第4話 風が吹けば
その日、警察から連絡が来た。
以前届けた財布の落とし主が見つかったとの連絡だった。
「お礼に伺いたいことなので、住所をお伝えしても宜しいでしょうか?」
「それは構いませんが、別にお礼とかなくてもいいですと伝えて下さい」
そうは言っても来るだろうと思っていたが、一応遠慮しておいた。
何となく面倒臭い気もするし、別にお礼を期待して届けた訳ではない。
俺自身も、財布を拾ってくれた人に大したお礼はしなかった。お菓子くらいは渡したけど、向こうがそれだけでいいと言ってくれたからだ。
何となく手持ちぶさたで、部屋の片付けをしながら時間を潰していた。
ピンポーン
来客を知らせる音。
どうやら財布の落とし主が来たようだ。
「はい」
ドアを開けると、男性が二人立っていた。
二人ともきっちりと高級そうなスーツを着ていて、「私達は会社の役員です」というような、そんなイメージがある人達だった。
「突然申し訳ございません。高梨一成さんで宜しいでしょうか?」
「はい」
「私は竹中と申します。この度は財布を届けて頂きありがとうございました。中に重要なmicroSDカードが入っておりまして、本当に助かりました。」
警察で中身を確認した際に、確かにそんな物が入っていた。
どうやら現金やカードより重要だったものらしい。
恐らく仕事に関するものだろうが、取りあえず俺からすれば「良かったですね」といったところだ。
「そうでしたか。それは良かったです」
「はい、本当にありがとうございました。あ、これはつまらないものですが御菓子です。どうぞ。」
「わざわざすみません、ありがとうございます。」
袋に入った御菓子をそのまま受けとる。
重量感があるので、中身が多いのかもしれない。
お礼は期待していなかったけど、現金なもので貰えれば嬉しい。
「是非お礼をと考えたのですが…。こちらの話になってしまいますが、単純な感謝で済むような話ではなくてですね…」
「いや、別に財布を届けただけですので」
どうやらこれはお礼ではなく、単なる挨拶代わりだったらしい。
なるほど、わざわざ二人で来たのはその辺りのことがあったからなのかもしれない。
すると、今まで黙っていたもう一人の男性が口を開いた。
「横から申し訳ない、私は彼の上司になるのですが、是非お礼をさせて頂きたいと思いましてね。」
これ以上のお礼となると…正直なところ金一封でも全然ありがたいが…それはさすがに言いにくい。
というか、別にお金が欲しいとかではない。
財布を届けたのも気まぐれというか、自分の経験からそうしてやろうと思っただけだ。俺の財布を届けてくれた人がいなかったらきっと届けなかっただろう。
「いや、本当に大丈夫です。御菓子も頂きましたので」
「こちらとしても、何とかお礼を…ふむ、ではこうしましょうか。名刺を置いていきますので、いつでも構いませんから何かありましたら連絡を下さい。」
「私の方も是非そうさせて下さい!」
もちろん連絡するなんて絶対にしないが、向こうがそれで納得するなら…どうせ名刺を受けとるだけだ。
「わかりました。わざわざすみません…」
二人から名刺を受け取った。
…佐波エレクトロニクスって…デカい会社の人達だったんだな…しかも専務って凄いな。
「それでは、本当にありがとうございました。」
二人が帰っていった。
黒塗りのセダン…如何にも高級車な感じだ。
改めて名刺を見ると…上司の人の名前が薩川政臣さんというらしい。
…薩川?
まさかね…
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