第298話 予定
S級ダンジョン攻略から10日が過ぎた日のことだ。
「アレン機嫌がいいわね」
「ん? そうか。ぐふふ」
「ぐふふってなによ」
アレンが軽快なリズムで神殿から出て拠点に戻るので、セシルが呆れながら尋ねてくる。
アレンは仲間と共にアイアンゴーレム狩りに勤しんでいた。
今回の狩りでアレンはレベルが上がってすごく機嫌がいい。
レベルが上がった日は、それだけでアレンの機嫌がいい。
(いや~さすがメルルだ。魔導盤の穴を20個にしたのは正解だったな。ゼウ獣王子の攻撃力増加のネックレスも地味に効いているぜ。ふふんふん)
アイアンゴーレム狩りの効率が一気に上がった。
メルルの魔導盤の石板が2倍はめることができるようになり、一気にミスリルゴーレムのステータスが上がったからだ。
強化用石板を10枚はめて、ミスリルゴーレムの強化を図った。
なお、巨大化用石板や超巨大化用石板は複数同時にはめても意味がない。
巨大化用石板を2つ魔導盤にはめても意味がなかったので知っていたが、新たに追加された穴にはめても意味はなかった。
攻撃力が3000増えるネックレスはクレナに装備させている。
これも、硬いアイアンゴーレムを狩るのにずいぶん助けられている。
ゼウ獣王子には本当に感謝だ。
アレンの召喚レベルが上がると、1週間以上機嫌がよく、魔導書を見ながらニマニマしていることも仲間たちは知っている。
予定では、まずはアレンの王化のスキルを解放させる。
それが終わったら、最下層ボス「ゴルディノ」周回討伐をしようと話をしている。
「そういえば、最北の要塞周辺の殲滅がそろそろ終わりそうだぞ」
「ま!? まあ、素晴らしいですわ!!」
通りを歩きながら、経験値ついでに思い出したことをソフィーに伝える。
アレンは召喚レベル8になってから、鳥Aの召喚獣で大陸間の転移が容易になった。
一度転移用の「巣」を作れば、1人で移動するなら何度でも移動できる。
そして、エルフの女王からも要塞の復旧や難民の帰る街の復興にも苦労している話を聞いている。
ローゼンヘイムは去年の始めに、魔王軍から大規模な侵攻を受けた。
領土の3分の2以上を蹂躙され、街や要塞を破壊された。
アレンは魔王軍を討伐したが、散り散りになった魔獣たちがローゼンヘイムに存在する。
散っても数百から数千の規模で徒党を組んで、復旧や復興を邪魔しているのが現状だった。
その復旧や復興に、召喚レベル8になったこともあり、アレンは協力することにした。
竜Aと虫Aの召喚獣を合わせて60体召喚し、昼夜を問わず魔王軍の殲滅に当てている。
最下層ボス戦には虫Aの召喚獣は耐久力より攻撃力が必要なことから削除していたが、殲滅再開のため、再度召喚した。
ローゼンヘイム最北の要塞をまずは復旧させるべく、重点的に魔王軍残党を殲滅し続けた。
お陰で、ようやくエルフの兵たちが最北の要塞に戻り始めることができるようになったのだ。
今は3日間のダンジョン引きこもり生活を終えた。
そして、これから2日間の休みになる。
ダンジョン攻略しても変わらない日々を続けている。
ニコニコしながらアレンの話を聞くソフィーに復興状況を話しながら、アレンたちは拠点に入って行く。
「アレン様。アレン様に客人がお見えになっております」
「え? もう迎えに来たのですか?」
ヘルミオスの使用人が、アレンへ客人が来訪してきたことを伝えてくれる。
「アレンには」というよりアレンとヘルミオスとそのパーティーには迎えがやってくる予定がある。
それは、バウキス帝国の皇帝であるププン3世から帝都へ呼ばれているからだ。
数日前に使者がやって来て、準備が出来次第、帝都にやってきてほしいとのことだった。
何でも、初めてのS級ダンジョン攻略については、魔道具の力を借りて既にバウキス帝国全土に知らせていると使者から聞いた。
勇者ヘルミオスやゼウ獣王子が共闘したことも既に知っており、各国の総力を上げて困難な偉業を達成したことを皇帝自ら祝福すると言う。
元々はバウキス帝国の皇帝ププン3世の指示で、ガララ提督はS級ダンジョンの攻略を目指した。
バウキス帝国としても、ギアムート帝国やアルバハル獣王国、ローゼンヘイムに対して、自分らが主導して攻略したという事実を少しでも作りたいと言う政治的な思惑が見え隠れする。
むしろ祝福より、そっちが本題だろう。
バウキス帝国としても、これだけの偉業に対して称えることもせずにいられない。
帝国民の目も、各国からの目もあるので、公式な催しがしたいようだ。
『そうですか、いってらっしゃいませ。ああ、留守はお任せください』とヘルミオスにアレンが伝えたところ、『当然来るんだよね』と苦笑いで言われた。
ローゼンヘイムの王女も籍を置くアレンのパーティーにも、バウキス家の紋章の入った親書が用意されていた。
今回はホテルや魔導船でいきなり声を掛けられたわけではない。
親書が用意され、正式に使者がやって来た形での、バウキス帝国の帝都への招きだ。
どうやら断れないらしい。
取り急ぎ、親書だけをすぐに用意したようで、数日後にもう一度やって来るので、その時バウキス帝国の帝都に来て欲しいとのことだ。
S級ダンジョン攻略の祝いをした翌日から普通にアイアンゴーレム狩りをしているアレンにとってはかなり不満だが、流石に断るのは体裁が悪いので行くことにしている。
もう来たのかと一瞬不満の表情を見せるが、アレンは平静な顔つきに努める。
「あれ、あなたは?」
アレンの知っている人だ。
ドワーフだが、バウキス帝国の使者が着ていた服装ではない。
顔もよく知る相手だ。
この人はS級ダンジョンの冒険者ギルドの担当者だ。
「これはアレン様、お待ちしていました」
「あれ? 今まで待っていたのですか? 言伝でも良かったのですが」
アレンは3日ダンジョンに通って2日休むというスケジュールを繰り返している。
ギリギリまでアレンが夢中になってアイアンゴーレムを狩るため、今は日が沈んだ夜間だ。
目の前に置かれたお茶とお茶請けのお菓子からも、結構待っていたように思える。
ずっと待たせていたのかと、アレンは同じく食堂にいるヘルミオスを見る。
「ちょっと、大事な用があるみたいだよ」
「そうなんですね」
ヘルミオスは既に冒険者ギルドが訪ねてきた事情を聞いているようだ。
何でしょうとアレンは仲間たちと共に席に着く。
なお、ここにはガララ提督は既にいない。
自分の拠点に戻って、仲間たちと楽しくやっているようだ。
冒険者ギルドには、このS級ダンジョン攻略で随分お世話になった。
学園都市に居た頃も魔石の入手で助けられたが、S級ダンジョンではかなり真摯な対応をしてくれたこともあり、快適にダンジョンライフを過ごせたとも言える。
「実は、マッカラン本部長がギアムート帝国からやって来ており、会いたいとお待ちです。明日にでもお越しいただけませんか?」
「はあ、用向きは何でしょうか?」
「申し訳ございません。そこまでは聞いておりませんが、必要なら確認します」
「いえ、どちらにしても明日は冒険者ギルドに行きますので、その時用件を聞かせていただきます」
アレンはちらりとヘルミオスを見るとにこりと微笑まれる。
どうやらヘルミオスも本部長から呼ばれているようだ。
アイアンゴーレムから出たお宝を換金しに、冒険者ギルドには向かう予定だ。
アレンたちは決められた通りダンジョンに通い、決められた通り冒険者ギルドに向かう。
長期間決められたルーチンのように冒険者ギルドに通っているので、明日冒険者ギルドにアレンたちがやってくるのは、ギルドの職員なら知っているはずだ。
それでも当日急な話にならないように、前日わざわざこんな遅くまで待っていてくれた。
特に断る用事はないので、お会いしますよと答える。
(S級ダンジョンの攻略絡みだろうけど)
元々珍しい髪色で視線が集まっていたが、アレンたちもS級ダンジョンの攻略パーティーの1つだと知られている。
「それはありがとうございます」とお礼を言う冒険者ギルドの担当者に「せっかくなら食べて帰るといいですよ」と夕食を共にする。
そして、翌日になった。
アレンたちは宝箱から出た不要なアイテムや武器防具を持って冒険者ギルドに向かう。
アイアンゴーレム狩りをするようになってアレンたちの金策は加速した。
既に、パーティー全体で管理するお金は金貨100万枚を超えている。
たしかグランヴェル家が男爵だった頃の、ラターシュ王国に納める金貨が年に数万枚だったような気がするので、その当時の数十年分の額をアレンたちは持っていることになる。
Aランクの魔石から作る金銀の豆にも必要なこともあり、魔石を限界まで買っているのだが、それでも金貨は貯まり続けている。
大きな荷物を持って冒険者ギルドに行くと、いつものように広く高級な部屋に通される。
いつものように取引を先に済ませる。
ヘルミオスを本部長の件で待たせていると思って、とっとと武器や防具、アイテムを渡し、魔石は収納していく。
すると、次はこちらですと今まで行ったことのない最上階にある支部長室に呼ばれる。
このS級ダンジョンの支部長には何度かあってきたが、取引が終わると、いつもこの部屋にやって来て話をしてきた。
流石本部長だなと案内された一番奥の部屋に入る。
ヘルミオスの顔が見える。
「すみません。ヘルミオスさん。お待たせしてしまって……」
荷物の整理のために、先に済ませてくれると言うので、取引を優先させてしまった。
詫びを入れようとしたら、ここにはヘルミオス以外にも、ガララ提督、ゼウ獣王子もいた。
そして、ガララ提督の仲間も、十英獣もこの場にいる。
S級ダンジョンを攻略した全員がいるようだ。
ゼウ獣王子だけでなく十英獣がこのS級ダンジョンにまだ残っていることは以前から聞いている。
S級ダンジョンを攻略した全員の名前は既に公開されている。
アルバハル獣王国にも、十英獣がS級ダンジョンの最下層ボス戦に参加したことは耳に入っているようだ。
ゼウ獣王子がアルバハル獣王国の獣王に対して、S級ダンジョンの攻略が出来たこと、そして十英獣を借りたことを伝えているからだ。
今はゼウ獣王子も十英獣もバウキス帝国から正式にお招きされており、このS級ダンジョンの街で待機している状態だ。
「本部長はもうすぐ来るみたいだぞ」
「申し訳ありません。お待たせしました。ガララ提督。全員呼ばれていたんですね」
ヘルミオスだけでなく皆を待たせてしまっていたようだ。
謝罪するアレンに対して、こっちに来いとガララ提督が空いている席を指指す。
「ああ、そうだ。って来たみたいだな」
ガララ提督がそう言うと、奥の扉が開き、結構な年の爺さんが入ってくるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます