第36話 買い物に

「沙羅がそれでいいなら、いいんじゃないかな?」


「ですが、それは本当なら俺が用意しなければならないもので、お礼には…」


「高梨さん、私は、自分で選んだ高梨さんのお弁当箱が欲しいのです。勿論高梨さんが選んで頂いた物でも問題ありませんが、できれば私に選ばせて頂きたいのです」


う…そう言われてしまったら俺はもう何も言えない。

沙羅先輩がいいのであれば、それで問題ないんじゃないか…と思う


「ということは、沙羅が選んで高梨くんが買うってことだね。そうしたらこれは二人で買いに行くしかないね!!」


「え!?」


いや、そうするしかないのか?

でもそれってつまり、沙羅先輩と…


「高梨さんとお買い物…嬉しいです…あ、でも高梨さんは宜しいのでしょうか?」


「いや、俺は全然大丈夫なんで!むしろ、沙羅先輩が俺なんかと…」


「?私は、高梨さんとお買い物に行けるのであればとても嬉しいですよ?」


「あ、勿論俺も嬉しいです!」


「ふふ…でしたら、一緒にお買い物へ行って頂けますか?」


「わかりました。」


つまり今度の休みの日に一緒に出掛けるんだよな?

ヤバイ、服とか探しておかないと…


「今から楽しみです。日時や詳しいことは後で宜しいでしょうか?今日はそろそろ水やりをしないと時間がなくなってしまいそうです。」


「了解です。」


「私も手伝うよ。」


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これは何としても見届けないと…


沙羅が男子とデートなんておもしろ…違う、心配だよね。

ここは二人を見守る立場の者として、様子を見に行く必要があるね。


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「…ということになったんだよ。」


その日の夜、俺は雄二と電話で話をしていた。

内容は勿論、今度の沙羅先輩との買い物だ。


「一成の弁当箱を選びたいって、お前それは…」


「本当は俺が買ってお願いするべきだったんだよな。そういう意味では申し訳ないというか。でもそこまで考えてくれるなんて、正直言って嬉しいわ」


先輩は、俺のことを大切な友人だと言ってくれた。

こうやって、俺のことを色々考えてくれているのは本当に嬉しい


「………んー…あのさ、ちょっと聞いていいか?」


雄二が急に話題を変えてきた


「なんだ?」


「お前さ、その先輩のことどう思ってるの?」


「どうって…先輩は大切な人だと思ってるぞ。」


俺のことをわかってくれた人だ

勿論大切に決まってる


「それはそうなんだろうけど、例えば、お前はその先輩を女性として好きじゃないのか?この前の顛末を聞いたときも思ったんだが、その辺どうなんだ?」


「正直、そこは考えていない。それよりも俺は、先輩が俺のことを大切な友人だとハッキリ言ってくれたことが本当に嬉しかったんだ。先輩が望んでくれるなら友人でも親友でも充分なんだよ。あの人が俺にとって大切な人だということは変わらないからさ。」


「つまり、そういうのは超越して、どういう形であれ大切な人だってことか…」


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一成は中学の一件以降、殆どの相手を信じられなくなっていた。


あの女…一成の幼馴染みだった笹川柚葉のせいで疑心暗鬼になってしまい、それまで友人として付き合いのあったやつらですら信じきれなくなってしまった


俺は一成を親友だと思っているし、あの女のこともちゃんと知っていた。

だから、あのときの一成の気持ちはわかっていたつもりだ。

俺に関してはなるべく関わることで信じて貰えた。


でも、事情を理解してない他の奴らは付き合いきれないと判断してあいつから離れてしまった。


自分をしっかり理解して信じてくれる相手を求めていたのに、自分は相手を信じられないという負のスパイラルがあいつを孤立させてしまった。


だから、やっと現れた自分の理解者を大切に思うあまり、ある種、盲目的になってしまっているのかもしれない。


大切な人が自分という存在を求めてくれるなら、ポジションはどういう形でもかまわない。そして自分がその人を大切だと思う気持ちは変わらないから…


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「わかった。変なこと聞いたな。とにかく楽しんでくればいいよ。俺以外と遊びに行くのはかなり久々だろう?」


「まぁな…でもまずは目的をちゃんと果たしてからだな。」


「買った後に多少でも遊ぶつもりなら、ショッピングモール的なところか商店街がいいかもな。」


買い物が終わったら、先輩が大丈夫なら少し動くつもりだ。


それに正直なところ、弁当箱は俺用のものだから、せめて何かもう一つ先輩に渡せればと考えている。


「あぁ、俺もその辺りで考えてた。どっちにしても沙羅先輩と決めるよ。まだ日時がはっきり決まってないから。」


「そっか、詳しく決まったら教えてくれ。何かアドバイスできるかもしれなし……………様子を見に行けるかもしれないしな。」


「あれ、電波が悪かったか?最後の方が上手く聞こえなかった」


「大したことじゃないから別にいいよ。んじや、詳しいことが決まったらまた連絡くれ〜」


「おう、お休みな〜」

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