第136話 偶然…されど必然

「お待たせ一成」

「俺もさっき来たところだ」


放課後になったので約束通り速人と待ち合わせ場所で合流した。


「はは、男からそれを言われると新鮮だね」


速人は面白いことがあったようで、急に笑い始めた。


「? 何か変なこと言ったか?」


「いや、待ち合わせの定番台詞を一成に言われたのが面白かっただけだよ。気にしないでくれ」


定番?

…ああ、「今来たところ」ってやつか。


「すまん、とにかく場所を移動しようか。邪魔が入らないところだと…ここからなら屋上が近い…」


「よう、高梨と横川。男二人でどうしたよ?」


珍しい…

最近めっきり目立たなくなって、話をすることも無くなったウチのクラスのバカ二人だ。

お前らも二人だと突っ込んだ方がいいのだろうか…


「いや、君らも二人だと思うけど」


速人が突っ込みを入れた。

バカにされていると気付くかな?


「そういやそうか。まぁそんなことはどうでもいいんだよ」

「なぁ高梨、話があるんだけどよ。ちょっと付き合えや。山崎って言えばわかるか?」


!?

山崎か…柚葉と絡んだ時点で出てくるだろうと予想はしていた。

しかしこいつらが繋がってたとは…世間は狭いな


でも俺がこの学校でもいきなり似たような目に会わされたのが、実は山崎の仲間のせいだったと考えたら妙にしっくりときてしまう…嫌な話だけど。


どうしようか、速人への話は今からだったのに


「へぇ、面白そうな話かい? 俺がいる前で話を始めたんだから、当然混ぜてくれるんでしょ?」


速人がわざとらしくアピールを始めた。

俺に意味深な視線を飛ばしてくる…そうだな、速人ならきっと俺を信じてくれる。


であれば…状況を知るためにもこいつらを逆に利用できないものか。

何を考えてるのか、何のつもりなのか…

出たとこ勝負ではあるが。


それに俺には一つだけ…弱いが「武器」がある

先日、雄二に連絡をしたときのことだ


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「そうか、笹川と接触したということは山崎も動くかもしれないな」


「やっぱりそう思うか?」


俺もその可能性は考えた。

速人の学校に俺がいるということを気付かない訳がないし、柚葉に頼まれて山崎が動くかもしれない


「役に立つかわからないが、ひょっとしたら何かに使えるかもしれないし、写真を送るよ」


そう言ってRAINで送られてきた写真は、誰かわからないが警察に取り押さえられている写真だった。


「これは?」


「婦女暴行犯が捕まってる写真らしい。面白いのは、後ろの方で警官の背後にいるやつだ」


警官の背後…これは山崎?


「何で婦女暴行犯の逮捕現場に山崎がいたのか…想像の域を出ないが、どちらにしてもこの写真だけでは何の意味もない。だけど…」


「これを元にデマを作ることはできるってことか? 俺がやられたことをやり返す…と?」


だけど証拠もないし、ただのこじつけに思われる可能性は高いだろう。


「いや、それは難しいだろう。正直、俺もその写真の使い道はよくわからない。でも、何かの役に立つかもしれないから一応な」


「さんきゅー。でもこんなのどこで」


「俺が山崎を調べてたのはお前も知ってたよな。その課程で同じように山崎を調べてた女と知り合ってさ…そいつから貰った。でも送られてきたのが、お前がそっちに行ったあとだったからな」


まぁ、これがあのときに手元にあったとしても、姑息な言いがかりとか言われて意味がなかっただろうな。


「あの女は山崎を相当恨んでたみたいで怖かったわ。今どうしてるかは知らないけど。」


山崎は本当にろくでもない男なんだろうな…


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中学のときなら役に立たなかったろうが…こいつらにはどうだ?


仮にダメだったとしても、こいつらとの会話で何とか打開策を見つけるだけだ。


「そうだな…いいぜ、面白い話を聞かせてやる。お前には特別にこいつの本性を教えてやるぜ」


(一成のこともあるし、こいつら目障りだから退場させるか…俺の名前を使って女の子を誘っていたことを、俺が知らないとでも思っているならおめでたい奴等だ)


「屋上行くぞ…ついてこい。」


「ああ、わかった」


これで、山崎も柚葉も、俺をそのままにしておくつもりがないということがよくわかった。


柚葉の「謝る」というあれも、予想通り嘘だった訳だ。だが速人に対して何か考えているのは事実だろう。

ならばその辺も逆に利用できないか…


今はとにかくこいつらだ

今回は中学のときのようにはいかない


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ガタン


屋上の重苦しい音がするドアを開けると、先客がいた


「待っていたぞ。来たな高梨!」


誰だこいつ?

顔は知らないが…俺を待っていた?


俺を指さしながら何故か妙なポーズをとっている

キモい…アニメかなんかの見過ぎじゃないか?


「何の話だ?」


俺がそう問いかけると、後から来たバカ二人組が先に反応した


「あ? なんで田上がここにいんだよ?」

「何してんだお前?」


「お、俺は、ひ、姫を守る為に…た、高梨を」


俺に話しかけてきたときとは随分態度が違うな…急にオドオドし始めた。


「はぁ? 何なんだよお前…まぁいいか。とりあえず黙ってろ」


仲間なのか?

もしくはパシリ…よくわからない奴だ。

俺を待っていたってことは、この二人と連絡でも取ってたのか?


「さて高梨、山崎から色々聞いたぜ。お前中学の頃は相当なワルだったそうだな。」

「えーとなんだっけ? ストーカー…暴行…傷害…脅迫、こりゃすげぇ」


スマホを見ながら読み上げたということは、RAIN辺りで連絡とってるようだな。


まずは適当に喋らせてみるか。

中学のときは証拠で苦労したから、今回はしっかり録音している。


「それで、俺はそれをデマだと否定するが、お前らはどうする?」


横目でチラっと速人を見るが、ニヤニヤしながら平然としている。

多分大丈夫だろう、信じろ。


「お前が中学のときのクラスの連中が全員知ってるってさ。てことはこれは本当のことなんだろ? どうなんだ、犯罪者高梨?」


「それは俺の幼馴染みが蒔いた嘘だ。俺は何もしてない」


一応そこはアピールしておこう。

速人に事情を理解して貰う為にも。


「あっそ。まぁどうでもいいわ。それよりこの話をこっちの学校でバラ蒔けばどうなるかわかるか?」


これはラッキーだ。

この流れだと、こいつら俺を脅迫するつもりだな。

であれば、まだ話は握ったままだと言うことだ。


「さぁな? 誰も信じないんじゃないか?」


「それは聞いた奴が決めるんだぜ?」


イラッとするドヤ顔で、知ったような口を聞くアホ。

そういや今更だけど、こいつらの名前知らないな…まぁAとBでいいや。

さて、そろそろ本題を聞き出すか


「それで、俺に何を言いたい?」


「女を紹介しろ。もちろん普通に紹介するんじゃなくて…わかってるよな?」


はぁ?

速人に言うならまだわかるけど、俺に紹介できるような女性がいる訳ないだろ…本当にアホだなこいつら


…まぁいいや。

とりあえず乗っておこう


「ふーん…それで、俺が嫌だと言えば?」


「もちろん、明日から学校はお前の噂で持ちきりだな」


テンプレだなぁ…単細胞すぎる

まぁこれで俺を脅迫した部分は録音できたか。


だが、噂を流すとしても、果たしてこいつらみたいなアホにそもそも信憑性があるのかという疑問はあるな。

そして、こいつらが今それを言ったことで、実際に噂が流れたときに犯人が最初から特定できている訳で、噂がデマだと証明できた場合に自分達がどうなるのか…


そこまで考える知能などなさそうだな。


さて…どうしようかな。

とりあえずは当初の予定通り、あの写真を見せてみるか。


「ところでさ、お前ら山崎の連れなんだろ? これ知ってるか?」


リアクションを見てみるつもりで、雄二から貰った写真を二人に見せてみた


「あん? 何だこ………れ…」

「お……マジ…か…」


二人の様子がおかしい。

いきなりここまでの反応をするのは予想外だ


とりあえず揺さぶってみるか


「これ婦女暴行犯が捕まってる写真なんだけどな、後ろに山崎が写ってるだろ? 他にも写真あるみたいなんだけどさ、まさか共犯だとはな。」


もちろんブラフだ。

リアクションを見るだけのつもりだが、かなり動揺してるな…何か知ってるのか?


「山崎?…うわ、本当に居やがる」

「山崎のやつ、自分は佐川先輩と関係ないとか言ってやがった癖に…高梨、お前この写真どこで…」


変な反応だった

山崎に気付いて様子がおかしくなった訳ではないのか?


ドカン!!


!?

屋上のドアが勢いよく開いた音がした。

驚いて振り向くと…藤堂さんと夏海先輩と…沙羅さん!?


え、何でここに…

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