第32話 雨の日は…

今日は雨…憂鬱だ。

何故って、俺は頭痛持ちだからだ。


必ずではないが、雨の日は頭が痛くなる可能性が高くなる。


市販薬で痛みが落ち着けばいいが、酷いときは痛みが消えきらず次の日まで引きずるときもある。


大丈夫だといいな…



「おはようございます、高梨さん」

「おはようございます、沙羅先輩」


そういえば、一緒に登校を始めて少し経ったけど、朝から雨に降られたのは初めてだな。


ちなみに今日は沙羅先輩と二人だ。

部活の方で集合がかかったらしく、夏海先輩はもう学校にいるだろう。


「今日は体育があるのですが、室内になりそうです。」


「ウチのクラスも今日あるんですよ。体育館でしょうね。」


先輩と会話しながら学校に向かう。


……?

何か、大きいトラックが勢いよく走ってくるな…嫌な予感…


回避行動を取ろうと考えて…このままでは先輩が…


「沙羅先輩すいません!」

「え!?」


考えている時間などなく、俺は咄嗟に先輩が持っていた傘を道路側に倒し、下は俺の傘を差し出して先輩を庇った。


案の定、トラックは水溜まりの上を勢いよく通りすぎていった…盛大にやってくれたな…


「……沙羅先輩、大丈夫でしたか?」


「え、はい、私は…大丈夫でしたが…」


呆気に取られていた先輩が、急にハッとした


「そうではありません!私より高梨さんです!!」


先輩が自分のバッグからタオルを取り出した。

今日の体育で使う物のはずだ。


「沙羅先輩、それを使っちゃうと今日の体育が終わった後に使えなく」

「そんなこと問題ではありません!!」


先輩が俺の頭から丁寧に拭き始めたが、雨が降ってる上に外ではさすがに。


「沙羅先輩、とりあえずここでは効率が悪いんで、俺は走って学校に行きます。保健室に行けばタオルがあるかもしれませんし。」


「…そうですね、学校に着けば落ち着いて体を拭けますか。では私も走りますので、急ぎましょう。」


「いや、先輩はゆっくり」

「私が高梨さんを放っておけるとお思いですか?」


先輩がちょっと怒ったような表情をした。


「…すみません、では急ぎましょう」


「はい。」


そのまま保健室に急行すると、ちょうど保健の先生が出てきた


「あら?どうしたのびしょびしょで」


「途中でトラックに水を跳ねられて…」


「あー…ごめんね。見てあげたいんだけど私今から」

「私が見ますので大丈夫です。」


沙羅先輩が先生に切り出した。


「あら、薩川さん?え、彼を見てくれるの?」


「はい、高梨さんは私が」


「へぇ、薩川さんが…」


なんか、凄い興味を惹かれたような顔をしてるな…


「おっと、ごめんね、タオルならロッカーに入ってるのを適当に使って。風邪をひかないように、しっかり拭くんだよ。着替えは?」


「一応、体育があるんでジャージが」


「じゃあそれに着替えてね。それじゃ行くけど、ごめんね。薩川さん、彼のこと宜しくね。」


「はい。お任せ下さい。」


そう言って、先生は急ぎ足で行ってしまった。

俺も早くしよう さすがに少し寒くなってきた


保健室に入って、タオルを用意する

沙羅先輩がタオルを手に待ち構えていた。


えーと…俺はどうすれば


「さぁ高梨さん、体が冷えてしまいますから、まずはシャツを脱いで下さいね。私が頭を拭きますから、高梨さんはタオルで上半身を包んでいて下さい。」


「え!?いや、後は自分でやりますから」

「ダメです。そもそもこれは、私を庇ってのことですから、私がやるべきなのです。もっとも、そうでなくても私はやりますけど。」


…有無を言わさないとばかりに強気だ


これは大人しくやってもらうべきなのかな…でも大丈夫か?シャツなんか脱いで…


「…それとも、高梨さんは私がこうすることが、お嫌ですか?」


あああ、だからその顔はずるいんですよ!

どうせ勝てないんだから、覚悟を決めろよ俺!


「すみません、お手数おかけしますが、お願いします。」


「はい!ではベッドに座って、早くシャツを脱いで下さいね。」


言われるままに、座ってシャツを脱ぐ。

うお、思っていたより体が冷えていたらしい…急いでタオルを羽織る


沙羅先輩は、もう俺の頭を拭いている

凄く丁寧にしてくれている


はぁ…恥ずかしいというか…いえ、嬉しいです。なんか、上手く言えないけど幸せな感じがする。不謹慎か…。


「では、背中を拭きますね。高梨さんはこのタオルで頭をそのまま拭いていて下さい。」


頭を拭いていたタオルを俺が持ち、体を包んでいたタオルを先輩が使い始めた。


一応、俺は上半身裸の訳だが、先輩は平気そうだ。

真面目な人だし、俺が意識しすぎだったな。


「これで大丈夫そうですね…あとは着替えが」


「ジャージに着替えますよ。ちょうど持ってきてるんで。」


「では、私はこの濡れたシャツを少し拭いてきますね。」


そう言ってシャツを手にロッカーの方へ向かったので、俺はジャージに着替えた。


はぁ…今日は朝から散々だな…先輩が濡れなくて良かったけど。


壁にかかった時計を見ると、そろそろ行かないとヤバい


「沙羅先輩!時間がヤバいです!俺はもう大丈夫なんで、もう行って下さい。俺も教室に向かうんで。そのシャツは俺が…」


「確かに時間がないですね…わかりました、ではこのシャツはお預かりしますので、お昼休みにお持ちしますね。お礼もそのときに…ではお先に失礼します」


「はい、また後で!」


俺も急いで教室に向かう。

担任以外には特に突っ込まれることはなかった。

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