第77話 召喚獣隊

「さて、今日も楽しい狩りだった」


 今日は狩りの日だ。16時過ぎなので、最後に魔獣の肉を狩って帰ろうかというところだ。

 

 アレンの前には1体の鎧アリの亡骸がある。獣Dの召喚獣によって頭をかみ砕かれた鎧アリだ。


 前回の狩りでDランクの召喚獣の強さが分かった。鎧アリを安定して狩れることが分かったので、今までオーク一辺倒であった狩り対象に、鎧アリを増やすことにした。


 共有した鳥Eの召喚獣の鷹の目で索敵したところ、どうもオークより鎧アリのほうがかなり多いことが分かった。豚より蟻のほうが、繁殖力があるのかなと思う。


 索敵の情報がダイレクトに伝わってくるので、共有はかなり優れたスキルのように感じる。


(さて、執事に許可を取ったし持って帰るか)


 頭を潰した鎧アリのサラダボウルのような鎧をひっくり返す。胴体部分を鎧からミスリルの剣でさくさく切り離す。胸部にある魔石も回収する。


 基本的にここ2年ほどは、狩りを優先して素材は持って帰っていなかった。それは、素材を持って帰っても、店に行き売買をするだけで2時間とか3時間とかかるからだ。館から店までかなりの距離がある。金策より経験値だった。


 しかし、召喚レベルが5になり、鎧アリを安定して倒せるようになった。


 アレンが思いついたのは、肉のために魔獣を狩って帰る際、籠代わりに鎧アリの鎧を使おうという案。だから鎧アリの鎧を壊さないように頭を狙わせている。


 この鎧は金貨1枚で売れるらしい。1個当たりの単価がとてもいい。狩りの帰りに1個くらい持って帰ろうと考えた。


 そこで執事に相談した。鎧アリの鎧を狩りの度に持って帰るから防具屋に売ってもいいかと。男爵家で買い取ってもらってもいいのだが、男爵家に買い取る理由はない。


 執事からは、問題ないと言われた。さらに1つお願いをした。鎧10個運ぶごとに1個渡すことを条件に、使用人の誰かに防具屋へ売りに行くことを頼んでもいいかと。すると、たぶんみんな喜んでやるだろうと、これも了承してくれた。


(よし、解体終了と。じゃあ始めるか)


 アレンの狩りはここで終わらない。


 魚Dの召喚獣を30体ホルダーに入れているアレンの知力は1600ほどある。知力200当たり1体の召喚獣の共有できるので、8体の召喚獣と共有可能だ。


 また、Dランクの召喚獣については、あれからいくつか検証できなかったことについて検証が終わった。


 鳥Dの召喚獣の特技「夜目」は予想通り夜間に効果を発揮する索敵スキルだった。ただし、障害物の先にあるものは分からない。

 魚Dの召喚獣の特技「飛び散る」の効果時間は24時間だった。


 ある程度Dランクの召喚獣の検証も進んだので、今日はこれから召喚獣に共有で指示をしながら狩りが続行できるかの実験をしたいと思っている。


(できれば2部隊作りたいが、それだと1部隊4体の召喚獣になってしまうからな。8体全てでの団体行動にするか)


 8体を以下のような構成にした

・虫Dの召喚獣1体

・獣Dの召喚獣4体

・鳥Eの召喚獣1体

・鳥Dの召喚獣1体

・魚Dの召喚獣1体


 召喚獣だけで狩りをするのに、まず大事なことはやられないことだ。死んでしまったら召喚士が傍にいないので、召喚獣の補充はできない。その分戦力が落ちてしまう。なので、虫Dと魚Dの召喚獣によるデバフとバフは欠かせない。


 昼間は鳥Eの鷹の目、夜は鳥Dの夜目を使って索敵をする。

 当然魔獣を倒すのは獣Dの役目だ。獣Dは虫Dや魚Dを守ることも仕事だ。


 Cランクの魔獣を狩るには十分すぎる布陣だと思っている。


(じゃあ、後はよろしく。他の冒険者を攻撃したら駄目だよ)


 そして、今回の召喚獣隊で最も重要なことは、どれだけ魔獣を倒せるかではなく、他の冒険者を攻撃しないことだ。指示したことは当然守ってくれると思うが、冒険者側から襲ってきても反撃しないことも徹底させないといけない。


 鳥Eと鳥Dの召喚獣には他の冒険者には近づかないように言い含めてある。何故言い含める必要があるかというと、アレンは寝るからだ。眠っている間も共有は切れることはない。

 まだ、検証の途中であるが、この共有の効果は30日続きそうだ。召喚獣を召喚していられる時間と同じと考えている。


 眠っている時の共有は、前世でゲームしながら寝落ちしたような感じだ。物音は普通に耳に入ってくる。


 アレンが寝ている間は、召喚獣は各自の判断で行動しないといけない。だからいくつか注意点を言い含める必要があった。


 アレンが街に戻る中、共有を使って8体全ての召喚獣に指示をする。


 指示は1体ずつ順番にするわけではなく、8体同時に行なっている。8体の視界を見ながら、それぞれの体格や特技の特徴を理解しながら同時に指示ができる。知力1600がなせる業なのだろう。


 鳥Eの召喚獣が索敵を行う。鳥Dの召喚獣はもう少し暗くなってからが出番だ。


(まずは魔獣を見つけないとな。最初は少なめがいいな)


 鳥Eの召喚獣の鷹の目のスキルが辺りを見回す。この鷹の目も遮蔽物があると索敵の範囲からはずれる。共有して分かることもある。


 すると3キロメートル先にオークが2体いる。


(お、ちょうどいいな)


 この時鳥Eの召喚獣はわざわざ残り7体のもとに戻ってきたりはしない。7体の召喚獣は、鳥Eが発見した魔獣のところに向かう。

 

 共有ができるようになり情報の伝達速度が格段に上がった。視覚や特技を共有することができるようになり、わざわざ戻ってくる必要がなくなった。時間のロスも大幅に減った。


 鳥Eの召喚獣が捉えた2体のオークのもとへ向かう7体の召喚獣。


 この辺りは、木は生えているが森の中ではないので、オークからも当然見つかる。7体で行動しているため、オーク側も気づき臨戦態勢だ。


 向かってくるオークに対して、虫Dの召喚獣が特技「蜘蛛の糸」を発射して動きを止める。この蜘蛛の糸はかなり粘着力があり、オークの動きが悪くなる。


 そこに来ての熊の見た目の獣Dの召喚獣が動きの悪くなったオークを捉える。2体のオークを4体の獣Dの召喚獣が特技「かみ砕く」を使い、造作もなく倒していく。


『オークを1体倒しました。経験値1500を取得しました』

『オークを1体倒しました。経験値1500を取得しました』


(うしうし、余裕だぜ。ちょっと移動速度が遅いがまあその辺は我慢だ)


 アレンのほうがDランクの召喚獣より素早さがかなり高い。移動速度に少しの不満があるものの、この辺は我慢しつつ狩りを続行していく。


(あとは、召喚獣にも経験を積ませないとな)


 召喚獣は経験を積み重ねていく。倒されても、新たに召喚された召喚獣は倒される前の記憶や経験が引き継がれた状態で召喚される。


 この召喚獣部隊に狩りの仕方を学ばせることも目的だ。


 召喚獣隊を出して翌朝になった。


 目が覚めたアレンは魔導書を基に、経験値の上昇を確認したところ、経験値は増えていない。一晩、魔獣は倒したようであるが、寝ている間は経験値が入らないようだ。さすがに放置ゲーにはならない。召喚獣だけが体験を積み重ねていくだけになる。さらに経験値取得の条件を検証していく。



 それから数日後。

 アレンは共有を使った別のことを試している。


 ここはクレナ村だ。

 アレンは鳥Gの召喚獣であるインコになって、クレナ村まで戻ってきた。


 片道徒歩で5日の旅も強化した鳥Gの召喚獣なら数時間で飛んでいける。


「我が名は騎士クレナ!! 参る!!!」


「こい!!!」


 2年近く過ぎて大きくなったクレナとドゴラが試合をしている。もはや騎士ごっこのレベルではない。武器屋であるドゴラの親父に、どうやら鉄製の剣と斧を作ってもらったようだ。武器の打ち合う音がかなり激しくなったように思える。


 ガンガン打ち合っている傍でマッシュとペロムスが騎士ごっこをしている。こっちは木刀を使っている。


 久々にクレナ村に戻ってきたので、近くの木に止まって見入ってしまう。


(さて、渡すものを渡さないとな)


 ある程度皆の成長を確認して、クレナの家の庭先から自分の家を目指す。

 土間にはテレシアがいた。


(母さんだ。ミュラもずいぶん大きくなったな)


 土間に侵入した鳥Gの召喚獣に、テレシアは気付いていないようだ。久々に母親を見て、共有しているアレンの胸が熱くなる。まだ2年も経っていないが10年ぶりぐらいの感じがする。


 チャリン


「え?」


 テレシアが金属音に気付いて後ろを振り向く。

 そこには既に鳥Gの召喚獣はいなかった。


 土間の床には1枚の金貨がきらめいていた。

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