第242話 週に一度の薩川家
放課後、生徒会室
「では改めまして、皆さん、生徒総会はお疲れ様でした。」
「「「「「 お疲れ様でした!! 」」」」」」
生徒総会が無事に終了したということで、執行部のメンバーは今日を持って入れ替わることにはなっている。
つまり、この時間が旧執行部最後の集まりということになるのだ…一応は。
と言うのも、元会長はこのまま引き続き執行部に参加してくれる約束になっているし、他の先輩二人も時間のあるときは手伝いに来てくれることになっているから。
つまり、現状とあまり変わらないのかもしれない(笑)
いや、寧ろ人数が増えて楽になるのか?
皆もそれが分かっているので、特に湿っぽい話もないし雰囲気も変わらない。あくまで純粋に、「今日はお疲れ様」という労いの挨拶になっているだけだ。
そもそも、今日の感想自体は、終わった直後の舞台袖で終わらせてしまったのだから。
「今日で終わり~何て言いながら、学祭終わるまでは変わらないからねぇ。」
「タイミング的に、今までの先輩達も毎年そうだからね~」
と、本人達が言っているので、ありがたくこのまま続けて貰おうということになっている。
「今日は皆大変だったから、早めに解散でどうだろうか?」
上坂さんは既に会長を退いているので、決定権は現会長の沙羅さんにある。なので、これは元会長からの打診という形だ。
「そうですね。打ち上げ的な話しは、文化祭が終わってからというのが通例ですから、今日はこのまま解散にしましょう。丁度という訳ではありませんが、私達もこの後予定がありますので…」
沙羅さんの言う予定というのは、今日予定されている薩川家での食事会のことだ。
週に一度帰るという約束があるので、今日は帰りに買い物をしてから、薩川家で晩御飯を食べることになっていた。
愛娘に会えるということで政臣さんが大層喜んでいるらしく、今日は頑張って早めに帰ってくると息巻いていたと、真由美さんから連絡があった。
「何かあるの?」
「今日は私の実家で食事会なんですよ。なので、帰りに買い物をしなければならないのです。」
「へぇ、高梨くんも一緒にってことは、本当に家族ぐるみなんだねぇ。あ、ちなみにお父さんは大丈夫なの? 彼氏とお父さんって仲悪いイメージだけど。」
「大丈夫ですよ。父も一成さんが婿養子になって下さることを喜んでいますから。」
やはり女性陣は、こういう話しで盛り上がるのが好きなんだろう。沙羅さんは俺とのことを話すのが大好きなので、周囲としても話しやすいネタではあると思う。ただし、俺としては話が行きすぎてマズいことまで暴露されないかヒヤヒヤしてしまう。
特にお風呂のこととか…
「…ん? 高梨くんが婿になるのか?」
当然、話に参加していなくてもこの場にいる全員に聞こえているだろう。元会長は何が気になったのか、婿の部分を確認するように俺へ聞いてきた。
「ええ、正確には婿養子になるみたいです。沙羅さんのご両親から、そうして欲しいって。」
「そうなのか。(…そうだ、薩川さんの家は佐波の…え? つまり高梨くんは…)」
元会長は何かに驚いたように、目を丸くして口を半開きにしながら、俺の顔をじっと見ていた。何だろうか?
「そうなんだ? 女子としては、お嫁に行くって方がイメージ強いけど、薩川さんはそれでもいいの?」
「ふふ…どちらにしても、私が一成さんの妻になることに変わりはありませんから。この先の未来も、ずっとずっと、いつまでも一成さんと一緒なんですよ…」
そう言って嬉しそうに微笑みながら、俺の腕に少しもたれるように身体を預けてくる沙羅さん。普段は過剰なまでに俺を甘やかしてくれるが、たまにこうして甘えてくれるときもあるのだ。
「う、うーん、正直なところ、高校生の私達が、結婚とか妻とか言われても実感湧かないよねぇ。恋人出来た~とか、彼氏出来た~ならピンとくるけど。薩川さんはよくそこまで考えられるね?」
「あ、それ私も思った。正直、高校生のする話じゃないって言うか、ちょっと重いって言うか。高梨くんはどうなの?」
二人がそう思うのは仕方ないだろう。当事者の俺だって実感がある訳でもないし、まだまだ理解していないのが実情だ。他人なら尚更理解できないだろう。
「俺にとって一番大切なことは、ずっと沙羅さんと一緒にいられることですからね。何となく、今の関係の行き着く先にあるものだって思ってるくらいですけど、今はそれでもいいかなって。」
「そうですね。私も正直なところ、結婚そのものに憧れはありますが、感覚としては今の関係の延長線だと考えている感じです。例えるなら、今の私は研修中で、結婚後が本番と言った感じでしょうか?」
上目遣いをしながら俺の顔を見上げてくるその仕草が可愛すぎて、思わず頭を撫でてしまった。沙羅さんは俺の突然の行動にも驚くことはなく、まるで猫のようにそのまま目を細めて気持ち良さそうに寄りかかってくる。
「…目の前でイチャつかれて普通に話せるようになった自分が怖いわ」
「…私も…憧れてた男子達は地獄だろうけど。」
「早く慣れた方がいい。あの二人はこの先もっと酷くなるから」
「は、花子さん、もっと仲良くなるって言おうよ…」
俺達の関係が、一般高校生から大きく外れていることはもちろん理解しているつもりだ。でも沙羅さんと恋人になれたこと自体が、俺からすれば奇跡と言わざるを得ない訳で…それを考えれば、普通じゃない関係だと思われても何ら不思議はないと思うのだ。
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薩川家
「おかえりなさ~い」
玄関を開けた俺達を出迎えてくれたのは、満面の笑みを浮かべた真由美さんだった。ずっと待っていてくれたのか、玄関を開けたら直ぐに出てきてくれたのだ。
正臣さんが寂しがっているという話は聞いていたが、沙羅さんが家を出てしまって寂しいと思っているのは真由美さんも同じではないだろうか?
そう思うと…何かいいアイデアはないだろうかと考えてしまう。
「おかえりなさい、沙羅ちゃん。」
「ただいま帰りました。」
嬉しそうな真由美さんに対して、沙羅さんは普段通りに見える。でも本心では喜んでいるらしく、口許が少し緩んでいるみたいだ。
「おかえりなさい、一成くん!」
ぎゅ…
急にテンションの高い「おかえりなさい」を言われたと思った瞬間、真由美さんの行動は本当に早かった。俺の返事を待つこともなく、間髪入れずに抱き寄せられてしまったのだ。あまりに突然のことで、当然俺は何も身動きがとれなかった。そして玄関という限られたスペースでは、いつも真由美さんの行動を阻止する沙羅さんも動くことができなかったらしい。
真由美さんは一段高い場所に立っているので…つまりそのまま抱きしめられた俺は、そのまますっぽりと収まってしまった。そう、母性の塊とも呼べる位置に。
真由美さんの大きさに改めて気付いて少し驚いてしまったが、もちろん俺にとってベストは沙羅さんである。
それにしても、母娘で同じようなことをするのはこれも遺伝なんだろうか?
もしくは母娘だから?
「んふふー、今日は時間もいっぱいあるから、普段会えない分までお義母さんがいっぱいいっぱい可愛いがって…」
ぐいっ!!
後ろから回された沙羅さんの手が、物凄い勢いで真由美さんから俺を引き離す。そしてそのままの勢いで、今度は沙羅さんの場所に収まってしまった。先程とは大きさが少し違うが、安心感と心地好さは段違いだ。これは俺の心理的な要因も大きいだろうけど。
「何をしているんですか!!! 例えお母さんでも許しませんよ!! そもそも、一成さんは私の抱っこが大好きなんです!! ですよね、一成さん?」
沙羅さんは怒りで興奮しているのか、俺を真由美さんから庇うようにしながらも、頭をぐいぐいと定位置へ押し込んでくる。なので、声を出そうにも口を塞がれている状態になり、返事をすることができなかった。仕方ないので、俺は二度三度と頷いてその通りだと沙羅さんにアピールする。
「ひゃん!?」
俺の動きがくすぐったかったのか、沙羅さんが少し色っぽい声を上げた。この状態でそんな声を出されると、ガ◯ダリウ◯合金より固い俺の意志を折りかねないので勘弁して欲しい…
「も、もう、一成さんったら…」
何故か余裕を取り戻したようだが、その声音がどこか艶っぽく聞こえてドキドキしてしまう。
「うぅ~、沙羅ちゃんはいつでも出来るでしょう? 一成くんだって、私が前に抱っこしてあげたら喜んでくれたんだから~」
「………は?」
ぎゅい!!
「むぐっ!?」
沙羅さんが俺を抱きしめる力が急に強くなる。これはいつものお仕置きよりも少し強い。
真由美さんの抱っこ…色々思い出してみると、お仕置きと称されて何度かやられたことを思い出した。
そう、お仕置きである。そして沙羅さんのお仕置きもこれである。
本当に母娘なんだなぁ…
「んふふ~、ヤキモチ焼いちゃった?」
真由美さんは、まるで挑発するかのように沙羅さんをからかう。沙羅さんも、普段であれば冷静にスルーできるはずなのだが、俺が絡むとそうならないことも多い。だからこそ、真由美さんは俺のことで沙羅さんをからかうのだろうけど。
「どうせ、先程のようにお母さんが強引にしただけでしょう? 全く…一成さんは、私以外にそんなことはしませんから。」
「あらら、思ったより冷静ね。わかってるなら離して上げればいいのに。」
「それはそれなので、お仕置きです。」
もちろん全くと言っていいほどお仕置きになっていないので、単にイチャつきたいだけだと言われてしまえばその通りだとしか言えないだろうな…
「え?……それが沙羅ちゃんのお仕置きなの? うふふふ…そ、そうなのね…ふふふふ…」
どうやら真由美さんも、沙羅さんのお仕置きが自分のお仕置きと同じだと気付いたらしい。笑いが止まらないようで、クスクスと笑い続けていた。
「一成さん、反省して下さいましたか?」
一方沙羅さんは、そんな真由美さんを無視すると決めたようだ。
反省…もちろん反省はしました。
俺はそれを伝える為に、今度は驚かせないようにゆっくりと首を縦に振る。
「はい…いい子ですね♪」
どうやらお許しを頂けたらしく、押し付けるようだった力を少し緩めてくれた。もともと息苦しさはないので、力を緩めてくれるとゆったり寄りかかれるようになるというくらいなだけだ。
沙羅さんはそのまま俺の頭を撫でながら、言い聞かせるように言葉を続ける。
「以前もお話しましたが、抱っこでしたら私がいつでもして差し上げますからね。学校でも教室でも、私ならいつでも大丈夫です。遠慮なく仰って下さいね? ですから、母はもう必要ありませんよ?」
「わ、わかりました。」
学校や教室でそんなことを言うつもりはないが、こうやって返事をしておけば沙羅さんは素直に納得してくれる。それに、現状で毎晩甘えているのだから、俺からすればそれだけで十分だ。
「も~沙羅ちゃんったら、独り占めしてぇ」
「独り占めも何も、私達のことにお母さんは関係ないです。」
結局、真由美さんの本気なのか冗談なのかよくわからない行動のせいで、沙羅さんは終始俺を離そうとせず…
玄関から移動できるようになるのはもう暫く経ってからだった。
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お食事タイムは次回です。
そして、少し話を挟んでから、波乱の幕開けになる父母参観が始まります。
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