いと判断したようだ。


 ダークエルフの里で最強の部隊を編成し邪教徒の討伐に参加すると言ってきたらしい。

 ソフィーは「大変助かります」とニコリと微笑み了承した。

 100人くらいならタムタム(モードイーグル)に乗り込める。

 今日は共同戦線初日で一緒に邪教徒に襲われているオアシスの街を救援したようだ。


「ソフィーも相変わらずのようね」


 セシルはアレンの話を聞いて眉をひそめ1つの感想を漏らす。

 セシルはソフィーが同意した背景が分かったようだ。


「うむ。俺と違って、ソフィーは計算高いからな」


「そうね。アレンもよ?」


 アレンは「腹黒い」という言葉を「計算高い」という言葉に言い換える。

 セシルは同意して流しつつ、「あなたもでしょ」とため息をつく。


 ダークエルフたちをソフィーが受け入れたのは、力の差を見せつけるためだったのだろう。

 圧倒的な力をダークエルフたちに見せつけるソフィーやメルルのタムタムの様子を、霊Aの召喚獣が映し出す。


 全魔力を精霊に与える必要があったのかという場面がいくつか散見された。


(それで言うと、オルバース王もただ者ではないと。これを予見して最初から助力の姿勢を見せたのなら、ソフィーとオルバースの智略の争いは今後どうなっていくのか? 数千年争っていただけのことはあるな)


 初見でオルバース王は避難所に地図と助力の姿勢を示した。

 これは、単純に慈善的な対応ではなく、ダークエルフの未来のため、立場を悪くしないようにするための布石であったのかもしれないとアレンは予想する。


 ダークエルフたちがいなくてもソフィーたちはオアシスの街を救済できるかもしれないとオルバース王は考えた。

 それが成功しだした後からでは、ダークエルフたちに協力する資格はない。

 断っておいて、今更という話だ。

 そして、ダークエルフの里は、里の周りのことを全てエルフたちに任せたという事実だけが残る。

 エルフの王女に救済の全てを投げ渡してなにもしなかった。


 ダークエルフにとってオアシスの街や民がどうなってもいいと思っていても、今後もオアシスの街と交易は必要だ。

 エルフに全てを任せて何もしなかった事実は、将来的に足元を見られてしまう可能性も出てくる。


 ダークエルフの里を治めるオルバース王はそこまで予見したのか、可能性を感じ取って最初から助力の姿勢を見せたのであれば、これは侮れないとアレンは分析する。


 ソフィーとオルバース王の知恵比べに、今後のエルフとダークエルフの未来はどうなっていくのかと思う。


「それで、こっちも東の果てについてしまいそうってことかよ?」


 ドゴラは自分らのチームの話もしようと言う。


 ソフィーのチームもキールのチームもそれぞれ西と南の端まで光の柱が伸びていた。

 それでいうとアレンのチームもこの大陸の東の果てまで伸びていそうだ。


「この先ってあのクレビュール王国って国なのよね。たしか」


 セシルも自分らが行く所が気になるようだ。

 「あの」をつけるくらいには知っていることに含みを持たせる。


「ああ、魚人王国クレビュールだな。なんでもシア獣王女がそこに向かったらしいからな」 


 ここも既に湿地帯になっているが、これから向かう先は沼地や湿地帯の多い水の王国だという。

 クレビュール王国という名の国で、シア王女がそちらに向かうと教都テオメニアの神官に伝えたらしく、ニコライ神官が調べてくれた。


「結構前に行ったのよね。まだ生きているかしら」


 光の柱が伸びているということは、現在は邪教徒が溢れている可能性しかない。


「さすがに精鋭部隊の獣人たちと一緒にいるらしいから大丈夫だと思うけどな」


 ニコライ神官の話ではシア獣王女率いる獣人部隊ごと1か月近く前に移動した。

 光の柱で邪教徒が溢れているならもろに邪教徒たちとぶつかっている恐れがある。


 邪教徒自体は魔獣で言うところのCランクからBランク程度だ。

 中にはAランクの魔獣も混じっている。

 才能のない並の人間なら脅威でしかないが、戦姫とか呼ばれ部隊も引き連れているらしいからまだ生きているのではとアレンは思う。


 当然、シア獣王女とは会ったことも実力も分からないので完全な希望的観測だ。


「何しに行ったのかしら? やっぱり、王女様だからマクリスの聖珠かしらね」


 彼女の名前だけは兄のゼウ獣王子から、聞いてもいないのによく聞くが結局会えていない。

 エルマール教国でも会えずじまいだった。


 会えないキャラを探し続けたことが前世のゲームであったような気がする。


「まあ、戦姫と言われていても王女だからな」


 違う気がするがとりあえず同意する。


「そうよ! きっとクレビュール王国ならマクリスの聖珠があると思ったのよ」


 セシルは間違いないと言う。


「おい、俺にもわかるように話をしろ」


 ドゴラが会話についていけない。

 アレンが貴族の家の従僕だったから知っていることもある。


「男は知らない方がいい世界があるんだぞ」


「は? 何だよそれ」


「今度2人になったら教えよう。それかキールに聞け。多分キールなら知っている」


(決して女性の前でプロスティア物語の話も、聖魚マクリスの涙の話もしてはいけない)


「はあ?」


 アレンがドゴラに世界には触れてはいけない禁則事項があることを教える。

 男性は女性に「プロスティア帝国」や「聖魚マクリスの涙」の話をしてはいけない。

 これはこの世界の常識らしい。


 貴族の家には「プロスティア帝国物語」という絵本が必ずあり、婦女子は幼少のころから、その絵本を母親から読み聞かせてもらい、夢を見る。

 前世の記憶が正しいなら一度も行ったこともないが、プロスティア帝国は女子が一度は行ってみたいネズミの国のような概念だという。

 グランヴェル家の書斎には、史実に基づくものか創作や伝承かどうかもあいまいな本が多くあった。

 アレンは学園に入って、プロスティア帝国は実際の国だったことを知った。

 その絵本の最後のページに描かれて出てくるのが、「聖魚マクリスの涙」だ。

 聞くも涙、話すも涙の悲しい物語だ。


「マクリスの聖珠を買うなら金貨数百万とかするらしいぞ。買えないからな」


 アレンたちがS級ダンジョンで頑張って貯めたお金でも買えないほどの価値があると聞いている。

 何でもマクリスの聖珠を買うために土地や国自体を手放した国もあり、その結果魚人たちが国を手に入れて建国したのがクレビュール王国だ。

 絵本に出てくる「聖魚マクリスの涙」は、実際は「マクリスの聖珠」という宝石として国家間で取引されているようだ。


「ちょ!? 何よ、買うって。私も分別くらいあるわよ! それでそのクレビュールって国には何も問題はないの?」


(嘘をつけ。目を輝かせていただろ)


 セシルが真っ赤になって怒るので宥めることにする。

 セシルも、さすがに今襲われているかもしれない国があるので、そっちに話を戻そうという。


 セシルは、オアシスの街やカルバルナ王国の分裂など西と南で見られたような問題はないかと言う。


「こっちもまずいんじゃないのか。クレビュール王国はプロスティア帝国の属国で不満が大きかったらしいからな。何でも内乱が起きるんじゃないのかって話もあったらしいぞ」


 ニコライ神官からクレビュール王国についての話を聞いた。


(きな臭いんだけど)


 不満の多い国に力を持った者が甘い言葉で誘惑されたならという話をアレンはする。


「じゃあ、もしかしてシア獣王女様は何かあってクレビュール王国に行ったってことかよ」


 それはまずいなと、ドゴラも厳しい顔をする。


「そう考えるのが自然だな」


 ニコライ神官が言うにはクレビュール王国の情勢を聞いてほどなくして部隊を引き連れて行ってしまったらしい。

 何を思ったかは、シア獣王女に聞いてみないと分からないがなとアレンは付け加える。


「そう、じゃあ、そこでも魔神が暗躍しているかもしれないわね。魔神はしっかり倒さないと」


 そう言ってセシルは深紅で釣り目がちな瞳で焚火を見ながら、さっきまでの絵本に憧れた少女の表情が消えていく。

 セシルは何かを思い詰めるように戦いに身も心も寄せていくのであった。

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