第33話 沙羅の逆鱗は

「おはよー」

「おはようございます」


こんなに遅く来るなんて、沙羅にしては珍しい。

何かあったの…って何か持ってる?


「それ何?なんか濡れてるみたいだけど」


沙羅が机の上に丁寧にそれを広げる。


シャツだ…男子の制服のシャツ!?


それをタオルで押さえるようにして、水分を吸っているようだ。


「え!?なにそのシャツ…誰の…って高梨くんのシャツ以外ありえないよね。どうしたの?」


誰のシャツかなんて、聞く必要なかったよね。

それが遅くなった理由かな…


「実は登校中に、トラックから水を跳ねられてしまいまして…高梨さんが私を庇って下さって代わりに濡れてしまったんです…」


あらら、それは大変。

でもさすが高梨くん、男だね。


「朝から散々だったね。高梨くんは今どうしてるの?」


「保健室で体を拭いて、ジャージに着替えましたよ。」


…沙羅がそれを黙って見ていたとは思えないかな…


「ちゃんと拭いてあげた?」


「はい、シャツを脱いで頂いて、頭と体はしっかり拭きましたよ。」


おおお、さすが沙羅、そこまでしたのね。

しかも臆面もなく……意識してなかっただけかな…


それで濡れたシャツを持ってきたと…


しかし、沙羅が自分の机の上に、男子のシャツを広げて拭いているとか信じられない光景だね…周りがどう思うのかしら。


「おはよう薩川さん…あの、それって男物のシャツだよね?なんで薩川さんが…」


「理由があるからです。今忙しいので。」


「あ〜、俺もシャツが濡れちゃったなぁ、どうしよう…」

「俺もだ。薩川さんはシャツを」


「」


まぁ無視だよね。

しかし学習しないというか、沙羅の眼中にないことくらいわからないものかね。


「薩川さん、そのシャツって」


まだ絡むか…空気の読めないバカは救いようがないね


「煩いですね。これは私の大切な方のシャツなのですから、作業の邪魔をしないで下さい」


あ、それを言ったら…


「はぁ!?何、誰のこと!?」

「ちょ、聞いてないぞ」

「薩川さん、付き合ってる人がいるの!?」

「うそだろぉ!」


…まぁそうなるよねぇ。


高梨くんに迷惑がかかると困るから、口を挟んでおくか。


「沙羅の大切な親友のシャツなんだよ。集中させてあげてね。」


「親友?友達ってことか?」

「なんだ友達か、焦ったわ」

「いや、男が薩川さんと友達になっただけでもスルーできんぞ」

「充分羨ましい」


「あ、そいつあれだ、朝一緒に登校してきてる一年だ」

「例のやつか」


まぁさすがに知られてない訳ないよね。


「あの身の程知ら…」

「身の程知らずが煩いですね。名前も知らない相手から私の友人をとやかく言われる筋合いはないのですが?」


はやっ。

これはまずいかも…


「いや、俺は同じクラス…」


「存じませんね、興味がないので。言っておきますが高梨さんのことを侮辱することは絶対に許しません…覚えておきなさい」


あ〜あ、怒らせちゃった。

まさかここまで怒ると思ってなかったのか、男子が全員黙ったね。


クラスのコミュニティで少し話をしといた方がいいかな。

これからも逆鱗に触れる男が増えそうだから。


と、予鈴が鳴った。


「沙羅、そろそろ先生来るよ。」


「もう少し水を抜いたら、一旦綺麗に畳んでおきます。」


「そういや、そんなにびしょびしょになって高梨くん風邪引かなきゃいいけどねぇ。」


「そうですね…お昼休みに様子を伺います」


そういえば、今日は雨だけどお昼どこにするんだろう


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あー、頭が痛い…かなりキツくなってきた。

これは片頭痛がきちゃったかなぁ


早く休み時間になってくれないかな…薬を飲みたい


こんなときに体育とか、動きを止める度にズキズキしてキツい…



なんとか体育を乗り越えて痛み止め薬を飲んだけど、やはり治まりきらなかった…


そのまま昼休みになった。

今日の昼は生徒会室が空いているとのことで、そこでお昼ご飯を食べる予定になっていた。


痛む頭を我慢して生徒会室に着くと、もう沙羅先輩と夏海先輩が待っていた。


「すみません遅くなりましたか?」


「大丈夫ですよ、私達も今来たばかりですから」


「高梨くん今日は災難だったね…」


「まぁ…でも大丈夫ですよ。」


心配かけたくないから、我慢我慢…


「…………すみません、体調をお伺いしようと思いましたが、先に横になって頂いた方がよさそうです。高梨さん、こちらへどうぞ」


暫く俺の顔を見ていた先輩が、突然そう言って俺の手を引き、ソファへ向かった


「え?沙羅、どうしたの?」


「沙羅先輩?」


「お話も、ご飯も後です。少しでも横になって下さい。」


先輩がソファに座ると、手を引かれている俺も強制的に隣に座る形になる。

俺が座ると、そのままの流れで俺の体を倒しながら、俺の頭を自分の太股の上に……って膝枕!!??


「沙羅!?」


「せ、先輩!?」


「大きな声を出さずに、気持ちを落ち着けて下さい。大丈夫ですよ」


そう言うと、俺の頭を撫で始めた…


あ…落ち着く…これは…少しだけ、頭痛が落ち着いたような気がする…


「ふふ…このまま体を休めて下さいね。」


先輩は、片手は俺の頭に添えて、もう片方の手はゆっくりと頭を撫でてくれている


ヤバい、寝ちゃいそう…でも寝る…わけに…

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