第245話 一成の悪巧み

昼休み

モブトーク


「今日の薩川先輩可愛かったよな」

「おお、それな!」

「先輩に聞いたら、今教室でもあんな感じで人当たりがいいんだってさ…だから告白考えてる男が増えてるらしいぜ」

「うわ、マジかよ…んじゃ今日のあれも普通ってことか?」

「何だそういうことか…納得したわ。」

「俺はマジでワンチャン狙う。」

「ふざけんな、そんなん俺だって狙うわ」

「右に同じ!」

「やっぱそうだよなぁ。ていうか、全員ライバルかよ!?」

「みたいだな。問題はどうやってお近づきになって、チャンスを作っていくのか…」


「…………」


「「「 料理教室だ!! 」」」


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疲労で重くなってはいるものの、とりあえず動くようになった身体にムチを打って、何とか花壇まで辿り着いた。途中で花子さんが心配そうに何度も声をかけてくれたが、大丈夫だと言い張るくらいの空元気は出すことができた。

そして俺の様子にいち早く気付いてくれた沙羅さんは、急いで立ち上がると直ぐに駆け寄ってきて、横から身体を支えるように寄り添ってくれた。


「一成さん、大丈夫ですか?」


「大丈夫です…ちょっと身体が重いですけど。」


「あらら、高梨くん大丈夫?」


「高梨くんも辛そうだね…」


夏海先輩と藤堂さんも、心配そうに俺の様子を気遣ってくれていた。もちろんそこには速人もいるのだが、やはり疲れが残っているのか、普段よりは笑顔に若干の陰のようなものが見える気がする。


「一成もまだ大変みたいだね。俺も少し残ってるよ」


いつもは体育の後でも余裕すら見せる速人が疲れているのであれば、俺がここまでグロッキーになっていても許して貰えるのではないだろうか?

そう考えると、甘えて申し訳ないと思う気持ちが少しだけ楽になってきた。我ながら現金だとは思うけど…


「一成さん、本当にお疲れ様でした。お身体が大変そうなので、お食事は全て私にお任せ下さいね?」


全て。

沙羅さんが全てと言ったら、それは要するに一から十まで全て「あーん」をしてくれると言うことだ。

俺をゆっくり座らせた沙羅さんは、言うが早いか弁当箱を自分の方へ引き寄せて、早速餌付け(?)の体勢に入っていた。


「はい、一成さん、あーん…」


ぱくっ…もぐもぐ


「如何ですか?」


「いつも同じ台詞で申し訳ないですけど…控えめに言って最高です。」


「嬉しいです♪ はい、次はこれですよ。」


やはり沙羅さんは、宣言通りに全て食べさせてくれるつもりらしい。申し訳ないとは思うけど、こうなった以上は沙羅さんも絶対に止めないのはわかっている。だから俺のするべきことは、ありがたくその気持ちを受けとることだけだ。


「はぁ…毎日毎日イチャイチャして、いい加減飽きない?」


「飽きるという意味がわかりませんね。愛しい方に、いつでもこうして寄り添いたいと思うことは当然ではありませんか?」


夏海先輩は自分の弁当を箸で突っつきながら、ジト目で沙羅さんを見ている。

でも俺だって沙羅さんと同意見だ。二人でこうしていることに飽きなど微塵も感じないし、それはこれからも変わらないと確信している。


「いや、好きな人と一緒にいたい気持ちはわかるけど、そう四六時中ベタベタしてて…高梨くんはどうなの?」


「俺も沙羅さんと一緒ですね。いつでもこうしていたいです。」


「ふふ…これからも私にいっぱい甘えて下さいね?」


「このバカップルが…」


そんなことを言いつつも、どうせ雄二と二人になれば夏海先輩も大して変わらないだろうと俺は思っていた。


……………

………


「それでは申し訳ございません。私達は先に戻りますので…」


「んじゃね~」


沙羅さんは日直の仕事があるということで、昼休みを早めに切り上げて一足先に教室へ戻ることになった。

夏海先輩は日直ではないが、それを手伝う為に同行するそうだ。沙羅さんは遠慮していたが、夏海先輩は強引に説得してしまった。


……俺が同じクラスなら手伝うことも出来たのにな。


という訳で、花壇に残ったのは俺達一年生組だけだ。まだ昼休みが終わるまでもう少し時間があるので、ギリギリまでゆっくりしていこうという話になっている。


「…なぁ一成、ちょっといいか?」


速人が珍しく神妙な様子で俺に話しかけてくる。こんな表情を見るのは久し振りだ。つまり、それだけ真面目な話しなんだと思う。


「どうした?」


「今日の体育で、薩川先輩のことが騒ぎになっただろ?」


「…そうだな。」


「あの後教室に帰ってから、結構話題になってたんだよ。俺も話を聞いてたけど、薩川先輩の人気はかなりのものだと思う。」


それは今更の話ではない。俺だって、沙羅さんの人気について出会った頃からわかっていた。でも敢えてそれを確認したということは、何か別の話があるということなのだろうか?


「嫁の人気は、転校してきたばかりの私でもよくわかった。あれはチープな言い方をすれば、学園のアイドルって感じだと思う。」


「うん、私のクラスでも憧れてる男子は多いよ。特に最近は、薩川先輩が明るくなったって…」


沙羅さんの人当たりが改善しているのは、生徒会で他の役員と接している姿を見て俺もわかっている。でもそれについては、決して悪い話ではないと俺は思っているのだ。何より沙羅さん自身が、人当たりが悪いという点について思うところがあるのを知っているから。


「そこだよ。本来であれば、生徒会長が接しやすい人であることに問題なんかない。寧ろ人気が高くなって良いことだと思う。でも薩川先輩の場合はそれだけじゃない。一成には言い難いけど…」


…いくら俺でも、速人の言いたいことはわかっている。

そしてそれは、以前から俺がずっと悩んでいることでもあるのだ。つまり、速人が言おうとしていることは…


「沙羅さんが、他の男から言い寄られる可能性が高くなるってことだろ?」


「…やっぱり、わかってたんだね?」


「ああ。これは沙羅さんには内緒にしておいて欲しいけど、俺はずっと前からそれをどうすればいいか考えてたんだ。沙羅さんが他の男に言い寄られないようにするには、どうすればいいかってずっと悩んでた。」


この問題については、俺は前からずっと考えていたことだ。

全校生徒を集めて宣言するとか、放送部に頼んで校内放送させてもらうとか、正直に言って現実的ではないことをいくつも考えたことがある。

でも俺と沙羅さんのことは、あくまでも個人的な話なんだ。芸能人でもあるまいし、交際していることをまるで公式発表だと言わんばかりに大事にするのは、幾らなんでもおこがましいと思っていた。そんなことをすれば、お前達は何様だと批難されても不思議はない。そう考えていた。

そしてそんなことになれば、俺だけでなく沙羅さんにまで批難が及ぶだろう。

だからこそ、なかなか答えは出なかった。


……でも、それは以前の話だ。


今の俺には、一つだけ思い付いていることがある。これは沙羅さんがミスコンに出ると決めたことで、結果的に思い付いたことではあるのだが。


「ひょっとして、何かを考えてる?」


流石は花子さんだ。俺の表情を読むスキルが高い花子さんは、早くも俺が何かを考えていることに気付いたらしい。


「一成、もし何かを計画してるなら俺も協力するよ?」


「私も!」


速人と藤堂さんも名乗りをあげてくれた。

こうして俺達のことで親身になって考えてくれる親友を持って、俺は本当に幸せだと思う。もともと俺は一人でやるつもりだったので、仮に協力して貰うとしても、そういう場面があるのかどうか正直わからない。

でも、こう言ってくれるのだから、せめて相談だけでもさせて貰おうと俺は思った。


「ちょっと話が逸れるけど、初めて沙羅さんのミスコン話をしたときのこと覚えてるか?」


「えっと…確か、薩川先輩が、生徒会枠で出ることになっちゃうって話だよね?」


「そう。あのときに、俺が言ったことを覚えてるか? 沙羅さんが、ミスコンに出るのが嫌なら…って。」


「…言ったことまでは覚えてないけど、一成が怒っていたことは覚えてるよ。」


あのときの俺は、嫌がっている沙羅さんを強引に出場させるつもりなら、ミスコンを潰してもいいと本気で思っていた。

沙羅さんが出ることを決めた後も、場合によっては潰すことを考えていた。

不特定多数の男共に、沙羅さんが見世物にされることを考えると腹立たしいし、沙羅さんにそれを強制するようなミスコン自体が不快だからだ。


「ミスコンを潰したら、どうなると思う?」


「えええええ!?」


「…それは、今回の話と関係があるのかい?」


「そのつもりで考えてる。」


まだハッキリとした形にはなっていないけど、沙羅さんがミスコンに出るとなれば、観客は間違いなく大量に集まるだろう。つまりこちらが大それたことをしなくても、丁度いい会場が出来上がる訳だ。ミスコンを潰す意味でも、それを利用してしまおうと俺は考えていた。


「でも、高梨くんは副会長さんになったんだよ? あまり酷いことをすると、後でどうなるか…」


「確かに、単に壊したら評判が悪くなるわね。一成に副会長という立場がなければ、もう少し気楽だっただろうけど…」


花子さんの言うことは最もであり、単にめちゃくちゃに壊すというだけであれば、俺は副会長を辞めることになりかねないだろう。

でもそうなってしまえば、俺を推薦した沙羅さんの顔に泥を塗ることになるし、生徒会長になった沙羅さんを支えていくという重要な部分がダメになってしまう。

今俺が悩んでいる最大の要因はそこだった。


「丁度いい機会って訳じゃないけど、せっかくここまで話したから相談に乗ってくれないか?」


とにかくやりたいと思うことは、あの場で沙羅さんには俺という男がいると周知させる。もう沙羅さんに言い寄る意味がないと、男共に思い知らせる。その為には、俺達は相思相愛であることを明かす。これが最優先だろう。

そして、何とか副会長の立場をキープできれば言う事はない


「ちなみに、一成はどうするつもりだった?」


「あの場で、俺がいるから沙羅さんに近寄るなって宣言しようかと考えてた。」


「そういう形をとると、批判される可能性が高いかな。」


「うーん、せめて告白だったら逆に盛り上がりそうだと思うけど…」


「それはいいかもしれない。嫁が告白を受け入れたら、会場が大騒ぎになるかも。」


!?


それを聞いたところで、俺はとてもいいことを思い付いた。

確かに告白なら、周囲は面白がるかもしれない。でも、それが単なる告白じゃなければ…しかも沙羅さんがそれを受け入れたら…

会場はどうなる? ミスコンはどうなる?


「一成が何か思い付いた。」


「今回は俺もわかったよ。それで、何を思い付いたんだい?」


「当日まで秘密…って言ったら怒るか?」


「えぇぇ、高梨くん、それは酷いよぉ」


藤堂さんが、可愛く抗議の声を上げる。

やはり相談してるのに、最後が秘密では怒られて当然だろう。


と言う訳で、俺は自分の思い付きを皆に説明してみた。勿論それ自体は驚かれたが…反対する意見も出なかった。


我ながら、いいアイデアを思い付いたのではないだろうか?

何のことはない、もともと候補として考えていたクリスマスプレゼントを前倒すだけなんだ。

但し…他の男への効果は絶大だと思う。

そしてその結果ミスコンが騒ぎになったら…それは沙羅さんに嫌な思いをさせた罰だ。俺はそう考えていた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


一応補足ですが、一成は以前から何度か「何かいい手段がないか?」ということを考えている伏線はありました。そして、今回一応の結論が出ました。

さて、これがモブ達へのとどめになるのでしょうか?w


という訳で・・・

お待たせしました、次回から父母参観です。

頑張ります。

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