第34話 膝枕

高梨さんが寝息をたて始めました。


どうやら、少し落ち着いて頂けたようですね。

人は15分のお昼寝をすると良いと聞いたことがあります。


ご飯は高梨さんが起きてからでも充分時間がありますから、このままもう少し寝て頂きましょう。


こんなにすぐ寝てしまうということは、余程精神的に疲れていたのですね。

体調がかなり悪いのでしょうか…?


おでこに手を当ててみると…熱がある感じではなさそうです。


「…高梨くん調子悪かったんだ?全然気付かなかったんだけど…沙羅はよくわかったね?」


高梨さんが寝ているので、夏海は小声で話しかけてきました。


「え?一目でわかりましたけど…明らかに我慢されていたので。」


分かりにくかったでしょうか?

私はすぐに気付いたのですけど…


「いや、私は全然わからなかったよ。きっと、普段からしっかりと高梨くんを見ている沙羅だから気付けたんだろうね。凄いねぇ…」


…特別凄いことをしているつもりはないのですが…


「でもどうしたんだろうね?やっぱ朝のことが原因かな?」


「とりあえず熱はなさそうです。鼻水や咳もなさそうですし、風邪の症状で体調が悪いと言う感じではなさそうですが…」


…高梨さんの頭を撫でると、心なしか安心したような表情になるのが可愛いです…ふふ


「沙羅、嬉しいんだろうけど、高梨くんは調子悪いんだからね?」


…そうです。高梨さんは体調不良なんですから、不謹慎でした…


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「高梨さん…そろそろ起きて下さいね…」


とても優しい声が聞こえる…

頭を撫でてくれている手が嬉しくて、思わず頭を寄せてしまった。


「ふふふ…高梨さんったら」


「いや、沙羅、嬉しがってないで起こしなさいよ。」


沙羅?……沙羅先輩………!!!???


「は!?」


一気に覚醒すると、自分がどういう状況なのかわかってきた。


しまった、寝ちゃったのか…ってさっき俺は何をした!?


「す、すみません沙羅先輩!!」


急いで立ち上がろうとする俺を、沙羅先輩がやんわりと押さえた


「ダメですよ、急に立ち上がっては。高梨さんは体調が宜しくないようですから、ゆっくりと起き上がってみて下さい。」


「すみません、とりあえず起きますね。」


ゆっくりと体を起こす。

頭痛は落ち着いたようだ。薬を飲んだことと、少し寝たことが良かったみたいだな。


「体調は如何ですか?」


「はい、頭痛は治まったようです。ありがとうございました。」


「頭痛だったのですね…。かなり我慢されていたのでは?」


「薬で治まりきらなかったので、ちょっとキツかったです…でも、寝たお陰で落ち着いたみたいです。ありがとうございました。」


「それは良かったです。ご飯は食べられそうですか?」


これなら食べられそうだな。さっきまでだったら絶対に食べられそうもなかったけど。


「大丈夫です。夏海先輩もすみません、お騒がせしました。」


「いや、私は正直高梨くんの不調に気付けなかったんだよ…全部沙羅が一人でやったから、沙羅に言ってあげて。」


「はい、沙羅先輩すみませんでした。」


「いえ、とりあえず先にお弁当を食べてしまいましょうか。」


いつもより少し時間をかけてお弁当を食べて、落ち着いた頃に話を再開した。


「改めて、沙羅先輩、ありがとうございました」


「お役に立てたようでしたら良かったです。頭痛とのことでしたが?」


「はい、俺は元々片頭痛持ちなんですが、今日みたいに天気が悪いと痛みが出ることが多くなるんですよ。今日はそこに体育があったので、動いたせいで余計に…」


体育がなければ、もう少しマシだったとは思う。


「そうでしたか…それでしたら、体育はお休みするべきでしたね。」


「あ…そうか、先生に相談してみる手もありましたね。それを考えませんでした…」


「そういう理由なら先生も考えてくれるかもしれないし、次から聞いてみるといいかもね。」


夏海先輩が続けた。

確かにそうだ。次は聞いてみよう…


「でも良かったね高梨くん。沙羅が普段から高梨くんをよく見てたから気付けたけど、何も言わずに我慢するつもりだったでしょ?」


正直、余計な心配をかけたくないと思っていたんだけど、結局迷惑をかけてしまった…


「本当に沙羅先輩にはご面倒を…」


「?私は面倒とも迷惑とも思っていませんよ?」


沙羅先輩が何でもないという顔で話始めた。


「むしろ、体調が悪いことを隠される方が困ります。私のことはお気になさらず、必ず教えて下さいね。」


先輩ならそう言ってくれるだろう思ってたけど、だからと言って…


「沙羅、気持ちはわかるけど、高梨くんも沙羅に心配をかけたくなくて我慢してたんだよ。沙羅が本心からそう思ってるのはわかるけど、そこは許してあげて。」


夏海先輩が、流石のフォローを入れてくれる。

ありがたいです


「…わかりました。であれば、今後は私が必ず気付いてみせます。高梨さんが言いにくいのであれば、今回のように私が気付けばいいだけですので。」


「え…と、何と言えばいいのか、ありがとうございます…なんですかね?」


「いえ、これは私の決意表明ですので。」


「いやー、何と言うか…仲良いね。嬉しくなっちゃうなぁ……オモシロクテ」


俺は今日体調が悪いんです〜とか甘ったれたこと、いくらなんでも素直に言えないよな…


「もう少し時間がありますので、ゆっくりしましょうか。あ、高梨さんはもう少し横になりますか?でしたらまたソファで膝枕…」


「いや!そんなまた迷惑を」


「むう…高梨さんでしたら、迷惑だなんて思いませんから。膝枕も、ご希望でしたらいつでも仰って下さい」


うう…俺の理性がガリガリと…


夏海先輩だけが、心底楽しそうにしている。


この日はもう頭痛が出ることはなかった。

本当に助かった。


ちなみにシャツを忘れていたが、翌日綺麗にアイロンがけまでされたシャツが戻ってきた。

…ウチの匂いじゃない、沙羅先輩のいい匂いがする大変素晴らしいシャツだった…

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