第05話 検証

 初めて召喚ができるようになってから10日が過ぎた。

 今は昼を過ぎて昼寝から目覚める時間帯だ。魔導書の表紙を見つめながら今後のことを考える。表紙にはアレンのステータスが表示されている。


 10日間、テレシアの目を盗んで召喚を続けたおかげで魔導書や召喚について、かなりのことが分かった。


 まずは魔導書についてだ。


・魔導書と念じると魔導書が出てくる

・ステータスと念じるとステータスが真っ黒な表紙に銀の文字で表示される

・生成と念じると何を生成するか表紙に銀の文字で表示される


 魔導書の機能についてはこんな感じであった。あれから異世界の神からのお知らせは届いていない。


 そして、生成したカードについてだ。


・召喚獣はカードとして合計10枚までならストックができる

・同時に合計10体まで召喚ができる

・カードにした分だけ、加護がもらえる

・カードを召喚する、その後カードに戻すのは自由に何回でもできる

 

 どうやら魔導書のストックに限界があるのか、10枚までしか召喚もカード化によるストックもできない。11枚目を生成しようとすると、今あるカードを削除してくださいと魔導書の表紙に表示される。召喚獣を出していても同じだ。


 獣Hもこの10日間の間に試した。


 【種 類】 獣

 【ランク】 H

 【名 前】 チョロスケ

 【体 力】 5

 【魔 力】 0

 【攻撃力】 5

 【耐久力】 2

 【素早さ】 3

 【知 力】 1

 【幸 運】 2

 【加 護】 体力1、攻撃力1

 【特 技】 駆け回る


 獣Hの検証結果

・獣Hのフォルムは鼠(割と大きめ)

・バッタと同じくほぼ言うことは聞かない

・特技を言葉に発する、もしくは念じれば特技を使ってくれる


 ステータス欄の【名前】に『ちょろすけ』とあるように、召喚獣には名前の設定が可能で、獣Hではなく愛称でも生成や召喚が可能だ。たしかに略称もあると検証や分析に便利だが、やはり名前は欲しいなと思う。

 なお、声を出す必要もなく、念じるだけでよい。


 虫Hのバッタの名前は『でんか』である。

 

 今のところ、知能が足りないのか、言うことは一切聞かない。特訓すればなんとかなるかと思ったが、変化の兆しは見えない。

 知能が足りず一切言うことを聞かないが、唯一指示できることがある。

 どうも召喚獣には特技が割り振られており、獣Hなら「駆け回る」もしくは「特技」と言葉に出すか、念じるだけでその行動に移る。魔力を消費しないのか何度でもやってくれる。


 今現在も獣Hの鼠を正視し、必死に念力のようなもので言うことを聞かせようとしている。

 

 アレンは息を殺して、物音を立てずに検証を続けていた。ちなみにバッタはテレシアにこの10日で3回ほど光に変えられた。この家は掘っ立て小屋に毛が生えたような家である。断熱と防音機能もほぼない。隙間も多く虫が家の中に入ってくるのだが、どうも召喚獣は、一般的なバッタより一回りほど大きいためか気持ち悪いようだ。


 眠気と空腹に耐え、必死にテレシアの気配を窺いながら検証をした10日間であった。


(ちょろすけ、お前ができる子なのは知っている。こっちにおいで)


 部屋の隅の離れたところから、両手を広げこっちにこいというしぐさをしている。その言葉が聞こえたのか、一瞬獣Hと目が合う。


「お!」


 思わず声が出てしまう。

 とうとう召喚獣の使役に成功したのかと喜ぶ。しかし、獣Hの召喚獣はぷいっと視線を変え不規則にちょろちょろとする。


(だ、だめだ、どこが魔王を超える職業だ)


 なお、召喚獣にも使える点もある。


(召喚獣は戦闘では役に立たないが、鼠を10枚魔導書にストックしているだけで攻撃力が10も上がるからな。1歳なのに、家にある木材とか持ててビビったぜ)


 召喚士の力に目覚めたおかげで、通常の1歳児よりは力を得た。

 そして、生成と召喚を繰り返して、召喚士である自らの育成のやり方についても分かってきた。


(しかし、さすがヘルモード、レベル上げは大変だぞ)


 ヘルモードは、レベル上げがノーマルモードの100倍かかる設定である。極めれば1つの真理が手に入ると言われるモードであるが、育成には並々ならぬ、そしてたゆまぬ努力を求められる。

 

 【名 前】 アレン

 【年 齢】 1

 【職 業】 召喚士

 【レベル】 1

 【体 力】 4(40)+8

 【魔 力】 0(20)

 【攻撃力】 1(10)+8

 【耐久力】 1(10)+2

 【素早さ】 2(25)+2

 【知 力】 3(30)

 【幸 運】 2(25)

 【スキル】 召喚〈1〉、生成〈1〉、削除

 【経験値】 0/1,000


・スキルレベル

 【召 喚】 1

 【生 成】 1

・スキル経験値

 【生 成】 24/1,000

・生成可能召喚獣

 【 虫 】 H

 【 獣 】 H

・ホルダー

 【 虫 】 H2枚

 【 獣 】 H8枚


(スキル経験値がやっと24か。消費魔力がそのまま経験値になるのね、まあ仮説だけど、消費魔力2以外のスキル持ってないし)


 魔力とスキル経験値の取得条件についての検証結果だ。


・召喚獣Hランクのカード生成の消費魔力は2

・消費魔力がスキル経験値として加算される

・カードから召喚獣にしても魔力は必要としない

・召喚獣からカードにしても魔力は必要としない

・魔力は半日ほど寝ていたら全快する


 生成レベルを上げるには生成をしまくったらよいことが分かった。


(それにしても消費魔力2で、最大魔力も2だから、1日1回しかカード生成しなかったら生成レベルを2に上げるのに500日かかる件について。どうやら6時間くらいで魔力が満タンになるっぽいから1日2回を目標にカード生成しないとな。それでも250日か)

 

 ヘルモードによるレベル上げの果てしなさを感じる。

 魔力の回復は半日ほど寝ていたら全快していたので6時間程度で満タンと仮定している。

 1日12から15時間の睡眠を必要とする幼児であり、時計もないので、1日最大4回魔力回復ができるとしても、定期的に目覚めることが難しかった10日間であった。

 カード生成は1日3回の時もあれば1回しかできないこともあったが、今後は1日2回は生成しようと思う。


(考察を記録するメモ機能が欲しいな、こんなに厚いのだからメモさせてほしいぜ)


 10日分の考察をなるべくメモしておきたい。

 ゲーマーなら表計算ソフトを駆使して、レベルやステータスを分析するなんて当然のことである。そこまで贅沢は言わないが、せめて検証結果を記録したい。

 届け異世界の神へという思いで、使用していない余白のページを使わせてほしいと念じ続けている。

 魔導書に不満を垂れていると、土間からロダンの声がする。


「テレシア帰ってきたぞ~!!」


(お! 帰ってきた。この感じは収獲があったのか!)


 ロダンの声から明るい喜びが伝わってくる。そして、ロダンの帰りに心躍るアレンであった。

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