第348話 学祭が明けて+α
side 楠原 豊
「…報告は以上です」
普段よりも二割増し…いや、五割増しのピリピリとした空気感が漂う中、今回の件に関する顛末の説明を終える。
それを無言で聞いていた社長は果たして…滅多に見せない険しい表情であることは間違いないが…
「お前に何か責任がある訳でもないと分かってはいるが…あいつを止められなかったのか?」
「申し訳ありません。あの状況下では、どうすることも出来ず…」
「…そうか。まぁ起きてしまったことを今更言っても仕方ない。それよりも今は、これからどうするのかを考える方が先決だ」
「はい。現時点では、薩川専務に詳細の報告を求められる可能性があります」
あのときの薩川専務の様子を見る限り、実際にそれを求められる可能性は半々くらい…とは言え、後々のことを考えれば、先んじて動いた方が良さそうではある。
「となれば、やはり形だけでもあいつを処分する必要があるか」
「はい。ただ、玲奈を頭ごなしに処分するのではなく、理由を説明させた方がいいでしょう。薩川専務への対応という意味でもそうですが、当日の様子を見る限り、異常とも言える様子が伺えましたので」
少なくとも…あの日の玲奈は、私の知っている姿から、かなり掛け離れた様子だったことに間違いはない。他人にあそこまでの悪意を見せたこともそうだが、例え僅かとはいえ、社会経験も積んでいるあいつが…明らかな格上相手に、あれ程の強硬な態度を取るとはどうしても思えん。
「そうだな。だが…それにしても今回は状況が悪すぎる。よりによって、あの薩川専務夫妻の前でお嬢様に噛みつくとは…絶対に揉め事を起こすなと、あれほど言っておいたのに」
「…正直、私も信じられません。ですが事実です」
「全く…頭が痛い話だ。グループ次期会長と創業一族から睨まれてしまえば、下手をすると、我が社の在り方に多大な影響を与えかねんというのに。しかも、そのお嬢様の婚約相手まで現れただと?」
「はい。これも正直、信じられませんでしたが…薩川専務がハッキリとお認めになられたので、間違いなく事実です。これは年末のパーティーで公表するとのことでした」
「…まさか、あの他人嫌いで有名なお嬢様に、こうもアッサリと婚約者が出来るとはな。しかも、親が強引に…という訳ではないのだろう?」
「はい。あれは明らかに恋愛結婚…婚約ですね。しかもお嬢様の方が、俄然前向きで…あの様子では、相手を押し切って学生結婚すら有り得る程ではないかと…」
到底信じられない話ではあるが…まさか男嫌いで有名なお嬢様が、あそこまで相手の男に惚れ込んで、一気に婚約までしてしまうとは。
或いは親として、遂に現れた娘の想い人を逃したくないという意味で急いだ可能性も…いや、薩川専務に限ってそれは有り得ないか。自分の娘の結婚相手が、将来どういう立場になるのか、それを理解していない訳がないからな。
「…そこまで相手に入れ込んでいるのか。本音を言えば、お前に頑張って欲しかったが…」
「申し訳ありません。ですが…」
「ああ。わざわざパーティーの席で公表するとなれば、相手の男にはそれなりの説得力を持たせている…もしくは持っていると見て間違いないだろう。第一あの薩川専務が、何の変鉄もないどこぞの馬の骨に、愛娘との交際を認めるとは到底思えん。何より、奥様が手放しで歓迎しているとなれば…」
「はい。高梨という名の役員を聞いたことはありませんから、恐らく社外に於いて、何らかの大きな繋がりを持っている人物の子息ではないかと推測します。もしくは、西川グループに関係がある人物の可能性もありますが」
お嬢様の結婚相手が、グループ次々期会長の筆頭候補となることは言うまでもない。だが単なる恋人というだけでは、並み居る役員達を…まして、自分の子息とお嬢様の縁談を画策していた連中が、素直に納得する訳がない。しかも会社として…企業として考えてみれば、それは尚更に…
だが…
そんなことは、薩川専務側も当然理解しているだろうからな。
「そうか。まぁどちらにしても、早めに関係を改善しておくべきだな。問題は、お嬢様へのアプローチはリスクが大きすぎるということだが…」
「はい。我々が直接接触すれば、更なる怒りを買うことは間違いないでしょう。それにお嬢様は、自身の婚約者に向けられた悪意や思惑に対し、過剰とも言える反応を見せています。あれでは、男の方にも迂闊なことをすると…」
「…今度こそ、取り返しのつかない事態を招きかねないという訳か。そしてその話は、直ぐに薩川夫妻の耳に入り…良からぬ企てを画策した愚か者として、一層の追求をされることは想像に難くない…と?」
「はい。ですから、婚約者に対しては暫く様子見をして、有事の際に大々的な援護をするというスタンスは如何でしょうか? 幸いなことに、この事実を知っている人間は極一部の筈…となれば、パーティーの席で一悶着起きることは間違いないでしょう。その際に、我々が"いの一番"で味方となれば…」
「専務夫妻にも、お嬢様にも、将来の会長候補にも、我々の覚えが良くなる…ということだな」
「はい。お嬢様への接触がハイリスクであることは周知の事実ですが、婚約者への接触が、それ以上に危険であるとは流石に誰も気付かないでしょう。となれば、直ぐにでも取り入ろうと動き出す、安易な連中も多いでしょうから…」
恐らくお嬢様は、内心で自分よりも婚約者を明確な上位として位置付けている。だからその婚約者に対する思惑や悪意を見せれば、より一層の激しい怒りと不信感を買うことに間違いはない。
そして薩川夫妻から公然と認められている事実を鑑みれば…あの男への対応は、慎重に慎重を重ねた、最大級のものを期すべきだ。間違っても安易な気持ちで接触などすれば、一瞬で取り返しのつかない事態になることなど想像に難くない。
「ふむ…今回のことは大きな失点だったが、婚約者へのフォロー次第では、プラスに転じさせることも十分に可能かもしれんな」
「はい。婚約者への対応を早期に判断出来たことは幸いです。これを知らずに、安易な接触や取り入りを狙っていたら、今度こそ取り返しのつかない結果を招くところでした」
「そうだな。では今後の方針として…」
「先ず婚約者については、パーティーまで一旦様子見とします。そして当日は、直ぐ動けるように付かず離れず…勘ぐられる可能性もあるので、その機会が来るまで挨拶程度の接触としておきます。後は…」
「玲奈…だな?」
「はい。例え本人が乗り気でないとしても、お嬢様と婚約者へ直接の謝罪をさせましょう。これは絶対条件の一つです。そうでなければ、当日に我々が接触する、最初の取っ掛かりが掴めなくなってしまいます」
本人が謝罪していないのに、我々が謝罪の意を示したところで何の意味もない。先ずはそこから入ることで、初めて私が会話を始める切っ掛けを作れるというもの。
それにそうすることで、こちらから多少下手に出たとしても、変に勘ぐられる可能性が低くなる…という寸法な訳だ。
「わかった。では早々に、あいつから事情を聞くとしよう」
「先ずは私にお任せ下さい。それでも無理であれば、そのときこそ社長からお願い致します」
「分かった。だがくれぐれも急いて事を仕損じるなよ? この件がどう転ぶかで、我が社の命運が大きく変わる可能性があるからな」
「はい。それは重々承知しています。それでは…」
とは言うものの…
現実、そこまで上手く事が運ぶかどうか…
特に玲奈の件は、予想よりも根深い…もしくはもう一山、何かあるような…
そんな風に思えてしまう何かを、あいつの姿から感じたような。
これが私の考えすぎであればいいのだが…
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「おはよ」
「おはよう」
「おはようございます」
毎朝待ち合わせをしているコンビニに辿り着くと、そこで俺達を待っていたのは花子さんが一人だけ。そう言えば、夏海先輩は暫くの間、部活の方が忙しくて来れないとか何とか言ってたような?
「大丈夫、ギリギリで来たからそこまで待ってない」
「あ、それなら良かった」
どうやら、俺が一瞬危惧したことをアッサリと見抜かれたらしい。もう今更だから、特別驚くようなことでもないが…流石はお姉ちゃん。
相変わらず鋭いね。
「ここでこうしていても時間の無駄だから、早く行こう。話は歩きながらでも出来る」
「そうだな。行くか」
「はい。参りましょう」
今日は三人なので、俺達の目の前を花子さんが歩くという、三角形な位置取りで通学路を進んでいく。
勿論、車道側は俺の立ち位置…別に格好をつけている訳じゃないが、何と言われようと、これだけは絶対に譲れない。
でも、今はそんなことより…
「何か…今日は何時にも増して見られてるような? 」
そう…ここへ来るまでも少し気になっていたが、普段よりも周囲が露骨にこちらを眺めてくるので、嫌でもそれが気になってしまう。
特にコンビニのある交差点は、通学路の合流地点でもあるので…ここから一気に通学中の生徒が増えて、つまりその視線も一気に増えまくっているということに。
「当たり前。今までは私達が一緒に居たり、一成と嫁は単なる生徒会繋がりの仲だと思われていたから…」
「私達が婚約者だと分かって、今度は違う意味で注目を集めている…ということですね?」
「その通り。だから嫁、その迷惑そうな表情を止める」
「すみません、つい…」
沙羅さんが周囲を睨んでいた…という訳ではないが、明らかに不機嫌そうな表情を見せていたのは俺も気付いていたので…
でも初っぱなからこの状況では、果たして学校に辿り着いたらどうなってしまうのか?
教室に入ることすら、少しだけ怖いかも。
「嫁…分かっているとは思うけど、教室で何かを聞かれても…」
「言われなくとも分かっていますよ。私達のプライベートに関わるような話をするつもりはありません。と言いますか、私がそんなことをする筈がないでしょう?」
「………」
「何ですか?」
「…自覚のない天然は、一番タチが悪い」
「…?」
可愛らしく首を傾げる沙羅さんに、若干ウンザリ気味の視線を送る花子さん。
そのままこちらにも、何か言いたげな目線を寄越して…いや、花子さんの言いたいことは良く分かるけど、それも含めて沙羅さんの可愛らしい部分でもあるので。
「…バカップル」
「ちょっ!?」
「何故そういう結論になったのか知りませんが、私達の仲は常に良好ですよ?」
「…はぁ」
花子さんはこれ見よがしに深い溜め息をつき、またしても俺に意味深な視線を向ける。それは「どうなっても知らないぞ」と言われているようで…
まぁ…確かにミスコンのステージで、色々と俺の恥ずかしい話を暴露されたことは事実だが、お風呂などの最重要機密は大丈夫だったから…それに、沙羅さんのクラスには頼りになるストッパーが居てくれるし。
だから…大丈夫だろう。
……多分。
……………
………
…
学校が近付くにつれ、どんどん増えていく好奇の目線や驚きの視線に晒され、その中には一部、俺に対するやっかみの視線…は、沙羅さんと花子さんの殺気混じりな威嚇(?)で直ぐに無くなってしまったが…それらは校門を潜ると一気に溢れ返り、至る所からこちらに向けられた視線が突き刺さってくる。
「…はぁ…まさかあの二人が婚約してるとはなぁ」
「…おい、薩川さん左手を見てみろよ!? マジで指輪してるぞ!!」
「…ぁぁぁぁ、ショックだぁぁ…日曜日のアレは、夢か幻だと思いたかったのにぃぃぃぃぃぃぃ」
「…これが現実かよ…ちくしょぉぉぉぉぉぉ!!」
「…うーん…あの薩川さんが婚約ねぇ…まだ信じられないわ」
「…はぁ…」
「…どったの?」
「…あれが夢じゃないってことは、速人くんのことも夢じゃないんだなって」
「…あぁ、そっちの話」
遠巻きにこちらを見ながら、ヒソヒソと何かを語り合っているギャラリーな生徒達に対し、沙羅さんと花子さんは完全無視を決めこんでいるようで…でも俺は正直、気になって仕方ない。
「一成、周りをイチイチ気にしてたらキリがない」
「一成さん、もし不快であれば、私が全て排除致しますが…」
「い、いや、大丈夫です。早く行きましょう」
今一瞬、沙羅さんの瞳に剣呑な光が宿ったような気がするぞ。
ワリと冗談になっていないので、ここはさっさと行くに限るな…うん。
……………
………
…
玄関に入ると、人集りは更に増え…たと言うより、こちらではなく何故か掲示板の方に人が集まっているようで、今まで見たことのない光景がそこには広がっている。
そして件の掲示板には、同じく今まで見たことない程の巨大な紙…校内新聞が、掲示板を飛び出し大きく壁に貼られていて、この距離からでも簡単に読めてしまう程の大文字で書かれているその見出し文は…
見出し文…は!?
「孤高の女神様、突然の婚約発覚!!!!! お相手は副会長、高梨一成!!!!!」
……な、なんだっ(略)
「あぁぁぁぁぁぁぁ!!! 薩川さんが来たぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「うっひょぅぅぅ、夫婦お揃いだぁぁぁぁ!!!」
「おめでとう薩川さん!!!」
「うわぁぁぁぁ、お幸せにね!!!!」
「ね、ね、ホントに高梨くんと婚約したの!? ホントに結婚するの!?」
「た、た、高梨ぃぃぃぃぃぃぃぃ!!! 羨ましすぎるぞ、この野郎ぉぉぉぉ!!!」
「ちくしょぉぉぉぉ、俺達の女神様を返せぇぇぇぇ!!!!」
「うぉぉぉぉ、薩川さんがぁぁぁぁ!!!」
もういい加減ワンパタに思えてきた騒ぎが始まり、あっという間に周囲を取り囲まれてしまう。これじゃ人垣と言う名の障害物が邪魔で、教室へ行けないぞ!?
と言うか、またかよ!?
「ねぇ薩川さん、そこんとこどうなの!!??」
「どうと言われましても、一成さんと婚約したことは事実ですよ。結婚はもう少し先の話ですが、当然、時期が来ればしますね」
「「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」」
「「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」」
そして始まる、毎度毎度お馴染みの大絶叫…と。
それだけ沙羅さんの人気が高いことと、注目されていることの表れだと理解はしているが…もういい加減ワンパタすぎるので、食傷気味なんですけど…
「嫁、まともに相手をすると、騒ぎが益々大きくなる。もう面倒だから…」
「嫁!!??」
「嫁って、薩川さんが高梨くんのお嫁さんだから!!??」
「きゃぁぁぁぁぁ、何その呼び方!!??」
ああああ…
またしても収拾がつかなくなる気配がビンビンに漂って…
「何だこの騒ぎは!!! お前らさっさと教室へ行け!!!」
「「っ!!!」」
突然、喧騒に割り込んできた怒鳴り声で、蜘蛛の子を散らしたように人集りが消えていく。
そして周囲が何とか見渡せるようになると、そこに立っていたのは先生が一人…顔は知っているが、実は名前を知らなかったり。
「ありがとうございます、山田先生」
「礼はいいから、お前達もさっさと行け。いつまでもここに居ると、また別の集団に囲まれるぞ」
「そうですね。では、失礼致します」
「ありがとうございました」
沙羅さんのお辞儀に合わせて俺からもお礼を伝えると、少しだけ照れ臭そうに頷いてから、その場を後にする山田(?)先生。
ひょっとしなくても、俺達を助けてくれたのか?
「さて、それでは私達も教室へ向かいましょう」
「また囲まれたら面倒なことになる。一成、早く教室へ行こう」
「そうだな」
登校していきなり騒ぎが起きるとは…これでは、今日一日を平穏に過ごすことが難しそうな気もしてきた。取り敢えず次の関門は、間違いなく教室…でもクラスの連中は、俺達のことを既に知っているからな。
多分大丈夫…と思いたい。
……………
………
…
いつもの場所で沙羅さんと二手に別れ、俺達は普段通りに教室へ向かう。でもその途中、花子さんに突然袖を引かれ、あれよあれよという間に人気の無い場所へ…
という言い方は誤解されそうなので、いつもの穴場スポット、普段使われない階段の踊場へ到着。
いきなりどうしたんだろう?
「花子さん?」
「まだ少し時間があるから、今の内に説教をしておく」
「せ、説教?」
「ミスコンで一成が語った件について、私からも話があると言ってあった筈」
「あー…」
そう言われてみれば、花子さんからそんなことを言われていたような…
でもあの件については、あくまでも以前の話であって、今はそんなこと全く考えていないから…って、それはそれ、これはこれってことだよな。
「あれは満里奈の為に言ったことだと分かってる。でも絶対にダメ。自分を卑下するようなことは、もう二度と言わないって約束して」
「…そうだな。ゴメン。もう絶対に言わないよ」
「うん。反省」
くいくいっと、俺の袖を引っ張り、何かをしきりに訴えかけてくる花子さん。その行動の意味も、反省という言葉に合わせてみれば、何となく分かる訳で…
まぁ…仕方ないか。
「ごめんなさい」
俺が素直に頭を下げると、待ってましたと言わんばかりに頭を撫で始める花子さん。小さな手が何度も何度も優しく俺の頭上を滑り、体感的にも心理的にも、くすぐったい気持ちに…
「一成が悲しいことを言えば、悲しむのは嫁だけじゃない。私も…皆も悲しい気持ちになる。今回は仕方ないと思うけど、もう二度と、あんなことは言わないで欲しい」
「分かってる。もう絶対に言わないよ」
俺だって、沙羅さんにあんな悲しそうな表情をさせてしまう話など、二度としたくない。今回は二人の為に仕方なかったと思うが、後悔している気持ちだって本当はあるんだ。
「うん…分かったならそれでいい。一成、いい子」
「いや、別に褒められることじゃ…」
「ふふ…いい子、いい子」
なでなで…
花子さんは、俺の頭を抱き締めるように手を回し、その状態で優しく撫でてくれる。別に抑え込まれている訳でも、押し付けられている訳でもないが、何となく離れられないと言うか…花子さんは、姉としての優しさで、俺を抱き締めてくれていることは分かっているから…
「…周囲の声を気にするなと言っても、現実それが簡単ではないことくらい私も分かってる。何の根拠もなく、一成に自信を持てと言うつもりもない。でも覚えておいて欲しい。少なくとも…一成の周りには、外面を意識するような人間なんかいない。嫁は一成の全てを心から愛してる。私も姉として、一成の全てが愛おしい。これは決してお世辞でも何でもない、私の本心」
ぎゅっと…
少しだけ、俺の頭を抱き締める力が強くなる。
花子さんが俺に伝えてようとしてくれることの意味を…花子さんの想いが…こうして触れている部分からも、確かに伝わって来るような気がして…
「一成には嫁がいる。私がいる。皆がいる。他のバカ共が何と言おうが関係ない。だから…」
「…大丈夫。ミスコンのときにも言ったけど、俺はもう本当に気にしてないんだ。確かに以前は気になったし、悩んだことも事実だけど…でも俺には沙羅さんが…皆がいるからさ」
これはミスコンのときにも沙羅さんに伝えたが、嘘偽りなく俺の本心。
確かに…特に沙羅さんと一緒に居る時間が増え始めた頃、俺は周囲の声を気にしていないと自分で思いつつも、その実やっぱり気にしていたんだとは思う。
でも今は…そんなこと、どうでもいいんだ。
俺は俺の、自己満足の為に。
自分の憧れを、目指す為に。
ただ、それだけだから…
「うん。それを絶対に忘れないで」
「ああ。もう俺は本当に大丈夫だよ。それに…」
「それに?」
「…頼りになる、お姉ちゃんもいるからな?」
「一成……うん」
なでなで…なでなで…
俺の頭をしっかりと抱き締め、小さい手で何度も何度も優しく撫で続けてくれる花子さん。
心なしか、その手つきからも嬉しそうな…喜びの感情が伝わって来るようで。
「もし不安になったり、悲しいことがあれば、直ぐに嫁に伝えてあげて。隠されて無理をされるより、その方がずっと嬉しいから。でも…どうしても嫁に言い難いのであれば…」
そこまで言うと、花子さんは再び俺の頭を抱き締める力を強め…でも、想いの籠った撫で撫ではそのまま…
「そのときは、私にいつでも相談して欲しい。可愛い弟の話なら、何であろうとウェルカム」
「花子さん…ありがと」
俺は、本当に幸せな男だな…
沙羅さんという、世界一の女性に愛して貰えて…
こうして、世界一の姉に思われて…
「私の話はこれで終わり。それじゃ…」
「あぁ、そろそろ教室へ…」
「せっかくの機会だから、時間ギリギリまで弟を可愛がらせて貰う」
「…へ?」
「最近は色々と忙しかったから…弟とのスキンシップが不足していて、お姉ちゃんは不満」
「ガシッ」っと、その可愛らしい手からは想像も出来ない程の力強さで、俺の頭をガッシリと固定する花子さん。
このまま逃がすつもりは毛頭ないと言わんばかりに…ここまでしっかり掴まれてしまうと、強引にでも振り払わなければ離れてくれなそう。
これはどうすれば…
「…あ、あの、花子さん?」
「問題ない。あと10分は大丈夫」
「いや、そういう意味じゃなく…」
「大丈夫。天井…は無理だから、床のシミでも数えている内に…」
「ちょっ!? 女の子がそんなこと言っちゃらめぇぇぇぇ!!」
あ、あれ!?
俺は今から何をされちゃうんですか!?
どうなっちゃうんですか、ねぇ!?
「は、花子さん? 俺には沙羅さんという、心に決めた大切な女性が…」
「一成…可愛い」
「ちょ、まっ!?」
この後俺は、滅茶苦茶…以下略。
まぁ…普通にいい子いい子されてただけなんだけどね…うん。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
何か、凄い久々に花子さんを書いたような気がします・・・
今回はタカピー従兄弟サイドも書いてみましたが、実は文体的に一番書きやすいのはこっちなんですよね。以前、自分の書き方がいつの間にか変わっていたときに、こんな感じになっていたからでしょうが。
次回は教室と・・・何にしようかな(ぉ
ではまた次回
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