第30話 お弁当の日

あれから毎朝三人で通学をしている。

よくわからないが、表だって俺を批判するやつが減っているのが意外だった。


正直もっと言われると思ってたんだけどな。

視線では色々思われてるのは間違いないけど。


だが嫌だったのはクラスでも知られていたことだ

あれだけ毎日目立てば気付かれないはずはないんだけど…

って、先輩が直接乗り込んできたこともあるし元々か


そして何が嫌かというと、何人か俺に近寄ってくるようになったことだ。


明らかに俺を通して先輩たちに近づきたいだけの、見え見えな魂胆なのが余計にムカつく

基本的に無視だが…今更クラスでどう思われようと知ったことではないし。


そして昨日の夜RAINで連絡があり、沙羅先輩がお弁当を作ってきてくれるということだった。


三人で食べましょうということで、今回はおにぎりも買わないように言われた。


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昼休み


教室でニヤけるのを隠すのが大変だった。

沙羅先輩の手作り弁当なんて幸せすぎる…


花壇に着くと、二人もちょうどきたところのようだった。


「こんにちは、高梨さん」

「こんにちはー、高梨くん」

「こんにちはお二人共」


「三人ですと、ベンチは都合が悪いのでレジャーシートを持ってきました。」


「すみませんそこまで用意してもらって…」


確かにそうだよな。

それくらい俺も気付けよ…


朝、沙羅先輩が今まで持っていなかったバッグを持ってきていたのだが、俺は授業か何かで使うものだと思っていた。


今持ってきているということは、お弁当とシートだったのか…


「さぁ、準備しよっか」


レジャーシートを敷き、飛ばされないように四隅に重りを乗せる。


そして三人が座ると、沙羅先輩がお弁当を出し始めた…


「はい、高梨さんはこちらです。お箸もこれをお使い下さいね」


「ありがとうございます沙羅先輩」


「私は自分のがあるから、後でちょっとおかず交換させてね〜」


「はい、今日は少し多めにしましたから、大丈夫ですよ。それでは頂きましょうか」


「「「頂きます」」」


今日は煮物に魚がメインと、和風なお弁当だった。


あぁ…美味い


「高梨くんは美味しそうに食べるねぇ。まぁ沙羅のご飯は美味しいからわかるけど」


「いや、美味しいでは済まないんですよ実際。こう言ってはなんですけど、ウチの母親のご飯より俺は好きです」


母親は別にご飯がどうと言う訳ではない。

単に俺の好みというか、まぁ沙羅先輩が俺の為に作ってくれてるという時点で既に…だけど。


「ふふ…そう言って頂けて嬉しいですけど、高梨さんのお母様よりというのは大袈裟ではないかと」


「私も沙羅のお弁当を摘まむけど、どれを食べても美味しかった覚えしかないね。高梨くんが食べるのを見てると、いつか丸々と食べてみたいかも」


「でしたら、次回は夏海の分も作りましょうか?」


「う〜ん、嬉しいけど、さすがに三人分はねぇ。私も作ってるからわかるけど、いくら一緒に作れると言っても三人分ともなればさすがに手間は増えるから」


全く作らない俺は、そういう話を聞くと単に美味いと思って食べているだけなので、何か申し訳ないような気もしてくる…


「あ、じゃあこうしようか、沙羅が作ってくれた次は私が作るよ。交代にしよう」


「宜しいのですか?私は毎日三人分でも大丈夫ですよ?作ることも楽しいですから」


「いや、高梨くんはお礼とか色々あるって聞いてるけど、私は特に理由もないのに単に作って貰うのはさすがにね。それに、私のお弁当も食べてみて欲しいし!」


そうなると、次は夏海先輩が作ってくれるのか?

それは嬉しいけど申し訳ないというか…


「え…と、夏海先輩、それはつまり俺の…」


「うん、高梨くんの分も作ってくるから、食べて欲し「高梨さんのお弁当は私が作りますが?」」


……えーと…


「高梨さんのお弁当は私が作りますので、二人分で大丈夫ですよ?」


うん、最近わかってきたけど、あの笑顔は逆らってはいけない笑顔だ…

夏海先輩もわかっているのか、ちょっと引いてる


「えっと、いや、折角の機会だからさ、私も高梨くんにお礼したいことはあるし、どうせ作るなら高梨くんの分も」


「高梨さんのお弁当は、これからも私が作りますよ?」


先輩が一歩も引かない…


そして俺の方を見た


「高梨さんが宜しければ…ですが…」


うわ、その表情はズルい…

そんな不安そうな顔で聞かれて、大丈夫以外の答えが出せる訳……


望むところなんだから悩む必要ありませんでした!


「俺こそ、沙羅先輩が迷惑でなければこちらからお願いしたいくらいです。申し訳ない気持ちはあるんですが、先輩のお弁当は最高に美味しいですし、作ってきて頂けるのは本当に嬉しいです」


これは素直に伝えるべきだと思ったから、ちょっと照れ臭いが言ってみた


沙羅先輩が凄く嬉しそうな笑顔を浮かべた


「ふふ…私は高梨さんが美味しそうに食べているお顔を思い出しながらお弁当を作るのがとても楽しいんです。ですから、お嫌でなければこれからも高梨さんのお弁当を作らせて下さいね」


「ありがとうございます、嬉しいです。」



「…………あー…私の話だったはずなのに、また置いていかれてるよ…油断するとすぐ二人の世界に入るし、これで友達だって言うんだから…」


夏海先輩がぶつぶつ言ってる…


…あ、夏海先輩がお弁当を作ってくるって話だったのに、いつの間にか沙羅先輩の話になってた


「わかった、それなら高梨くんの分を少しだけ減らして作ってよ。そうすれば、私の方から少し渡せるし。」


「それでしたら…わかりました。高梨さんも宜しいでしょうか?」


「はい、と言いますか、俺は作って頂いている立場なんで、どういう感じになろうと大丈夫です。」


「よし、じゃあとりあえずそんな感じで私も作るね。何作ろっかなぁ」


いや、本当にこんなに幸せで俺は大丈夫なのか…

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