第35話 欲しいもの
ガラガラガラ
俺は朝教室に入っても挨拶などは言わない。
返ってこないのわかってるしな。
でも最近は少し違う。
「高梨くんおはよ〜」
「おはよ〜」
まず女子が数人、挨拶などもしてくれるようになった。
なぜ女子なのかわからないが、別に俺が好かれているとかは有り得ないから、何か理由があるのだろう。
「おはよう」
「今日も夏海先輩達と一緒に来たの?」
「ああ、そうだけど」
「いいなぁ…私も…」
「抜け駆けは規則違反だよ」
「わかってるよぉ」
規則違反…何の話だそれ…
「おっす高梨」
「高梨くんおはよう!」
こいつらはわかっている。沙羅先輩か、夏海先輩のどちらかとお近づきになりたいだけだ。
だから俺は殆ど相手にしない
「おはよう」
「放課後とか先輩達と遊んでたりするのか?」
「休みの日はどうしてる?」
「適当にしてるだけだな〜」
さっさと話を打ち切るに限る
俺は荷物整理を始め、これ以上話す気がない空気を出す。
俺に話しかけたり、近付いてくるやつがいても、何かしら裏で理由があるからなんだよな。
…つまり、俺自身が孤立してるのは変わってないってことか
まぁこんなやつらはこちらから願い下げだが。
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「こんにちは、高梨さん」
「こんにちは〜高梨くん〜」
「こんにちはお二人とも」
俺の癒しスポットはここだけだな…
「はい、高梨さんのお弁当です」
「ありがとうございます。すみません毎日…」
「いいえ、私がしたいだけですから、むしろ食べて頂くのが嬉しいのですよ。」
そう、結局気が付けば毎日になってしまった。
沙羅先輩の都合でいいと匙加減を任せたところ、徐々に間隔が短くなり、結局毎日になってしまったのだ。
まぁ沙羅先輩に迷惑をかけたくなかっただけだったから、先輩が嬉しそうであれば問題ない訳で…幸せだし。
「高梨くんは幸せ者だなぁ…沙羅のお弁当を毎日とか、素直に羨ましいよ。」
はい、本当に幸せです……
「あら?でしたら夏海のお弁当も作りますよと、以前言ったではありませんか?」
「いや、私はたまにでいいのよ。毎日お願いしちゃったら私の練習にならないし。」
練習を兼ねてたんだ…
何の為と聞くのは無粋だろうな。
「でも、俺の方もこうして毎日お弁当作ってきて貰ってるとなると、さすがにお礼を貰いすぎてますよね。何かお返しを考えたいんですが。」
「…………」
?
何かを思い出したような表情なんだが
「沙羅ってば、お礼の為に作ってたの忘れてたね。」
「……はい。言われてみればお礼として作り始めたのに、高梨さんに食べて頂くのが嬉しくてお礼であることを忘れていました…」
「あー、沙羅先輩…実際のところ、お礼であればもう充分頂きましたので…」
沙羅先輩が悲しそうな表情になった
「え!?そ、それは…もう私のお弁当が…」
「違います!!沙羅先輩のお弁当なら毎日食べたいです!!ただ、お礼としてはもう充分頂いたので、逆にお返しを考えたいという意味です!」
「そ、そういう意味でしたか…良かったです…」
「むしろ、沙羅先輩のお弁当がない学校生活とか考えられないです」
我ながら凄いこと言ってるよな…
でもハッキリ言わないと先輩が誤解しちゃうと困るし
「…そんなに私のお弁当を…」
沙羅先輩が自分の世界に入ってる…
日を追うごとに、先輩のキャラが崩れているような気がするな…でも他のやつ相手だと全く変化ないんだよなぁ…
「…沙羅のラブコメシーンとか、ファンクラブの連中が見たら死ぬわねぇ」
夏海先輩も、最近こちらのやり取り見ながらぶつぶつ言ってることが多いんだよな…ニヤニヤしてるんだけど
「とにかく、お礼がしたいんですよ。毎日ですから、俺としてもこのままありがとうございますでは済ませられないです。」
「私としては、お弁当を作るのが楽しいので、何一つ負担には感じていないのですが…」
うーん、強引に何か用意するのもなぁ…
どうせなら先輩が欲しいものとか渡したいし
「せめて、何か欲しいものはありませんか?」
「沙羅、素直に受け取ってあげた方が、高梨くんも遠慮なく沙羅のお弁当を食べれるんだよ?沙羅が遠慮してると、高梨くんも遠慮しちゃうよ?」
夏海先輩ナイス!
「…それは困ります。わかりました、では何か欲しいもの…で宜しいのですか?」
「ええ、そんなに凄いものは用意できませんが、何か…」
一応、仕送りは節約できてるから、ある程度であれば俺は躊躇しないつもりだ。
「欲しいもの…ですか…うーん…あ!一つありました」
「あ、良かった、決まりましたか?」
「はい、高梨さんのお弁当箱が欲しいです!」
……え?
「今までは家にあった間に合わせでしたが、これからもこうして作らせて頂けるのであれば、高梨さんだけのお弁当箱で作りたいのです。」
えー、それはどちらかと言うと本来俺が用意しなければならない物なんだよなぁ
……夏海先輩、笑ってるの隠せてませんからね?
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