第297話 お弁当大会

「さぁ、これで準備が出来ましたね」


「「「…………」」」


 西川さんは何でもないように平然としているが…正直言って、俺達はそんな簡単に「はい、そうですね」なんて言えるような状況じゃなかったり。


 そろそろ準備をしようか…という話になったところまでは問題ないんだよ。でも問題はその後。西川さんが何かの合図をするように右手を挙げたと思えば、どこに居たのか現れたのは数人の男性達。

 そして俺達が呆然と見守っている間に、シートが敷かれ、タープテントが張られ(大きい)、何故かテーブルセット(イレギュラーな筈の上坂さんの分まで)が用意されて…


 つまり…


 ナ ニ コ レ ?


「ねぇ…そろそろ突っ込んでもいい?」


 先頭切って口を開いたのは、怖いもの知ら…もとい、いつも頼りになる俺のお義姉ちゃん。


「何かありましたか?」


「何これ?」


 うんうんと、俺達も思わず同意的に頷いてしまう。

 だって皆そう思ってい…あれ、でも沙羅さんと夏海先輩はそうでも無さそう?


「こうすれば、屋外でも快適にお食事が出来るでしょう?」


「いや、それはそうだけど…」


「花子さん、突っ込むだけ無駄ですよ?」


「えりりんは要所要所でお嬢様を出すからねぇ。と言うか、実はこれ前も何度かやってるんだよ」


 成る程、沙羅さん達がそこまで驚いていない理由はそこか。


「ちょっと夏海、その微妙な言い回しはどういう意味?」


「別にぃ。私の周囲には、普通が通じない連中が揃ってるなぁって」


「夏海、その言い方だと、私まで入っているように聞こえますから止めて下さい」


「「「…………」」」


 おかしい…

 いや、沙羅さんがおかしいんじゃなくて、なぜ皆がそこで、俺と沙羅さんに何かを言いたげな視線を寄越すのか…全くもって謎ですね。


………………


「うわぁぁぁぁ」


「す、す、すっごい!!」


「これだけ揃うと、ある意味、壮観だねぇ」


「確かに、これは凄いな…」


 皆の感想が全てを物語っているように、今、目の前のテーブルに並べられたお弁当の数々。

 一部、明らかに高級食材が混じっているような気もするけど…パっと見ただけで、伊勢海老の頭まで入った刺身とか、焼いた松茸とか、ステーキまで入ってるし…重箱に。


「やったぁぁ! 流石はえりりん、予想通りぃ!!」


「男性の好みそうな食材も選んでみました」


「夏海、はしたないですよ。食事内容で騒ぐのは止めなさい」


「いや、だってさ、こんなの中々食べられないじゃん!」


 沙羅さんの嗜めにも全く動じない、大興奮中の夏海先輩。それだけ目の前のお弁当が凄いってことなんだけどさ。

 でも確かに、普段であれば食べる機会なんか滅多に無さそうな食材だと俺も思う。

 日常の食卓にこんなデカい伊勢海老とかそうそう乗らないだろうし、それに松茸なんか何本あるんだよ…これ。


 まさか、西川さん家の食卓はいつもこんなだったりするのか!?


「はいはい。二人とも喧嘩しないで食事にするわよ」


「はーい」


「はぁ…全く」


 何故か一瞬だけ、三人が姉妹に見えたような気が…

 でもそうなると、夏海先輩は三女として、長女と次女はどっちでしょうね、皆さん?

 って、誰に聞いてるんだ俺は…


「薩川先輩のお弁当も、家庭料理のラインナップが凄いですね!」


「ふわぁぁ…いつも高梨くんが凄く美味しそうに食べてるから、私も一度食べてみたかったんです! 嬉しいなぁ」


「あの、ひょっとして、これ全部…」


「はい。私の手作りです」


「ええええ、このコロッケとか唐揚げもですか!?」


「ええ。手順さえ把握していれば簡単ですよ?」


「か、簡単って…」


 俺は料理しないから正確なことは言えないけど、多分沙羅さんの言う簡単と、一般的な簡単ではかなりの開きがあると思う。

 第一、我が家にはそもそも冷食が存在しない。

 沙羅さんが作って冷凍した物はあるけど…普段から完全手作りをしている沙羅さんだから、きっと何でもないように言えてしまうんだろうな。


「うう、こんな凄いお弁当ばっかりだと、自分の作って来たものが…って、花子さんのお弁当も上手だし!?」


「ホントだ…花子さん、これ本当に初めて作ったの?」


「ちゃんとしたお弁当を作ったのは初めて。でも料理の勉強はしてた」


「そ、そうなんだ? でも、向こうに居たときはそんな話してなかったよね?」


「勉強始めたのはこっちに来てから」


「へぇ、でも何で急に…あぁ、高梨くんかぁ」


 立川さんの視線が俺に固定されて、イヤらし…もとい、意味深なニヤけ顔を浮かべながらニヤニヤと…あれは絶対に何か余計なことを考えてる顔だ。


「お姉ちゃんとしては、弟にご飯を作ってあげたかった」


「そっかぁ。でも薩川先輩が凄すぎるから、比べられたら怖くない?」


「嫁に勝てないのは百も承知。私は一成が美味しいって言ってくれたら、それだけで満足」


 俺だって、花子さんがそうやって言ってくれるのは本当に嬉しいと思うし、沙羅さんの料理と比べるような真似は絶対にしない。

 沙羅さんのご飯が俺にとって最高なのは絶対でも、じゃあ沙羅さんのご飯以外を美味しく感じることがないかと言えば、そんなことは無い訳で。


「おお、薩川先輩といい花子さんといい、高梨くんは本当に愛されてるねぇ」


「勿論です。一成さんを世界で一番愛しているのは私ですから」


「じゃあ…私は姉弟愛で世界一」


 二人から真っ直ぐに見つめられて…目が合うと、優しく微笑んでくれて。

 そんな風に見つめられてしまうと、俺は…


「ゴ、ゴホン!! あなた達の仲がいいのはわかりましたから、そろそろご飯にしましょうか?」


「そうですね、この後の予定もありますし」


「うん。いよいよ、この時がきた」


 花子さんが気合いを入れるように、可愛らしく、ぐっと両手を握りしめる。お昼ご飯を食べるだけなのに…って、俺もそこまで野暮じゃないつもりだから、勿論理由は分かってる。

 ただ、そこまで気合いを入れられてしまうと、こっちも少しだけ緊張しちゃうかも。

 

「…えりりん、今のは上手い誘導だったねぇ」

「…しっ、余計なことを言わないで!」


 いや、普通に聞こえてるんですが…


………………


「「「いただきます!!!」」」


 全員で手を合わせて食事前の挨拶(大事)

 目の前に広がるのは、色とりどりの重箱とお弁当箱。だって沙羅さんも重箱だったし。

 最初は皆、遠慮気味な様子でお互いを見ていたものの、夏海先輩が遠慮なく箸を伸ばした(松茸)ことを切っ掛けに、後へ続けで続々と手を伸ばし始めて…


「高梨さんも遠慮なくどうぞ?」


「あ、はい。ありがとうございます。でも、取り敢えず俺のことは気にしないで下さい」


「あれ、高梨くん、食べないの?」


 事情を知らない西川さんと立川さんが、不思議そうにこちらを見ている。

 皆が既に食べ始めているのに、俺はまだ何も口にしていないし手も出していないから…でもそれは沙羅さんと花子さんも同じ。


 ただ…二人はお弁当箱を持っている訳で。

 

「ねぇ沙羅。そのお弁当箱は何?」


「これは一成さん専用です」


「…は?」


「一成さん専用です」


「い、いえ、二回言わなくても分かるけど…」


 どこか引き攣ったような微妙な笑みを見せつつ、西川さんが首を傾げる。

 まぁ専用の弁当箱を抱えている時点で、「皆で持ち寄る」という言葉の意味が何処へ行ったのかとなるのは当然の話であって…


「花子さん、それは?」


「一成専用」


「へ?」


「一成専用」


「…………」


 そして立川さんも以下略。


「あの…多少はそうなるかもしれないと思ってましたけど、専用って、それじゃ持ち寄りの意味が…」


「えりりん、突っ込みたい気持ちは分かるけど、スルーした方がいいよ~」


 ちなみに事情を知っている面々は盛大にスルーしていて…雄二は知らなくてもスルーしてるが。そして会長も…あれは然もありなんと言ったところか?


「さぁ一成さん、お待たせしました。お食事にしましょうね」


「遂にこの時が来た。お姉ちゃんのお弁当は、全部あーんしてあげる」


「え"!? ちょ、ちょっと待って下さい! まさかそれを全部食べさせてあげるとか、そんなことやるつもりじゃないですよね!?」


 西川さんが嫌そう…そして怖そう。

 でも残念なことに、今からここで繰り広げられるのは、沙羅さんと花子さんによる「あーん」パーティーな訳で…だから一応、心の中で謝っておこう。


 ごめんなさい、西川さん…


「えりり~ん、スルーした方がいいよ~」


 キラキラした目で伊勢海老に手を伸ばしながら、こっちを見ない夏海先輩…もう完全に適当だ。

 と言うか、さっきから夏海先輩が高級食材ばっかり狙っているし、あれは俺も密かに食べたい…でも今更ながらお腹は大丈夫かな…俺。


「はい、一成さん…あ~ん」


「あ~ん」


 そんな俺の僅かな不安を他所に、嬉しそうな沙羅さんから運ばれてきた最初の一品。

 俺の口に入ったのは沙羅さん謹製、俺の大好物のハンバーグだ。

 俺は食卓にハンバーグがあるときは、必ずそれを一番最初に食べるので…勿論、沙羅さんもそれが分かっているから、最初の一口に選んでくれたんだろう。


 もぐもぐ


 本当に…いつもながら、この絶妙な焼き加減とふわふわ感。中にしっかりと肉汁を残していて…そして奥に隠れた、でも確かに感じるひと味。

 俺はそれが何なのか知らない(教えて貰えない)が、沙羅さんがオカンから教わった直伝とのことで…しかもオカンより圧倒的に美味い。

 これは正に、俺の為の世界最強ハンバーグ。


 だから最高!


「ん…」


 ちゅ…


「っ!?」


「「「…んぐっっ!?」」」


 突然沙羅さんが顔を寄せてきたと思ったら、何の前触れもなくいきなりのキス。頬に感じる優しさと柔らかさが、俺の幸福感を更に加速させて…じゃなくて、何でいきなり!?


「さ、沙羅さん!?」


「ふふ…一成さんが、あまりにも可愛らしくて…つい」


「いや、その…」


「美味しいですか?」


「は、はい。すっごく美味しいです。いつもそれしか言えないのが申し訳ないですけど」


「大丈夫ですよ。私は、一成さんが美味しいと言って下さるのが何よりも嬉しいですから」


「沙羅さん…」


 その言葉に嘘は無いと、沙羅さんは幸せそうに微笑みながら、俺の顔をじっと見つめている。ここまで想われて、尽くされて、俺こそ本当に幸せ者だ。


「…ゲホゲホ…む、むせるかと思った」

「…う、うん。びっくりした」

「…この二人のイチャつきは、まだ上限に達してないんだねぇ」

「…みたいだな。ある意味大したもんだ。ところで、上坂さんは…」

「…………」

「…えりりんと大地はまだ無理だよ。うわぉ、これも美味しい!」


「つ、次は私!」


 いつも冷静な花子さんが、気が急ったようなアピールしてくる。

 そんな様子も微笑ましかったりするけど…一応、沙羅さんに視線を送って最終確認をしてみる。

 すると軽く微笑みながら、コクリと頷いてくれた。

 だから大丈夫だ。


「…うわぁ…ナチュラルにアイコンタクトしてるし」

「…高梨くんと薩川先輩は、心で通じあってるからね。いいなぁ…」


「か、一成、これ」


 どこか緊張気味な様子の花子さんが差し出した箸には、卵焼きが掴まれていた。

 俺の好物に卵焼きがあることを知ってたのかな…でも真っ先にそれを食べさせてくれるあたり、覚えていてくれたってことなんだろうか?


「あ、あ~ん…」


「あーん」


 恐る恐るという程じゃなさそうでも、少し震えている箸先と、花子さんの何とも言えない表情が微笑ましくて少しニヤけそうになってしまい…でも我慢我慢。

 そのまま俺が口を開けていると、ゆっくりと卵焼きが口の中に入ってくる。こぼさないように添えられた花子さんの左手が、何となく普段より女性らしさを感じてしまったり…


 もぐもぐ…


 あれ、これは予想外…いや、花子さんのイメージを考えれば案外そうでもないのか?

 俺の口に入った卵焼きは、少しだけ甘味が強くて、どちらかと言えば俺好みな感じに仕上がっていた。焼き加減もしっかりと柔らかさを残していて、その辺りも俺好みだったり。


「ど、どう?」


「うん、美味しい! この甘さが何とも」


「あっ!?」


「…花子さん?」


「ご、ごめん…いつもの癖で甘くした…」


「いや、俺はそもそも甘い卵焼きが好きだから」


 何となくそんなイメージがあったけど、やっぱり花子さんは普段から甘くしているみたいだな。でも俺からすれば結果オーライだから問題ない。


「…そうなの?」


「ああ」


「良かった…私も甘い卵焼きが好きだから、一緒で嬉しい」


 一瞬不安を覚えたような表情を見せた花子さん。

 でも俺の目を見て、直ぐに花が咲いたような笑顔を浮かべてくれた。

 またしても俺の考えを読んだっぽいけど、こういうときは、その謎スキル(?)があるのは助かるかも。

 ただ、そんな嬉しそうに見つめられると…ちょっと照れる。


「一成…その顔はズルい。私もキスしたくなる」


「えっ!?」


「でも我慢する。今日は私のお弁当を一成が食べてくれるだけで嬉しいから。次は嫁の番」


 そう言うと、花子さんは少しだけ身体を後ろに下げた。そして俺の食べた箸の先端を嬉しそうに眺めていて…これは意地でも完食しなければ。

 一成、漢を見せるときだ!


「一成さん、今度はこちらですよ。ちなみに…私には遠慮なく可愛らしいお顔をお見せ下さいね? …ふふ」


 何故か沙羅さんは、自分の口許に人指し指を軽く当てながら意味深な笑みを浮かべて…

 あれはきっと、俺が沙羅さんを喜ばせるようなリアクションを見せた瞬間に唇が迫ってくるぞ…間違いない。


「…あ~まだ食べ始めたばかりなのに、早くもお腹がいっぱいに…」

「…あ、あはは、洋子も?」

「…人の空腹感は、血糖値が下がると感じるそうだよ?」

「…それはつまり、あの一画が糖分過多すぎて、私達の満腹感が強まっていると? 面白い冗談を言いますね、上坂さん?」

「…い、いや…その…」

「…に、西川さんの目が据わってる…」

「…雄二、触らぬえりりんに祟りなしだよ」

「…りょ、了解」


「はい、一成さん…あーん」


 次に沙羅さんの差し出した箸には、これまた俺の大好物、肉じゃがのじゃがいも。

 薩川家…というか、真由美さん直伝の味を更に俺好みに改良した、やっぱり俺専用とも言える一品。だから当然…


 もぐもぐ…

 はぁ…美味い。


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 side 満里奈


 いつも高梨くんが美味しそうに、本当に美味しそうに食べている薩川先輩のお弁当。

 私も初めて食べたけど、うう…こんなに美味しいなんて反則だよ。

 私のお母さんも料理が上手いと思っていたけど、これは絶対に薩川先輩の方が上手い。

 こんな美味しいお弁当を毎日食べて、お家では作りたての美味しいご飯を食べて…高梨くんがあんな風になっちゃうのも当然だろうなぁ。


 でも本当に…薩川先輩は凄い。

 ううん、凄いなんて一言じゃ表せないくらい。とにかく凄い。


 料理、掃除、洗濯、裁縫…パッと思い付く家庭的なことは全てパーフェクト。

 成績も常に学年トップで、性格も…ちょっと極端なところはあるけど…でも、一番大切な高梨くんに対してだけは、もう優しすぎるって表現じゃ足りないくらいに優しくて、愛情に溢れすぎていて…


 それに、同性の私から見ても、もう見蕩れちゃうくらいにとっても美人さん。西川さんや夕月先輩も凄い美人さんだけど、でも薩川先輩は一際飛び抜けてる。

 整った目鼻、透き通るような綺麗な肌、艶々で流れるような、綺麗な黒髪…

 きっと和風美人って、薩川先輩のような人のことを言うんだろうな。

 スタイルもバランスが取れていて、高梨くんもきっと大好きな大きめの…

 はぁ…羨ましいよぉ…


 こんな理想的すぎるくらいに完璧な女性なんて、私は薩川先輩以外に知らない。と言うよりまず居ない。夕月先輩の言葉を借りるなら、女子力の塊、男子の理想を集めて具現化したような存在、それが薩川先輩。

 だからこそ、同じ女子として憧れるし、同時に私じゃ絶対こんな風になれないって分かっちゃう。

 だって私は、自分でも思うくらいに子供っぽいし(性格も体型も…)、不器用だから料理も裁縫も下手だし…あぅぅ。


 だから、そんな薩川先輩の作ったお弁当は…

 西川さんのような豪華さや見た目の華やかさは無いけど、一つ一つが本当に丁寧に作ってあって、しかも普段、家庭で出す料理が多くて、だからこそ本当に凄いってことが分かっちゃう。

 普通なら冷食や惣菜で済ませちゃうような料理まで一から作ってるなんて…しかも全部、とっても美味しい。


 だから、私の横にいる横川くんも本当に美味しそうに食べてる。

 実際に美味しいんだから当然だと思うし、何にもおかしいことはないよね。


 でも…


 薩川先輩と西川さんのお弁当が凄すぎて…


 だから私は…


 バッグの中に入ってる、もう一つのお弁当箱を出す勇気が出ない…


 今テーブルの上に乗っている私のお弁当は、本当に当たり障りのない、しかも少しだけお母さんに手伝って貰っちゃった比較的まともなお弁当。

 でもバッグの中に入っているのは、私が何とか一人で作った別枠のお弁当。


 横川くんと約束をしたから作ってきたけど…正直に言うと、こんな凄いお弁当がある中で、あれを出すのは恥ずかしい。


 作っているときは、横川くんのことを考えて楽しかった…お世辞にも上手く出来たとは言えないけど、美味しいって言って貰えたら嬉しいなって。

 だから今なら、薩川先輩や花子さんの気持ちがよく分かる。


 でも。


 でも…それよりも何よりも…


 何でこんなにモヤモヤするんだろう…


 お友達が、お友達のご飯を美味しそうに食べてるだけなのに…

 高梨くんだって、薩川先輩と花子さんから、あーんってして貰ってるのに。

 横川くんが、薩川先輩と西川さんのお弁当を美味しそうに食べてる姿を見ているとモヤモヤして…だから、そんな風に感じる自分が嫌な子になったみたいで…


 そもそも、私はいつからこんな風に、横川くんのことが気になるようになったんだろう?


 気が付けば、私は横川くんと一緒にいる時間が多くなってた。

 最初は高梨くんのことが心配で、やっぱり同じように心配していた横川くんと相談して、二人でフォローしようねって…それが切っ掛け。


 でもいつの間にか、朝の登校時間に待ち合わせをするようになって…お昼も横川くんが教室まで迎えに来てくれて、最近は生徒会の終わる時間が遅くなってるからって、帰りにお家まで送ってくれて。


 流石に申し訳なくて、大丈夫だよって遠慮したこともあるけど…「これは一成からも頼まれてるし、それに俺も心配なんだよ」って言ってくれた。

 「俺がそうしたいから、迷惑じゃなかったら送らせて欲しい」って、そう言われたこともある。

 「じゃあ…お願いします」って答えたけど…だって、嬉しかったから。


 横川くんは、とっても友達思いの素敵な男の子。だから高梨くんにも、私にも優しくしてくれる、とっても自慢のお友達。


 そして…あんまりこんな言い方をしたくないけど、凄くモテる男子でもある。

 男性アイドルのような外見に、テニスが上手くて一年生なのにエース。とても気さくな性格で、話しやすくて。

 そんな男子が女子から人気が出ない訳がないと思うし、だからファンクラブまであって、そこには私なんかより素敵な人がいっぱい居る。

 だから廊下とかで見かけても、いつも違う女子から声をかけられていたり、楽しそうに話をしていたり…


 だけどそんな姿を見てると、何となくモヤモヤしちゃうのは…横川くんは何も悪いことをしてないのに。でもそんな風に考えちゃう自分が嫌で…


 クラスの男子が、そんな横川くんの姿を見て、女誑しだって言ってるのを聞いたことがある。女の子を何度も泣かせてるって、そんなことを言っているのを聞いたことがある。


 でもそんなことは絶対にない。


 私は横川くんが、本当に真摯な人だって知ってるから。


 高梨くんとの友情を大切にして、友達の為に頑張れて、友達の為に頭まで下げることが出来る。それに、いつも鈍くさい私にとっても優しくしてくれる…横川くんと一緒に居ると心地良い。


 そんな本当の横川くんを知らない癖に…

 横川くんのことを全然知らない癖に、知ったようなことを言わないでって…


 あ…


 そっか…これが高梨くんの気持ちなんだ…


 大切な薩川先輩のことを勝手に解釈されて、それが真実であるかのように騒がれて、それが本当に許せなくて…


 …あれ?


 高梨くんは、薩川先輩が本当に大切で…だから怒って…


 じゃあ…私は?


 お友達が、誤解されているのが許せないの?

 勝手なことを言われているから許せないの?


 何で私は、横川くんが他の女子と仲良くしている姿を見てモヤモヤするの?

 今、薩川先輩のお弁当を美味しそうに食べてる姿を見てモヤモヤするの?


 うう…何だかよく分からなくなってきちゃった… 

 どうしたんだろう、私…


 でも取り敢えず…お弁当、どうしようかな…

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 ちょっとお弁当時間を掘り下げることにしました。

 その分、また少し長くなってしまいまそうですが(^^;


 次回は、速人&満里奈のお弁当と…side夏海先輩からの雄二&夏海を少しでも入れてみようかなぁと。

 久しぶりに友人たちのエピソードも混ぜたいと思いました。

 明日から連休で仕事が忙しいので、週末の更新は難しいかも・・・です。

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