第296話 特別な繋がり

「はぁ…薩川さんと西川さんが並ぶと、ホント洒落にならないわねぇ」

「まぁこの学校トップ3の二人だからね」

「おお、眼福すぎるわ…マジで」

「これRAINで流したら、クラスの展示をほっぽり出して見に来るやついるだろうな」


 生徒会の面々も役員繋がりで西川さんと面識があるようで、お互いに近況報告をしながら話に花を咲かせていた。

 ちなみに男は、それを眺めてデレデレしているだけだったり。


「でも、西川さんと高梨くんが親友って、かなり驚きなんだけど」


「だね。と言うか、薩川さんが恋…婚約者ってだけでもまだ信じられないときがあるのに、西川さんまで籠絡してるとか…」


「あの…籠絡って人聞きが」


 一番肝心な辺りの話が出来ないから仕方ないのかもしれないとしても、籠絡とか言われると、まるで俺が女たらしみたいに聞こえるじゃないか。

 それは人聞き悪い…


「そうですねぇ…でも高梨さんは、人たらしな部分があると思いますよ? 沙羅にぞっこんすぎて、誤解をする余地が無いから一応は大丈夫ですけど」


 人たらしって…それこそ身に覚えが無さすぎる。

 でも沙羅さんに一途なことを、自他共に認められているというのなら、それはそれで悪いことじゃない…のか?


「一成は意識しない純粋さと、下心のない優しさがあるから…それが刺さる相手には"たらし"になるのかも?」


「確かに…その表現はピンと来ますね。流石は花子さん、分析が鋭い」


「私はお姉ちゃんだから、一成のいいところはしっかり把握してる」


 エッヘンと言わんばかりに、胸を張る花子さんがちょっと可愛い…けど


「えーと、そろそろ、その辺で…」


 花子さんが自信満々で褒めてくれたこと。純粋とか優しさとか色々と言ってくれるのは嬉しいが…そろそろ止めてくれないと俺が保たない。

 周囲の生温かい視線というか、他にも、各々の複雑な感情入り交じりの注目を集めてるから、ちょっとキツかったりして。


「ふふ…一成さんの素敵なところを分かって頂けるのは、私としても嬉しいですね」


 そして沙羅さんは…俺が褒められていることを、まるで自分のことのように喜んでくれていて…優しく頭を撫でてくれている真っ最中だったりする。


「沙羅さん…」


「一成さん、いい子いい子です♪」


「「「………………」」」


 周囲の生温かい目が、段々と白けた目に変わってきた…ような。

 でも例えそうだとしても、俺は沙羅さんのこれだけは、止められないし止めたくないんだよ。

 だって俺も嬉しいから、だからこれは仕方ないよな、うん。


……………………


「おつかれ~!!」


「お疲れさまです」


 暫く雑談を続けていると、遅れていた夏海先輩と速人が小走りでテントにやって来た。

 どうやらテニス部の方が一段落したみたいだ。

 これで遂に全員が揃ったことになるんだけど、何気に勢揃いするのは、俺と沙羅さんの婚約報告をしたとき以来だったりする。

 だからワリと久々。

 でもグループRAINの方では小まめにやり取りをしているし、あまり久々って気はしないんだけど。


「これで全員揃いましたね」


「というか、えりりん何時から来てたの?」


「西川さんなら、開場して一時間くらいかな」


「早すぎでしょ。まぁそれはそれとして、随分と嬉しそうじゃないの…ねぇ大地ぃ?」


「な、何のことだ? 私はいつも通り…」


 夏海先輩の、意味深なまでの超絶ニヤケが全てを物語っているようで…これは絶対に気付いる顔だ。

 まぁ幼馴染みなんだから、その辺りのことを知っていても別に不思議はないが。


「ね、ねぇ…全員揃ったのは分かったけど、どういうグループなの、これ?」


「あ、あたしも気になった。薩川さん、夏海ちゃん、西川さんの三姫勢揃いってだけでも凄すぎるのに…どうなってるのこの面子?」


 三姫って…なんですか、それ?

 初めて聞いたぞ。


「あはは…久し振りに言われましたねぇ、その呼び名」


「いや、まだ二年より上は普通に使ってるから。というか、さっきからクラスのグループRAINで、三姫勢揃いってメチャメチャ騒ぎになってんだけど」

「こっちもだよ。特に男子が凄い。皆いつ気付いたんだろ?」

「いや、普通に男子達見に来てますよ…あれ見て下さい」


 そう言って、先輩が指差した方へ全員の視線が向くと…密集状態になっている野郎共の一団がこっちを見ていて…って、おい、何人いるんだ、あれ?


 ちょっと怖いぞ…


「いや、俺の方にもRAIN来てるわ…」

「俺もだ…紹介してくれって」


「ちょっと、止めてよね?」

「そんなことしたら、どうなるか分かってるよね?」


「いや…まだ死にたくないから」

「右に同じ」


 我らが生徒会のパワーバランスは、極端なまでに女性へ傾いているので…余計なことをすれば、アッサリと女性の敵認定されて、居心地の悪い生徒会ライフを迎えることになり兼ねない。

 特に沙羅さんがそういうことを極端に嫌うし、だからこそ、俺も絶対に許さない。


「ねぇ西川さん、このグループってどういう繋がりなの?」


「どうと言われましても…そうですね、強いて言えば…」


「このグループは、一成さんを中心にして集まったグループです。全員、何かしらの理由で一成さんと関わりがあって、自然とこうして集まるようになったんですよ」


 西川さんの後を引き継いだ沙羅さんが、簡単に説明をしてくれる。それだけを聞けば、案外単純な関係に聞こえるけど、でもここまであったことや、皆との繋がりを思えば…

 俺達は特別な繋がりなんだと、胸を張って言えるくらいになれたことが、本当に幸せになんだと思えて。


 だから何となく皆を見回してみると、お互い嬉しそうに見合いながら…優しい笑顔を浮かべていた。


「そうですね。私達は高梨さんから始まった繋がりですし、全員で困難を乗り越えてきたという結束力もありますから…」


「だね。私も、このグループの一体化したような結束力が心地良いかな。何をするにも楽しいし、困ったことがあっても絶対に乗り越えられそうって言うか」


「こんな風に仲間で集まることが楽しいと思えたのは初めて」


「うん。私もこのグループには、普通の友達とは違う、凄く特別な繋がりを感じるんだ。だから、西川さんや夏海先輩の言ってる結束力って言葉の意味も良く分かる」


「私もだよ! それに、自分がこんな凄いグループの一員で居られることが嬉しいって言うか、幸せっていうか」


「気兼ねない、素の自分で楽しむことができる仲間がいるのは幸せなことだね。それに、誰かが言うまでもなく、困難に対して自然と一丸になれるグループなんて、本当に貴重だと思うよ」


「そうだな。このグループの生い立ちを考えてみれば、そういう側面が自然と備わっても不思議はないと思うが…だからこそ、大切な繋がりだと思う」


 皆が、それぞれの気持ちを声にして伝えてくれる。普段だったら気恥ずかしくて、こんなことを面と向かって言えなかっただろうけど…でも今は…だから俺も…


「俺は沙羅さんに出会えたことは絶対に運命だと思っているけど、皆に出会えたことも同じように運命だと思う。そうじゃなきゃ、こんな素直に素敵だと思えるような関係には…」


「そうですね。それぞれ一成さんと出会うことが運命だったのであれば、このグループは、一成さんの運命に呼ばれた人達で構成されていると言うことになります。少し意味合いは違うかもしれませんが、それは正に、運命共同体と呼べるのではないでしょうか?」


「運命共同体…」


 ちょっと大袈裟かもしれないけど…でも正直に言って、俺はこのグループにそれくらいの強力な繋がりを感じている。だからそう言われてしっくりくるというか、そうなんだと素直に受け入れられる。


「…いや、ちょっと結束力が凄すぎて、大袈裟とか茶化すことが出来ないんですけど…」


「うん。これ他で聞いたら、クサいこと言ってんな~とか、大袈裟だろ~とか、笑いを入れちゃうところなんだろうけど…でも何か…いいね、こういう関係。素直に羨ましいかも」


「そうですね。皆さんホントに楽しそうだし…でもここまで凄い繋がりになれるなんて、何があったのか気になります」


 あの件は決して自慢するような話でもないし、全く関わりのない人においそれと話をするべきじゃないと思ってる。

 多分それは皆も同じで、だから何となく誰も口に出さないというか、暗黙的に意思統一されているというか。


「それで、今の話を聞いた限りだと、つまりこのグループのリーダーは高梨くんってことなの?」


「へ? いや、リーダーとかそんなのは別に」


 グループと言ってもあくまで友人の、親友の集まりだから、リーダーがどうのとかそういうのは必要ないと思う。

 皆でやりたいことを持ち寄って、皆で決めればそれで。


「そうですね…そもそも私達の中心にいるのが高梨さんなので、そういう意味ではリーダーと呼べると思いますよ」


「ですね! 私も今まで何となくそう思ってたかなぁ」


 西川さんと立川さんから同意的な意見が出ると、何故か皆もそれに続々と頷いて…いやいや、友人同士の集まりにリーダーとか要らないだろ。


「いいんじゃないかな。中心人物がそういう立場に居た方が、話もスムーズに決まると思うし。一成なら適役だと思うよ」


「そうだな。そもそも出だしで先頭きって動いていたのが一成だから、特に違和感も無いと思うぞ」


「うんっ! 私もリーダーは高梨くんがいいと思うなっ!」


「いや、ちょっと、みんな…」


 只でさえ、さっきから少し照れ臭い話をしているのに、何で皆して俺を持ち上げるようなことばっかり!?


「あれ、高梨くん、ひょっとして照れてる?」


「っ!? いや、だから、そういうことを…」


 立川さんが楽しそうに、ニヤニヤと俺の顔を覗き込みながらそんなことを言い出す。

 と言うか、そんな風に指摘されたら余計に照れ臭くなるだろが!?


 声を大にして言いたい!!


「一成は照れ屋だから仕方ない。だからここは、お姉ちゃんが…」


 妙に嬉しそうな花子さんが、俺にゆっくりと近付いて来…るよりも早く、俺の頭に手が添えられて、そのまま半ば強引に引き寄せられてしまった。

 「ふにゅ」っという柔らか天国の感触がしたと思えば、幸せな心地好さに包まれて…


「ふふ…一成さんがリーダーであるのなら、それをこうして支えて差し上げるのが、私の大切な役目ということになります。と言う訳で…照れ屋さんが落ち着くまでは、暫くこうしていましょうね?」


「むぅ…ならせめて、私はリーダーのお姉ちゃんとして、このくらいのことはする」


 沙羅さん天国で視界がゼロになっているから、花子さんが何をするつもりなのか分からない。でも何故か、俺の頭を撫でる手が一つ増えたような…いや、これ明らかに小さい手が増えてるだろ。


「一成さん、可愛いです…」


「いい子、いい子…」


 頭の天辺を撫でている手は沙羅さんとして、つまり後頭部を撫でている小さい手が花子さんということに。

 嬉しいけど、これ端から見たら、どういう絵面になっているのか非常に気になる…


「ねぇ…これもこのグループの日常?」


「えーっと…」


「ど、どうなのかな?」


「平常運転と言われれば…そうなのかも?」


「な、な、な、何をしているんですか、あなた達はぁぁぁぁ!!」


 あからさまな呆れ声と、若干の黒さを感じる西川さんの絶叫。

 でも平常だと言われしまえば、こんなやり取りも全て平常なのかと思ってしまう俺も大概な訳で…もう今更だよな、うん。


………………


 午前中はずっと話をしていたこともあり、結局、皆もテントに残ったまま、何処にも行かずにお昼休みを迎えるということになってしまった。

 皆がそれでいいのなら、俺としても特に言うことはないんだけど。


 キーン…


 と、校内放送のスピーカーから、本日何度目かになるマイクの電源が入った特有ノイズが聞こえてくる。

 タイミング的に、いつもであればお昼の放送が始まる時間な訳で。


「やっほー、みんな楽しんでるぅぅぅ? …うーん、聞こえないぞぉぉ」


 今回は、まるで子供向け「○○ショー」みたいなノリで、みなみんの放送が始まった。

 毎回毎回、よくもまぁパターンが思い付くな…ある意味関心するわ。


「さて、お昼休みだね。高梨くん達はこのまま移動するんだろう?」


「はい。昼休みが終わったら、そのまま巡回に行ってきます」


「…ねぇ、この面子で動くとか、ある意味高梨くんと薩川さんの二人きりより騒ぎになるんじゃない?」

「…そう思う。特に二、三年生がヤバいかも」


「わかった。それじゃ、次の受付担当は…」


「あ、俺達です。このままここで弁当食べながら様子見してますわ」

「上坂さんも、昼休み行ってきて下さい」


 そうか、そうなると、上坂さんは一人で昼休みってことになるのか…


「大地、あんた今からどうするの?」


「今からクラスに戻るのも何だから、どこかで適当に…」


「そっか…ねぇ皆、お昼ご飯、こいつも一緒じゃダメかな?」


 声を聞く限りでは、いつも通りの軽い口調。でも夏海先輩の顔を見れば、それが決して冗談で言ってる訳じゃないことが分かってしまう。

 だからこそ、何で突然そんなことを言い出したのかの予想もついてしまう訳で。


「いいんじゃないですか? 元生徒会長さんが同席ってのも面白そうですし…それに、"色々"と面白いことが聞けそうですから」


 夏海先輩の話を真っ先に受け入れたのは、やっぱり雄二だ。

 「色々」という部分を強調し言い回しに、速人が苦笑を浮かべていて…それ見て引き攣ったような笑みを浮かべている夏海先輩が何とも。


「えーと、私は別に構いませんよ」


「私も大丈夫です」


「私は一成さんが宜しいのであれば、それ以上、口を挟むつもりはありません」


「同じく」


「と言うことは、実質的に高梨さんが決定権を持っているということになりますね。どうしますか?」


 西川さんを含め、皆も概ね問題ないようで、全員の視線が俺に集まってくる。

 ちなみに俺の考えで言えば、沙羅さんが大丈夫かどうかが最大の判定ポイントになるから…

 つまり、本当の意味での決定権は、沙羅さんにあったりする。

 そして今回の件は、沙羅さんも大丈夫とのことで。


「どうしますか、上坂さん? 俺達は大丈夫ですけど、後は上坂さんがどうしたいかですよ?」


 俺は少しだけ、意図的に"含ませた"言い回しをしてみた。

 上坂さんが本気で西川さんとの繋がりを求めるのであれば…本当に真剣に考えているのであれば。

 それなら、このくらいの応援はしてもいいと思ったからだ。

 逆にそこまでじゃないと言うのなら、もしくは西川さんが迷惑だと感じるようであれば…

 そのときはキッパリと諦めて貰いたい。

 これは俺達にとっての暗黙ルールだから。


「そうだね…」


 俺の目を見た上坂さんの顔から笑顔が消えた。何となくでも意味深なものを感じ取ってくれたのか、雰囲気で察してくれたのか、それはわからない。でも…


「もし迷惑でないのなら…宜しくお願いします」


 「お昼を一緒に」というだけであれば、余りにも不釣り合いな、しっかりとした上坂さんのお辞儀。でもだからこそ、本気であるという気持ちが伺える。


「わかりました! それじゃ、一緒に行きましょう。西川さんもいいですか?」


「え? ええ、私は大丈夫ですよ? それに、ちょっと作りすぎてしましたから」


 当の西川さんは普通すぎるくらいに普通すぎる反応。多分、全くと言っていい程、意識していないんだろうな…これ。


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「うわぁ…何だか凄い久し振り…あぁ、花の種類が色々と増えてる!?」


 花壇に着いた途端、はしゃいだように花壇の周りをぐるぐると走りだす西川さん。

 お嬢様ともポンコ…とにかく普段のイメージと違う少し子供っぽい様子に、思わず笑みが溢れてしまう。


「その辺りの花は、俺と沙羅さんの二人で買ってきた苗を植えてあるんですよ」


「そうなんですね。 全く、こんなところまで仲の良さを…まぁそれはともかく、この花壇がこうして綺麗なままで、本当に良かったです」


「最近は、私達もお世話をしてるんですよ!」


 藤堂さんが西川さんに駆け寄ると、そのまま二人で楽しそうに話し始めた。

 その姿が仲のいい姉妹にも見えて…だからなのか、速人と上坂さんが妙に楽し…ホッコリしているような。


「へぇ…ここが"あの"花壇なんですねぇ」


「あのって、どういう…」


「いや、高梨くんと薩川先輩の大恋愛が、ここから始まって、ここで育ってきたんだなぁと思って」


「そうですね。一成さんと、ここで初めてお話しをしたあの日のことは、まだ鮮明に覚えていますよ」


「俺もです」


 と言っても、俺は先日に起きた屋上の一件を、沙羅さんに見られた情けなさとか色々あって逃げてしまった訳で…つまりあれは、恥ずかしい過去でもあったりする。


「一成さん…」


 何故か少し切なそうな表情を浮かべた沙羅さんが、突然俺の頭に腕を伸ばしてきたと思えば…そのままゆっくりと俺を抱き寄せる。


 どうしたんだろう?


「沙羅さん?」


「急に申し訳ございません。何となく…こうしていたい気持ちなんです…」


 急だったけど、俺も沙羅さんの気持ちが何となく分かるような気がした。普段はこの場所に居ても、そこまで深く考えることはない。でも立川さんにそれを言われて、俺も初めて沙羅さんと出会った日のことや、初めて言葉を交わしたあの瞬間を思い出してしまって…だからきっと。


「俺もです」


「嬉しいです…暫く、こうさせて下さい…一成さん…」


 俺はその問いかけに、言葉ではなく行動で答えてみる。そのまま自分から、少しだけ沙羅さんのそこに顔を押し付けみると、とても柔らかい感触が俺を迎え入れてくれるようで。そして沙羅さんも直ぐに、両腕でしっかりと俺の頭を抱き込むように、ぎゅっ…と。


「…な、な、何で急にぃ…」

「…ねぇ、誰かバカップルに餌を与えたでしょ?」

「…うぅ、ごめんなさいです~」

「…だ、大丈夫だよ、洋子。私も前にやっちゃったから」


「………」

「…元会長、どうした?」

「…いや、生徒会でもある程度は見てきたけど…いつもこんな感じなのかい?」

「…平常運転」

「…な、成る程…」


「…雄二達は普段どうなのかな?」

「…いくらなんでもあの二人みたいには…」

「…ちなみに俺の見立てだと、夏海先輩は案外甘えてくるタイプだと思うよ?」

「…いや、まぁ…それは」


 沙羅さんはいつものように、丁寧に俺の頭を撫でながら、どこまでも優しく俺を甘えさせてくれる。

 以前はそれが情けないとか、申し訳ないとか、そんな風に考えていたこともあった。でも今は…これが沙羅さんの望む形であるのなら、このままでもいいと素直に思えて。

 後はたまに…ときどきでもいいから、肝心なときに沙羅さんが俺に甘えてくれれば、それだけで…


「一成さん…お顔をこちらに…」


「…沙羅さん…」


 切なそうな、甘えを含んだような声音に誘われて、俺は沙羅さんの胸から顔を離すと、そっと顔を持ち上げられて、お互いに見つめ合う。

 そのまま、沙羅さんの目がゆっくりと閉じて…


「いい加減にしろや、バカップル!!! ほんっとに毎回毎回、事あるごとにイチャついてからに!!! つか、いい加減、私らの前でナチュラルにキスまでしようとするな!!!!」


「「っ!?」」


 夏海先輩の怒声に驚いて思わず周囲を見回すと…そこはいつも通りの様相だった。


 真っ赤な顔で食い入るようにこちらを見ている立川さんと…毎度お馴染み、同じく真っ赤な顔を両手で隠して、大きく開いた指の間からこちらを見ている藤堂さん。


 そして西川さんは…黒い、もう真っ黒。


「は、花崎さん、に、西川さんの様子が…」

「大丈夫」

「いや、どう見ても!?」

「平常運転」

「……へ?」

「平常運転」

「…………」


 そう言って上坂さんを落ち着かせる花子さんも…やっぱり平常運転なんだなぁ。

 いや、自分で何を言ってるのかわからないけど。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


すみません、7/20の0時半くらから暫くの間、こちらのミスで修正前の内容を間違って再更新するというミスをしてしまいました。

その間にもし読まれた方、申し訳ありません。

そして残念ながら、最初投稿した内容と、ごく一部ですが細部が異なっている可能性があります。でももう戻せないので、このままにさせて頂きます・・・

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