第228話 生徒会からのお願い

同級生や友人に俺の甘ちゃんぶりを大暴露されるという苦境を乗りきり、そろそろ報告会も終わろうかという流れになった。

俺はまだ生徒会の話をしていなかったので、忘れない内に三人へ相談するため声をかけた。


俺「花子さん、藤堂さん、速人、ちょっといいか?」


花「何?」


藤「どうしたの、高梨くん?」


速「何か相談事かい?」


俺「あぁ、生徒会のことでさ。」


生徒会という言葉を聞いて、ますます不思議そうにする三人。

沙羅さんの目の前で本当の理由を言う訳にはいかないので、取りあえずは協力を求めたいという旨だけ打診してみる。

引き受けてくれると助かるんだけどな…


俺「三年生が引退するから、生徒会も人員を増やさなきゃならないんだよ。沙羅さんが会長になって、新しい体制で始めるんだ。そこで、できれば三人に役員として手伝って貰いたいんだ。」


西「あら? 沙羅が会長になるんですか?」


夏「そう言えば大地が選挙しないって言ってたっけ。沙羅で確定したんだ?」


しまった、その辺りの話をしていなかったか…

肝心な部分の説明を忘れていたことを今頃思い出し、先ずは簡単に説明をしておくことにした。


俺「対抗馬がいないから、沙羅さんがこのまま会長をやることになったんだ。でも現会長含めて三年生が三人いなくなるから、新しい体制でやる為に人員を補充しなくちゃならなくて。」


西「まぁ、沙羅と対立してまで生徒会長になりたいと思う人なんか、そうそういないでしょうからね。でも沙羅を会長にするなんて、また思いきった………成る程、そういうことですか。」


西川さんは、自分で感想を漏らしている内に、俺が三人に協力を求めた理由に辿り着いてしまったらしい。納得したように頷いてから、改めて俺の方を見る。


花「……あぁ、そういうこと。成る程ね。確かにそれならわかる。」


どうやら花子さんも理由に気付いてくれたらしい。わざとらしく、「新しい体制」などと言った甲斐はあったようだ。速人と藤堂さんはまだ気付いていないようだが、このまま話を続けさせて貰うしかない。


花「ちなみに、薩川さんが会長になるなら副会長はどうなるの?」


俺「それは俺がやることになった。一応は総会の承認待ちだけど。」


西「…えぇ…二人が会長と副会長なんて、公私混同なんてレベルじゃ…」


西川さんの指摘は、俺が副会長と言った時点で絶対に言われるだろうと思っていたことだ。だが公私混同とは言うが、別に俺が何か個人的な依頼をして沙羅さんが許可を出す訳ではない。強いて言えば馴れ合いが出るかもしれないくらいであり、運営自体に問題は起きないはずだと俺は考えている。


沙「失礼ですね。一成さんと仲良くしても、生徒会の活動に支障を及ぼすことにはなっていませんよ。」


全「……………………」


何だろうか、この生暖かい視線は。

ダメだこいつらとか、そんなことを思われているような気がする。

でも実際、特に支障を生じさせた覚えはない……と、思うのだが。


俺「ど、どうかな?」


花「そうね………正直、私がどこまで力になれるかわからないけど、この面子でやるのであれば面白そうだとは思う。高梨くんからのお願いだし、私としても協力するのは吝かじゃない。でも今と生活リズムが変わるから、親とも相談してから答える」


嬉しいことに、花子さんは前向きな答えを返してくれた。確かに、帰宅部からでは時間が変わるし、そもそも花子さんは転校してきたばかりなのだ。ご両親と相談するのは当然だろう。


俺「ありがとう花子さん。でも、無理だけはしなくていいから。」


花「わかってる。」


藤「私もお家で相談してみるね。今より帰りが遅くなる可能性もあるから、お母さんたちに相談してみる。」


速「俺は基本的に部活があるけど、時間があるときで良ければ手伝うよ? あと、藤堂さんは帰りが遅くなるようなら、俺が家まで送るから。」


流石は速人。生徒会を手伝うにしても部活に行くにしても、どちらにしても帰り時間が遅くなる。だからこそ、藤堂さんへのフォロー兼アピールも同時に考えたのだろう。俺としても、それで藤堂さんの心配事が一つ解消されるならありがたい話だ。


花「そう。それなら私は…」


チラリと俺の方を見ながら、花子さんも同じ事を求めているような素振りを見せた。

確かに、もし遅くなるようであればそのくらいは引き受けるべきだ。特にこの先どんどん暗くなる時間が早くなる。それがわかっていて花子さんを一人で帰すような真似はしたくない。


…本当は沙羅さんが最優先だけど、俺が…


沙「そうですね、では私達と三人で帰ることにすれば如何でしょうか? 花子さんのお家は商店街の近くですから、送り届けてから買い物をすればいいのですよ。ですから大丈夫です。」


沙羅さんの提案は、正に今俺が悩んでいたことを解決してくれるものだった。察してくれたことには後でお礼を言うとして、沙羅さんがいいと言ってくれたのだから俺も引き受けようと思う。なぜ沙羅さんが花子さんの家を知っているのか気になったが、ともかく沙羅さんがこう言ってくれるのであれば…


花「ちょ、ちょっと待って。冗談だから、私は別に一人でも大じょ…」


俺「いや、暗くなってから花子さんを一人で帰すなんてダメだから。そういうときは、必ず送る。」


まだ引き受けてくれることが決まった訳ではないが、こういう心配事を先に解決させておけば、話がスムーズに進む可能性もある。安心して貰う為にも、先に決めておいて損はないと思うのだ。


花「う……わ、わかった…」


花子さんは急に俯いたと思えば、何かボソボソと呟いているようだ。だがそれも直ぐのことで、顔を上げてこちらを見た花子さんはいつも通りの表情だと思う。


花「と、とにかく、家で話をしてみる。」


藤「私も相談してみるね。」


速「俺はどちらにしても、手伝えるときでよければ手伝うよ。」


俺「ありがとう、宜しく頼む。」


これで後は最終的な返事を待つだけとなった。色好い返事を貰えることを祈りつつ、生徒会の話をしていてもう一つ思い出したことを伝えなくてはならない。俺個人からも西川さんに話があるので、合わせて忘れずに伝えておかなくては。


俺「西川さんにも話があるんですよ。」


西「あら、私にもですか?」


俺「西川さんと、西川さんのお父さんからの話で、最終的に政臣さんから認めて貰えたんですよ。本当にありがとうございました。」


西「ちょ、高梨さん、お気持ちは頂きましたから頭を上げて下さい!」


俺がしっかりと頭を下げたことで、逆に西川さんが狼狽えてしまったようだ。暫くしてから俺が頭を上げると、西川さんがホッとしたような表情を浮かべた。


俺「正直に言って、かなり助かりました。だから…」


西「私だって友達の為に動きたいと思うのは当然じゃないですか。わかりましたから、もう止めて下さい。そんな真面目に言われてしまうと照れ臭いです。」


照れ臭いというのは嘘でも何でもないらしく、西川さんは照れたように顔を朱くしていた。こんな様子の西川さんは珍しいので、思わずまじまじと見てしまうと耐えきれなくなったらしく横を向いてしまった。

ちょっと気まずくなってしまったので、会長の話で誤魔化しておくとしよう。


俺「そうそう、会長から西川さんに宜しく伝えてくれって言われてたんですよ。」


西「え、会長? …あぁ、上坂さんのことですかね?」


上坂…えーと、確か名字はそうだったような…いつも会長と呼んでいたから忘れてしまった。下の名前が「大地」だということは、夏海先輩がそう呼ぶこともあり覚えているのだが。

夏海先輩に視線を向けると、それに気付いてくれたようでコクリと頷いてくれた。


俺「そうです。今日会うって言ったら、宜しく伝えてくれって」


西「そうでしたか。では私の方からも、その節はお世話になりましたとお伝え下さい。」


どうやらそれなりに面識はあるようだ。

でも西川さんの反応を見るからに、やはり知り合いくらいのレベルなのかもしれないな。


夏「あれ、大地とえりりんってそんなに面識あったっけ?」


西「委員会の関係で顔を会わせることはありましたよ。後は、たまに帰りの時間が重なって途中まで一緒に帰ったこともありましたが…そのくらいですかね。」


夏「……帰りが一緒? 聞いたことないぞぉ…大地ぃ」


小さな声で何かを呟いた夏海先輩が、意味深なまでにニヤリと笑ったことが気になった。あれは何かを企んだときの夏海先輩のように見える。思わず雄二を見ると、苦笑を浮かべてそれを見ているようだった。


俺「わかりました。会長には伝えておきますよ。あと、他にも久しぶりに会いたいって声もありましたよ。」


西「そうでしたか。そう言って貰えるというのは嬉しいですね。」


嬉しそうに笑う西川さんを見ながら、学祭に誘えば顔見知りや転校前の友人と会えるのではないかと不意に思い付く。


俺「今度の学祭、良かったら来ませんか?」


沙「それはいいですね。絵里も来るならもっと楽しくなりそうです。」


藤「わ、西川さんが来るんですか?」


西「そうですね…予定を確認してみますよ。」


誘われたことが満更でもないのか、西川さんは即答こそしなかったものの嬉しそうにしていた。どうせなら皆で集まれば面白いかもしれない…と考えたのは俺だけで無かったようだ。


夏「立川さんもどう? 橘くんはもう来ることが決まってるけど。」


俺「え、そうなのか、雄二?」


俺から雄二を誘うつもりだったのだが、まさかそれを夏海先輩から聞くことになるとは予想外だった。雄二を見ると、苦笑しながら頷いている。


雄「あぁ、夏海さんの試合の応援に行くんだよ。勿論お前のクラスにも行くけどな。」


立「そっかー、西川さんに橘くんまで行くなら、私だけ除け者は嫌だなぁ。予定を空けておこうかな。」


藤「洋子は私が案内してあげるからね!」


花「これは全員で薩川さんのミスコンを応援をする流れね…」


花子さんの話を聞いた沙羅さんは、微妙な表情で溜め息をついていた。乗り気ではないミスコンに皆で来られても、沙羅さん的にはあまり嬉しくはないのかもしれない。俺は勿論行くが、応援というよりは万が一何かあった場合に備えてだ。最悪、沙羅さんを強制的に連れ出すことまで考えてのことである。


沙「来ても面白いことは何もありませんよ。私は何一つするつもりがありませんので。」


花「…それはそれで面白そうだけど。」

立「…薩川先輩は本当に徹底してますよねぇ。」

夏「…多少マシになったけど、高梨くん以外の男はどうでもいいと思ってるのは変わってないからね。」


俺としては勿論嬉しいのだが、この沙羅さんの姿勢は要らぬ誤解を招く可能性も当然あると思う。これから生徒会長をやっていく上では、やはり俺を含めた周囲のフォローは必須になるだろう。何としてでも花子さん達には生徒会へ参加して貰いたいな…


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報告会が終わり、帰りの車は二手に分かれることになった。雄二と立川さんは西川さんの乗る車に同乗して帰ることになり、後は俺達が二台に分かれて乗ることになる。


「お疲れ様~~」

「またね~」

「お休みなさい」


お互いが口々に別れを告げ、割り当てられた車に乗り込もうとする中


花「ごめん、薩川さんと話をさせて欲しい」


花子さんが突然そんなことを言い出したのは、恐らく今度の話をするつもりなのだろう。沙羅さんも花子さんの様子から、真面目な話だと判断したらしい。


俺「沙羅さん、花子さんの話を聞いてあげて下さい。」


俺からも言われたことで素直に頷いてくれた沙羅さんは、割り当てを変更した車へ花子さんを促して乗り込んでいく。

それを見送ってから、俺達は西川さんが急遽呼んでくれたワンボックスタイプの車に乗り込み帰ることになった。


藤「花子さんは、薩川先輩にどんな相談なんだろうね…」


気になっているのは皆同じだと思う。藤堂さんもそう口にしながら、恐らくは俺に関する話だと何となくわかっているのだろう。


夏「その内話してくれるよ…きっと。」


夏海先輩の言う通りになるといいな…それは俺だけでなく、皆が思ったことだろう。

結局その後は会話らしい会話も起こらず、車内では曲名のわからないクラシックのBGMだけが静かに流れているのだった。


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「はい、一成さん。どうぞ…」


布団の上で横になった沙羅さんは、笑顔を浮かべると両腕を開いていつも通りに俺を迎え入れる態勢になった。ゆっくり腕の中へ身体を寄せると、そのまま俺の後ろに腕を回して、ぎゅっと自身の身体に押し付けるように抱きしめられてしまう。


これは沙羅さんから求められたことである為、本来であれば俺としても遠慮することはないと思う。でも実は、俺が遠慮しなくていいように、敢えて沙羅さんが自分の希望として言ってくれたのではないかとも思うのだ。もちろん沙羅さん自身も喜んでくれているのは間違いないので、あくまで「思う」だが。


沙羅さんに頭を撫でられながら、花子さんとの話を切り出すことにした。


「沙羅さん、今週末なんですけど…」


「はい、花子さんから聞いておりますよ。私のことはお気になさらず、お話を聞いてあげて下さい。」


やはり車でその話をしたらしく、俺が最後まで言う前に許可を貰ってしまった。

これで花子さんから色々と聞くことが出来る。特に「お姉ちゃん」という部分についてだ。


「一成さん、本当は私もこんなことを言いたくはないのですが…当日は、花子さんに優しくしてあげて下さい。話をしっかり聞いてあげて下さい。」


俺の頭を撫でていた手が止まったかと思うと、そのまま顔を胸に押し当てられるかのように抱き寄せられてしまう。

どういう理由で沙羅さんがそれを言うのか分からないが、本心では決してよくは思っていないのだろう。


「多少のことでしたら受け入れてあげて下さい。でも一日だけです。本気になったら嫌です……浮気は…泣いてしまいます」


少し冗談っぽく装ってはいるが、本心で思っていることは直ぐにわかった。もちろん沙羅さんを悲しませるようなことなどするつもりは全く無い。俺にとって花子さんは大切な人だが、あくまでも親友なのだ。沙羅さんからこんなことを言われてしまうと、当日俺に何が待っているのか不安になるが…まぁ大丈夫だろう。


「俺が浮気するなんて、死んでもあり得ないことを言われてしまうとショックで…むぐ」


冗談を返すつもりで軽口を叩いてみたら、沙羅さんに押し付けられて(どことは言わないが)口を塞がれてしまった。最近、この嬉しい手段で黙らされるれるケースが増えているような気がする。


「ふふ…申し訳ございません。それではこれでお許し下さいね」


ちゅ……


俺の顔を離すと、上半身を少しだけ起こして上手く顔を寄せてくる。そのまま頬にキスをすると、また俺を抱き寄せて横になった。


「さぁ、そろそろお休みしましょう。」


「そうですね。」


沙羅さんに包まれて、頭を撫でられていると直ぐに眠気が襲ってくる。明日の予定、今週の予定…色々頭に思い浮かんだものが何一つ形にならないまま…やがて俺は眠りに落ちるのだった。

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