第31話 沙羅&夏海

高梨さんと夏海が友達になって、毎朝三人で通学して、お弁当も三人で食べて…


私は今とても嬉しくて…幸せです。


今まで私は、お世辞にも学校が楽しいと思うようなことはありませんでした。


体育祭や学園祭などのイベントも当然ありましたが、関わりを必要最低限にしたかった私は、役員や生徒会での仕事を優先させることに没頭していました。


皮肉にもそれが私の評価に繋がったのですけれど、当然楽しいという感想はありません。


もし夏海達がいなければ、学校へ通うのは作業以外の何物でもありませんでした。


高梨さんを知り、高梨さんと出会い、高梨さんと仲良くして頂けるようになり、夏海も一緒に三人で過ごす、学校に通うのが楽しいと感じています。


少し前の私が見たら、今の私は別人だと思うでしょう。


こうして考えてみると、全て高梨さんが関わっているんですね。


高梨さんはそれだけ大切な方なんです。

友人となれた今、嬉しいはずなのに…

なぜ私は些細なことで、むきになってしまうのでしょうか…


夏海も私の掛け替えのない大切な親友だと思っています。

そんな夏海がお弁当を作ってくれると言うのですから、凄い楽しみですし嬉しいです。


ですが…高梨さんのお弁当はダメです。

高梨さんのお弁当は私が作るんです。


お祖母ちゃんにも頼まれていますから…でも、夏海が高梨さんの分も作ると言い出したときに、私はそこまで考えて言った訳ではないのです。


ただ…高梨さんのお弁当を作るのは自分だとそれだけを考えてしまいました。


夏海は悪気があった訳でもないですし、優しさと親切心で言ってくれただけです。

それに対して、あんな行動をしてしまった私は何なのでしょうか…


名前のこともそうです。なぜ私はあんな子供染みたことを考えてしまったのでしょうか。


夏海に謝ろうと思います。

でも高梨さんのことになると、どうしてもむきになってしまう自分がよくわからないです…


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うーん、これは何かまた考え込んでるね。


昼休みが終わってから、沙羅は何か難しい顔をしている


恐らく昼の話だろうから、お弁当のことかな。

私が高梨くんのお弁当を作ると言ったときに、かなりむきになってたからね。


名前呼びの件もそうだけど、沙羅は明らかに高梨くんに対して、他の人に譲れない気持ちがあるんだろう。

あれはきっと、嫉妬だろうからね。


あとは…沙羅が自分の気持ちにどこまで気付いてるのかということ。


ここを確認しないと話が先に進まないかな。


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放課後、沙羅が声をかけてきた


「夏海、少し宜しいでしょうか?」


「ん?いいよ。」


「すみません、昼休みのことなのですが…」


沙羅から言ってきたか。

ちょうどいいから、少し突っ込んだ話をしてみるかな。


「少し場所を変えようか。ちょっと聞きたいこともあるし」


「では、この後、生徒会室に行くのでその近くで如何でしょうか?」


「私は大丈夫だよ。」


移動しながら表情を確認しても、やっぱりどこか悩んでいるような感じかな

人気のなさそうな場所に着いたときに、沙羅が話を始めた。


「まず、お昼休みの件ですが、高梨さんのお弁当のことで失礼なことをしてしまいました。申し訳ございません…」


「うん、ちょうどその辺り聞こうと思ってたんだよ。あ、先に言っておくと、私は気にしてないから。大丈夫だからね。」


「ありがとうございます」


さて、とりあえずどの程度なのか探ってみようかな


「それでお弁当の話だけど…高梨くんのお弁当を作るのは自分の役目だって思ったんでしょ?」


「…はい…そうなのですが…ただ、自分でもなぜあそこまでむきになってしまったのかよくわからなくて…」


「そっか。例えばお弁当じゃなくて、高梨くんが怪我とか風邪をひいたとして、誰かがお世話をしなければ」

「私が全てお世話しますので大丈夫です」


どうやら、高梨くん本人に固執してるのは間違いないみたいね。


「高梨くんが、他の女子とどこかに出掛けるとしても、それについていく?」


「…何か用事であるならそもそも私がお手伝いしたいと思いますが、高梨さんがその方にお願いしたのであれば…私が出ていくのは……おかしいのですが…でも」


「頭ではダメだとわかっていても、心では嫌だと思ったかな?」


「………はい。やはり私はおかしいのでしょうか。普通に考えれば、私が割り込むべきではないとわかっているのです…でも」


なるほど。


嫉妬しているのは間違いなくても、嫉妬心そのものがわからなくて悩んでいるのか。

となると、嫉妬心がどこからくるのかは当然わかっていないね。


うーん…初恋かもしれないし…

焦らずに自分で気付くまで、フォローだけにしておこう。


「そっか。まずね、自分が気に入っている人に対して、そうやって理屈では処理できない気持ちが出ることはおかしくない。沙羅は周りを寄せ付けなかったから、そう思える人がいなかっただけ。大丈夫だよ。」


「そうなんですね…それなら良かったです。今までの自分になかった気持ちなので、おかしくなったのかと思いました。」


「うん。ただ、その気持ちをそのまま周りにぶつけると高梨くんに迷惑をかける可能性があるから、自分がしたいと思ったなら彼に聞いてみるといいかもね」


「わかりました。」


「よし、私が聞きたいことは終わったけど、沙羅は大丈夫?」


「はい、ありがとうございました。お陰様で安心しました。では生徒会に行ってきますね。」


沙羅の気持ちはわかった。

相手が高梨くんなら私も協力できる

あとは……いつ気付くかなぁ?

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