第164話 思い出に残るプレゼントを…

「宜しくお願いします!」


「宜しくね。わからないことがあったら、いつでも聞いて。」


藤堂さんのお祖父さんは、見るからに優しそうな人だった。

これなら安心して働けそうだ。

という訳で今日からバイト開始。と言っても一日二時間だけの短時間バイトなんだけど。


先日、面接…というより挨拶に伺ったときは少し騒ぎになってしまった


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「満里奈ちゃんが恋人さんを連れてきてくれるなんてなぁ。将来的にこの店の後継ぎ…」


「お、お祖父ちゃん、高梨くんは恋人じゃないんだよ!! 私とは比べものにならないくらい、素敵な恋人さんが居るんだから!」


藤堂さんが焦ったように否定するが…

俺的に言えば沙羅さんが最上なのは言うまでもないが、そこまで自分を下げなくてもいいと思う。

藤堂さんだってかなり可愛い人だし、未央ちゃんのことを考えると面倒見もいいし、癒し系だという点もポイントが高いと思う。

現に引く手あまたの速人があっさりと惚れてしまうのだから、こういう言い方はしたくないけど比較対象が悪いだけでスペックは高いはずだ。


「いや、藤堂さんも十分に…」


「高梨くんは余計なことを言わないでね?」


「は、はい」


プレッシャーを感じさせる藤堂さんの笑顔は、沙羅さん程ではないにしろ中々のものだった。


「え、満里奈ちゃんの彼氏!?」

「良かったなー店長、息子さんはダメでも、後継ぎが出来そうじゃないか」


お店の中で話をしていたので、たまたまやってきた近所のお客さん?っぽい感じの人たちまで話に混じってきた。


「違いますってばー!!」


「あの、本当に違うので…。藤堂さんとは友達で、俺には恋人もいるんで」


必死の藤堂さんに申し訳ないので、俺も助け船を出して何とか納得してもらうのだった…


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気を取り直して早速仕事に入る。

メインの仕事としては翌日の配達予定の物の準備と、積み込み指示の出ている物を車に積んでおくというものだ。

難しい作業ではないから助かるのだが、その代わり…重い。特に、ビールのケースや樽などかなりの重量物が多いので、短時間とはいえ結構大変だった。それに持ち手が食い込んで手が痛い…まぁ慣れれば大丈夫だろう…多分。

でも沙羅さんの喜ぶ顔を想像すれば、このくらい大したことはない。

黙々と作業をこなしている内に積み込みも準備も終わり、少し整理をしていたら店長さんがやってきた。

どうやらいつの間にか時間になっていたらしい。


「お疲れ様。大変だったろう?」


「思ったよりは重かったですけど、でも大丈夫ですよ。頑張ります。」


「そうかそうか、じゃあ、これから暫く宜しくね。」


店長(店長でいいと言われた)さんが、労いの言葉と共にジュースを持ってきてくれた。

一服したら帰ろうと思っていたら、藤堂さんが来てくれた


「高梨くんお疲れ様! 様子を見にきたんだけど…どうだった?」


「大丈夫。藤堂さんもありがと。」


条件に合うバイトを見つけるのは時間がかかると思っていたから本当に助かった…藤堂さんには感謝しかない。

しかもわざわざ様子を見にきてくれるなんて、本当に良い子だよなぁ


「ううん、頑張って薩川先輩に喜んで貰おうね!」 


「ああ、頑張るよ!!」


こうして、俺の初めてのバイト初日が終了した。家に帰って風呂に入ったり色々していたら、最終的に寝る時間はやはりいつもより遅くなっていた。


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「一成さん…起きて下さいね」


俺を起こそうとする、沙羅さんの優しい声が聞こえる。それはつまり、もう起きる時間になってしまったということだ。

今まで夜更かしをしたことは当然あるし、それに比べればそれなりの時間は寝たはずなのに…ここまで普通に眠いと感じるのはあまり無い経験かもしれない。

しかし、このまま寝ていては不思議に思われてしまうので、いつもより気合いを入れて起きる


「……おはようございます」


「はい、おはようございます。ダメですよ、勢いよく起きるのは身体に良くありませんから」


最近は、朝起きると沙羅さんは必ず俺のベッドのすぐ側にいるのだが、やはり今日もそうだったらしい。

俺が勢いよく起き上がったので、沙羅さんが慌てて俺を支えるように手を伸ばしてきた。


挨拶をしながら俺の目を見て何か気になったのか、俺の目を覗き込むように暫く見つめていたが、少し不思議そうな表情になった。


「…? 一成さん、夜更かしか何かなさいましたか?」


「え?」


「クマ…とまでは言いませんけど、少し寝不足でしょうか?」


す、鋭い。

さすがは沙羅さん…


「すみません、昨日は寝るのがいつもより少し遅くなっただけなんで、寝不足って程ではないはずなんですけどね。目立ちますか?」


「いえ、本当にしっかり見ないとわからないくらいですよ。一成さんが大丈夫なら問題ないです。では、顔を洗ってきて下さいね」


早く顔を洗って目を覚まそう。

身体に関しては、そんなに重労働という訳ではないし直ぐに慣れてくるはずだ。


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「一成、お待たせ」


放課後になり速人が教室にやってきた。

話が有ろうと無かろうと速人はしょっちゅうやってくるのだが、今回はRAINで連絡をしてあったから来るのが早い。

恐らくHRが終わって直ぐに来たのだろう。


「ああ。それじゃ、藤堂さんを迎えに行こうか」


「わかった」


速人が素直に俺の後ろについてくるのだが、教室を出る俺達の姿を熱い視線で見つめているあの集団は相変わらずだった。


そのまま藤堂さんの教室に向かうと、ちょうど教室から出てくるところだったようで、こちらに気付くと笑顔を浮かべて小さく手を振りながら近付いてきた。


「ごめんね、待たせちゃったかな?」


「いや、大丈夫だよ。それじゃ行こうか」


「うん、そうだね。」


藤堂さんと一言交わすと、そのまま俺についてくるように後ろに回ったので、必然的に速人と並ぶ形になる。


「こんにちは、横川くん。」


「ああ、こんにちは藤堂さん」


後ろで挨拶を交わす二人を従えて、俺はいつものショッピングモールに向かうことにした。

ちなみ沙羅さんは、夏海先輩が連れ出してくれているから大丈夫なのだ。


「という訳で、沙羅さんの誕生日プレゼントなんだけど…」


「最終的には一成が決めるべきだから、あくまで助言にしておくけど…恋人へのプレゼントで形に残るものであれば、定番だけどアクセサリーや自分の部屋に飾るものでも大丈夫だと思う。でも、より思い出として残る方がいいのであれば、もう少しこだわって…二人の写真とか名前とか、自分達専用であることがわかる物だといいかもしれないね。」


なるほど…自分達専用か…


「そっかー。確かに思い出にするなら、他にない物とか一目でわかる物がいいよね。さすが横川くん!」


「い、いや、このくらいは別に…」


藤堂さんの自然な笑顔と称賛は、速人にクリティカルだったらしい。

明らかに照れている速人は珍しいな。


でも、速人のお陰で何となく思い浮かんだものがある。

だからそれを見に行くことにしよう。

これは俺と沙羅さんが恋人になって初めてのプレゼントだから、やっぱり気合いを入れて良いものが欲しいな。


「ある程度は目星が付いたってところかい?」


俺の様子を見ていた速人が、嬉しそうに頷きながら聞いてくる。


「あぁ、何となくだけど思い付いたから、それを見てくるよ。藤堂さんはどうする?」


「んー、私はついでに雑貨屋さんを見ておきたいから、プレゼントもその辺りで見てみるつもりだよ」


よし、予定通りの流れだ。


「それなら、虫除けに速人を連れていきなよ。俺は一人でじっくり考えたいから、後で待ち合わせよう」


「え? でも横川くんに迷惑じゃ…」


藤堂さんが少し遠慮気味になっているので、速人に押すように目で合図する。

速人もそれに頷くと、藤堂さんに向き合って笑顔を浮かべた


「俺は大丈夫だよ。それに、偉そうなこと言ったけど俺も友達にプレゼントしたことないから、良かったら一緒に見て欲しいかな?」


「え、そうなの? そっかぁ、それじゃ一緒に見に行こっか。高梨くんは、ゆっくり考えたいだろうし。」


速人の言葉を受けて、藤堂さんが同行を認めてくれた。

これで少しの時間とはいえ、二人で行動させる機会を作ることができたな。後は速人が頑張るだけだ。


そんなやり取りをしている間にショッピングモールに着いた俺達は、集合場所を決めて直ぐに別行動を開始する。


頑張れよ、速人…


並んで歩いていく二人の後ろ姿を見ながら、心の中で親友にエールを送ると、俺も目的の店を探して行動を開始する。


実物の見れないネットでは心許ないので、できればここで決めておきたいな…

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