第359話 可愛い人

 悪い予感は当たると言うか、予想通りと言うべきなのか…


 今日の大本命だった超大型雑貨店でも、残念ながら目的を達成することが出来なかった。

 逆に沙羅さんの興味を引く物や、家に飾りたい小物など、お互い雑貨店巡りが好きであるが故、気になる一品は色々と多かったりしたんだが…

 でも今回は「趣味的」である要素を考えた上で、俺が欲しいと思えるアイテムを探していた訳で、やはり闇雲に探すのは無理があるのかもしれない。


「あ…このシリーズは…」


 ポツリとそう呟き、沙羅さんがそっと手に取った置物は、どこかで見覚えのある妖精(?)のオブジェ。

 この細かい塗装と、ちょっとリアルな表情の造形、そして植物で彩られた特徴のあるデザインは…


「その置物って、確か沙羅さんの実家にも、似たようなのありましたよね?」


 そう、薩川家の玄関にある靴箱の上に、これと似たような置物がいくつも並んでいたような気がする。

 初めて沙羅さんの家へ行ったときに、真っ先に目に付いた置物達だったから、印象深く覚えているんだが。


「はい。あれは以前、母とここへ来た際に購入した物なんです。でもこれはパッケージの仕様が違うので、どうやら新しいシリーズが出たようですね」


「そうなんですね。どうします? せっかくだから買っていきますか?」


「いえ、取り敢えず母に報告だけ入れておくことに致します。私個人としては、特別欲しい物ではありませんから」


「分かりました。でも、こういう可愛い置物や、お洒落な家具を揃えるのって楽しいですよね?」


「はい♪ 私も夢という訳ではありませんが、いつか可愛らしい小物や家具を沢山揃えて、お家に色々飾り付けしたいな…と」


 目の前にある動物の置物を手に取り、楽しそうに語る沙羅さん。でもそれは、俺も実に良く分かる話であって…と言うのも。


「いいですね! 俺も何となくですけと、例えば庭に…こういうのとか」


 棚下の地面に直接置かれている、某メルヘン童話に登場する小人達っぽい置物や、水瓶を持った白い天使像。

 それを庭に飾って、水瓶から水を流し、ちょっとした水場を作ったり…なんて想像すると、ワクワクするんだよね。


「ふふ…それは素敵ですね。想像するだけでも楽しくなって参ります」


「ですよね! 昔、これに近い話をクラスの連中に言ったら、男の癖に乙女チックだって馬鹿にされたことがあるんですけど…」


 これはまだ、あの一件が始まる前の話。クラスの連中と地元のモールに出かけた際に、雑貨屋で俺が嬉々として語ったら、逆に引かれたという苦い思い出。


「それは周囲が子供なだけです。雰囲気や風情を楽しめる情緒を持たない相手には、何を言っても無駄でしょう」


「そ、そうですよね? 別におかしくは無いですよね?」


「はい。私はとても素敵だと思いますよ?」


 ニッコリと、俺の話を全肯定するかのように、満面の笑みを見せてくれる沙羅さん。

 良かった…これは俺の密かな好みだったので、分かって貰えたのはかなり嬉しい。


「実は私の実家でも、以前、そういった話が持ち上がったことがあります。結局は、父の離れを作ることになった関係で、実現はしませんでしたが」

 

「あー…確かにあれだけ庭の広さがあれば、そういう遊び心があっても良さそうですよねぇ」


「はい。他にも、簡単な東屋を建てて、そこを憩いの場として活用するなどの案が出ましたが…ちなみに私としては、ちょっとした洋風ガーデンが欲しかったんですけど」


「あ、それは良く分かります。俺もどちらかと言えば、和風より洋風ガーデン派ですから。っても、実際にそれをやるには、結構な庭の広さが必要なんですよねぇ」


 薩川家の庭なら十分可能かもしれないが、俺の実家規模くらいでは、とてもじゃないけど無理だ。少なくとも、頭の中にあるイメージを実現する為には、恐らく世間一般的な家の庭では足りないだろう。


 でもそう考えると…薩川家って、やっぱり大きいんだな。


「ふふ…理想を言ってしまえばキリがありませんね。ですが、例え一区画でも、そういった遊び心のあるスペースがあると楽しいでしょうね」


「ですね。んじゃ、これも将来の目標の一つってことで! …って、ちょっと先を見すぎですかね?」


 これはあくまでも目標の一つであり、そこまでの大言壮語を言ったつもりはないんだが…でも、今からそんな先の話をするというのも、ちょっと子供っぽいかもしれない。


「いえ、確かにまだまだ先の話ではありますが、明確な夢や目標を持つこと自体は、決して悪いことではありませんよ? それは自分自身の原動力として大切なことです から。それに…」


「…それに?」


 そこまで言うと、沙羅さんは少しだけ恥ずかしそうに頬を染め…それでも真っ直ぐに、俺の目を見つめる。


「私達は、単なる恋人ではなく婚約者ですから…将来の目標や、結婚後についての展望を語ること自体は、寧ろ自然ではないでしょうか?」


「あ…そ、そうですね。そう考えると、確かに…」


「はい。それに…その、私自身も、結婚後について考えることはあると言いますか…まだ早いとは思いますが、それでもこうして、歴とした婚約指輪をしている自分を見ると、改めて現実感があると言いますか…」


 どこか照れ臭そうにそう語りながら、自分の左手で光る指輪を愛おしそうに撫でる沙羅さん。

 俺は正直、まだそこまで先の話は考えられそうにないが…それでも将来の目標や希望については、例え理想だとしても、漠然と思ったり考えたりすることはある訳で。


「あの…参考までに聞きたいんですけど、沙羅さんが結婚後に考えてることって何ですか?」


「えっ!? そ、それは…その…」


 これは単なる興味と、沙羅さんの希望であれば極力叶えたいと思う、俺の決意的な意味で聞いてみたんだが…何故か沙羅さんの顔が、ますます朱くなっていくような?

 そんなにセンシティブなことを聞いちゃったりしたのか、俺は?


「あっ、言い難いようなら、そんな無理にって訳じゃ…」


「い、いえ、決してそのようなことはございませんが…何となく考えていることと、いつか絶対に叶えたい希望と、その…色々ございまして」


「そうなんですね? それじゃ、絶対に叶えたい希望ってのは…」


「も、申し訳ございません。そちらについては…今は、まだ、その…」


 沙羅さんの声が段々と尻窄みになってきて、それに比例するかのように、顔の方もみるみる真っ赤に染まっていく。

 そこまでの反応をされてしまうと、いくらなんでも気になって仕方ないが…でも、無理矢理に聞くことだけは絶対にしたくない。

 多分、俺が強気に出れば教えてくれるだろうけど、あれは余程の理由がない限りやらないと、自分に誓ったからな。


「わ、わかりました。それじゃ、今は聞かないことにします。でも、いつか…」


「は、はい。いつか必ずお話しますから、今はそこまで深くお考えにならないで下さいね?」


「了解です」


 これ以上、この話を続けるのは沙羅さんに悪いので、一旦忘れることにしよう。

 結婚後の話と言うのであれば、いつかそのときが来れば、きっと教えてくれるんだろうし。


「…うう、自分で自分が恥ずかしいです」


「さ、沙羅さん?」


 突然、俺の右腕にしっかとしがみつき、自分の顔が見えないように、ぎゅっとこちらへ押し付けてくる沙羅さん。

 そのリアクションは色々と反則なんですが、顔と同時に押し付けられる「何か」も反則なんですよ、男的に。


「一成さんの、ばか…」


「何故に!?」


 そしてトドメに、本来であれば理不尽すぎるこの一言…沙羅さんの愛らしい姿と相まって、俺には最早ご褒美でしかないのです。


「と、取り敢えず、行きましょうか?」


「はい…」


 何となく、よく分からない状況のまま…

 俺に甘える(?)沙羅さんをそのまま引き連れ、俺達は店を出ることにした。


………………


…………


……


 これは惰性なのか、沙羅さん的に思うことがあるからなのか、珍しく腕を絡ませたまま、普段よりも密着状態で店内を歩く。

 いつものショッピング兼デートであれば、手を繋ぐことは多々あれど、こんな風に密着状態で歩くことは無かった。でも今は、寧ろ沙羅さんの方から積極的に腕を組んでくる訳で…

 こうして堂々と歩く、謂わばリア充と呼ばれる皆様を見る機会は多かったが、まさか自分がそれをやる日が訪れようとはどうにも…と言うより、その相手が沙羅さんであることが、未だに現実ではなく夢であるような気がしないでも。


 だって、幸せすぎるんだよね…


「あ…」


「沙羅さん?」


 不意に何かに気付いた様子の沙羅さんが、視線を向けた先にあるもの。

 それは、ある意味で待ちに待った…


「ははっ、寄って行きましょうか?」


「う…よ、宜しいでしょうか?」


「勿論ですよ。と言うか、沙羅さんが寄らないって言っても、俺が強引に連れていきますけど」


 もともと寄るつもりではあったし、沙羅さんが本音で寄りたいと思っていたことは十二分に分っていた。だから、遠慮などさせるつもりも更々無い。

 それに何より、ここに寄ることは、俺にとってご褒美でもあるから。


「ふふ…ありがとうございます。それでは…」


「おっと、慌てないでも逃げないですって」


 控え目ながらも俺の腕を引き、瞳をキラキラと輝かせ、どこかワクワクした様子で店内へ足を踏み入れる沙羅さん。

 そして、そんな沙羅さんを店内で待っているのは、もちろん…


「きゃんきゃん!!」

「にぃ〜にぃ〜」


「はぁぁ…可愛いです…」


 店内に溢れる子犬、子猫の鳴き声に惹かれ、沙羅さんが辿り着いた先に居たのは一匹の猫。

 ゲージの内側から小さい前足を伸ばし、頻りに何かをアピールするよう、ペタペタとガラスに触れている。その特徴的な耳折れと短足、まんまるの顔が卑怯なまでに可愛らしい、マンチカンの子猫だ。

 しかもこの小ささは…まだ産まれてから、そんなに経っていないのでは。


「にぃ〜にぃ〜」


 にゃーにゃーではなく、か細くにーにーと鳴き、そしてヨチヨチと歩く子猫の愛らしい姿は、男の俺でもメロメロにされてしまう程のもので…となれば、無類の猫好きである沙羅さんが、それに耐えられる筈もない。


「可愛いですねぇ…ふふ、にゃんにゃん♪」


 既にメロメロ状態になっている沙羅さんが、にゃんにゃん語(?)で子猫と会話を始めるこの光景。普段とのギャップも然ることながら、レッドカード100枚でも足りないくらいの超絶反則級であり、寧ろ沙羅さんをペットショップに連れてきた理由の半分以上はこれだったり。(残りは沙羅さんが喜ぶから)


「いらっしゃいませ~。猫ちゃんがお好きなんですか?」


「ええ。犬も好きなんですけど、やっぱり猫派ですかね」


 こちらを見ていた店員さんが、案の定声をかけて来たので、沙羅さんの代わりに俺が答えておく。

 ペットショップの店員さんは、セールスを前面に押し出してこない人が多いから、比較的気楽に話が出来るのでありがたい。


「あ、宜しければ、その子を抱っこしてみませんか?」


「宜しいのですか?」


「ええ、もちろ…っ!?」


 やっとこちらを向いた沙羅さんを見て、店員さんは大きく目を見開き…絶句したように固まってしまう。

 ただ、このリアクションは今までも散々見てきたので、恐らく今回も…


「…う、うわぁ…き、綺麗…」


「あの?」


「はっ!? も、申し訳ございません。大丈夫です! では、少々お待ち下さいね」


 同性でも思わず見惚れてしまう程の沙羅さんだから、今までもこうした経験は何度かある。

 そして、我に返った店員さんが、慌てて応対を再開するのも、ある意味パターンと化してしまっているので。


「お客様、こちらで先に手を消毒して頂いて、そこのベンチに」


「は、はい」


 もう一人の店員さんの指示に従い、テーブルに用意されたスプレーボトルで手をアルコール消毒をしてから、少し緊張した面持ちでベンチに腰掛ける沙羅さん。

 俺も一応、消毒だけしておくと、ちょうど奥から店員さんが戻ってきて、その腕には先程までゲージの中に居た子猫が…と言うか、ちっちゃ!?


「にぃ〜にぃ〜」


「はい、どうぞ」


「あ、ありがとうございます! では」


 沙羅さんがそっと右手を差し出すと、不思議そう(?)にそれを眺めていた子猫が、クンクンと匂いを嗅ぎ始める。すると早くも慣れてくれたのか、今度は自分から、沙羅さんの手にすりすりと。


「あら、あの子があんな簡単に懐く姿を初めて見ました」


「そうなんですか?」


「ええ。動物は、自分を本当に好いてくれる相手かどうかに敏感ですからね…きっと、彼女さんの猫好きが、あの子にも伝わったんですよ」


「へぇ…」


 果たしてそれが本当のことなのか、単なるセールストーク…リップサービスなのかは定かじゃないが…それでも、沙羅さんのことを褒められるのは悪い気がしない。

 それに、沙羅さん自身も…


「うふふ…くすぐったいです、にゃんにゃん♪」


 今までもペットショップに寄ることは多かったが、こうして子猫を抱っこさせて貰う機会は無かったので…可愛いらしい子猫と戯れる、俺の女神様(照)のレアな構図は、是非ともスマホに残しておかねば!!


「それにしても…凄く綺麗な彼女さんですね?」


「え?」


「ひょっとして、モデルとかアイドル…」


「いや、そういうのは特にないです」


「それは失礼しました。でもあれだけ綺麗な彼女さんですと、どうしても目立ってしまうのでは?」


「え、ええ。それは、まぁ」


「と言ってる傍から…ほら」


 店員さんが俺の背後に視線を向けたので、それを追いかけてみると…店内には、新しいお客さんが大量に増えていて、その興味は子猫に向けられているのか、それとも…


「ふわぁぁ…綺麗…何、あの子?」

「えっ、これって何かの撮影!?」

「ス、スゲェ…あんな美人、マジでいるんか!?」

「うぉぉ、これ、絵になるなんてもんじゃねーぞ!!」


「い、いつの間に…」


「彼女さんが、あの子とお話をしているときから既に目立っていましたよ? お店の外からも、こちらを見物している人達がいっぱい居ましたし」


「そんなに前から?」


 正直、俺も沙羅さんのことしか見てなかったのは事実だが…でも「子猫と遊ぶ沙羅さん」の構図は、色々と凄すぎて、注目を集めても仕方ないと言うか…寧ろ、注目を集めない方がおかしいとも言えてしまう程なので。


「な、なぁ…あの子、薬指に指輪してないか?」

「えっ…はぁ!? マジ!?」

「い、いや、男避けのフェイクとか…」


「ふふ…上手い虫除けですね。あれは彼氏さんのアイデアですか?」


「アイデアって言うか…あれはファッションリングじゃないんで」


「あ、そうなんです…えっ!?」


「ふふ…ここがいいのですか? ほら…こちょこちょこちょ…」


「にぃ〜にぃ~」


 そんな周囲の喧騒など何のその。子猫の顎下をこちょこちょしたと思えば、今度はお腹をゆっくり撫で撫で。あれじゃ逆に、子猫の方がメロメロにされているような気がしないでもない。

 しかもその証拠に、もう子猫は完全に甘えモードになっているようで…


 まさかあいつ、雄じゃないよな?

 …いや、だから何なんだって話だが。


「ふふ…一成さんも、宜しければご一緒に如何ですか?」


「そうですね、それじゃ、お言葉に甘えて」


「はい」


 沙羅さんが俺に話しかけた瞬間、周囲の連中(主に男)からどよめきが起きる。でもその程度の反応は、沙羅さんと一緒に居れば日常茶飯事なので、気にもならないが。


「えーと…」


 先ずは沙羅さんのやり方を見習って、いきなり頭を撫でるのではなく、子猫に指の匂いを確認して貰う。これをやっておくことで、猫の警戒感がある程度薄れる…らしい。


「にぃ〜」


 一頻り、子猫が俺の指を嗅いだことを確認してから、改めて頭を撫でてみる。すると、思っていたより効果があったのか、アッサリと子猫がそれを受け入れてくれた。

 自分からも俺の手に顔を擦りつけ、甘える仕草を見せる。


 うぉぉ…これは…


「にぃ〜」


「はは、よしよし」


 俺も喉の下をこちょこちょしてあげると、子猫はゴロゴロと喉を鳴らし始める。

 もうこうなってしまうと、俺も沙羅さんのことを言えず、子猫が可愛くて堪らないぞ!!


「ふふ…一成さんに甘えていますね」


「いや、でも沙羅さんから離れようとしないし、どっちかと言えば沙羅さんにガッツリ甘えてるんじゃ…」


「ふふ…そんなことはございませんよ。本当は一成さんが大好きにゃんです。ね、にゃんにゃん♪」


「にぃ〜♪」


 子猫の前足を持ち上げ、招き猫のようにクイクイっとさせる沙羅さん。子猫も大人しくそれに従い、嬉しそうに(?)「にぃ〜にぃ〜」と鳴いているが…

 俺はそれよりも、沙羅さんの言動がもう可愛くて堪らんのです!!


「…ちょ、あの子、可愛すぎでしょ…」

「…卑怯だ…あれだけの美人で、あのキャラは反則」

「…くっそぉぉぉぉ、あの男、羨ましすぎるだろぉぉ…」

「…あの指輪って、本当じゃないよな?」

「…でも、男の方はまだ高校生くらいだろ、あれだと」


「…うーん、やっぱり美女と子猫は絵になるわねぇ」

「…あんた、まさかそれを狙って二人に抱っこを勧めたの?」

「…むふふ、集客効果もバツグンでしょ? でもあの二人って、まさか本当に…」


「ふふ…猫ちゃん、くすぐったいです」


「にぃ〜」


 沙羅さんに抱っこされて、全力で甘えるようにスリスリと頬擦りを繰り返す子猫。たまにペロペロと沙羅さんの指を舐めながら、まるで愛情を示しているかのような仕草を見せる。

 それを嬉しそうに、優しい瞳で見つめている沙羅さんを見ていると…何となく羨ましいような…でも、普段俺を可愛がってくれる沙羅さんの姿も、端から見れば、やっぱりあんな感じだったりするのかな…と。


「ふふ…もう、一成さんったら」


「え?」


「そんなお顔をなさらなくても、お家に帰ったら、思う存分、私が甘やかして差し上げますからね?」


「い、いや、そういうつもりじゃ…」


「…本当によろしいのですか?」


「うぐっ…」


 イタズラっぽい表情を覗かせて、そんな意地悪な問い掛けをされても…

 もしここで素直に頷いたら、本気で子猫にヤキモチを焼いたと思われそうで怖い。(断じてそんなことはないぞ!)

 それだけは、俺のプライドが…プライドが!!


「一成さん?」


「宜しくお願いします」


「はい。畏まりました♪」


 ええい、笑うなら笑え!!

 俺のちっぽけなプライドより、沙羅さんの笑顔が優先されるんだよ!!


「ふふ…それでは猫ちゃん、私の可愛い旦那様がヤキモチを焼いてしまうので、そろそろバイバイをしましょうね?」


「にぃ〜」


 沙羅さんの言葉を理解した…なんてことはない筈なのに、子猫は驚く程にすんなりと、自ら店員さんの手に移る。

 だからせめてものお詫びを込めて、俺も沙羅さんと一緒に、お別れの撫で撫でをしてあげると、こちらに向かって「にぃ〜にぃ〜」と二度鳴いた。

 それはまるで、子猫から俺達への「バイバイ」であったかのように…


 それはそうと、俺はヤキモチなんか焼いてませんので念の為。

 

「長々と、ありがとうございました」


「いえいえ、どう致しまして~。それにしても、お二人は本当に仲が宜しいんですね? 恋人と言うよりは、まるで仲睦まじい夫婦に見えましたよ」


「ふふ…そう見えていたのなら嬉しいです。まだ私達は結婚しておりませんが、婚約者ではありますから」


「あ、そうなんで……へ? こ、婚約ぅぅぅ!?」

「で、でも、お二人はまだ学生なんじゃ」


「ええ。確かに私達は学生ですが、それでも両家公認の、正式な婚約者であることに変わりはありませんから」


「え、えぇぇぇぇぇぇ!?」


「「うそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」」


 沙羅さんのストレートな発言に、驚き声をあげた店員さんと…その他大勢、ギャラリーだった皆さん。

 この話に驚かれるのは百も承知だが、何もこんな人の多いショッピングモールで、そんな大声を出さないでも…


 あぁ、やっぱり大注目を集めてるし。


「沙羅さん、行きましょう」


「はい。それでは、ありがとうございました」


 最後に沙羅さんが丁寧なお辞儀を残し、俺達は足早に店内を後にする。

 本当なら、せめてもう少しくらい、子猫と遊ぶ時間を取れたかもしれないと思えば、沙羅さんに申し訳ない気持ちもあるが…でもあれは誤解であって、俺は決して、ヤキモチを焼いてなんかいないんだぞ?


「ふふ…子猫ちゃん、可愛かったですね」


「ええ。やっぱり、いつか飼ってみたいですか?」


「そうですね、確かにそういう気持ちもありますが…でも」


「でも?」


「…私には、いつでも甘えて欲しい、世界一可愛らしいお方がおりますからね♪」


 そう言って、世界一可愛らしい笑顔を零す沙羅さんを見ていると…これは単なるフォローではなく、本気でそう思っているんだと、それを実感せずにはいられない訳で…いや、実際にそうなんだよな。


 だって…沙羅さんなんだから。


〜〜〜〜〜〜〜~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 相変わらず、ままならないと言いますか…

 薬のお陰で落ち着いたのか、そもそも落ち着いてくれたのか分かりませんが、胃痛の方が何とか落ち着いたので、執筆を再開しました。

 最近、こんな感じで間が空きまくりなんですが、いつも待っていて下さる読者の皆様、ありがとうございます。


 今回で終わるつもりでしたが、長かったので分割しました。次回もほぼ書き終わっているので、明日調整したら更新できると思います。

 次のエピソードが終わったら顔合わせですが、またしても山場がやってきますね…頑張ります、ハイ。


 それでは、また〜


 P.S. 今回のカクヨムコンも、残念ながら終わってしまいました。自分に足りないものは色々と自覚はあるので、それが少しでも改善されるようにこれからも頑張ります。

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