第462話 竜神の里

 アレンたちは鳥Bの召喚獣たちに乗り、竜神の里の入り口を目指す。


 今回もアレンたちのパーティーは2つのチームに分かれる。

 活動目的や仲間たちの成長度合いによって、パーティーを分けるのもリーダーであるアレンの仕事だ。


・チームアレン:アレン、セシル、ソフィー、ロザリナ、イグノマス、ルーク

・チームキール:キール、クレナ、ドゴラ、メルル、シア、フォルマール


 キールはアレン軍のアレン代行の立場になりつつある。

 仲間たちからも、アレン軍からも副パーティーリーダーという認識だ。

 S級ダンジョンの最下層でのアレンのパーティーのメンバー、アレン軍の指揮、勇者軍との連携をお願いする。

 クレナとドゴラはエクストラモードのカンストを目指す。

 シアはレベルから優先してあげてもらい、メルルはタムタムの規格向上のためだ。


 なお、ペロムスにもせっかく転職ポイントがあるなら、転職して才能の数を増やすよう勧めてある。

 妻ができたことだし、危険を冒して挑戦するかはペロムス次第だ。


 ロザリナとイグノマスはパーティーに入ったばかりだから、アレンの元で同行してほしい。

 これはセシルやソフィーから出た意見だ。

 最初のうちから別パーティーに入れるのではなく、アレンの行動を理解できるだけ理解してほしいと言うわけだ。


 なお、イグノマスは元々スキルもレベルもカンストした状態でパーティーに加入した。

 ロザリナは転職してレベル60になったのだが、スキルレベルはカンストしていない。

 旅の道中にスキルを上げてもらう予定だ。


 ルークが同行したがったため、フォルマールはソフィーと別れてS級ダンジョンのチームとなった。


「おお!! でっけええ、門が見えてきたな!!」


『ルーク、そんなに動くと落ちちゃうよ』


 パーティーを分ける上で、アレン側に入りたいと言ったルークが鳥Bの上からはしゃいでいる。

 ルークの頭に乗る姐さん口調の漆黒のイタチの姿をした精霊王ファーブルが窘める。


 ヘビーユーザー島ごと竜神の里に接近すると、騒ぎになるので少し離れたところに停めてある。


(うむうむ。元気があってよろしい)


 アレンは見た目8歳の少年のルークくらいの年頃の時にゲームを初めてし始めた記憶がある。

 初めて手に取ったゲームソフトで、ワクワクしながらテレビゲームに興じた記憶がある。

 ルークの目の輝きはその当時を思い出させてくれる。


「デカい門から少し離れたところに降りよう。レームシール王国側だな」


(こっちは鳥人国家か。聖鳥クワトロがいるのかな)


「分かったわ」


 アレンの言葉にセシルが返事をし、仲間たちが一気に下降していく。

 竜神の里を隔てる巨大な門と外壁は遠くに降りてもはっきりと分かる。


 急に降りてきたアレンたちに近くにいた鳥人たちがギョッとする。

 ここは鳥人たちのいるレームシール王国の端だ。

 今回の目的は、竜神の里にあるという審判の門から神界に行くことだが、聖獣探しも大事なアレンの目的だ。

 聖獣である聖鳥クワトロがいないか思案する。


 里と王国の国境ということもあって、行き交う人で溢れている。


 アレンたちは、ガルレシア大陸の西端にある竜神の里マグラに直接入ることはしなかった。

 竜神の里は、5大陸同盟にも加盟しておらず、魔王との戦いには一切の協力も参加もしていない。


 先月、竜神の里へ入る許可について、アルバハル獣王国を通じて連絡した。

 随分待たされたあげく竜神の里からの回答は「通常通り入国の審査を受け、門をくぐり入れ」とのことだった。


「さて、行こう」


 先日の5大陸同盟会議の折に足を運ぶ旨、レームシール王国の国王に伝えてある。


 仲間たちとずんずんと国を隔てる巨大な門へ向かう。


「ここの先に竜王がいるのか!」


『こら、あまりはしゃがないの』


 先日、自分も転職できることが分かりルークの機嫌がとても良い。

 行き交う鳥人と竜人に目を奪われる。

 ファーブルが窘めるようにルークの頭の上で猫パンチならぬ、イタチパンチでぺちぺちと額を打つ。


 このガルレシア大陸は半数以上の種族は獣人なのだが、鳥人や竜人もいる。

 多種多様な種族が、国や里に分かれ暮らしている。


 ここは鳥人王国レームシールと竜神の里マグラの境の門だ。


(なるほど、彼らが竜人か。羽があったりなかったりしているぞ)


 アレンは竜人の特徴をメモに取る


【竜人の特徴】

・全身に鱗がある

・尻尾がある

・頭には角が1本または2本生えている

・背中には1対の翼がある者もいる

・目は金色の瞳をしており、髪の色は紫、紺、濃い緑など様々

・体格は男女ともに大きく2メートル前後ある

・足が爬虫類のような者もいる


 かなり個体差があり、竜に近いものから人族に近いものまで様々なようだ。

 体格も細身であったり、リザードマンかと思うほどの巨躯の者までいる。

 男の方が竜に近いのは魚人と同じようだ。


「随分な行列ね。結構待たされそうだわ」


「そうだな」


 セシルは1000人以上並ぶ竜神の里の門を見て絶句する。

 アレンは魔力消費を繰り返しながら、時間がかかりそうだなと返事をする。


 里の門への行き交う獣人や鳥人からも、この竜神の里は5大陸同盟に加入していないが、完全に閉鎖されているというわけではない。


 アレンはゆっくりと見上げると、竜神の里はゆっくりと傾斜があり荒涼とした大地が見える。


「里の割には随分でかいな。これも、竜神の功績なのか?」


 鳥Eの召喚獣を先行させているが、この里はかなり大きい。


「アレン様、あまり大きな声で言わない方がいいですわ」


 アレンが思わず声を出して言うので、ソフィーが諫める。


 竜神の里は、里とは名ばかりで、前世で言うところの中の上ほどの国土の広さを持つ。

 里はガルレシア大陸の西端にある半島を占有しており、スカンジナビア半島ほどある。

 里は半島で渦を巻くようにゆっくりと標高が高くなっていく。

 

 渦の中心に竜王マティルドーラが治める神殿があるらしい。

 その神殿に審判の門もあるとか。


 半日ほど待たされて、ようやく順番がやってきた。

 アレンは今一度、巨大な門と外壁を見上げる。

 100メートルに達するのではという巨大な外壁が半島と大陸を隔てるように存在する。

 圧倒的な存在感に召喚獣越しに見たローゼンヘイムの最北の要塞を思い出す。

 あそこも大精霊使いによって作られた巨大な砦であるがそれ以上の大きさと長さだ。


 アレンは見下ろすと何人もの門番の竜人が入ってくる者に対して受付を行っている。

 その中の1人で槍を持つ体長は2メートルを超えそうな竜人の門番が、アレンたちの元に近づく。


「人族か?」


「はい。人族もいます。里へ入ることを許可してください」


「目的は?」


「貴重な素材が手に入ると言うことで、買い付けを考えております」


 とりあえず、竜王に会わせろとは言わず、一応名工ハバラクから頼まれた話を前面に出して門番と話をする。


「ほう? Sランクの冒険者が買い付けね」


 ジロジロとアレンの「S」の表示の冒険者証とアレンを睨みながら怪訝な顔をしている。


(さて、素直に入れるならそれに越したことはないんだけど)


 アレンたちはプロスティア帝国のように竜人の姿に変わっていない。

 プロスティア帝国についても最初は正規のルートで入国しようとした。

 魚人に変わり立場を偽って潜入したのは最終手段だ。


「はい。パーティーの活動に必要なもので」


 アレンの丁寧な交渉は続いていく。

 実際にハバラクからは錬金の素材として、竜神の里にしかない物をいくつか手に入れてくるように頼まれている。

 特に竜目岩はオリハルコンの錬金にどうしても必要とのことだ。

 絶対に手に入れる予定だ。


「ん? Sランクでアレン? お前はアレン軍のアレンか?」


 別の者の里入りの対応をしていた竜人がやってきた。


「そうです」


 S級ダンジョンを攻略し、アレン軍なる組織を構成している代表のアレンを知っているようだ。

 5大陸同盟に参加していない里の門番にも知れ渡っているんだなとアレンは思う。


「すまないが、受け入れは断ったはずだ」


「ん? 断った?」


 新たにやってきた竜人の門番は入ったら駄目だと言う。


(もしかして、並んで入国しろというのは、竜人的な隠語で断るって意味か?)


 それなりの組織になったアレンたちをストレートに断るのではなく、受け入れ拒否の意思を示したようだとアレンは考える。


「言葉の通りだ。何かよく分からん団体は入れぬようにということだ」


 帰れ帰れと手で振り払うようにこれ以上の交渉は応じないという態度だ。


「ちょっと、何で入れないのよ!!」


 一気に怒りがこみ上げたセシルが爆発するように叫ぶ。

 お陰で周囲の者からも何事だと視線が集まってくる。


(さて困ったな。できれば、穏便に入りたいのだが)


 アレンは現在の状況と審判の門について考える。

 アルバハル獣王国を通じて、竜人の里へ入ろうとしたが断られてしまった。

 審判の門がどんなものか、神界に本当に入れるのか、それがアレンたちの強化に直結するのか分からない。

 しかし、審判の門を管理する者である里を治める竜王とは良好な関係を築いた方がいいだろう。


 門が開けば、今後も神界との出入りでお世話になるかもしれない。

 プロスティア帝国で魚人に変身して潜入して上手くいったのは、帝国内で内乱が起きていたからの結果論だ。


 どうしようかと考えていた時、セシルの横でさらに声を荒らげる者がいた。


「どういうことだ! 何故、里に入れぬ。説明をしろ!!」


 激怒したイグノマスが怒号のように叫んだ。

 その感情や音量にセシルも我を取り戻す。


「ぬ? なんだ? 魚人が何だその態度は」


 2人の竜人の門番が何事かとイグノマスの元にゆっくりと足を進める。


「魚人だからなんだ? だから説明をせよと言っている。何故、俺らが中に入れぬ。列に並び、身分証も提示しただろうが!!」


「何をふざけたことを。おい、やってしまおうか」

「いや、さすがに騒ぎにするのは良くないと上は言っていたぞ」


 興奮したイグノマスと竜人の門番との押し問答が発生した。

 竜人の1人がイグノマスの顔にキスするのと思えるくらい顔を近づけるが、イグノマスは一切怯まない。

 まっすぐと竜人の金色の瞳を捉える。


(ん? ああ、これはイグノマスの逆鱗に触れたか)


 アレンはイグノマスの態度を理解する。

 イグノマスがアレンのパーティーに溶け込むことが出来たのには理由があった。


 イグノマスがアレンを認めたからだ。

 イグノマスの根底にあるのは「力を持ったものは正当に評価しろ」というものだ。


 平民に生まれ、プロスティア帝国という大帝国の近衛騎士団長に成り上がったことのあるイグノマスにとって能力の評価が全てとも言える。

 伏魔殿のような宮殿の中で、平民出身のイグノマスは何かと陰口をたたかれる存在であったとか。


 アレンが元農奴の出身だということにことさら強く反応を示していた。

 元農奴が魔神たちとも戦う力をもって各国の権力者たちに認められている。

 イグノマスが従うには十分すぎる理由だった。


 アレンはイグノマスのこの性格を「平民コンプ」と命名した。


「納得のある説明があるまで一切、引くつもりはないぞ」


 イグノマスがさらに声を荒げる。

 どう対応しようかとさらに竜人たちが集まってくる。

 騒ぎに参加する新たな声がイグノマスの後方からした。


『なんなのよ。さっさと中に入らせなさいよ。マティルは相変わらずね。あたし、待ちくたびれたわ』


 姐さん言葉によって放たれた言葉によって一瞬、騒然とした状況に静寂が広がっていく。


「マティルだと。竜王陛下に無礼な発言をした者は出てこい!!」


 竜人たちの表情が一気に険しくなっていく。

 自らの里を納める竜王マティルドーラは「マティル」などと呼んでいい存在ではないからだ。


(ふむ、竜人たちは顔を鱗で覆われているから怒っても血管が浮き出ることはないな)


 槍を力強く握りしめ、『マティル』と呼び捨てにした者に迫ろうとする竜人たちを後目に、アレンは竜人の特徴を考察する。


「ちょ、なんだ、やんのか!? やったるぞ!!」


 ルークがビビりながらも、自らが持つ短い杖を握りしめる。


「おい、誰が先ほどの言葉を口にした?」


 声の主を特定しようと詰め寄ったが、竜人はルークを見るがこんな少年の声ではない。

 そして、その上の漆黒の獣に視線が移った。


『何よ。早く通しなさいよ』


 ルークの頭の上で退屈そうに欠伸をしながらさらに通せとファーブルは言う。

 その態度に竜人たちは目を見開いた。


「も、もしかして精霊王ファーブル様でいらっしゃいますか?」


『見てのとおりよ。何並ばせてんのよ? 失礼だあね』


「「「な!?」」」


 竜人たちが直立不動になる。


(ん? ああ、竜王マティルドーラとファーブルは同い年くらいだからな)


「おい、ファーブル。竜王と知り合いか?」


『そうだあね。最近は会っていないけど』


「あ、あの。きょ、今日はどのような……」


 ルークの問いにファーブルが問う中、竜人が何しに来たのか恐縮しながら尋ねる。


『ちょっと、オルバースの子が竜神の里を見たいっていうからね』


「あ、ああ、なるほど」


『通してくれるわよね?』


「もちろんです。非礼をお詫びします」


 竜人が90度で頭を下げ、ファーブルに謝罪をする。


『もういいわよ。ああ、もしかしたら、マティルに会いに行くかもしれないから一言言っといてくれると助かるわね』


 そう言って、ファーブルはルークに竜人の里に入るように言う。

 竜人たちが後方から見つめる中、アレンたちも付いていくように巨大な門を潜り抜けた。

 こうしてアレンたちは竜神の里に入ることに成功したのであった。

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